脱出、街を目指して
「馬鹿、ほんと馬鹿……」
「良い、良いのだ。人として恐怖とは正常な反応であり、影響力の高い素晴らしい感情である! 私は長らく感じたことなどないがね」
「聞いてない………」
一通り語り散らした後、こちらにドヤ顔…いや、顔はないが。この女は感情が分かりやすいな、ある程度の感情は見て取れる。
「そういえば、ここは、何処なの? ………!?」
相変わらず私の事はスルー……!?こちらを見ている!?と言うよりは……イースを見ている。
「ああ別に良い。あれは良く無いものだ。残滓、とでも言えばいいか、無理矢理に脱がされた蛇の抜け殻だよ。まあ、夢は抜け殻の方に詰まっているのだがね」
珍しくイースが苦虫を噛み潰したような感じになっている。先ほど出会ったばかりだが出会ってからここまで、五月蠅いくらいだったが、今は低いテンションになっている。
関わるな、と言われたのだから関わらなくても良いだろう。あれに大した興味はそそられない、というより今はこれと居る方が面白い。
「ふふふふふ」
「何?」
「いや、なんでもないよ。ふふふ」
「なに、なんなの」
「とりあえずここを離れようか。君はともかく、私からすればあれはあまり好ましくないからね」
なんだか、なんだか話を逸らされた気がするが………まあ、良いだろう。私もそろそろこの辛気臭い空気に耐えかねて居たのだ。
早めに町に帰った方が妹と遊んでやれるだろうし、敗れたローブも直さなければいけないから。
一気に事が終わってどっと疲れが湧いてきた。一度休憩も兼ねてため息を付いて、眼を瞑る。
ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
ん?何の音だろう?
00:02:32
あああああああああああああああ!!!!!
忘れていた!そういえば私の人生時間制限あったんだった!いや私の人生時間制限あったんだって凄いパワーワードだな……。
いや違う、どっちにしろ死ぬじゃん私!やっぱり飛び降りなんてしなければ良かった。畜生!こいつ殺す!絶対殺す!
まて、残り時間だ。さっきのは見間違えかもしれない。残り時間を見よう。まだ時間はあるかもしれない。でもどっちにしろこいつは殺す!
00:01:21
駄目だこんなクソ一人茶番してる暇は無かった!
「駄目だ私死ぬ!」
「急にどうしたんだい!? 急に声量を上げたね!?」
「駄目! 殺す! お前を殺して私も死ぬ!!」
「落ち着いて! そんな別れ際の恋人みたいな台詞言って! いや、私たちは恋人にはまだ早いんじゃないか!?」
違う!そうじゃない!顔を赤くするなぶっ殺すぞ!?
頭に付いている花冠を指さし叫び散らす私。別に私は死ぬからキレている訳ではない。お前が私を不必要に飛び降りさせたからキレているのだ。
「これのせいであと一分で死んじゃうの! いやリスポーンするけど!」
「それは……。いや、中々に因果なものだ。あの女は嫌いな物は嫌いだからね。やは「どうでもいい! 殺す!!!」落ち着いて、ね?」
「いや、大体わかった。懲りていないことも分かったし、君たちが何なのかも大体分かった。君が求めるのは所謂“せーふてぃえりあ”と言うものなのだろう? 規定としては敵性を持つ、一定以上の危険値を超えない領域」
それがどうした!別にNPCである貴様には関係は無いだろう!?
「良いだろう、任せてくれたまえ!」
そこで私の視界は暗転した。
◇◆◇
『セーフティエリアに入りました。リスポーン地点に設定しますか?』
『はい』 『いいえ』
手をはいに向けて差し伸べ、表示された文章にタッチする。
『“無垢な夢”をリスポーン地点に設定しました』
『初発見ボーナス! 今から一日の間取得経験値が10%上昇します』
『それでは、良い道を』
◇◆◇
視界が突然フラッシュアップする。ここは―――。
「うぇ!?」
ぐんぐんと減る体力ゲージ。とどのつまり、これは時間切れになったという事だ。体力ゲージの横には炎の上で焼かれる人間らしきマーク。視線を合わせると《状態異常・焼死》と言う文字が出てくる。
状態異常なのに焼死とは意味が分からない。死んでいるじゃないか、いや死ぬのか。
そして私は、初めての死亡は無事に、こういう形で終わったのだった―――。
◇◆◇
「おはよう」
「おはようっ! 落ち着いたかい?」
落ち着いた。無事に焼け死んで心頭滅却された。それはさておき―――。
大きなベッドが中央に一つ、壁には本棚が付いており、扉が二つ。
こう言ってはなんだが豚ば―――せまっ苦しいったりゃありゃあしない。必要最低限、ではなく不必要最大限のような部屋だ。
「私の部屋だよ、良い部屋だろう?」
「ああ、うん。良い部屋、だね」
勿論皮肉を込めて言ってやった。スルーされてしまったが。
それにしてもこんな部屋でまともに生活が出来るのだろうか?机も無いし椅子も無い。ドリンクサーバーも無いから水分補給するにも部屋を出なければいけないではないか。
「ハハハ、お気になされないようだね。だがまあ、セーフティエリアとすれば良い点数だろう、ここには私と、君しか入ったことが無い」
「そうなの、か。なら、良い」
「さっきのはあれだね。その花冠の力だろう?」
イースは私の頭を撫でながらこの“五時葵の花冠”を観察する。
「知ってる、の?」
「あの気まぐれな女の創作物だね。本物は愚か者にくれてやったらしいけどね! まあ、それも既にこの世にはないだろうね」
イースの言うあの気まぐれな女とは恐らくタイテナの事だろう。話を聞く限り彼女とイースには接点があるらしいし、この“五時葵の花冠”にはオリジナルが存在していたらしい。いや、この花冠を復活することのないプレイヤー以外が装備した場合どうなるんだろう?この世にはない、愚か者………あっ(察し)
「丁度いいから、いったん、ログアウトする」
「ログアウト、ログアウト………。ああ、分かった。構わないよ! 私は先に“シングリース”に向かっておこう。もしログインしたとしても奥の扉を開けないでおくれよ? 出る時は手前の扉から出ると良い」
そろそろ夕飯時だ。妹に言って作ってもらおうと思う。
「じゃあ、ね?」
「ああ、また来ると良い。世界は広いのだからね!」
◇◆◇
「おは、よ」
「あー、お姉ちゃ~ん。起きてくるなんて~、珍しいねぇ~」
部屋から出た後、リビングのソファーに寝転がる。台所では既に瑠香が晩御飯を作り始めており、洋食の良い香りが香ってくる。
ソファーに無造作に投げられていたリモコンを拾い、適当にチャンネルを変えていく。
『こちらの点数はッ!』『やっぱりワンちゃんって可愛』『白峰グループの御曹』『いやそれ可笑し』
『婚約。遅すぎる、との声も』
ほう……これは。
「瑠香」
「あ~。お兄ちゃんねぇ~~。いいんじゃないかな~? 絶対私の穴埋めだけどねぇ~。今の私には知ったこっちゃないよぉ~。家政婦をしてる限りお姉ちゃんが助けてくれるんでしょ~?」
まあ、うん。その通りだ。
瑠香が出来たであろう料理を運び、机に並べる。熱いな、シチューか。悪くない。
「食べよ」
「そうだね~。食べようかぁ~」
不器用ながらシチューを口に運び………。
「あづっ!」
「お姉ちゃ~ん!?」
ちょっとやけどをした。




