到着、始まりの町
ログインした。
「やあ、おはよう。一度眠ると生命反応は完全に消失し、不定期に蘇るように起きる。いやあ、冒涜的とでも言うべきか、いや、自分自身を冒涜するとは…くくく。実に矛盾している!」
「おは、よ。ここは?」
イースと話しながら部屋の外に出る。外は既に暗く染まりきっており、気味の悪い鳴き声は聞こえるが、生き物の気配はしない。霧と森が周りに無いことを考えると既に廃墟街から抜け出し、舗装された街道に抜けられた様だ。
「シングリースへ続く街道だよ。このまま進むとシングリース―――君達の言うところの始まりの街に着く。もう少し歩けば着くだろう」
シングリースとは何かと思っていたが、話を聞く限り始まりの街の名称なのだろう。そういえばまだイースに聞きたい事があった。
「私、どこから、出てきたの?」
質問の意味が分からなかったのか、一瞬悩んだ様に停止するイース。
「さっきの部屋って、何処に、あるの?」
質問の意味を掴み、イースが頭に付けていたとシルクハットと思われる漆黒を持ち上げてその中を見せてくる。
中には先程まで私が居た部屋が、水面に映る月のように映し出されており、奥の空間とこちらの空間を繋ぐ様に波打っている。原理はわからないが、この帽子が現在の私のセーフティエリアになっているのだろう。
先程は錯乱していた私に帽子を被せ、安全なあちらの空間に私を送りつけたのだ。
「なる、ほど」
「『夢としての空間』とこちらの空間を繋いである。空間があやふやになっているから波打っているのだよ!」
「なる…ほど?」
原理としては理解は出来ない。とりあえずなるほどと頷いておいた。
それにしてもまた『夢』か。このゲームの名前にも夢、廃墟の人間らしき影にも夢を持っているような事をイースに言っていた。当然“将来の夢”などの意味ではないだろう。
先程の空間も『夢としての空間』とイースが言っていたが、『夢』がこのゲームを紐解く重要な構成要素になっているのか…?考えるにはまだ構成要素が足りなすぎる。別に自分は考察が好きという訳でも無いのだが、職業柄気になってしまう事が多い。
「トウ、見えてきたよ」
灯りが見えてきた。恐らく魔物から街を守る為と思われる外壁に包まれた街。
「ここが、シングリース!」
◆◇◆
「駄目だ。神使であろうと魔物を街に入れることは出来ん」
………なんでぇ?
「なんでだい? 確か妖精は危険性が無ければ街に入っても構わない、と法があったはずだけど?」
困惑している私をフォローする様に門番と思われる男に理由を聞くイース。こんな時に彼女の性格は非常に心強い。下手に声を強められると吃ってしまう私と違ってグイグイ話しかけていく。
「危険性が無ければ、の話だ。ここ最近森の様子がおかしい。西の森には生息する筈のないゴブリンが居たのが報告されている。それもシーフだ。隊長の話によると何者かがこの街への襲撃を企てているらしい。故に密偵の可能性のある妖精族などの中立的な種族も入る事は禁止しろとの領主様から御達しだ…………………。それに貴様ら、怪しいしな」
私達の何処が怪しいのか……。真っ黒な変な奴とボロボロな妖精…………。怪しさ満点じゃん。私は兎も角イースは即刺殺されなかっただけマシではないだろうか……?
(どう、する? というか、なんで怪しいで、済んでる、の?)
(私は見る人によって違う姿に見えているのさ! これも戦乱の世を生きる知恵だね。というかどうにもならなくない? ……殺っちゃう?)
イースは本当にビックリ人間?だな。犯罪し放題じゃないか。あと殺しちゃ駄目、まだ気が早い。いや私も人のこと言えないけど。
「うわあそこの人達衛兵に止められてんじゃん! ぶふっ……何したらこんな序盤に捕まるんだよ……ぶふぉ!」
「やめろって! いくら面白いからって…ふふ! でもやばいよな…!」
「ガウッ! ヴヴヴ…!」
「分かった分かった! 早く行くぞ! 早く売ってレベル上げしたいぜ!」
何が面白いのか、私達を笑いものにしながら通り過ぎる少年達。恐らく高校生だろうか、スレインとSdouKか、名前は覚えたぞ。
ってあれ?
