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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
医学大学誕生

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領主イツキ

これまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

ロームズの反乱の本編はこれで完結です。

あと数話、番外編としてロームズの後処理(ハキ神国の賠償金等)の話を投稿します。

外伝にロームズ辺境伯誕生秘話を載せました。

 午後4時、重傷者のケガの手当てを終えたイツキは、動かせる患者を自分の屋敷に搬送するよう指示を出し、学長のハキルと交替で様子を診れる態勢を整えた。

 普通の領主であれば、勝利を祝して宴でもしていそうなものだが、イツキは医師として働かねばならず、ロームズの町は思っていたより勝利に湧いてはいなかった。


 午後になって、街道側から敵が侵入し死傷者が出たことは、町中の者の知るところとなった。住民も軍も警備隊も、領主様は死傷者が出ないことを目標としていたと知っていた。だから、誰よりも領主様が悲しまれていると思い、歓びも大きかったが騒ぐことは出来なかった。

 特に住民達は知っていた。2年前の戦争の時、懸命にケガ人や病人の手当てをし、死者に対しては涙を流し、疫病患者の為に奇跡を起こしてくださった領主様の姿を。


 次々と教会に運ばれてきた死傷者を見て、教会や教会前広場に避難していた住民は驚き、出来ることを見付けては手伝った。もしやロームズは負けているのかと不安になったが、その後届いたロームズ圧勝の知らせに安堵した。

 運ばれてきたのは街道側の兵士達だと分かり、死者を出しながらも街道側も勝利したのだと知ると、死者に感謝し皆は祈りを捧げた。

 レガート国側の死者の葬儀は明日の午前、ハキ神国側の死者は午後から教会で葬儀をすると、ファリス(高位神父)のシーバス様から告げられた。

 教会の葬儀はレガート軍や警備隊で行うので、住民達は教会ではなく、午後5時に墓地に集まるよう指示された。


 イツキは休む間も無く、山に薬草採取に出掛けた。

 多くの者が一緒に探しますと申し出たが、イツキは笑顔で宴会の準備をお願いしますと言って、ドグ、ガルロ、ハモンド、シルビアの4人を連れて山に向かった。

 捕虜のことや後処理は、フィリップ、シュノー、フジヤに全て任せた。


 

 領主自らが薬草採取に出掛けると知ったレガート軍の一部の者が、敵兵の為にそこまでする必要はないのではと意見したが、「捕虜の皆さんは、明日のロームズの労働力になるのです」と言って、全く聞く耳を持たなかった。

 教会前広場に集められていたハキ神国軍の捕虜達は、そのやり取りを聞き、益々混乱していた。


「あれが、まさかあの少年が領主なのか?」

「医師の見習いではないのか」

「いや、確かに医学大学の前で、領主として勝利宣言をしていたぞ」

「何故敵兵の我々のケガの手当てをし、疲れているのに薬草採取に山に行くんだ?」


そう口々に理解できないと話していると、元町長のドーレンが捕虜の前に立ち言った。


「あれが神に愛された町の領主様だ。ハキ神国のバカ王子とは人間の格が違う。自ら戦争の指揮を執り、医者としてケガ人を治療し、敵兵にも思いやる心を持っておられる……わしらロームズの領民は、何時でも領主様の為に死ねるが、領主様は命を捨てることはお許しにならないお方だ」


「そうだみんな!俺は2年前にハキ神国から見捨てられ、ロームズの住民になった元ハキ神国軍の兵士だが、2年前にもロームズの住民達は、憎い敵である俺達を許し、共にロームズを復興させよと言われた神父様に従い、住民として受け入れてくれた。お前達もどうだ?もしもハキ神国が賠償金を払わなかったら、いや、払ったとしても、ロームズで暮らさないか?あのバカ王子に従うのか?」


