遭遇、テンション高い系母妖精
VRゲームの暗転は未だ慣れない。
「…ん…ここ、は?」
周りを見渡すと、そこは木、木、木、あと後ろには泉がある。つまり森だ。気温は正直先程までいた森の方が心地良い。
たしかアイレが妖精系統は第一から第三エリアまでにある妖精の泉のどこかで生まれると教えてくれた。最初から低レベルのプレイヤーを第三エリアなどの高レベルに行かせるのはどうかと思うがそれはそれで魔物プレイの醍醐味、案外ジャイアントキリングを狙う人も居るそうだ。
一応私の妖精は魔物と人間では魔物側なんだが、どちらにも喧嘩を売らない限り攻撃されることはめったにないらしく、意思のある妖精が人間の町へ行くこともあるらしい。つまり私も人間の町に入れるってことだ。
「…綺麗」
周りにカラフルなオーブみたいなのも浮いてる。妖精の泉から生まれたらしく、たまにふわふわと浮いてオーブ同士で仲良くしている。
体を軽く動かしてみたがBDWと体感は同じ。そこら辺の石を投げてみる……物理演算もやはり変わらないようだ。
「んん……?あれ、何、これ、なんかの…感覚がある」
背中に何か動かせる感覚がある、それを動かすと、体に感覚だけがある。虫特有の羽音はしないが…翅だ。そりゃあ妖精ならあるよね、翅、アイレも飛べてたし私も飛べるかもしれない。
「いけ、そう……?飛べる気がする」
翅のはばたく速さを上げて、そのままジャンプしてみ…
「――ッ!」
小さな音と同時に私の体は一回転しながら泉に落下した。
…急いで這い上がるが、服が濡れて重くなっているため動きにくい。……なんとか這い出ることには成功したが、服がびしょ濡れになってしまった。
「うぅ…ん…体、びしょ濡れ…」
濡れた服が体に張り付く感覚が気持ち悪い。そういえば種族特性にも慣れが必要と書いていた。元々人体にないものを動かす感覚が分かった。一回転、と言うことは翅のはばたかせるバランスが悪かったんだろう。これはなかなか努力しなければ慣れそうにない。
体が濡れて機動力も非常に下がってしまった。服を乾かすために全裸になるわけにもいかないので日向ぼっこをすることにする。
妖精の泉の周りは日が差しており、緑生い茂るこの森では珍しい日向だ。練習がてら翅を動かすが、濡れてはばたかせることが出来ない。
これは弱点になりそうだ。早急に乾かす手段か水属性の物を防ぐ方法を考えないと行けないと思う。
空が綺麗だ……。
空は晴れ晴れするほどの青空で、これが現実なのかもしれないと思いそうになってしまう。むしろ現実より綺麗な気もする。太陽の光も温かく、ずっとこうしていたくなる。
「ん?」
また覗きこまれた。今度は青のオーブに。凄いデジャブを感じる。その後赤や白、緑や黄色などの色々な色がのぞき込んできた。目に優しい光を発しておりそのオーブが私に突進してくる。これはなんというか…子供が遊んで遊んでっておねだりしてくる感じがする。
『 シークレットクエスト・子妖精の暇つぶし が発生しました』
頭の中で無機質な声が響く。シークレット…クエスト?と悩んでいると目の前に半透明のウィンドウが出てくる。
ヘルプ
※シークレットクエストとは?
シークレットクエストとは、一部の条件を達成することで発生する隠しクエストです。冒険者ギルドなどで受けることのできる『依頼』やこの世界のNPC住人から受けることが出来る『クエスト』とは違い全てのクエストで運命性が関わっております。
このFD初のクエストだ。まあでも噛み砕いて言えば遊んで欲しいってことだろう。でも…
「体…乾いてないから」
体が濡れてなければクエストだし受けようと思うが体が濡れているのでメンドクサイの方が勝ってしまう。ので指先を拒否に向かわせようとする。
すると赤と薄緑のオーブ達がこちらにふわふわと寄ってきた。そしてそのまま合体し…
「あばばばばばばッ!」
ものすごい熱風を浴びせてきた。体感的には五十度ほどで多分魔力過敏の影響もあるだろうがそれでも熱い。口をボーっと開けていたので風で口があばばばばって大人としてあるまじき声を出してしまった。
……熱風のせいで口がカラカラに乾いてしまったので妖精の泉の水を飲む。これ色変だけどヤバイ成分とか入ってないよね……?
