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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
医学大学誕生

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決戦前夜(5)

◇◇ ハキ神国軍 ◇◇


 1098年6月23日午前6時、ロームズとの国境近くにテントを張っていたハキ神国軍20人は、突然出来上がっていた堀と壁を見て、驚愕のあまり全員が言葉を失った。

 昨日の夕方まで無かった物が、突然現れる……しかも巨大建造物がである。


「隊長、あれから(マゴンがロームズの町から逃げて来てから)サイシスも来ませんし、マゴンも戻ってきません。もう1人の男もロームズに潜入してから、連絡さえ寄越しません。我々は撤退すべきでは?」


「そうです。あれは、あの堀と壁は人の力では造れない物です。2年前の1度目の戦争の時、ロームズに残された友人のハキ神国兵から聞いたのですが、ロームズでは奇跡が3度起こり、神の使いが現れ疫病から救ってくれたとか……結局国(ハキ神国)から見捨てられた兵の内、20人はロームズの住民になって、幸せに暮らしています……なんでも……神に愛された特別な町だからだと……」


「・・・・・」


 19日から今日まで、何をする訳でもなく無駄に時間を過ごしてきた20人である。

 とても国王様が命令したとも思えない出兵命令で、他国であるロームズに侵攻しようとしているのだ。不安も大きいが怒りもある。勝手な思い付きで戦争をしようとする、バカ王子に対してである。


 弱小カルート国が相手であれば楽勝かもしれない。しかし、ロームズは大国レガート国の領地なのだ。

 ちょっと戦う……という簡単な戦争で終わるはずがない。そもそも昨年のカルート国との戦争で、レガート国に出し抜かれ、魔獣に襲われ(脅されただけ)、400人もの兵を失ったばかりだ。それもこれも、全てバカ王子のせいだ!考えれば考える程、怒りの感情が湧き上がってくる。


 ハキ神国軍の兵士にとって、ロームズは鬼門中の鬼門と呼ばれ、縁起の悪い場所と呼ばれている。

 そもそも【神の怒り病】なる疫病が発生している。全てはハキ神国軍が招いた疫病なのだが、兵士に死人が出ていないので、国はその事実を公表していない。

 2度目の戦争の時(昨年)も、ハビルだけ奪えばいいのにロームズまで奪おうとして、結局ハビルは奪い返され、空飛ぶ伝説の魔獣を怒らせ、ロームズは手に入らなかった。


「なんでロームズなんだ?こんな田舎の町を手に入れる必要なんて無いだろう」

「レガート国に勝ったという実績が欲しいんだ。バカ王子は、第2王子のラノス様に王座を渡したくないのさ!」

「俺、バカ王子が国王になったら、軍を辞めて他国に住みたいな」

「ああ俺もだ。その時はレガート国であるロームズがいいな。友達も居るし」

「そうだな……レガート王は、国民も兵士も大事にしてくれそうだ」


20人はそんな愚痴をこぼしながら、レガート国のロームズと戦争などしたくないと、強く思うのだった。


 だって、神に愛された町を攻めるなんて、絶対に罰が当たるに決まっている。



◇ ◇ ◇


 6月24日正午、まだ目覚めないイツキの様子を見に、フィリップは領主屋敷(イツキ辺境伯邸)に来ていた。

 他にも心配性の教え子ハモンドとレクス、ファリス(高位神父)のシーバス様、ソデブ医師、看護師のリーズも一緒である。


「本当に無茶をしおる。ギルバート神父は目覚めたのに、肝心のイツキ君が目覚めぬでは、どうにもならんではないか!」


ソデブ医師はブツブツ文句を言いながら、イツキの診察をしていく。

 昔から(赤ん坊の時から)何事にも全力投球するイツキを見てきたから、性格なのだと分かってはいるのだが、自分を含めて誰も止められない現実に、フーッと特大の息を吐きながら脈をとる。


「如何ですかソデブ医師(せんせい)?顔色は良くなってきたように見えますが?」

「そうですなフィリップ様、夜までには目覚められるでしょう」


フィリップの問い掛けに、ソデブ医師は明るく答えた。

 フィリップから「自分はイツキ様を守る役目を神より授かりました」と聞いてから、ソデブ医師もリーズもシルビアも、フィリップのことをフィリップ様と呼んでいる。

 ファリス(高位神父)のシーバス様を始めとする教会関係者は、フィリップをイツキの、リース(聖人)様の従者様だと解釈している。

 開祖ブルーノア様にも従者がいたという話は、教会関係者なら誰でも知っている。その従者の1人が初代レガート国王であることも。イツキは【予言の子】である。従者が居るのは当然のことだろうと、皆は考えている。


