仲間が 一人 増えた !
まだ続きます。
なんだろう?この影は。急に語り出したと思えば助けを求めてきた。というかさっきサラッとセクハラされなかっただろうか?
「貴女は、何?」
声から考えるに女性だろう。それも良い声だ。良く響き、凛と聞こえ、何物にも臆さないと誇示する様な威勢を纏っている。
まずはコミュニケーション、妹が言っていた。「人と話す時はね~? 自分の方が上だって分からせるために、会話は自分から切り出すんだよ~?」と。それに倣うように謎の影に言葉を投げかける。
「おお! ようやく話を掛けてくれたね! 今は誰も覚えてないかもしれないけど偉大で最強で勤勉なる私は騙されてしまったんだ! まあそんなドジな私もどの花より可憐で、美しく、完璧だ! それで幾億年前の話なのだが、これは私と、世界との戦争から始まるのだがねっ! 沢山の人を殺したよ。母も、父も、友人も! いやその友人はさっき話した古い友人ではないよ。人として強い男だったね。約束してね、恋人は殺さないって。だから約束を守ったらね、その恋人は私に、殺してやる、殺してやるぅ! って泣きながら魔法を使ってきてね。笑えるだろう? 私も笑うのを堪えるのがいっぱいで――――」
「聞いていない。私は、貴女の個人情報を、聞いてる」
子供が自慢話をする様に、こちらにまくし立ててくる。今考える話では無いのだが、この影が言う話がスケールが大きすぎて荒唐無稽に聞こえてくるが、嘘では無いのだろう。それか頭がおかしいのか。心音のしないこの女?が嘘を言っているのかはわかりようも無いが、ここまでの話を語ったとしても頭のおかしい奴として処理されるだけだろう。嘘を付くならもう少しマシな嘘を付く。
この女?の話が本当としても私には関係が無く、何も思うことはない。それは、そういう事なんだろう。
「ああ、偉大で最強で勤勉なる私の名前は“アウトサイダー・エゴイスト”。変な名前だろう? 自分でもこの名前は美しく無いもので、私には一ミリも! 一ミクロも重ならない名前だと思うんだけどね! だけどこれは親から貰う初めての物だ。いや、唯一の物だったな! 分かりやすく“イース”と呼んでくれたまえ!」
自らの名前は嫌っている様だが、一切の引き目は見えない。
それにしても利己主義者であり、部外者なのか。確かにロクなものではないな。先ほど述べたことから考えるに、確かにその名前は間違っていないのだろう。名は体を表す、正にその通りだ。
部外者なのかどうかは知らないが、知る由も無いが。少なくともこの女は、何かをして捕まった。それだけだ。
格子のから下に飛び降り、一向に体を動かさない影―――彼女の頬に背伸びしながら触れる。
「何を、出来る?」
「偉大で最強で勤勉なる私はなんだって出来る! なんたって天才だからね! 偉大で最強で勤勉―――」
「簡潔、に」
「言葉通りだよ。なんだってして見せよう」
この言葉には何が出来るか、ではなく私があなたを助けた時、何を出来るか、という意味が含まれており、それに対して、堂々と、真摯に言って見せた。それだけで、助けるには十分な答えだった。
「何をすれば良い?」
「ああ、おお! 妖精の博愛者よ。助けてくれるか! この鎖には苦労……あっ…させられている。最初は時間が立てば風化すると思っていたのだが……。この鎖、全然古くならない……んっ…のだよ! というかこの部屋は古くならないようだ。どんなものでも幾億年経てば壊れるはずなのだがね! あっ… いやあ、参った参った! 私からすれば復讐なんてくだらないことは考えていな―――痛いっ!」
アウトサイダーさんの体を触り続け、遂に鎖を見つける。触っている途中も五月蠅く喋り続け、時々艶やかな声を出してきたので腕らしき部分に噛みついてやった。
「何をするのだ妖精の博愛「それも、やめて」……了承した。私はとても話を聞くのだよ、素晴らしいだろう?」
私の非力な体では到底壊せそうにない、立派な鎖だ。この鎖がこのアウトサイダーさんを封じ込めているのだろう。
私は改めて考えた。果たしてこの鎖は外していいものなのだろうか?この女は先程の個人演説で述べていたことを考えると真性の利己主義者なのだろう。それも自分でも理解しているかどうか怪しいほどに、それがたちが悪い。
目的の為なら自分以外の物全てを殺してでも成し遂げるような、そんな怪物だ。そんな怪物を解放していいものだろうか?
「『バン』」
ああ、この女が壊せないと言っていたのだから中々に硬いものだと思っていたのだが、存外簡単に壊せたものだ。
鎖は半分を残し、砕け散る。
そんな怪物を解放していいのか?良いのだ。良いに決まっている。
失敗したところで私は神使、現実世界で死にはしないし、今私が殺された所で泉に返されるだけ。デメリットはカスほどにも無い。
こんな事を思える時点で私も相当に利己主義者なのだ。
なにより、私と彼女は―――
「改めて名乗らせて貰おう。私はアウトサイダー・エゴイスト、名前と言うよりは個体名の様なものだが、既に私は私しか居ない。いや、長くなったね。イースと呼んでくれたまえ!」
「私も。私は、トウ。そのまま、トウって呼んで」
「ああ、トウ、トウか! いい名前じゃないか! これからよろしく頼むよ!」
「付いて、くるの?」
「そりゃあ行くさ。君には恩があるからね! 言葉通りなんだってする。生命とは刹那な物さ、そうあるべきなのだから!!!」
「暇なの?」
「暇ではない。時間が空いているだけなのだよ!」
何処か似た者同士で、仲良くなれるような気がした。
◇◆◇
「降りるの、めんどくさい、ね」
下まで続く螺旋階段を覗き、冷や汗をかく。登ることよりかは楽なのだろうが降りることも相当な労力を費やさねばならないだろう。一瞬恥も見分…なんてものは無いが、個人的な気分でやりたくはない方法。死んで泉まで戻ってやろうかと思ったが―――。
「構わん、飛び降りれば良いだろう! 君も中々に因果な物に見える、死にはしないだろう!」
イースが居る。というかお前もなんだ、死に戻りとでも言えば良いのか、それが賛成か、大丈夫なのか?
その私が困惑している様子を見て、イースが頭に?を浮かべている。
「いや、私が、リスポーンしたら、会えるの?」
「…? リスポーン? 何も私は君だけに飛び降りろとは言っていない! 善良な私がそんな事言うはずがないだろう」
「それは、どういう―――」
私の体がイースの腕らしきものに捕まれ、引き寄せられる。イースは螺旋階段中央の吹き抜けた空間ギリギリまで寄る。
「え、え、え?」
「体を離さないように。ここじゃあ落ちたら死ぬからね」
「いや、違う。私は、飛び降りる必要は!」
違う、そうじゃない。自分の頭に右手を突き付けてばん、と言うだけですぐ戻れるのだ。別に飛び降りる必要はないのだ、別に。
「まあダイジョーブダイジョーブ! ちゃんと着地するから! 多分死なないだろうから!」
重心を前に倒し、落下する体制を整える。視界がゆっくりと下に下がって行き、先の見えない真っ暗な空間と視界が水平になる。
「その、言い方は、不、味ゥゥゥゥゥゥゥゥ!!??」
オオカミに襲われてる時が一番叫んだと思ったけど、やっぱ嘘です。今が一番です。