ドーレンに続き捕虜の前に立ったのは、元ハキ神国軍の兵だった。

 捕虜達は益々混乱するが、先発隊の20人は少し涙を浮かべていた。戦争が終わったらクビだと、オリ王子から言われていたのだ。





 山に来たイツキ達は、主に捻挫や打ち身の治療に使う湿布の為の薬草を採取する。捕虜になったハキ神国軍の者は、壁から落ちて捻挫や打ち身の患者が多かった。

 イツキとシルビアは見本の薬草を皆に渡し、バラバラになって薬草を探した。シルビアにはドグが護衛でついている。


 1人になったイツキは、熱冷ましの薬草を見付けて微笑むと、せっせと袋の中に詰めていく。が、途中から上手く薬草が摘めなくなった。


『あれ?どうしたんだろう……』と思っていると、ポタポタと何かが自分の手や薬草の上に落ちてきた。

 それが涙だと分かると「ダメだ泣くな!」と自分に言い聞かせるように独り呟くが、涙は止まらない。

『ダメだ!ダメだ!』と心の中で叫ぶが、今度は思わず嗚咽しそうになる。右手で涙を拭き、すすっている鼻を止めようと努力する……

 イツキは慌てて土手を下りて谷に向かう。そこには沢山薬草が有ったはずだからと急ぐと、足を滑らせ5メートル程下にずり落ちてしまった。


「イタタ・・・なんだか痛いや・・・」と言って、声を殺して泣き出した。


『守れなくてご免なさい。僕の力不足で殺してしまった。神様、どうか私に罰をお与えください』


 イツキは泣きながら贖罪の祈りを捧げ始める。

 その声は小さいが、イツキの透き通る声は谷に響いて、薬草採取をしていた皆の耳にも届いた。時々詰まりながら、時々声は震えている。

 4人はそんなイツキの悲痛な祈りを聞き、痛いほどイツキの悲しみが理解できた。慰めてやりたい抱き締めてやりたい……でも、イツキはそれを決して望まないと4人は知っている。だから、何も聞かなかった振りをすることしか出来ない。4人は同じように自分の頬を流れる涙を拭いた。




 午後6時、ロームズ役場前の広場で、イツキは住民に向かって改めて勝利宣言をした。そして勝利は皆の働きで勝ち取ったのだと労い賞賛した。これからも、決して他国に侵略されることの無いよう、強いロームズを目指し、共に戦ってゆこうと誓いあった。


 イツキは住民達と酒を酌み交わし(イツキは口を付ける程度)、笑顔で祝宴に参加していたが、「なんだか酔いが回ったようです」と元町長のドーレンに告げて、20分くらいで領主屋敷に引き上げた。



「レン中佐、痛みは有りますか?痛みが酷ければ薬を出しますよ」

「作戦参謀、いえ領主様、大丈夫です。俺は丈夫に出来てますから」


イツキは屋敷に移した重傷の兵4人を診察して、レン中佐の部屋でハキル学長とこれからのことを話し合っていた。


 午後8時になり、いつもの責任者達が、屋敷の会議室に集まってきた。

 冒頭イツキは、今日の戦争の労をねぎらい礼を言った。そして、自分の力不足を改めて詫びた。


「領主様、貴方は領主としての自覚が足りません。死者が出たのは誰の責任でもありません。戦争で死者が出るのは当然のことです。それに、領主に頭を下げられては、我々は土下座するしかありません。領主の期待に応えられなかった我々は、どう責任を取ればいいのでしょう?」


ヤマギ副隊長は困った顔をしてイツキに問う。そして全員が立ち上がり、本当に土下座しようとする。当然イツキは慌てて「やめてください!」と言って止めた。


「イツキ君、君が謝るということは、こういうことだ。皆は君を信じて従った。そして勝った。それが全てだ」


フィリップは、領主としてもっと自信を持って欲しいと願い厳しいことを言う。皆もフィリップの言葉に賛同し大きく頷く。そして姿勢を正し全員が礼をとる。


「「「領主様、戦勝おめでとうございます!」」」

「「「我らを勝利に御導きくださり、ありがとうございます!」」」


領主であるイツキに敬意を持って、皆が頭を下げる。

 イツキは初めて自分の態度が、皆を責めることになっていたのだと気付いた。そして勝ったのだと、本当に勝ったのだと、やっと思うことが出来た。


「ありがとう、皆の働きのお陰です」


イツキは微笑み、心から良かったと思い皆の顔を1人ずつ見ていく。


「領主様、本来ならここで祝盃をあげます。領主自ら臣下に酒を注ぎ、真の臣下と認めた証として、家紋入りのグラスを下します」


そう進言したのは、王族として育ったハキル学長だった。まあ、イツキが貴族のしきたりを知っているはずがないし、領主として臣下への褒美の下し方も知らないのは、皆が分かっていたので「ハハハ」と笑って許してくれた。


