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12 アランの想い

アランは苛立っていた。

街の酒場で強い酒を飲みながらこれまでのことを思い返す。


ミュリエルの殺害を依頼されたが、二人で逃げる頃にはすっかりミュリエルの純真な優しさに夢中になっていた。

最初はあわよくば、処女を頂いて、、、などと不埒なことも考えていたが、真っ直ぐに自分を慕ってくるミュリエルに、悪魔のような自分を見せられず、言ってみれば骨抜きにされたのだ。


とにかく彼女をこの家から出してやらないと。

依頼者の希望通り、攫って逃げればいいだろう。

離れた街に家を用意して、家具を揃えておく。ディーンが興味津々で手伝ってくれた。何か頼むたびに「新婚さん用ね、任せて!」と言われるのが鬱陶しかったが、初めて家族を迎えるようなくすぐったい気分でもあった。


ミュリエルに家を出るよう持ちかけると、すぐに了承してもらえて、天にも昇る気持ちになる。あの頃のミュリエルは、ボロボロだった。着ているものの趣味はひどいし、手足も細くて、片手で折れそうだった。それでも彼女が美しいことに変わりはなかったが。


夢中で連れ出したが、到着して熱を出しているのがわかった時は本当に焦った。足の傷が熱の原因だとわかった時は、一人でカーマイン家に戻ってあの馬鹿な妹の両足を切ってやろうかと思ったくらいだ。


それにしても問題は依頼人である。

カーマイン夫人には「計画は予定通り」といつもの定期報告をしていたが、そもそもミュリエルを殺害する気はないので、まず1年はこの調子でやっていこうと考えた。


ミュリエルとは夫婦として暮らす予定だったし、実際そうしてはいたが、到着した時に高熱を出して倒れたミュリエルにまさか手も出せず、本当の夫婦になるきっかけを失った。


仮に寝ていた隣の客室を見て、

「アランのお部屋も素敵ね」

そう言うミュリエルに

「うっ。」

と返して、何も言葉を継げなかったのだ。


調子が良くなったら同じ部屋にしよう、なんて言えたか?

「いや、無理だ。、、、、」


それなら結婚を申し込めばいいか、と思うが、料理や洗濯、買い物などいろいろなことを一度に覚えようとしたミュリエルが、ストレスのせいか食事が細くなり、また元気がなくなって来たのだ。

何をしても失敗ばかりで、そこがまた可愛らしいのだが、やつれていく姿を見ていては、とても結婚など言い出す雰囲気ではない。


確かに最初の料理はひどい出来だったが、アランはミュリエルと暮らせることが幸せすぎたので、味などどうでも良かった。肉や魚の料理方法を教えると、ミュリエルはひどく喜んで、、その笑顔だけで満腹になれそうなほど満たされたものだ。


少しずつ生活に慣れたミュリエルは、今度は働きたいと言い出した。働かせる気など全くなかったが、ミュリエルは自分で稼ぐことにこだわっていたようだったので、ふとミュリエルの着ていたひどいドレスのことを思い出す。


一旦破れたドレスを繕って着ていたようだが、綺麗に直してあり、何なら趣味の悪い飾りも取ったり上から刺繍をしたりと、実に器用に直すものだと思っていた。


「繕い物の店がちょうど閉まったようだけど」

そう教えると、ミュルエルは俺の商店に「洋服、お直しいたします」と張り紙をしてくれと頼んできた。

もちろん、ミュリエルのためなら何十枚でも貼ってやる。


失敗だったのは、ミュリエルが自分であちこち張り紙を頼みに行くのを止められなかったことだ。

彼女は俺の用意した一番似合うドレスを着て、街の店という店に張り紙を頼んでしまった。ミュリエルの美しさは俺が一番わかっているが、この街のアホな男どももすぐに気がついた。

「スゲエ美人の女の子が、俺らの服直してくれるんだって」

「俺、シャツ直してもらった。ニコーって笑ってもらった。」

「またお願いしますーって笑ってくれた。」


ボタン1個取れただけのシャツを持ったむさ苦しい男が家の前に列を作る。そのボタン、絶対わざと取ってるだろ。我慢できず、縫い物の受付も俺の商店で引き受けることにした。

それでも一目会いたいとやって来る男はなくならない。


ミュリエルが嬉しそうに縫い物をするのを見ていなかったら、とっくの昔にやめさせてたところだ。


俺たちは夫婦だと言っているのに、諦めの悪い男が後を絶たない。

男たちに関係のない子供服を作ったら、と提案をしてみたら、目を輝かせて喜んだ。

「それは、是非、やってみたいです!」

あの顔見たら何でもしてやりたくなる。

ミュリエルの作る服はやっぱりセンスも良くて、すぐに定期の注文が来るようになった。あんまり無理してほしくないんだが。


そんな輝きを増していく彼女を見ていたら、何とも言えない気持ちになる。もう「結婚したい」の文字しか頭に浮かんで来ない。


「それなのに!!」

急に怒鳴ったアランを見て酒場の店主が怯えた目を向ける。

背の高い、美丈夫なアランが機嫌悪そうに黙っていると、誰も怖がって近寄らない。

強い酒を飲みながらミュリエルのことを思い出して目を細めたり怒りを見せたりするアランはこの日、恐怖の対象となっていた。


自分と離れて暮らそう、と言われてショックだった。

いや、あれは別れたい、という意思表示か?

好きにしろ、と言われて我慢できなかった。キスくらい、いいよな?と毎朝毎晩思ってたのが裏目に出た。

夢中でキスをして、気がついたらミュリエルが気を失っていた。

途端に後悔に襲われる。

ミュリエルを部屋へ運ぶと、いてもたってもいられず酒場へ来て、現在に至る。


「はあーーーっ。」

本日何度目かのため息を吐いた。

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