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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
医学大学誕生

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戦いの行方

 午前8時、総勢220人+オリ王子とゲレント総司令は、ロームズの国境に姿を現した。

 予定より遅れたのは、堀に渡す橋を作っていたからだ。

 大型投石機を先頭に、20人一組、11隊に分けられた兵士がずらりと並んでいた。


「お前達!ここがレガート国と知って武装侵入しようとしているのか!」


堀の内側、新たに出来た壁と壁との間の15メートルに作ったバリケードの前に1人で立ち、イツキが作った即席拡声器を使い、国境軍のヤマギ副隊長は叫んだ。


「我が名はハキ神国軍総司令ゲレントだ!ハキ神国軍はオリ王子様の屋敷を取り返しに来た。抵抗するなら武力で制圧し、ロームズをハキ神国のものとする!」


ゲレントは投石機の隣に立ち、堂々とハキ神国軍だと名乗り、目的をオリ王子の屋敷の奪還だと告げた。


「これは笑止。ここはレガート国だ。レガート国にハキ神国の王子の屋敷が在る訳がない。その様な言い掛かりで戦争を仕掛けよと命じたのは、ハキ神国王か?」


ヤマギははっきりとした、少しだけバカにした口調で問う。


「・・・わ、我々はオリ王子の命でここに来た。死にたくなければ道を開けろ!これは戦争だ!」


「王命ではなく、オリ王子がレガート国に戦争を仕掛けたということだな!だが、そんな王子は何処にも居ないではないか?王子の名を語る反乱者ではないのか?」


ヤマギは確認するように、わざとオリ王子の名を出しバカ王子の面を拝もうと挑発する。


「黙れ!我こそはハキ神国皇太子オリである。レガート軍は直ちに降参しろ!さもなくば、ロームズは血の海になるぞ!」


戦争だというのに華美な服を着て、じゃらじゃら装飾品まで身に付けた、小太……かなり太った男が2台目の投石機の隣に姿を現した。

 兵士達は『あれ?』と首を捻った。いつオリ王子が皇太子に決まったのだろうかと。


「正当な理由もなく戦争を仕掛けるハキ神国軍の行為は、侵略行為である!レガート国が勝った場合賠償請求するがいいか!?」


「お前はバカかぁ!ハキ神国軍が負ける訳がない。レガート国こそ住民を皆殺しにされても文句を言うなよ!」


オリ王子が大声で叫んだのを合図に、ヤマギは後方に急いで撤退する。

 オリ王子もゲレント総司令も、レガート軍の男は恐れをなして逃げ出したと思った。


「よし橋を架けろ!作戦通り先発隊の20人と斥候部隊の20人は、1キロ先から堀を渡り壁を越えろ!突入部隊はバリケードを退けろ!俺の屋敷は国境の近くに在る。抵抗する兵士は全て殺せ。突撃せよ!」


オリ王子は思った。堀や壁など何の役にも立たないではないかと。そして勝ちを確信し、用心もせず突撃せよと命じた。

 橋を架け突入部隊20人が堀を越えた。そして廃材や石を混ぜたバリケードを撤去しようとする。高さ1メートルのバリケードを撤去すると、その直ぐ先には高さ2メートルに切り揃えられ縦に割った竹が、前面と左側面に各々15メートルの幅で地面に突き立てられていた。

 始めのバリケードが外されたので、オリ王子は橋の上を慎重に投石機を渡していく。

 突入部隊の2人は、力を合わせて突き立てられた竹の壁を1枚引き抜いた。

「「 !! 」」

引き抜いた場所から、その先の光景を覗いた2人は、慌てて開けた隙間から移動し大声で叫んだ。


「待ち伏せだ!この先にレガート軍10人余りが弓を構えて待っている!」


突入部隊のリーダーは、直ぐに竹を引き抜くのを止めるように命令する。


「何をしている!待ち伏せを恐れていては、投石機が持ち込めない。弓部隊は竹の壁の先に向けて矢を射ろ!」


ゲレント総司令は大声で叫び自分は後ろに下がりながら、控えていた弓部隊に命令する。弓部隊40人は直ぐに前に出て見えない敵に向けて矢を一斉に射る。

 ヒュン、ヒュンと音をたてながら、40の矢が飛んでいく。するとその竹の壁の先から「矢だ、気を付けろ」「逃げろ!」「ワーッ!助けてくれ」と叫び声が聞こえてきた。


「よし、逃げ惑う敵にもう1度弓部隊は矢を射ろ!」


敵が慌てて逃げ惑っているらしい声を聞き、ゲレント総司令は再度命令した。さすが私の作戦に抜かりはないと、ニヤリと右口角と左の眉を上げる。


「ぎゃー助けてくれ!」「引け、早く引くんだ!」と再び声が聞こえた。レガート軍から飛んできたのは、たった5本の矢だけで負傷者は無しだった。


 2分後、突入部隊のリーダーが恐る恐る隙間から先の光景を覗くと、そこには誰も居なかった。念のため左の壁側にも弓部隊は矢を射た。しかし声が聞こえなかったので、ゲレント総司令は誰も居ないのだろうと判断し、あり得ないが確認させなかった。壁の向こうから攻撃されるとは考えない残念な総司令だった。