「良し、乾いた、森の散策に……あぶっ!……冗談、冗談」
ちょっとしたジョークを言ったら黄色が全力で突進してきた。黄色はビリビリするってことは雷属性?ダメージは無いが非常にビリビリする。色事に属性分けされているってことは赤とかはほかほかするのか。
「どうやって、遊ぶ…か」
クエストの達成条件は子妖精達の満足度を上げて、楽しませること。正直オーブ達が楽しめるようにする方法が分からない。今この場にあるものはオーブと、泉と、森のみ。
「丸……。お手玉?」
子供のころにお手玉をやったことがある。割と得意だったし、少しは楽しませることが出来るだろう。
さて、とりあえずこのビリビリオーブと近くに寄ってきたホットオーブを手に持つ。
そして私は全力でお手玉を始めた。
◆◇◆
「順番!守っ…て!」
先程から一時間ほどお手玉をしている。体は既にお手玉をすることを義務付けたように自動化されている。そろそろ手に感覚が無くなってきた。
現在のオーブ数は四十個程、というかこれが限界。筋力値零の限界である。
十周ほどするとオーブは満足して地面でごろごろしだすのだが、それに対してのオーブの量。もう既に大量のオーブをさばいたため長蛇の列は少なくなってきたのだが、そろそろ肩の限界が出てきた。既に周りはオーブの絨毯の様にカラフルで奇麗だがそんなこと考える前に肩が死ぬ。
「これでっ、最後ッ!」
全部のオーブをさばき終わる。オーブの絨毯に寝転がるが凄い……色々な感覚が体を襲う…。
………ええい邪魔だ。寝返りをうち、近くに落ちているオーブを退かす。
ふぅぅぅぅーーー。疲れた。このゲームちょっとリアルすぎる。一瞬気のせいだと思ったが、確かに体が重くなっている。
自分の視界の斜め上に《状態異常・疲労》って書いてある。私筋力零だから披露する筋肉があるのか…って思ったがそれはゲームの仕様だろう。
地面に落ちているオーブの中で金色の光を持つオーブがやってきて私の体にくっつく。すると《状態異常・疲労》が消える。体を回復させるオーブ……?聖属性…かな。欲しい。
体も安らいだので立ち上がる。レベル上げをしようと思い、立ち上がり森の方へ向く。………凄い邪魔、移動できない。属性のあれには慣れたが質量がないくせに邪魔なのだ。
「…何者?」
突然後ろから気配がしたため警戒しながら後ろを見る。後ろには泉しかないため気配などあるはずも無いのだが…。
「誰?」
凄くニコニコしているお姉さんが居る。私の身長からするに百七十センチ程だろうか?金髪碧眼の神秘的な印象を持つ……巨乳だ。とりあえずその女性を見て私は………目を背けた。
『待ってちょうだい』
待たない。待ってほしいならその服装……服装じゃないな、全裸って服装じゃないでしょ。その全裸をどうにかしてほしい。未成年だからか補正で謎の光が守っているのが更に目を背けたくなる。
「服、着て」
全く知らない人?だがせめてもの常識として服を着てほしい。いや、種族的な問題で着てないってのもあるかもしれないが我ら異邦人と話をするときくらいは服を着るべきだと思う。
『ちゃんと服を着たわよ! どうよ! この私のとっておきはっ!』
安心して振り返る。これで対話が出来る。と思い彼女の方を見ると……
一瞬フリーズした。
頭に花冠だけを付けた彼女がドヤ顔しながら腕を組んこちらで見ている。………貴方は服をなんだと思っているんだ?
そしてこちらをどうよっ、と言いたげに待っている。
「それは……服なの?」
『何当たり前の事言ってるのよ!これが私の正装でありフリーダムッ!』
そうか、それが正装なのか……いや納得できないけど。一向に納得は出来ないからとりあえず説得しておこう。
「とりあえず、人と、話すときは、服を、着よ?」
『これが正装なのよっ!というかあなた妖精じゃな待って、「『ばん』」ひえぇっ! 分かった。着替えるから。その指をこっちに向けないで!』
そういうことじゃあない。とりあえず【ハンドガン】の使い心地を試すために右手で撃ってみた。
指を子供が良くやるようなテッポウの形にして発泡音を口で真似る。
すると右手の指から魔法陣の様なものが展開され、一瞬で形成された弾丸が巨乳さんの真横を通りすぎる。
ダメ元でやってみたがこれでも弾丸は撃つことができるようだ。
使い心地はBDWの銃と変わらない。威力的には対物あたり。しかも反動がない。
「ふむ……」
視界にはBDWの残弾表示。右下に2/3と左下に3/3と出ており、これと同じ装填数の対物はBDWには無かった。
装填数は3が両手で6かあ。
……チートスキルなのでは?