「あれ」
「あれか、あれは従魔と言ってな。神使の一部が持つていまーすきる?とやらの力によって魔物を従わせて居るらしい。調教師の様な力を容易に手に入れられるとは………便利なものだな」
私が指差した方向には首にプレートの付いたオオカミ……と言うより犬を引き連れていた先程の学生。それを見て門番はプレイヤーの持つスキルシステムに関心を見せている。
行けるかもしれない。多少の不安感と共に頭に浮かんできた作戦をイースに耳打ちした。
◆◇◆
「行けた、ね」
「行けちゃったねぇ!」
小さな首に付けた首輪と首輪に付いたプレート。それがあるだけで街に簡単に入る事が出来た。
テイマーが魔物を連れて入るのがOKなら妖精も調教されてればOKな筈、と思いイースに適当な芝居を一つ打ってもらった。
というかこの世界で神使と言っても偉い訳でも神聖視されてる訳でも無いのか。
この世界で神使は法律の外の存在であり、神が呼び出した存在でありながら別に特別な措置をする必要があるわけでも無い。
プレイヤーには拒否権があるのだ。自ら奴隷になろうと思ったり、運営による罰によって独房に入れられたりしない限りは、無理矢理奴隷にされたり、強姦されることも無い。もし閉じ込められたりしても、GMコールをすれば全て解決だ。
つまり特別な措置は元々されているのだ。神自身に。だから別に殺されても痛い訳でも無いし、セクハラがあったとしてもハラスメントガードが発動する。
つまり街に入れる入れないは領主が決める。神使を絶対街に入れなければならないという法律があったら別だが、特に問題はない限りは領主は自分の街をより良くする為の管理をする、との事。
まあ分かりやすく言えば、私はイースに調教された態になる事が死ぬ程嫌だって訳でも無いので、今は首輪に繋がれてやったのだ。
「それじゃあ観光と行こうか! 正直私はこの街の事を知っている訳では無いの「先に、やりたいことが、ある」……オーケー、そっちに行こうか」
街は既に深夜であろう時間であるのに賑わいを見せている。やはり生気のあるとは良い事だ。広さだけなら廃墟街も相当広かったが、こちらも負けていない。中世等の世界観で考えれば相当に広い街だ。
NPCの店の多くは寝静まっているようだが、プレイヤーの店の多く開いている。
なぜなら現実ではまだ寝るような時間帯ではなく、まだ鳥が鳴き始めた程度の時間帯だからだ。
恐らくまだ妹はログインしている。フレンド登録をしていないので分からないが、朝起きた時に机の上に朝ご飯が置いてあった。部屋に戻ったとすると、高い確率で妹はFDをやっているだろう。
妹は最も早く店を構えたプレイヤーとしての称号を貰っているらしく、街外れで衣服屋を開いているらしい。
確か名前は〈福禄寿〉、幸福とか長寿とかをそなえた七福神だったと記憶している。
「福禄寿、って、店を、探してる」
「福禄寿という店を探しているが、らしき店はこの付近には無いね。似たような店は一つ、該当するものがあったよ」
思わずなんで知ってるの?と聞こうとしたが思いとどまる。封印されていたらしいのに何故か私たちプレイヤーの事を知っていたり、最初は知らなかったプレイヤーが復活するという事を後になって理解していた。それはそういうものだと理解するしかあるまい。
「なんて、名前か、分かる?」
「服禄寿って名前の店だね。中には女性が五名、男性が三名。いや、進もう! もしかしたら面白いものが見れるかもしれない。いやあ、楽しみだ。……随分と――の―――う――――だ」
急にイースが乗り気になったのを見て少し怪しんだが、私も妹と合流できるのなら問題は無い。最後に何かを呟いていたが―――それを知る権利は今の私には無いだろう。
それにしても服禄寿とは………十中八九妹の店だろう。駄洒落か?駄洒落なのか?妹のセンスは良くわからないが、福を呼び込む。という意味ではとても良い意味ではないだろうか?とマジレスしたら恐らく瑠香の事だから顔を真っ赤にして恥ずかしがるだろう、故にこの言葉は胸に秘めておくことにした。




