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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
医学大学誕生

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決戦前夜(4)

 午後7時、いつものように統治官屋敷で責任者会議が行われる。

 今夜は肉入りスープとパンである。イツキは色々と思うところがあり、今夜のスープを自分で作っていた。「料理を作ると気持ちが落ち着くんです」と笑顔でスープを混ぜながら、会議に集まって来た責任者達をほんわかさせていた。


 12人の参加者の内、昨日まで参加していたロームズ警備隊のボグ中尉は、新しく来たゴウテス隊長の指揮下に入ったので、参加していない。今後ロームズ警備隊は、レガート警備隊として1つになり活動する。

 また、今日から新しく町長のドーレン57歳が出席することになった。


 冒頭事務官のオールズが、統治官の葬儀と埋葬が無事に終わったと報告した。イツキは立ち上がり、改めて全員に1分間の黙祷を命じる。

 黙祷の後イツキは全員にスープを配りながら、簡単な自己紹介を町長のドーレンにするよう指示する。

 全員にスープが配られた時、自己紹介が残っていたのはイツキだけになっていた。


「本日王命を受け、キアフ・ルバ・イツキ・ロームズという名の、ロームズの領主、辺境伯としてロームズを統治することになったイツキです。これからは治安部隊指揮官補佐、作戦参謀、領主、そして教会の神父という4役をこなしながら頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」


領主としては深く頭も下げられず、イツキは微妙な笑顔で挨拶した。


「「「えええーっ!!!」」」


教会の集会所でイツキの任命書を見ていなかった、ヤマギ副隊長、事務官グライス、ガルロ、前衛部隊フジヤ少佐、警備隊隊長ゴウテス、町長のドーレンは、驚いて椅子から立ち上がったり、スプーンを落としたりして固まってしまう。


「イツキ様がご領主様に!ほ、本当ですか?」


町長はまるで奇跡が起こったかのような、歓喜の表情で質問する。


「町長、私はまだ14歳ですから仮です。それに教会の許可は出ていません。しかも私は教会と軍の任務で、本国の上級学校の学生もしていますので、ほとんど領地に居ないでしょう。私の代わりに医学大学のハキル学長が、ロームズの統治を手伝ってくださいます」


「では町長など必要無いのではありませんか?」


今度は不安そうな顔をして、町長のドーレンは質問する。


「いいえ、ハキ神国軍を無事に撤退、いえ、ハキ神国軍に完全勝利したら、町長にはレガート国ロームズ領の、男爵として私を支えて頂きたいと考えています」


イツキは慈愛に満ちた微笑みで、これから先のことを伝える。

 ドーレン町長は、自分が貴族として取立てられることより、必要として貰えたことに感動し、イツキの神々しい微笑みを見て、嬉しさで思わず平伏してしまう。

 2年前のことを何も知らないメンバーは、今ひとつ話が呑み込めないが、とにかくイツキが領主様になったのだと理解しようとする。


「町長、どうか座ってください。皆さんもスープが冷めます。自信作なので残さず食べてくださいね」


イツキは普通の笑顔でそう言ったが、既にその笑顔は、領主様のようであった。

 明日からイツキを「領主様」と呼ばねばならない。これで見た目は子供でも、各部隊の兵達も敬意を持って接するしかない。


 住民にとっては、自領の領主様が指揮を執り共に戦ってくれる戦争となる。それは領民にとって負けられない戦いである。領主様を死なす訳にはいかないのだ。しかもその領主様は奇跡を起こした、特別な神父様である。領主様であるだけではなく、ブルーノア教徒にとって……いやいや教会にとって失うことの出来ない、尊い奇跡の神父様なのだ。


