芋砂、VRMMOを始める
日も傾き、空も赤く焼けている。広大な大都市を模されたフィールド、その中に配置された立体駐車場。そこに相対する一組の男女が居た。
「後は、君一人…だね」
一方の女、背中にはその体躯には似合わないような狙撃銃を背負い、右手には護身用と思われる回転式拳銃が握られており、それをもう一方の男に突き付けている。
「まったく、敵わねえなァ………なァ…やっぱり辞めんのかァ?」
もう一方の男は両手を上げ、降参のポーズをしながら女に聞いた。
「言った。なんだかんだ、楽しいけど、いろいろあるから」
「お前SNSやってないから分かんないだろうけどTowitterでチートって騒がれてたの本当に笑えるんだけど」
男はいつものキャラ作りされた口調をやめ、くつくつと笑う。
「失礼。チートじゃないくて、勘」
「勘であれが出来るなら人力オートエイムだなァ」
女は足元に転がっている男の拳銃を蹴って男へ転がす。
「拾って、最後にやってあげる、¨ガンマン¨好き、でしょ?」
¨ガンマン¨ルール、一般的には決闘と呼ばれる西部劇をモチーフとしたルールであり背中合わせから十歩歩いてからの早撃ち対決。
相手の男の基本武装は拳銃であり、彼が身に着ける装備はカウボーイを意識して作られている。そんな彼が好きなルールがこれだった。
「お情けはありがたく受け取らせてもらおう、最後に一回くらい勝たせてもらわねえとなァ?」
二人は歩き出す、この間に撃つ、なんていう野暮なことはしない、これでも二年の仲だ。そして女は思い出した様に
「私、FD始めるから、寂しかったら、皆で、来ても、いいよ?」
と一言。
それに対して男は
「そうだなァ、気が向いたら、なァ?」
と一言返す。
そして二人は、背中合わせから歩き始めた。
《Bullet Duel World》、現在では国内ゲーム内人口五千六百万人を突破し今もなおその人気は衰えることを知らない超人気VRFPSゲームだ。
そんなゲームも数ヶ月前までは数多の良ゲーに埋もれていた無名のゲームだった。
ある時、このゲームに一人の少女が舞い降りる。圧倒的PS、未来視のようなSR捌き、それを持って数々の『傭兵』の命を刈り取っていく。
なぜか、それを期に沢山の新規プレイヤーが来訪した。このゲーム自体知名度の無さというハンデがあっただけで神ゲーになれるポテンシャルがあり、彼女が来たことで人気爆発、一躍有名となった。
が、有名になった後引退をプロフィールにて発表、あまり物言わぬ彼女だがその日だけは「負けたままじゃ、可哀想だから…最後に一回だけ」と数日後にルームを開く。
ルールはギルドバトル、本来ならギルド同士で戦うルールだが、彼女はギルド未所属なので彼女はその日だけギルド《あ》を設立。
対するはトップギルド連合軍《終末討伐軍》。
そんなランキング一位の引退試合、前代未聞の一vs.百五十、結果は十三時間の戦いの後ランキング二位の敗北を以てランキング一位の勝利で終わった。この戦いは後に『終末少女の恐怖』と呼ばれ、数十年サービスの続く《Bullet Duel World》でも語り継がれたという。
私の名前は征鵬 灯、こんななりでも23歳だ。
先日妹に《Fantasy Dreams》というゲームの招待コードが送って貰った。
妹の名前は白峰 瑠香。正確には¨元¨妹だが、そんな事はどうでもいい。
現在高校生で割と有名な成金高に通い人生の最高潮を味わう妹はyourtubeで配信者?というものをやっているらしく、「このゲームは流行るよぉ、メインはこのゲームで確定だねぇ」と意気込んでいた。
それと同時に《Bullet Duel World》を辞めた。理由は自分のコミュ障具合と無名ゲームだったこのゲームだからこその「一位でもそんな強くないだろ。メッセージで適当に煽ればタイマンしてくれるだろ」という民度低下。
人数が増えたところでランキングは10位以内は一切変わらず、他のランカーは何も言われないくせに私だけチートチートって罵られる始末。認可持っているVRシステムにチートなんて入れられるわけ無いだろうって話だ。常識を知れ、常識を。
妹は私がゲームなんてやることを知らないし、私がファンタジーで戦うとしても弓とかの遠距離武器を使おうと思っている。
クロスボウぐらいならあるかもしれない、と期待してVRギアを被る。
「お姉ちゃんにいろいろ教えてあげるからねぇ」
意識が電脳空間に持っていかれる直前、妹がそう言っていたのを思い出した。
目を覚ますとそこは…森だった、森に寝転がっていた。木漏れ日が心地よく、丁度いい気温でつい眠りそうになる。
すると
『起きてます?』