「シーバス様、リーバ(天聖)様はイツキ様の領主をお許しになるでしょうか?」

「それはどうだろう……だが、イツキ様がやると仰れば、それがイツキ様の意思なら、お許しになるのではないだろうか……ブルーノア教会は、イツキ様を守るため最大限の努力をするだろう。よってロームズも守ることになる」


フィリップは眠るイツキの手をそっと握りながら、シーバス様に質問する。シーバス様は難しい顔をしながらも、教会はイツキ様とロームズを守るだろうと言われた。


 イツキ様であればこのロームズを、大陸一の学都にされるだろうとシーバスは確信出来る。きっと本教会はロームズ辺境伯邸の警備に、最強警備隊を送るだろうし、ロームズ教会の神父もモーリス(中位神父)以上を配置されるだろう。出来るものなら私が願い出たいところだ……自分もイツキ様のお側で、何か役に立ちたいと願うシーバスだった。




 午後1時、ロームズ役場と町中の掲示板に、ロームズの領主様誕生!という告示が張り出された。

 明日25日の演習訓練の前に、領主様が挨拶をされるので、全住民は役場前広場か、レガート国立医学大学前の広場に集合すること。演習には領主様も参加されると書かれていた。

 告示の中段に、レガート国立医学大学の説明文が記入されており、あの、あの屋敷が医学大学になると知った住民達は、掲示板の前で歓喜し抱き合って喜んだ。


 レガート王はよく頑張りよく耐えた住民に、素晴らしい褒美を用意されていますと、神母キア様が仰っていたことを住民達は思い出した。これだったのだ!王様からの褒美とは……と気付いた住民達は、キラキラと眩しいキア様の笑顔を思い出し、「ありがとうございます」と呟きながら、そっと胸の前で手を組んだ。


 どんな領主様なのだろう?若いのかな、年配なのかな?優しい御方だろうか?熱心なブルーノア教の信者ならいいなぁと、掲示板の前であれこれ話しが弾んだ。

 殆どの住民は、告示文の一番下に書かれていた、領主様からのお知らせという箇所に【 ロームズに中級学校を建てる予定 】という文章を読み、医学大学に中級学校まで建てる領主様は、きっと教育熱心な領主様なのだろうと思った。ロームズには初級学校しかなかったので、子供を持つ親達はたいそう喜んだ。



 告示文の内容は、22日の責任者会議の時に、イツキが事務官オールズ、グライス、学長のハキルと話し合って決めたものだった。

 イツキが眠っている間に、ロームズ辺境伯の誕生は、住民達から概ね受け入れられたようだった。

 イツキが率いて来た、ドグ、ガルロ、レクス、ハモンド、そして事務官の2人とハキル学長の計7人は、告示を読んだ住民達の様子をこっそりと観ていて、ホッと胸を撫で下ろしたのである。





 午後7時、いつものように責任者会議がロームズ辺境伯邸の会議室で行われた。

 イツキはややふらつくので、フィリップに支えられながらの登場となり全員に心配されたが、椅子に座ったイツキが「さあ、会議を始めましょう」と笑顔で言ったので、皆はそれ以上何も言わず会議を始めた。



 実はこれより30分前、いつもより早く責任者会議は行われていた。

 イツキのことをよく知らない事務官のグライスとオールズが、30分早く会議の開始を願い出て、その冒頭、2年前に何があったのか教えて欲しいと頼んだ。

 フィリップ、ガルロ、町長以外は、2年前の疫病騒動とイツキの起こした奇跡について、何も知らなかった。しかし、それを話すことは、イツキから禁じられていたし、町長や住民達は、2年前の騒動(ハキ神国のロームズ侵攻)の後にやって来た、当時ファリスだったハビテから、奇跡の内容を絶対に喋ってはいけないと固く禁じられていた。


 フィリップは暫く考えた。

 奇跡の世代であるシュノー、レン中佐、フジヤ少佐、ヤマギ副隊長は、イツキが特別な神父様だと知っている。何があったのか説明しなくても、何となく理解しているだろう。しかし、警備隊隊長のゴウテス、事務官のグライスとオールズはイツキの教会での立場を知らない。ハキル様は王様からの説明を受けている様子だった。


