イツキ会談する
2話で終わりませんでした。
あと1話、お付き合いください。
1098年7月11日夕刻、ハキ神国側の国境にハキ神国の代表だと名乗る一行が現れた。
一行の代表は自分を国務大臣だと名乗り、もう1人は新しいハキ神国軍総司令だと名乗った。2人は警護の5人を連れ、橋の掛かっていない堀の前で対応を待っていた。
「国務大臣、ロームズ辺境伯は本当にこの堀と壁を、3日で造ったのだろうか?」
「総司令、それが真実なら、やはり神の奇跡だとしか思えませんな……」
「これを見ても戦争を強行した、バカの気持ちが理解できんな!」
「総司令、でもお陰でハキ神国軍は再び総司令の手に委ねられました」
「ああ、そういう意味では負けたとはいえ、感謝したいくらいだ」
ハキ神国の代表2人は、そんな遣り取りをしながら、鉄壁の守りを造った領主は、どんな人物なのだろうと早く会ってみたくなった。
「ようこそレガート国ロームズへ。私はレガート国境軍中尉のマーチェンと言います。直ぐに橋を渡しますのでお待ちください」
マーチェンはそう言うと、部下達に橋を掛けさせた。ぎりぎり馬車が通れる橋だったが、見えない裏側には、ポムによって折れないよう補強がしてあった。
ハキ神国の一行はロームズ辺境伯邸に向かう途中、自分の国の兵と思われる者達が、レガート軍の兵と仲良く?作業をしている現場を通り掛かった。
代表2人の乗っていた馬車にはハキ神国の国旗が付けられていたので、馬車に気付いた者達は手を止め、両国の兵が揃って軍礼をとった。その礼儀正しさにも2人は驚く。
領主屋敷に到着した一行を出迎えたのは、ロームズ辺境伯屋敷の家令として準男爵になったオールズだった。
「只今主はカルート国ハビルに出掛けておりまして、晩餐までには戻って参ります。それまで屋敷内にてお休み頂いても構いませんし、ロームズ領内をご案内してもよろしいですが、如何されますでしょうか?」
「それでは屋敷で休ませて貰っても良いだろうか?それと、ゲレント元総司令は何処に居るのでしょうか?」
新しく、いや元々軍総司令だったモックスは、1番気になることを訊ねた。
「まだお会い頂くことは出来ませんが、部屋の近くにはご案内出来ますのでどうぞ」
オールズはそう言うと、宿泊させる部屋に2人を案内し、護衛の5人にはホテルに泊まるよう頼んだ。護衛の5人を案内するのは、ハキ神国軍の指揮官ドーセだった。
荷物を置いて部屋を出てきた国務大臣とモックス総司令を連れ、オールズは2階の壁の前まで2人を連れてきた。ハキ神国の2人は、壁の端にある小さなドアに鍵が掛かっているのを見て緊張する。これは完全に幽閉されているのだと分かると、敗戦の将であれば仕方のないことだと納得するしかない。
「この壁の向こうに部屋が2つあります。そのどちらの部屋にも鍵が掛かっていました。現在の領主様がロームズ辺境伯に成られたのは先月6月21日のことでございます。その前は、ウルファー侯爵が統治官としてこの屋敷の主でございました」
そこから家令オールズの、少し長い話が始まった。オールズはイツキに指示されていた範囲の真実を語っていく。その真意は、ギラ新教徒の行動の異常性や残忍性を知って貰うためだった。
10分くらい話したところで「これはお茶もお出しせず、大変失礼しました。リビングへご案内いたします」とオールズは言って、統治官屋敷の悲劇を話し終えた。
午後6時半、国務大臣と軍総司令はダイニング……ではなく会議室に案内された。
そこには秘書官補佐のフィリップ、学長のハキル、ケガをしたレン中佐が座っていた。
「申し訳ございません。主は帰宅が遅れております。もしもの時は先にお召し上がり頂くよう言われております」
出来る家令オールズは、新しく雇ったメイド2人に食事を運ぶよう指示を出す。
