妹、合流
目の前にある店は木材で構成されており、看板にはでかでかと〈服禄寿〉と書かれている。この店が妹が開いている服屋なのだろう。
「中々に大きな店じゃないか! 大通りにある店にも勝るとも劣らない、なかなか趣がある」
「う、ん」
「私は衣服などには興味はないが……。トウは素材が良いからね、ミニチュアサイズの服でも作って貰えば良いんじゃないか? きっと似合うさ」
「ん?」
素材が良いの意味は分からないが、私も新しいローブが欲しい。
扉にはOPENの文字が書かれた板が紐に括り付けられている。飛びあがり、ドアノブを引こうとするが開かない。やはり筋力値最低、おそらく筋力値0は現実の力で更にこの妖精の体にも筋力にデバフが付いている。お手玉の時は恐らく子妖精はとても軽かった、それだけだろう。
筋力値を振るか…?流石に扉も開けられないのは困る。現在のレベルは16、短期間でここまでレベルが上がるとは、これも消えていった狼と兎に感謝しなければ…。それにしても上がりすぎなような気がする。
だが、まあ良い。困るものでもないから、STPは1500、配分を考えているとイースが代わりにドアノブを引いてくれた。
………筋力値は上げなくて良いか。全部他人に開けさせればいい。とりあえず魔力値に1000と速度値に500振っておいた。
「いらっしゃいませ~」
この少しけだるげな間延びした声は――――。
ふわふわとした桃色の髪、顔は誰が見ても目を奪われてしまう程整っている。ありていに言えば、クッソ美人だ。
正しく私の妹、白峰瑠香―――宇吹無垢がそこに居た。
瑠香は私を見た途端に先に対応していたであろうPTを置いて私に向かってくる。
「お姉ちゃ~ん~。さっきぶりだねぇ~! ゲームの話はしなかったけど~、妖精族にしたんだ~。結構大変だったんじゃない~? どうやって入っ―――!? 従魔証!? 誰の!?」
私を抱き上げ、その首に掛けたプレート―――従魔証と言うのか。を見て驚愕し、一緒に入ってきたイースを睨みつける。
その様子を見たイースが瑠香から私を取り上げる。両手に花(?)とはこの事か。そして瑠香にドヤ顔をかまし言い放った。
「くくく! お嬢さんのお姉さんは既に私の手の内だ! この可愛らしい花は私のモノなのさ!」
それを聞いた瑠香の目の色が変わる。
恐らく妹は生産職だ。こんな店を開いているのだから裁縫などのスキルを覚えやすい職業、裁縫師的な職業なのだろう。そのはずなのに、非常に慣れた動きで肉薄しイースの喉に向けて貫き手を放つ。
その手をイースは軽くはたく。それだけで瑠香を体勢を崩し、顔から地面に激突する。
「ぐぅ~。……む~ね~ん~………」
我が妹、瑠香は普通に運動音痴だ。私が言うのもなんだが恐ろしい音痴っぷりであり、一度VRゲームをしてるのを見させてもらったことがあるが、恐ろしく下手だ。ゲーム内ですら音痴っぷりを発揮してしまう事にはむしろ感動してしまう。今の機敏な動きを出来たのは奇跡と言っても過言では無いだろう。
倒れた瑠香に手を差し出すイース。
「ああ、すまないね。ジョークさ、ジョーク。私の名前はイース、トウがこの町に入るための協力者だ、よろしく頼むよ、妹さん?」
相変わらずイースは尊大ではあるが、どこか演技口調な様子を崩し、瑠香に話しかける。瑠香は何が起こったのかよく分からなかったようで、その後すぐに理解する。
「なんだ~、冗談か~。安心したよ~! 私は宇吹、うーちゃんって呼んでね~?」
「いやあ、随分と似た者姉妹だね! ちょっとビンビン来たよ!」
「そ、う?」
ここで沈黙を貫いていた私、遂に喋る。
妹と私に似ている部分はそこまでないと思うのだ。リアルでも身長は30㎝くらい違うし、コミュ力だと天と地ほどの差がある。
「なあ、先に来ていた客を置いてお喋りとは。良い度胸じゃないか?」
「そうだ、トウ。妹に用があって来たんじゃないのかい?」
そうだ。破れたローブの代わりを作ってもらいに来たんだった。このままだと(視線が怖くて)生きていけない。
「なあ、おい……」
「ローブ、作って」
「え~、お姉ちゃん~。ローブ付けちゃうの~…? もったいないな~」
「いい、から」
「……無視はよくないんじゃね?」
……なんだ、こいつは?“ヴィレン”と浮かんでいることからプレイヤーであることは間違いない。
おでこには青筋が浮かび、頬はひくひくと動いている。一般的な観点から見て、怒っているのだろう。
「いやだからね~? うちら〈七福神連盟〉は~、〈勇者の書〉専の生産クランにはならないって~」
態度の悪い青年を瑠香が対応する。
それにしても〈七福神連盟〉と〈勇者の書〉か。いや、別に中二病だと笑うつもりはない、ゲームなのだからそれくらい羽目を外しても構わないだろう。
それにしてもなんだこの青年は。ナンパか?趣味の悪いことだ。
「いやだからさ! 何処が駄目なんだって! うちには“勇者”も居るし、『十四席NPC』も一人居る、素材だって簡単に融通出来る。〈七福神連盟〉と〈勇者の書〉が組めばFDの攻略は進むし、そっちも安価でスキルレベルが上げられる、これってwin-winじゃない?」
「だからね~? 〈勇者の書〉専になるメリットが少なすぎるって言ってるの~。まず〈勇者の書〉メンバー以外に販売した金額の三割を納める………頭大丈夫~? 商売にならないよね~。