 リーダーは右手を上げ前進せよと合図する。そして20人の突入部隊は、急いで進行方向の竹の壁を抜いていく。


 竹壁を外した先には誰も居なかったが、左側の竹壁の先には、人質になっていた国境軍コート大尉率いる、ロームズ自警団の竹槍部隊20人と弓部隊20人が居た。勿論敵の矢が届く範囲より離れた安全な場所に。



 突入部隊20人を先頭に、弓部隊40人、オリ王子とゲレント総司令、投石機部隊20人、投石機2基、投石機用の大きな石を運ぶ輸送部隊20人が堀を渡り侵入してくる。

 輸送部隊が堀を渡り終え少し進んだところで、それは突然起こった。


 堀の後ろにある3メートルの土壁から上半身を出したレガート軍の弓部隊が、堀を渡ろうとしていた残り80人のハキ神国軍に向けて、レガート式ボーガンで一斉攻撃を仕掛けたのだ。

 そして堀を渡り終えた輸送部隊には、左側の竹の壁の向こうから、竹槍が降り注いできた。


 レガート軍の弓部隊から突然攻撃を受けた80人は、急いで後方に下がる。負傷者が10人程度なのは、出来るだけ殺すなとフィリップ秘書官補佐から命令されていたからである。

 竹槍が降ってきた輸送部隊の負傷者は5人程度だが、荷車2台の内1台の回りには竹槍が地面に散らばっている上、またいつ何時(なんどき)竹槍が降ってくるか分からないので動かすことが出来ない。慌てて弓部隊が竹壁の向こうに矢を射るが、やはり声ひとつ聞こえない。


 自警団の竹槍部隊は、投げたら直ぐに撤退するよう指示を受けていたので、弓が当たるはずがなかった。

 それどころかハキ神国軍が放った矢を、用心のために竹で作った盾をかざしながら、せっせと回収し弓部隊に届けていく。

 勿論、初めに進行方向へ向けて放たれた矢80本も、安全な場所から「ギャーッ」とか「助けてくれー」と叫びながら、数人が盾をかざしながら回収させていただいた。


 見えない場所からの攻撃は、ハキ神国軍の兵に恐怖感を与えた。

 オリ王子は堀を渡った100人に、急いで前進するよう命令する。前方に敵の姿は無かったからだ。

 そしてあろうことか、オリ王子の一行100人が150メートル進んだ所で、前衛部隊隊長フジヤと隊員が4人現れ、堀に架けた橋をあっさりと外していく。それに気付いたハキ神国兵が慌てて矢を射ろとするが、後退していたので矢は届かなかった。前進して矢を構えると、レガート国側の壁から逆に矢が降り注いだ。


 ハキ神国軍の矢と、レガート軍のレガート式ボーガンでは、飛距離が5メートル以上違う。その為、ハキ神国軍側は壁に向かって矢を仕掛けては来なかった。

 昨年の戦争の時、ハキ神国軍が直接ロームズを攻めることが出来なかった理由が、優秀なレガート式ボーガン部隊を、レガート軍は200人揃えていたからだった。その時ハキ神国軍は、弓の飛距離の差を思い知らされていた。



◇  ◇  ◇


「作戦参謀、全て順調ですね。そろそろ投石機を準備します」

「ヤマギ副隊長、完膚無きまでにハキ神国軍の投石機を破壊してください」

「承知しました。お任せください」


ヤマギ副隊長はニヤリと笑い軽く頭を下げると、丘の下部に設置した大型のキアフ1号に向かうため走り去った。

 これまでの指示は全て、国境近くの丘の中腹に在る公園から出されていた。

 行け・待て・射(う)て・退避など、全て決まった色の旗で合図を送り、現場のリーダーはそれを見て指揮していたのだ。勿論、指示を出していたのはイツキである。隣で旗を振っていたのは、ロームズ国境軍に居たマーチェン中尉とセドレ少尉の2人で、何度も練習を重ねてきた。