『これからイツキ君のことは、どう呼べばいいのだろう?』

そんな疑問が皆の頭の中を過る。ロームズ辺境伯?イツキ辺境伯?それとも指揮官補佐?流石にイツキ君……は、ないよな……



「明日23日から住民達の訓練が正式に開始されます。武器の竹槍200は完成済み、ポム弾は200中60が完成しています。明日残り140を技術開発部と前衛部隊が作ります。建設部隊は水路工事と住民訓練の2手に分かれ活動してください。国境部隊は新たに出来る堀と壁の工事をお願いします。警備隊はハキ神国軍の侵攻に備え、住民の避難先の確保、集合場所の確認、病人や子供を近隣の村へ避難できるよう交渉し、女性の自警団にお願いする炊き出しの打合せを頼みます。まあ、奴等にロームズの地を1歩も踏ませるつもりはありませんが」


イツキはすらすらと何時も通りに指示を出し、自信満々でそう言い切る。


「イツキ君、そのポム弾だが、未だ見ていない者が大騒ぎしている。全員に試させて貰えないだろうか?私も見ていません」

「私も、いや警備隊も是非お願いします」


国境軍のヤマギ副隊長が、普通にイツキ君と言いながら訊ねる。続いて警備隊のゴウテスも、是非皆で見てみたいと申し出る。


「ああ、国境軍も警備隊も見ていませんでしたね。分かりました。明日の任務を30分早く切り上げてください。夕方教会前の広場で好きに練習してください。しかし、ポム弾は軍では使いませんよ。あれは住民専用ですし、僕はロームズの住民に重税を掛けないようにする為、ポム弾の権利を個人の物とします。後日、軍本部から正式に納入依頼があれば、納入させて頂きますが、あれには殺傷能力など有りませんよ?」


「そうなんですか?しかし、レン中佐もフジヤ少佐も絶賛していましたが……」


ヤマギは、はて?と首を捻りながらレン中佐とフジヤ少佐を見る。


「殺せなくても、当たればケガはします。目に当たれば失明するでしょう。今回もレガート軍は殺すことを目的にしていません。本国を出る時、司令官から極力殺すなと言われて来ました。撤退させるだけなら、ポム弾は理想の武器になると思います」


ポム弾を作った前衛部隊のフジヤ少佐は、何度も試し撃ちをし、石の大きさや形を工夫すれば、充分に敵の戦意を喪失出来ると確信していた。それはレン中佐も同じで、横でウンウンと頷いている。


「分かりました。ハキ神国軍が撤退したら、レガート軍に見本として30程差し上げましょう」


そう言うとイツキは、次の議題である25日の住民を含めた演習のことに話題を変えた。

 演習の指揮するのは、フィリップと建設部隊のレン中佐である。イツキは2人に後を任せて、統治官屋敷の事務官オールズと、レガート軍事務官のグライス、学長のハキル3人を呼び、今後の事務仕事について打ち合わせる。





◇ ◇ ◇


 午後11時、今夜は教会の人間だけで国境に来ていた。

 夕方目覚めたギルバート神父は、充分休息したせいか今夜は元気な様子である。


「ギルバート神父、今夜で作業は終わりです。その代わり朝までに残り2,5キロを終わらせねばなりません。住民達は突然出来ていた堀と壁を目の当たりにし、新たな奇跡を神様が与えてくださったと、感動し感謝の涙を流していました。【印】の力は神様が与えてくださったものです。個人が自ら得たものではありません」


「はいリース(聖人)様。シーバス様に御聞きしました。私の能力(ちから)は今回で枯渇するのだと。これで良いのです。私は自分が大切にされて当たり前だと思ってきました。私には特別な能力(ちから)があるのだからと……ずっと思い上がってきました。自分では何も出来ないのに」


ギルバートは意外にも晴れやかな顔をしていた。実は夕方目覚めて食事を済ませ、こっそり教会の裏庭の地面を掘ろうとして、一握りの土さえ掘ることが出来なかった。

 リース様の力添えが無ければ、目覚めたと思っていた【印の能力】も、発動させることなど出来はしなかったのだと理解出来た。もしもイツキ(リース)様に出会えなければ、一生目覚めることのない能力であっただろう……そして歳を重ね、こんなはずではない、私は選ばれた人間なのだと惨めに言い続けただろう。