次に〈勇者の書〉メンバーの〈七福神連盟〉に対する委託の割引、これは別に構わないんだけど~、そっちは〈偉大なる三叡智〉の人達に頼めばいいでしょ~?〈偉大なる三叡智〉も〈勇者の書〉専のクランだったと思うんだけど~?」
うむ、何を言っているのかが分からない。もう少し説明キャラになって欲しいが、特に何も言わないでおこう。イースも興味なさげに店を見回っている。私も見て回ろうかなぁ。
「こっちも攻略の為に資金が要るんだって! あのさぁ……こっちもある程度は譲歩してあげてるんだからさ、これで良くない? 〈偉大なる三叡智〉はポーションと付与のクランな訳、鍛冶職とかあんま居ないの。FD攻略の最前線は〈勇者の書〉で、もしうちが攻略に成功したら―――」
その言葉を聞いて、瑠香の雰囲気が驚くほど鋭くなっていく。
「〈勇者の書〉専のクランである、という『名誉』が手に入る、ね。馬鹿にしないで欲しいな~。うちらは金にがめついけど、あくまで『公衆の為』のクランなの。自分以外のクランが成長することを危惧しているような、『自分達だけの為』のクランの専属になる事はあり得ないし、七福のクランリーダーは皆そういうポリシーを持ってやってるから~、他から崩そうとしたって無駄だよ~」
そういうとヴィレなんとかさんは何も言わなくなってしまった。
……驚いた。妹はいつものほほんとした態度だが、他人に対してこう言ったことが言えるとは、姉に対して良くできた妹だ。
まあ、『公衆の為』というのは商売人としてはマイナス点だが、偶像としては満点だ。こういう所が人気の秘密なのだろう。
「チッ……おい! 行くぞ!」
「え? 良いの?」
「いいから! この事は“ユウキ”には伝えんなよ」
「あ、はい。分かりました」
おお、大人しく帰るとは思わなかった。ヴィなんとかさんは一緒に来ていた耳長の女と小柄なおっさんを連れて帰って行った。正直半分くらい分からない単語を並べられていたが、ある程度の概要は理解できた。
「後悔するなよ」
それだけ言い残してヴなんとかさんは帰って行った。なんだ、全然大人しくないじゃないか。
「ふ~。やっと帰ったねぇ~」
微妙に緊張が走っていた空間が弛緩する。
それだけさっきの……なんだっけ。あの、……青年が厄介、というか面倒だったというわけか。
「ありがとうございますぅーーーっ! さっきの人……ほんっっっとめんどくさかったんですよ!」
瑠香と同じようなピンク髪の少女―――“ももき”さんがそう言った。
「そろそろ諦めてくれませんかねえ。……そちらの方は?」
眼鏡を掛けた短髪エルフ―――“まりも太郎”さんが私の首に掛けた従魔証をじろじろ見ながら聞く。
イースは何情報か分からないが、先ほどの〈勇者の書〉だったか、のメンバーを引いて五人、先ほど紹介されたメンツを抜いて後二人足りない。
瑠香に体を掴まれ、みんなに見せびらかすような形で前に出された。やめろ、恥ずかしいじゃないか。
「私のお姉ちゃんだよ~! 可愛いでしょ~?」
「無垢ちゃん姉居たんですか!? 別居してたり?」
「そんな訳ないでしょう。第二十三回無垢ちゃんラジオで公言してましたよ。見てないんですか?」
「え~! 私第三十二回以前の動画見てないよ~! いや、学生は良いよね! 暇な時間多くて!」
このももきさんは瑠香よりあざといな。先ほども人差し指をほっぺにあてて困るアピールしていたし。
「なっ!? リアルの事を持ち出すのはずるいですよ!」
「もぉ~、喧嘩するのは良くないよ~! なーかーよーく~~!」
「「はーい!!」」
喧嘩しているようにも見えるが、その様子は、信頼を持って茶化しあうような感じだ。こういう関係を持つのは、姉として喜ばしいことなのだろう。
「ああ、お姉さん! 私の名前はももきです! 妹様のリスナーとして頑張らせてもらってます!」
コクリ、と頷いておいた。やはりコミュ力、生身の人間はやはり怖いのである。ここが私の限界だ。
「あ、僕はまりも太郎と申します。妹様の初期リスナーとして頑張らせてもらってます!」
こちらにもコクリ、と頷く。今までの名前の中でアウトサイダーさんとレベルの癖のある名前だ。
「むむむ、少し失礼なことを考えなかったかい? トウ。少し黙っていたがちょっと失礼なことを考えなかったかい?」
「ない」
考えてないです。ない!
「ああ、そうだ。お姉さん」
ん?
「プレイヤーが従魔証着けてると舐められやすいですから、外すか隠すか、それか名前表示をオフにしておいた方がいいですよ。一般プレイヤーはまだしも、さっきみたいな〈勇者の書〉の過激派みたいな奴にいちゃもん付けられるかもしれないですし、お姉さん妖精族でしょう? 今のところはレアな種族なんですよ。それにお姉さん……その……美しいですし、ね」
「うわー、まりもくん。皆の前でナンパ? やるようになったねえ!」
「お姉ちゃんは渡さないよ~!」
私が美しい、か。お世辞として受け取っておこう。妹と違い私は根暗なタイプの人間なんだ。そこまで美しいわけでは無い。
「こういうのも良いんじゃないかな!」
イースがそう言う。私もそう思えると心から思ったかもしれない。
◇◆◇
「そういえば、後二人」
「彼女たちはね~。ちょっとお姉ちゃんレベルでコミュ力というか……臆病なんだよね~。だからちょっと引き合わせるのは今はきついかな~」
凄い、親近感が沸いたかもしれない。
「あれ~、そういえば、お姉ちゃんに二人の事言ったっけ~?」




