13 アランの想い2
ミュリエルに関しては完全にヘタレだったが、本職の方はおおよそ、順調だった。アランはカーマイン家の調査報告を思い出して笑みを浮かべる。
完全に悪魔の微笑みだった。
酒場の店主がさらに怯える。
まずは依頼人のカーマイン家を探った。
ミュリエルの出生証明の詐称、虐待。そんなことはとっくにわかっていたが、港町の元締めであることを利用して違法な貿易、脱税、人身売買など、悪事が出るわ出るわ。
ついでに夫人と不倫関係にある伯爵の違法薬物使用もわかったが、まあこれはどうでもいい。違法薬物はカーマイン家の商品だったから、無関係ではいられないかもな。
散財して集めた財産も、そのうち財務大臣の直轄の近衛兵が差し押さえに行くだろう。
「そうしたら、終わりだ。」
グラスが割れそうなほど握りしめる。
「あのー、ダンナさん?」
酒場の店主がおそるおそる声を掛けた。
店で一番いいグラスを割られたら敵わない。
「その酒、それでおしまいなんですよ。キレイな奥さんのとこ、帰らなくていいんですかい?」
突然ミュリエルの話を振られてキョトンとする。
何でお前がミュリエルのことを知ってるんだ、そんな顔だ。
強面のアランがミュリエルを溺愛しているのは誰もが知っており、そのアランからミュリエルを奪ってどうこうしようと思う者はいない。
ミュリエルの着ている服はアランの瞳の色のものばかりだし、野菜ひとつの買い物にもこの男は護衛のように付いて来るのだ。
溺愛っぷりに気がついていないのは、世間知らずのミュリエルだけで、「アルのお仕事は時間が自由でいいわね。」などと言ってどこへでも連れ回しているのである。
ミュリエルがちょっと買い物へ出ようとすると、たちまち店を戸締りして
「ミリー、買い物なら一緒に行こう。ちょうどいるものがあるんだ」と嘘をついてでも着いて行っている話は有名だ。パン屋のカルロが面白半分に言いふらしているせいだ。
(あんだけベタベタしといて、自覚がないんだ)
酒場の店主は遠い目をして、アランを追い出すことを諦めた。
アランは再びカーマイン家のことに思いを巡らせる。
(あの妹も何とかしないとな)
ディーンが持ってきた情報では、ジュリエッタが裏社会の人間と何やら取引きをしたようだ。
あの考えの足りない妹に大したことはできないと思うが、用心はしておかないと。
最後の定期報告の返事に、カーマイン夫人の字で
「計画を早めるように」と書いてあったのだ。
財務大臣のガサ入れはこの1週間以内に行われるはずである。このまま様子を見ていればカーマイン一家は破滅し、ミュリエルはあの毒家族と縁が切れ、アランも契約はなかったことになるはずだ。
「あと少しなんだ。」
店の仕入れを装って出かけては、アランは度々カーマイン家の調査や密告を行っていた。自分とミュリエルの将来に一点の曇りもないように、持てる情報網を駆使して子爵家を陥れる準備をしてきた。
肝心の、ミュリエルにこの情熱が伝わっていないとは。
「帰って謝らないとな。」
カウンターに多めのチップを置いて、アランは店を出た。