「ああそうだ!侯爵家以上は剣の絵が入った家紋だが、伯爵家以上はグラスの絵が入った家紋になる。新しく伯爵になった時、家紋を考えるが大変だった」


シュノー部長は最近伯爵になったので、その時の苦労を思い出し溜め息をついた。


「でもイツキ君は、領主の侯爵家と同等位の辺境伯だ。この場合どうなんだろう?」


一応自分も伯爵であり、生まれた時から伯爵家で育ったフィリップは、う~んと言いながら考える。


「いっそのこと、左に剣、右にグラスで如何でしょうか?だって、辺境伯ってイツキ様だけですし、誰にでも直ぐに分かって頂けると思います」


「おいおいオールズ。流石侯爵家で仕えてきただけのことはあるな!」


ヤマギ副隊長は、オールズの顔をまじまじと見ながら褒め、その意見に賛成する。


「うん、それはいい!イツキ君、失礼、領主様、早く家紋入りのグラスを作って私にください。家宝にしますから」


警備隊隊長のゴウテスが、大真面目な顔でお願いする。すると俺も俺もと皆がイツキに催促する。


「えぇーっ、早くポム弾をドゴルで売って貰わないと、僕はお金を持っていません」


真面目な顔でイツキがそう言ったので、皆は大声で笑った。そしてイツキが笑顔になったのが嬉しくて、皆は心から良かったと思うのだった。




 6月27日午前10時、国境軍の見張りと当番の警備隊以外は、軍も警備隊も事務方も今日1日休みになり、ほぼ全員がロームズ教会に集合していた。

 最前列にはフィリップ、シュノー、フジヤ、ゴウテス、ハキル、医師のソデブが座り、後ろには階級順に他の者達が座って、ファリスのシーバス様を待っていた。


「みなさん。本来ならファリス(高位神父)である私が祈りを捧げるところですが、本日は特別に本教会の神父様が祈りを捧げてくださいます。しかし、そのことは決して他言してはなりません。いいですか、絶対に言わないように。そうでないと、神父様はギラ新教に命を狙われることになります」


シーバス様はそう言うと、ギルバート神父と共に祭壇の横に控えた。

 本来なら祈りの前に喪主である領主が、代表で神父様に挨拶するところなのだが、何故かそこに領主の姿はなく、誰も姿を見ていなかった。

 数分後、礼拝堂の祭壇横の扉が開き、見たこともない青い神服を着た神父様が入場してこられた。青い神服には2枚の肩幅大の濃い青の布が、肩から前後裾まで縫い付けられており、その濃い青い布には見たこともない文字が、銀糸で刺繍されキラキラと美しく輝いていた。

 神父様が祭壇の前に立つと、ファリス(高位神父)であるシーバス様と、モーリス(中位神父)であるギルバート神父が、何故かひざまずかれ深く頭を下げられた。



 礼拝堂内に居た者は、その神父様の神々しい顔を見て、思わず息を呑んだ。

 驚きながら『作戦参謀?』『領主様?』『領主様が何故?』『あの神服はなんだ?』と首を捻る。

 イツキは何も語らず、静かに神父としての仕事を始め聖杯を持ち上げた。


「これからロームズの民の為に勇敢に戦い、責務を全うし亡くなった3人の兵士の霊(たましい)を、神の元へ送るため【死者に捧げる祈り】を捧げます。みな起立し軍礼をとりなさい」 


 イツキは祭壇の前に安置された3人の遺体に深く頭を下げると、祈りを捧げ始める。

 3人のこれまでの人生の物語を綴りながら、未来を夢見る若き兵士の死を、我々は決して忘れないと誓うように、祈りの言葉は紡がれていく。

 5分後、礼拝堂内の全ての人間が泣いていた。悲しみの涙。浄化の涙。そして忘れないと誓う涙が流れていく。

 イツキの透き通る声は、祈りの言葉と共に深く心に刻まれることとなる。


 イツキの正体が何者なのか、以後誰も尋ねず、また誰も青い神服を着た神父様のことを、話すこともなかった。



 こうしてロームズの危機は完全に去り、ロームズに来ていた中隊90人と、交替して本国に帰る者達は、帰国する日を迎えた。

 このままロームズで働きたいと願い出る者が続出したが、ロームズ領の準男爵として、防衛費や軍との交渉を任されたグライスが、ニッコリと笑って(瞳は笑ってなどいない)言った。


「ロームズの防衛費の半分は、領主様が負担せねばなりません。皆さん分かりますよね!」と。



「それではシュノーさん、ヤマギ副隊長、フジヤ少佐、サイシス達の護送をお願いします。僕とフィリップさんとハモンドとレクスはもう少し残ります。ええっ?ドグさんとガルロさんも残る?・・・と言うことなので、よろしくお願いします」


「「「任せろ!」」」


3人は笑顔でそう言うと、ロームズに残る者達と、見送ってくれる住民達に向かって手を振った。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

6月中に【シリーズ6 疾走の時】(仮)か、【キシ公爵とカイの鬼姫】(仮)を掲載開始します。

これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

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