「ギルバート神父、君は六聖人であるイツキ様が治めることになったロームズ領を、護るという役目を持って生まれてきたのだ。神に役目を与えられ、役目を果たすことが出来る……なんと幸せなことだろう」


「はいシーバス様。最後まで、私の能力の全てを使って役目を果たします」


ギルバートは先日掘った部分の端っこまできて深呼吸をする。


「イツキ様大丈夫ですか?前回も倒れたように眠られていたと、フィリップ様から聞いておりますが?」


「大丈夫です。私は明日1日休みを頂いて休む予定ですから。さあ、急がなければ雨になります。堀には水が必要ですから」


イツキは明るく輝いている月を見上げて、降りそうにもない雨の話をしクスリと笑った。そして左手をギルバート神父の腰に当てる。





◇ ◇ ◇


 6月23日、イツキは統治官屋敷……いやロームズ領主屋敷の領主の部屋で、青い顔をして眠っていた。

 明け方の5時、イツキは教会警備隊のコウタが御者を努める教会の馬車に乗せられ帰ってきた。迎えに出てきたのは事務官のグライスである。

 まるで意識を失ったように眠るイツキを抱え、領主の部屋まで運んできた。そして朝食時間まで、付き添うようにイツキの眠るベッドの横に椅子を寄せて、心配そうに顔を見つめていた。


「やはりキア様だ・・・いや、初めからイツキ様だったのですね」


グライスは眠るイツキの横顔に話し掛ける。イツキとキアのからくりに気付いているのは、元々ロームズに居たロームズ組では、まだグライスだけだと思われる。出来る事務官のオールズなら、2・3日の内に気付くに違いないとグライスは考える。


「イツキ様、貴方の正体は何なのですか?私には知らされていない2年前のことを町長に訊けば、ヒントは見えてくるのでしょうか?」 


 グライスは昇る朝日を見ながら、イツキについて考え続ける。

 どうして王様は、まだ14歳のイツキ君を領主に任命したのだろうか?あんな厳しい条件をのめる貴族など、我が国には居ないだろう。そもそも半年間納税をさせないと決めたのは王様だ。背負うべきはイツキ君ではなく王様であるはず。防衛費も医学大学の建設費も運営費だって半分負担させるなんて……鬼のような命令だ。そもそもイツキ君は学生だし、お金も持っていないと言っていた。なのに、なのに王様とエントン秘書官はイツキ君を選ばれた。……出来ると信じているということだ……


 グライスは結論が出せないまま、午前7時イツキの部屋を静かに出ていった。

 そして翌24日午後6時まで、イツキは目を覚まさず眠り続けた。



 


 23日は問題なく順調に過ぎていく。

 当然住民も軍の兵も警備隊も、ハキ神国との国境側に半分しか無かった堀と壁が、全て完成しているという奇跡を見て、歓喜し神に感謝し祈りを捧げた。

素晴らしい奇跡体験で、すっかり士気が高揚したのは言うまでもない。

 

 正午頃、先日の通り雨のような大粒の雨が30分間降り続き、完成した堀を半分程満たしてくれた。

 建設部隊の悩みは、新しく完成した水門を開いたが、水量が足らず堀としての役割が果たせそうにないことだった。しかし昼に降った雨で、ようやく堀らしくなったので一安心出来た。


 予想通り住民達はポム弾を気に入り、懸命に練習し15メートル先の目標に小石を当てられるようになった。竹槍も力自慢の男達には好評で、直接人を突くのではなく投げるのだと知ると、気合いをいれて飛ばしあいをしていた。

 住民達は、堀を渡り壁を登って侵入してくる敵兵に向かって、攻撃を仕掛ける担当だった。壁から15メートル離れた場所には、住民総出で敵の矢を避けられるよう、高さ1メートル長さ5メートルの、移動式竹垣を作り設置していく。


 女も子供も老人も、どの顔も嫌々ではなく誇りを持って参加していた。その姿を見たフィリップ、レン中佐、ドーレン町長は、頷き合い喜ぶと共に、絶対に敗けられないと気合いを入れ直すのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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