と女の子が覗いてきた。
見た目は二十センチほどの赤髪の可愛らしい少女。落ち着いた色合いのワンピースと金属製の羽の髪飾りを付けており、背中には人間の物とは思えない半透明な翅が付いている。恐らく妹が言っていた運営精霊と言う奴だろう。
「ん…おは、よう」
『はい、おはようございます』
私の周りをふよふよ飛んでいる少女。時々スピンして目を回している。
『それでは…ゴホン!ようこそガーデニアへ、私は運営精霊のアイレと申します、この度は《Fantasy Dreams》をご購入頂き、誠にありがとうございます。早速ですがキャラメイクを開始してもよろしいでしょうか?』
首を縦に振る。
『初めに、お名前を教えてください』
これは決めてある、TOMOSHIと入力し『そちらのお名前は既に使用されております』…えぇ…BDWでこのPNでやっていたからこれでやろうと思っていたが既に使われていたようだ。
決めた。トウと入力する。……『PNが確定されます。一度決めてしまいますとキャラクターデータを作り直す以外で名前を変更することが出来ません。それでもよろしいでしょうか?』……了承と拒否という文字がウィンドウに出てきたので迷わず了承を押す。
『………PNが確定されました!これからよろしくお願いします。トウさん』
「よろしく。アイレ」
名前は灯だからトウ、妹に言ったら安直って言われるかもしれないがネーミングセンスが皆無なので下手に捻った名前にしないようにする。
『次に、こちらのウィンドウをご確認ください』
アイレの持つウィンドウを渡され、その内容を見る。今現在の自分の姿が左半分に移っており、右半分には自分の姿を変える為の設定がある。
出来た。結構悩んだがこれで決定にする。
現実では伸ばせなかった髪も伸ばして色は黒のままにしておいた。次に顔、私は顔のグラフィックを作ったこともない。素人がやるとバケモノになりそうなので変えていない。体もBDWと違かったら動きに支障が出ない様に変えていない。
……あれ、これリアルと殆ど同じだな。
『こちらでよろしいでしょうか?』
コクリ、と首を縦に振る。
『次に、ステータス設定をお願いします』
またウィンドウが渡された。RPGでありそうな一般的なステータス表示だ。書いてあるのが良くわからないSTRとかじゃなくて〇〇値と分かりやすく書いてある。
先ずは職『トウさんに一件メールが届きました!』……えぇ……特に何かした覚えもない。
「読んで」
とりあえず読んでもらおう、最初で絶対に貰う挨拶的なものなのかもしれない。
『この度は、本社の《Fantasy Dreams》をご利用頂き、誠にありがとうございます。この《Fantasy Dreams》は我が社、フューチャ―ゲーミングの《Bullet Duel World》のを元に制作されました。PN.TOMOSHI様のご活躍に感謝を込めてこちらのレアスキルを同封させていただきます、それでは《Fantasy Dreams》をお楽しみください』
んん…つまるところ、BDWとFDは同じ会社で?お前らVRFPSの運営じゃないのか…?
いや、下手に考えない方がいいと思う。普通ゲームの壁を越えてまで渡すか?というかなぜバレ…脳波判定か、それなら説明がつくけど。
アイレを見ると
『ファンタジー世界にソレを持ち込むのはどうかと思いますけど……他にも強力なスキルはありますから…ガーデニア外での活躍からスキルが貰えるって割と前代未聞なんですからね?』
と苦笑していた。
さて、貰ったスキルの確認をしよう。
ふむふむ…【ハンドガン】…?どういうこと?詳しく見てみる。
【ハンドガンLv.1】
アクティブスキル
『回転し、貫くモノ』
魔力を使用し指先から弾丸を生成し、高速回転させて射出する
スキルレベルを上げることで新たなアーツを取得することがある
ワンマガジン両手使用時必要MP:1000
駄洒落か、手が銃だからハンドガンか…MPでの運用ってことは…なるほど、魔法使いルートは確定したということか。
とりあえず職業は【魔術師】にしておこう。
本来ならこのあとのスキルを決めるときに魔術を覚えることで二次職に○○魔法使い、となるらしいが私は残念なことに手銃を使うので取らない。基本魔術師系は魔力値が上がりやすい職業らしいので【ハンドガン】スキルが2丁なら2位の動きを真似すればある程度戦えるだろう。
次にスキル、このゲームはスキルスロットと言うものがあり、こちらにアクティブスキルをセットすることでそのスキルで覚えるアーツを使用できるようになるらしい。
