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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
番外編 領主の仕事

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イツキ、賠償請求する

ここからは、ロームズの反乱の番外編です。

 7月3日、ロームズの危機が去って1週間、重傷者の経過も良く、ハキ神国軍の軽傷者は、ほぼ回復し元気に働いていた。

 仕事内容は医学大学の建設作業なのだが、資材不足は解消されておらず、専ら学生寮や実習棟を建設する為に、ロームズ辺境伯邸から医学大学までの1キロの区間の、整地や井戸工事を行っていた。


 始めは疑心暗鬼になっていたハキ神国の兵達も、レガート軍の建設部隊と共に働き、同じ食事を与えられ、ロームズ教会の礼拝堂での生活に慣れてくると、ロームズ辺境伯は、本当に自分達をロームズの住民にしようと思ているのではと思えてきた。


「みんなお疲れ!休憩にしてくれ。今日は街の人から差し入れのお菓子を貰ったぞ」


何処の手伝いの少年だ?という格好で、今日も明るく領主様が建設現場にやって来た。


「領主様、お願いですからもう少し領主らしい服装にしてください」

「そうですよ。それに頼みますから馬車で移動してください!」


「えぇーっ!体が鈍るし、服を買うお金が無いんだ。そんなお金があったらスコップを買うよ!」


イツキは文句?を言っている建設部隊の兵士に、超貧乏振りを隠そうともしない。

 まあいつもこんな会話が飛び交うのだが、結局イツキの笑顔で癒され、皆は黙々と仕事をしていく。


「あのー領主様、実は国境近くの林の中を確認してみたのですが、このような物が落ちておりました」


右腕を吊り頭に包帯を巻いた、ハキ神国軍の指揮官ドーセ38歳が、ポケットの中からキラキラ光る、腕輪と首輪のような物を取り出した。


「ドーセ指揮官ケガの具合はどうですか?その後頭の痛みはありませんか?」

「はい大丈夫です。命まで助けていただき、捕虜の我々に過分な心遣い……本当にありがとうございます」


そう応えながら、ドーセは手の中の宝石をイツキに渡す。それは、バカ王子が落とした物であると直ぐに分かった。


 レガート軍に助けられてから今日まで、ドーセも部下達も同じように感じていた。国が変わればこれ程までに軍人の扱われ方が違うのかと。

 しかも、目の前の領主は若くして医師資格を持ち、ハキ神国語も堪能な上、働き者である。どうやら本人も軍の仕事をしているらしく、作戦参謀?と呼ばれている。だからなのか、軍人に対して厳しいこともあるが、理不尽な命令をしたり辛く当たることもない。

 驚いたのが、領主だからと威張ることもなく……寧ろもっと威張るべきだろうとさえ、思ってしまうことがある。


「これはお宝だ!これだけあれば、食料品店や洋品店への支払いが出来る」


宝石など全く縁のないイツキは、薬剤になる石以外興味が無かったので、その価値がさっぱり分からなかった。それに、食料品も衣類もハキ神国軍の捕虜の為に使ったお金が殆どだった。


「いえいえ領主様、それならこの1粒の宝石で賄えます。どうか、ご自分の服をお買いください。その上で、スコップでもなんでもお買いください」


ドーセは宝石の価値を知らない領主に、笑顔で進言する。

 オリ王子とは性格が正反対であり、真逆な生活を送っている若き領主に、敬意や憧れる気持ちさえ持てるドーセは、何故ハキ神国はこうなってしまったのだろうと考える。そして思わず俯いてしまう。


「ドーセ指揮官、ハキ神国のオリ王子は、ギラ新教という世界を破滅へと向かわせる宗教の信者です。彼はギラ新教に操られている操り人形に過ぎません。彼の母や伯父もそうです。しかし、聡明なラノス王子はそうではありません。僕は、ラノス王子が居る限り、ハキ神国に希望はあると思います」