こんなの食らったら野生動物なんて一瞬で肉塊になりそう。飛距離とかも見なければならないがそんなのは気にもならないだろう。
暫くしてお姉さんが肩を叩いてきた。次まともな服装じゃなかったらその綺麗な肌に傷がつくことになる。
『着替えたわよっ!』
「うーん……」
振り返る。うーん……セーフかな、セーフ。このままだと話が通じないし。お次の服装は体に葉っぱが巻かれている。良くあるドライアドみたいな感じで。
謎の光も消え補正くんもこれにはにっこり。まあ補正くんが許すならセーフだろう。
「それで、呼び止めて、何かあるの? 報酬? という誰?」
『質問が多いわね……。私はタイテナ、まあ……割と全ての妖精の母親ね。讃えていいわよ』
衝撃の新事実。この人は割と偉い立場だった。
そしてまさかのこのお姉さんが私の母親だった……?
『ああ、あなた達異邦者のは無いわ。あなた達の場合は生まれた、と言うより完成品が投げ出されたような感じだから。あぁ! でもお母さんとかママって呼びたいなら好きにしても良いわよ!!』
遠慮しておこう。NPCにバブみを求めるほど私も母性を求めてはいないんだ。そういうのはそういうフェチの人に言うだと思う。
「で、どうして出てきたの? なにか、言いたいことでも?」
『それもあるのだけど……言っておきたいことがあるの。……まあ先に報酬を渡すわ』
言っておきたいこと?初対面で言っておきたいことなんてあるか?いや、そういえば…最初にも急に渡されたな。
『 シークレットクエスト・子妖精の暇潰し のクリア条件が達成されました。報酬が支払われます』
『まずは……これね。やり方がお手玉ってのは少し面白かったわね。彼らも楽しんでいたみたいだし、私としてもそこそこ満足できたわ!』
瓶詰めにされた煌めく粉を渡される。その瓶がアイテム化したのち詳細を見てみる。
[瓶詰めの妖精の粉][Ep][10]
瓶詰めにされた妖精の粉
蝶の翅を持つ妖精から採取される高魔力の鱗粉であり、人間界に出回る機会は非常に稀で高価で取引される
高品質
なんだこの[Ep]と[10]って。と悩んでいるとまた半透明のウィンドウが出てきた。
ヘルプ
※レア度にと品質について
品質とはアイテムの質であり、これが高ければ高いほどアイテムの性能や効果が上がる。素材の場合は使用して生産したアイテムの品質も上がる。1から10まで存在し、数値が高い方が品質も高い。
レア度とはそのアイテムの希少性であり、これが高い物ほど性能が高いものが多い。コモン(Co)→アンコモン(Un)→レア(Ra)→エピック(Ep)レジェンド(Le)の順でレア度が高い。そして最後にもう一つレア度がある。
『次に…これを上げるわ』
タイテナが頭に被ってある花冠を外し、頭にかぶせてくる。でもこれって……
「正装って言ってたけど……いいの?」
『何言ってるのよ、そんな冠一つで正装とか。露出狂じゃあるま「『ばん!』」わあああっ! ごめんなさい! だから向けないで! 吹き飛んじゃう! 頭消し飛んじゃうから!』
急に常識人ぶるな貴様。私はウィットに富んだジョークなら寛容だがクソつまらないネタにはすぐ手が出るタイプなんだ。
タイテナが場を取り直す様にパン、と手を叩く。
そして急に真面目な顔をして
『次の満月の夜に、もう一度ここに戻ってきて欲しいのよ』
と言った。これが言っておきたいこと…か。別に構わない。何やろうとか明確に決めている訳では無いので時間さえ合えば行ってあげよう。
『シークレットクエスト・満月の夜に光の下で が発生しました』
―――妖精の夜に、また会いましょう?
それだけ言い残して、最後だけ妖艶に笑う彼女は泉に消えていった。