「初めまして、秘書官補佐のフィリップです」とフィリップを先頭に挨拶をしていく。そしてハキ神国側の2人も名乗り挨拶をする。
そこには、戦後処理を話し合うような重々しい空気も、勝った側の高圧的な態度もなかった。まるで隣国の使節団をもて成すが如く、穏やかな雰囲気だった。
「このようにもて成しを受ける立場ではありませんが、遠慮なく頂きます」
国務大臣はそう言うと、ロームズの田舎ではまあまあ豪華な、家庭料理を食べ始めた。雇ったメイドや手伝いは、貴族屋敷の料理など知るわけがなかった。
「それにしても、ロームズ辺境伯というお方は、捕虜にも気を配り、我々にも最高のもて成しをしてくださる。なかなか出来ることではありません」
モックス総司令は食事前の祈りの後で、フィリップに向かってそう言った。
フィリップ、レン、ハキルは、ハキ神国の代表2人が敬虔なブルーノア教の信者であると分かり、笑顔で話し掛けていく。
「まあ、ここの領主は特別でしょう。我々は、ハキ神国軍を敵だとは考えていません。真の敵はギラ新教です。オリ王子がギラ新教徒である限り、無益な戦争は無くならないでしょう。実はここだけの話、レガート国の先の内乱を操ったのは、ギラ新教の大師ドリルという男です」
フィリップは生粋の貴族育ちなので、優雅な所作で食べていたが、話す内容は衝撃的だった。
フィリップの話に驚きの、ハキ神国の2人は顔を見合わせ、とんでもない事実を聞いてしまったと動揺する。
「これからハキ神国は、2人の王子を巡って内乱になるかもしれません。ロームズ辺境伯は、そのことをとても心配しています。かくいう我が国も、そうならないようギラ新教と戦っている最中です」
フィリップはそう言うと、スープが冷めないようにスプーンを握る。
「ギラ新教・・・内乱・・・どうしてロームズ辺境伯はそんな心配をされるのでしょう?」
国務大臣は、他国の王家の内乱を心配をする領主とは、いったい何者なのだろうかと疑念を抱く。誰だってどうして?と思うだろう。
「国務大臣、総司令、はっきり言います!今ランドル大陸はギラ新教の脅威に曝されているのです。奴等は薬草を買い占め値上がりするのを待って、莫大な利益をあげ、貴族や王族を洗脳し、王家の破滅を画策しています。既に国と国とが戦っている場合ではないのです」
フィリップの真摯な話し方で、それが冗談や誤魔化しではないだろうと理解出来るが、ハキ神国は、ギラ新教の動きを全く注視していなかったのだ。
そこからフィリップは、今回ロームズで起こったオリ王子のロームズ乗っ取りの、後ろで手を引いていた大師イルドラの存在を話し、敵を間違えるなと忠告した。
そんな重苦しい空気を破るように、イツキが会議室のドアをノックし「遅くなりました」と言って入室してきた。
国務大臣は、えっ?誰?という顔でイツキを見て、総司令は目をパチパチさせ、イツキの頭の先から足先までをジッと見た。
「あれ?せっかく服を買ったけど……変だったかな?」
イツキは2人の客の視線がおかしいのは、自分の服装が領主らしくないからだと思った。
「いいえ領主様、今日の服装なら……まあ貴族くらいには見えますよ」(ハキル)
「そうですね。領主……っていうのとは少し違うかな?」(フィリップ)
「昨日よりはずっとましです。早くお座りください」(レン中佐)
イツキは3人の意見を聞き「そうなの?」と言って、不服そうに自分の服をチェックする。そして思い出したように、自分の席の前まで行って、改めて自己紹介をした。
「初めまして。キアフ・ルバ・イツキ・ロームズです。どうぞお座りください」
領主に礼をとるため立ち上がった全員に、イツキは笑顔で座るよう言った。
そしてハキ神国側の2人が挨拶すると、イツキは何かを思い出したようでニッコリと笑った。