パッシブスキルや使用しないスキルは余りスロットというところに送られて使用することは出来ないがパッシブスキルの恩恵を受けることが出来るらしい。
スキルスロット初期で5個持っており、レベルを10上げることでスロットが一つ貰えるとのこと。スキルも最初に3個貰えるらしく、とりあえず【ハンドガン】スキルに合うようなスキル編成を固めてみる。
やりたいことの案が固まったので必要になりそうなスキルを選んだ。
【潜伏Lv.1】
アクティブスキル
『影の如く、暗闇に紛れるモノ』
魔力を使用し他人からの認識を薄くする
自分の【潜伏】スキルよりスキルレベルの低い【鑑定】系統スキルからの影響を受けない
スキルレベルを上げることで新たなアーツを取得することがある
一分間使用時必要MP:100
【魔力操作Lv.1】
パッシブスキル
パッシブスキルの為詠唱に関する文献は無い
魔力を使用するスキルを使うための必須スキルであり、これが発動していないときに魔力を使用するスキルを使用すると必要MPが増加する
スキルレベルを上げることで色々な恩恵を受けることができる。
【身軽Lv.1】
パッシブスキル
パッシブスキルの為詠唱に関する文献は無い
体を軽くし、立てる足音を減らし、速度値に補正をかける。
イメージは音も無く近づいて頭に銃口を突き付け暗殺する暗殺者。妹と一緒に見た映画を見て一度BDWでやってみたが…2位と一緒だった事に気づいてしまった悲しき産物だ。
説明文には色々書いてあるが、『』に書いてある詠唱に関する文献は、『』に書いてある事に沿った詠唱かそこから想像できる詠唱をする事でスキルを使用することが出来るらしい。恥ずかしい場合は【詠唱短縮】などのスキルか、NPCの魔法使いに習えば良いらしい。
最後に種族、ウィンドウには…
人間
THE・器用貧乏、特に欠点と言った欠点は無いがもっと特化させたほうが私的には便利なのでパス。種族特性もなんか微妙なのでパス。
獣人
物理特化、弱くは無いが嗜好に合わないのでパス。ケモミミと尻尾がキュート。
森人
魔法特化、強いが、強いんだが完全にパーティじゃないとすぐ死にそうな、私とは決定的に噛み合わない。耳が長い、尖った部分を齧りたい。
各種族には種族特性があり、人間の場合は器用貧乏だったりとか、メリットとデメリットが明確に書かれているものがある。それが自分と噛み合うものを探しているがメジャーな物では自分と合うものがない…。
「魔法特化で、機動も、そこそこな種族って、ある?」
一応聞いてみる。そこそこに無茶なことを言っている自信があるけど。悩みだしたアイレは思い出した様に手をたたき。
『私たち…ですかね』
なるほど、でも私身長20センチは嫌だなぁ。私の悩む様子を見て気づいたのかアイレは
『あぁ、なるほど。私たち運営精霊は上位種族の下位女神なのでこの程度ですけど異邦人が選択できる妖精は50センチほどですよ』
と教えてくれた。
身長と物理値は低いですけどねー、と呟いていたがそこまで必要だとは思わないので問題無し。同じように飛べるなら暗殺者プレイもはかどりそうだ。
「それで、決定で、いい、よ」
『分かりました、こちらで決定させて頂きます』
目の前に自分のステータスが出てきた。
名前:トウ
Lv.1
職業:魔術師Lv.1
種族:妖精
種族特性:魔力過敏 妖精の翅
体力:1000 魔力:3000
筋力値:0 防御値:0
魔力値:200 速度値:100
技術値:0 幸運値:0
残STP:0 残SKP:0
使用スキルスロット:【身軽Lv.1】【魔力操作Lv.1】【潜伏Lv.1】【ハンドガンLv.1】
余りスキル:なし
称号:なし
装備
武器
右手:初心者のワンド 左手:
防具
頭:魔術師見習いの帽子
胴体:初心者のローブ
右腕: 左腕:
腰:初心者のズボン
右足:初心者のブーツ右 左足:初心者のブーツ左
アクセサリ:未開放
フェアリーの種族特性は魔力過敏…ふむふむ…自分への魔力系統ダメージが増加する代わりがに自分の魔力を使用するスキルに補正が掛かるようになるそう。
次に妖精の翅、翅を使って飛翔する事が出来る。しかし飛翔には慣れが必要。そりゃあそうか、人体になかったものを動かすなんて、更にそれを使って飛ぶなんて難しいはずだ。
STPがステータスポイントの略ででSKPがスキルポイントでSTPが1レベル上がるたびに百貰えてSKPは一貰えるとアイレに教えてもらった。STPは最初に100ポイントあったが全て魔力値につぎ込んでおいた。
『これでキャラメイクは終了となります。それではガーデニアでの生活をお楽しみください』
その声と同時に選択肢が出てくる。
迷わず了承を押すと同時に視界が、暗転した。