「私は、イツキ君が、いえイツキ様がキア様であると確信しています。キア様を信じていた私はイツキ様も信じたいのです。キア様は王様から依頼され、ロームズを救う為にブルーノア教会から来たと仰っていました。私はキア様の祈りを聞き奇跡も体験しました。ですから、イツキ様も教会の方だと思っていました。ですが、治安部隊の指揮官補佐であったり、上級学校の学生であったり、当たり前のように作戦参謀とし受け入れていらっしゃる皆さんの態度が、不思議でなりません。そして領主就任です。私は混乱しています」


「グライスさん。やはりそうなんですね!イツキ様はキア様なのですね?」


グライスの話に、自分もそうではないかと思っていたオールズは、立ち上がり叫んだ。


「イツキ君は元々ブルーノア教会から、レガート軍が預かった……いや、イツキ君はリーバ(天聖)様の命令で、9歳の時に軍学校の研究者として働き始めた。2年前のハキ神国軍のカルート侵攻の時、イツキ君をロームズに向かうよう頼んだのはキシ公爵だった。それとは別に、イツキ君はリーバ様から、戦争を終わらせてこいと命令を受けていた。俺を含む別動隊8人は、教会の一行としてロームズに潜入し、そして戦争を終わらせた。その方法は、ブルーノア教会との約束で話すことは出来ない」


フィリップは渋い顔をしてフーッと息を吐いた。


「そうです。イツキ様と皆様がロームズを救ってくださいました。その方法を話す住民は居ないでしょう。我々は神に決して話さないと約束したのです」


ドーレン町長は立ち上がり、グライスとオールズにきっぱり話さないと言った。


「イツキ君は、ここに居る全員を信用してくれている。そして君達2人以外は、イツキ君を信じている者ばかりだ」


フィリップの言葉に、シュノーやレン中佐を始め皆が「そうだ」と言いながら頷く。


「2年前のことは、王様でさえご存知ではない。レガート軍は共通の敵であるギラ新教と戦うため、ブルーノア教会と協力体制をとっている。ブルーノア教会の代表として、指揮を執っているのがイツキ君だ。俺の口からイツキ君の正体は明かせないが、イツキ君は作戦を考える天才であり、医師資格も持っている。何より正義を貫こうとする。俺達は、イツキ君がブルーノア教会の神父様だから従っているのではない。心底イツキという人間に惚れているんだ。グライス、お前だってそうだろう!人が人を信じて、信じた人の為に力になりたいと思う……理屈ではないんだ……そう思わせる力がイツキ君にはある!」


フィリップは静かに話し始め、次第に熱く語っていく。グライスの聞きたかったイツキの正体は分からなかったが、イツキが9歳の時からレガート軍の人間であったことは分かった。


「バカ王子の屋敷を、医学大学にして欲しいと王様に頼んだのはイツキ君だ。そして、ハキル・ジ・レガートという呪われた名の私を、学長に指名してくれたのもイツキ君だ。私に生きる意味と責務を与えてくれたイツキ君に、これから先の人生を全て捧げるつもりだ」


ハキルはそう言うと、グライスとオールズの方を向き、「君達はどうだい?イツキ君と一緒にロームズを、大陸一の学都にしてみたいと思わないかい?」と訊いた。


「分かりました。イツキ君はいつも全力で、自分の命を削りながら戦っています。私は独身で家族も居ません。残りの人生をロームズ辺境伯に懸けてみます。私も力になりたいと思います」


グライスはそう言うと、立ち上がってフィリップや他の責任者達に深く頭を下げた。本来自分よりかなり上の上官に、意見など述べられる立場ではないグライスは、吹っ切れた顔をして誓った。


「私はウルファー侯爵様に仕えていました。旦那様が亡くなられた今、もしもイツキ様が私を必要としてくださるのなら、心からお仕えしたいと思います」


オールズは、主を懸命に看病し助け出してくれたイツキ(キア)に、心から感謝していた。ウルファー侯爵の責任は問わないと決めたイツキの決断もありがたかった。侯爵の最後の言葉は「もう一度キア様の祈りをお聞きしたい」だった。生きる希望を無くし掛けていたオールズが、新たな主をイツキと決めた瞬間だった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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