『これが、この少年?いや青年が領主なのか?』と国務大臣は驚きが隠せず、『本当に?ではこの少年が全ての指示を?』と総司令は判断が出来ない。
「先ずは食事をしましょう。正式な話し合いは食後のお茶でも飲みながらにして、せっかくのご馳走が冷めてしまいます。ああ、お腹が空いた」
イツキはさらりとハキ神国語でそう言った。その後もイツキは、ハキ神国の美しい観光地の話や、ハキ神国の食べ物についての話をしながら、自分は幼少期はハキ神国で育ったのだと暴露した。
食後は療養中のレン中佐は部屋に戻り、フィリップは他に用があると言って席を外した。フィリップはハキ神国語が堪能ではなかった。
イツキは学長のハキルと国務大臣、総司令を伴って、自分の執務室に移動した。
イツキは執務室に入るなり「ご子息クロダさんはお元気ですか?」と尋ねた。
「ロームズ辺境伯様は、何故息子の名をご存じなのでしょう?」
いきなり他国の領主に息子は元気かと問われ、モックスはなんと答えるべきか迷う。
「昨年僕はハキ神国のシバに立ち寄りました。その時知り合いが暴漢に襲われている所に偶然通り掛かり、助けたことがあります。知り合いの名はシュルツと言います。そして助けた3人を、僕は自分が育った本教会に匿いました。その時僕はクロダさんにお会いしたんです」
イツキは意味ありげに微笑むと、お茶をどうぞと、家令オールズの淹れてくれたハーブティーを勧める。
総司令は大切な何かを思い出そうとする。そう言えば昨年ラノス王子が外出中に襲われ、ブルーノア教会に助けられたことを……そして王子の護衛隊長シュルツから、助けてくれたのはロームズで出会った、まだ少年のシーリス見習い様と教会警備隊の方々だったと話していたことを。
その時の話は、国務大臣も一緒に報告を受けていたので、2人は顔を見合わせ慌てて同時に立ち上がると、その場で最上級の礼をとった。
「もしや、ラノス王子をお助けくださった、シ、シ、シーリス見習い様でしょうか?」
国務大臣は声を震わせながら、頭を下げたまま尋ねた。
「あの折りは、王子と息子まで助けていただき、本当にありがとうございました」
総司令モックスは、少し体を震わせながら礼を言う。
いくらハキ神国内に本教会があろうとも、シーリス以上の神父様に御会いできる機会など皆無に等しい。敬虔なブルーノア教信者の2人は動転する。
「イツキ様は見習いなどではありませんよ」と、ついハキルがダメ押しをする。まあリースとバレている訳ではないから良しとするイツキである。
ロームズ辺境伯がシーリス様であるのなら、先程フィリップ秘書官補佐から聞いた話は納得できる。シーリス様なら他国とか関係なく、大陸の安寧を考えていらっしゃるはずだと合点がいく。
「お2人共、礼をお解きください。あの時の犯人を教会で捕らえ調べたところ、オリ王子の側近だと分かりました。そしてその側近はギラ新教徒でした。ギラ新教徒というのは王の命さえ、ギラ神の為なら殺しても構わないと洗脳されています。王を殺すことを厭わない者が、王子を殺すことに何の躊躇いがあるでしょう」
イツキは軽く【銀色のオーラ】を放ちながら、話を進めていく。
礼を解いた2人は、突然の重苦しい空気にふらつきそうになる。なんとか耐えて椅子に座るが、息苦しさは変わらない。そしてシーリス様の方を向いて、それがシーリス様から放たれているのだと分かると、ゴクリと唾を呑み体をカタカタと小さく震わせる。
そんな2人の様子を見て、イツキはフーッと大きな溜め息をついた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
頭の中に新シリーズの構想が湧いてくるのに、なかなか次に進めません。
あれも、これも書いてしまって・・・次でロームズの反乱は完結です。