「領主様はラノス王子をご存知なのですか?」


ドーセは驚いた顔でイツキを見る。レガート国の人間が、どうしてラノス王子を知っているのだろうかと、疑問に思い質問する。


「ここだけの話、僕は昨年、大陸中を旅しました。ハキ神国の首都シバに立ち寄った時、偶然暴漢に襲われている男性3人を助けたんです。たまたま1人が知り合いで、元ハキ神国軍のシュルツ少佐でした」


「えっ?ラノス王子の護衛隊長のシュルツ様ですか?」


ドーセは益々混乱する。レガート国の領主が、何故その名を知っているのだろうかと。


「僕は2年前の戦争の時、ここロームズでシュルツ少佐と知り合いました。そして、シュルツ少佐と一緒に居たのがラノス王子でした」


「それでは、ラノス王子が襲われていたのですか?」


またまたドーセは驚き、つい大きな声を上げてしまった。


「犯人はオリ王子の側近でした。僕は教会警備隊の方々と一緒に居たので、犯人は教会が捕らえました。ラノス王子は、常に命を狙われています。ドーセ指揮官、ハキ神国に帰ったら、どうかシュルツ少佐を訪ねてください。ラノス王子を守ることこそ、貴方の次の使命だと思います」


「・・・領主様、貴方はいったい何者なのですか?」

「フフ、それはシュルツ少佐に聴いてください。どうか、ハキ神国を救ってください」


オリ王子に失望し、ハキ神国軍に失望し、生きる目標を無くしかけている目の前の男に、イツキは信用に足る男であると視てお願い……という名の使命を与える。

(後にドーセは、シュルツ少佐を補佐し、ラノス王子を守り抜く親衛隊長になる)


◇  ◇  ◇


 7月3日、レガート国ロームズ領、ロームズ辺境伯から【戦勝関連講和条約案】なるものが、ハキ神国の国務大臣の元に届けられた。

 届けたのは、オリ王子軍の弓部隊の隊長である。


「それでは、我が軍の兵士とゲレント総司令が捕虜になっているのだな?」


「はい国務大臣。投石機は破壊され、我が軍は完敗し、オリ王子は我々を見捨て……失礼しました、身の危険を感じられ撤退されました。始め捕虜の数は90人近く居りましたが、ロームズ辺境伯は40人と総司令が居れば充分だと言われ、街道側から入った精鋭部隊の戦死者の葬儀の後、帰ってこの文章を渡すよう言われ、弓部隊の38人は解放されました」


弓部隊の隊長はずっと頭を下げたまま、状況を説明する。


「それで、捕虜になった者達は大丈夫か?」


「はい、ロームズ辺境伯はケガ人全員の手当てをし、食事もレガート軍の兵士と同じ物を与えてくれ、正直信じられないくらい良くしてくれました」


 国務大臣は隊長の話を聴き、ロームズに領主(辺境伯)が居たことに驚いたが、敵国の捕虜を大切にする領主にはもっと驚き、大いに感銘を受けた。


「後は我々が決める。ご苦労だった。1週間の休暇を与える。部下にも伝えよ」


国務大臣は隊長に労いの言葉を掛け、退出するよう命令した。そしてロームズ辺境伯からの文章を、直ぐにモックス警備隊司令の元へと届ける為部屋を出た。



「大変なことになった……と言うより、大変なことを仕出かしてくれた。今度は勝手に戦争を仕掛け、勝手に負け、それをきちんと釈明もせず、避暑地に逃げるように行ってしまった。バカもここまで来ると害にしか成らない」


モックス警備隊司令はことの顛末を聞き、呆れるというより嫌悪感を露にする。

 国務大臣とモックスは、第2王子ラノス派である。ラノスの母はモックスの妹であり、国王の正室であり国母であり王妃だった。しかし今は、病に倒れた国王に面会すら許されない状況だった。