「予想通り、渡れなかった80人が移動を開始した。始めから堀を渡り壁から侵入しようとしていた40人が、そろそろ侵入を開始する頃だ。青い旗を振れ」


「はい作戦参謀!」


マーチェンは一際大きな青い旗を振り始めた。その旗が振られたのを見た中継地点(500メートル)に居たガルロは、その先の中継点の方に向かって旗を振った。

 そして自分が担当している自警団のポム弾部隊80人と竹槍部隊10人に、手を上げて戦闘準備の合図を送った。

 

 ガルロの旗を確認したドグは、自警団のポム弾部隊70人と竹槍部隊10人に、竹垣を盾にして前進せよと合図の笛を吹いた。そしてドグは見張り台に上がり、壁の向こうの様子をこっそり確認する。

 敵は直ぐ近くから200メートル先までに散らばっていたので、ドグは振り返り右手でもう少し先まで散らばるよう合図した。



 壁の向こうに側(ハキ神国側)に居た先発隊20人と斥候部隊の20人は、嫌々ながらも指示に従い、梯子の代用として作った細い丸太2本を束ね足場として段を付けた物を橋として使い、順番に堀を渡っていく。堀と壁の間はおよそ50センチ……なんとかギリギリ梯子の代用である丸太を立て掛けた。

 慎重に梯子を登り、用心深く顔を覗けて、壁の向こう側の様子を観る。見えたのは5メートル幅の無数の竹垣だった。その竹垣は15メートルくらい先にきちんと並べて置いてあった。『はて?あれはなんだ?』と疑問に思ったが、潜入しない訳にもゆかず1人ずつ順次壁の上に登った。

 全員が登り終わり梯子を引き上げ、反対側に立て掛けたと思った瞬間、「今だ撃て!」と言うドグの声が響き、竹垣から一斉に人が立ち上がり、見たこともない武器で攻撃され始めた。


「痛い!何だこれは!」「痛っ、石だ!小石が飛んでくる」「ウワー!」と悲鳴や叫び声を上げながら、《ドサッ》とレガート国側に落ちる者、《ドボン》と堀に落ちる者、壁の上に伏せて難を逃れようとする者、完全に潜入は失敗である。

 結局堀に落ちた4名を除き、先発隊と斥候部隊の36人は捕虜として捕らえられた。



 それから20分後、ガルロの指揮する地点では、取り残された80人が壁を越えようと果敢に挑戦していた。

 梯子擬(もど)きもなく、深さ・幅3メートルの堀に入り、雨に濡れ滑り易い壁をよじ登ろうとして堀に落ち、登れた者も体が半分壁の上に出た瞬間、ポム弾の容赦ない攻撃に曝され、結局堀に落ちる。

 時々飛んでくる竹槍は恐怖以外の何物でもなく、大ケガはしないまでも疲労困憊で撤退するしかなかった。

 この現場の捕虜は4人だけだった。 




◇  ◇  ◇


 同じ頃オリ王子は、レガート軍が丘に投石機を設置していると、大師イルドラとマゴンから聞いていたので、丘の150メートル手前で投石機の準備をしていた。

 レガート軍の投石機の射程が70メートルであるとの情報を信じて、自国の投石機の射程100メートル付近で攻撃すべく、慎重に間合いを確認しながら試しに1撃、丘目掛けて撃ってみる。


〈〈ドーン!〉〉と大きな音をたて、石球は丘の50メートル手前に落ちた。


「狙い通りだ。誰か敵の投石機の場所を確認してこい!」


ご満悦の表情で石球の落下地点を見ながら、オリ王子は部下に無情な命令を下す。


「オリ王子、それは危険過ぎます。必ずレガート軍は万全の配置をしているはずです。死にに行くのも同然です」


指揮官のドーセは、考え無しのオリの命令に背くように意見した。


「指揮官風情が偉そうに……俺様に意見をする気か!指揮官など要らぬからお前が行ってこい!」


オリ王子は嫌いなドーセに無謀な命令をする。兵士達は不安顔ですがるようにドーセを見る。唯一頼れる上官なのだ。こんな所で死なれては最悪の想像しか出来ない。


「大丈夫だ!まだレガート軍は本隊が来ていない。投石機だって準備しているかどうかも分からない」


ゲレント総司令は、投石機の威力に自信を持ち、オリ王子の指示に従いドーセと突入部隊の4人を偵察に行くよう命じた。

 大変危険だと分かっているがドーセは覚悟を決め、独身の部下4人を選ぶと、残る部下に「命を大事にしろ!」と言い残し走り出した。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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