 全てはオリ王子の母である側室クレシアスが、王との面会を王命として拒否しているからである。


「これは、オリ王子が居ない間に、大臣を召集し結論を出した方が良いだろう。流石のクレシアス様も身内の命は棄てられないだろう」


国務大臣はそう決めると、翌朝大臣と王族と軍関係者を集め、緊急会議を行うと通達を出した。



 7月4日、会議は冒頭から荒れに荒れた。

 今回ばかりは、オリ王子派の者も呆れ果て、賠償は仕方ないと結論が出た。

 しかし、どの案を呑むのか、また、その金は国が出すべきなのか、オリ王子が負担するのか、そもそもオリ王子の責任はどうするのだ!と紛糾する。


「明らかに今回の敗戦は我が国の恥です。ここで賠償金まで払わないと、オリ王子は大陸中の笑いものになるでしょう。運良くレガート国は、今回の戦争はハキ神国の王命ではなく、オリ王子が仕掛けた戦争だと言ってくれています。しかも対戦し勝利したのはレガート国ではなくロームズ辺境伯領だとも言ってくれています」


国務大臣は、金など払う必要がないと言っているオリ王子派の法務大臣に、髪を振り乱しながら懸命に意見する。


「そもそも、オリ王子が仕掛けられた2度の戦争で、我が国の国庫は空に近い状態です。それを知っていて、知っていてオリ王子は戦争を仕掛けられたのですから、オリ王子が支払うべきです!」


財務大臣は勘弁してくれという顔で、法務大臣と側室クレシアスの方を見る。 


「1番大切なのは、皇太子になる予定であるオリの、汚点を作ってはならないことです。国の為に戦った王子に対し、お前達は罪を問うと言うのですか!」


クレシアスは立ち上がり、ヒステリックに叫ぶ。この女からすると、王命でもなく、議会も通していない戦争を勝手に仕掛け、負けた報告さえせず、何処かへ雲隠れしている息子には、なんの責任も無いと思えるらしい。


「「「「・・・・・」」」」


国王の側室とも思えない暴言?言い訳?言い逃れ?に、一同呆れ返る。

 ここで多数決を採れば、間違いなくオリ王子がお金を払うことになるのだが、クレシアスは結論は明日の午後まで待つよう言って、勝手に会議室を出ていった。

 当然クレシアスは、ギラ新教の大師イルドラの指示を仰ぐために、結論を先伸ばししたのである。


 が、しかし、ギラ新教の本部に行っても、「大師様はお忙しいのでお会い出来ません」と断られてしまった。

 クレシアスはどうすれば良いのか分かららず、ロームズ辺境伯が出した【戦勝関連講和条約案】の写しと、このままではオリ王子が支払いをすることになると手紙を書いて、なんとか大師様に渡して貰うよう頼んだ。




 ギラ新教の本部に帰っていた大師イルドラは、イツキの放った鋼の矢以外にも、セブルの放った矢を背中に受けていた。その為、高熱を出して伏せっていたのだ。

 ケガそのものは死に至る程のものではないのだが、フィリップ秘書官補佐に出し抜かれたことへの、怒りや憎しみの感情で熱を出していたのである。


 イルドラに付き添っていたマゴンは、ロームズ辺境伯の出した条約案(賠償請求)とクレシアスからの手紙を、大師のベッドの側で読み上げていた。


 *** 戦勝関連講和条約案 ***


 戦勝側の領主であるロームズ辺境伯は、敗戦側の責任者オリ王子に対し、ハキ神国軍総司令ゲレントと兵士の釈放金、侵略戦争に於いての賠償金の支払いを要求する。


案1) 賠償金 5,000万エバーを支払う

案2) 賠償金 3,000万エバーを支払い、今後5年間の不可侵条約に同意する

案3) 賠償金 2,000万エバーを支払い、今後10年間の不可侵条約に同意する


 以上3案の中から1つを選び、代表者はロームズ辺境伯との会談を申し出ること。

 

 また、今回の戦争は、オリ王子がロームズ辺境伯に仕掛けた戦争であると、レガート国は考えるものである。


 レガート国ロームズ領、ロームズ辺境伯 キアフ・ルバ・ロームズ


 大師イルドラは、初めて聞く領主の名前に聞き覚えがなかった。それよりも、この【戦勝関連講和条約案】を作ったのはフィリップ秘書官補佐だろうと考えていた。

 聞いたこともない領主に、そんな知恵があるとは思えなかったのだ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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