↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
医学大学誕生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/79

イツキ暗躍する(4)

 午後2時半、秘書官補佐のフィリップに扮装しているレン中佐の乗った辻馬車が、ロームズ入国口に到着した。

 辻馬車の御者は、急遽出来ていた入国口ゲートに驚き馬を止めた。昨日までは町の中まで入れたのに、今日から入国口で審査を受けなければ、馬車から降りることも出来なくなったのだ。


「すみません。今日からレガート国ロームズは、ハキ神国の者の入国が禁止になりました。ロームズで降りる方は身分証を提示してください。ハキ神国の身分証をお持ちの方は、ロームズでは降りれません」


ロームズ国境軍のセドレ少尉は、辻馬車の中を覗き込んで大きな声で説明する。


「おい、何を勝手に。俺は仕事で来たんだ。何故ハキ神国の人間は入国出来ない!」


ロームズで降りなければならない大師イルドラの部下は、強気で文句を言う。大師様から聞いていたロームズの状況は、大師様の手の者により完全制圧されつつあるはずだったが……と首を捻る。


「何故ってか?それはな、おたくの国の第1王子がロームズに攻めてくると情報が入ったからだ」


セドレは「はーっ」と面倒臭そうに息を吐き、チラリと後ろを振り向く。すると武装した国境軍の兵士が3人、剣を抜いてセドレの後ろに並ぶ。


「それは本当か?また戦争が始まるのか?」と1人の客が不安そうに叫ぶ。

「なんて戦争好きな王子なんだ!」他の客も迷惑そうに叫ぶ。


「俺はレガート国の人間だ。降りても構わないな?」


フィリップに扮しているレン中佐は、身分証をセドレに見えるように提示し馬車を降りていく。それに続くように他の4人も降りていく。

 文句を言っていた大師イルドラの部下は不機嫌そうに黙り、そのまま次のビビド村まで行くようである。


「すまないが、これから向かう村や町で、ロームズにはハキ神国の身分証では入れないと教えてくれ」


セドレはそう言いながら、辻馬車の御者に銀貨1枚を握らせた。面倒臭そうにしていた御者は、任せてくれと言って笑顔で右手を上げた。





 大師イルドラの部下はロームズを発って20分後、御者に金を握らせ馬車を降りた。そして来た道を徒歩で戻り、ロームズを通り過ぎた後、ロームズの東隣の村からハキ神国側に抜けた。日の沈んだ午後7時半には、闇に紛れて国境軍の作ったバリケードを迂回し、竹林からロームズへと侵入した。


 そして大師イルドラの部下は、オリ王子の別邸を訪ねようとして、サイシスと傭兵達が捕らえられている現場を目撃する。オリ王子の別邸は、20人の武装した国境軍に包囲されていたのである。

 危険を感じた大師イルドラの部下は、一旦ハキ神国側に戻り、待機していたハキ神国軍のテントに向かい、そこで逃げてきた傭兵頭の、いや大師イルドラが信用しているマゴンと合流する。


「マゴン殿、いったいどうされたのですか?まさか今日やって来た秘書官補佐が、サイシスを捕らえたのですが?」


「実は、人質が昨日疫病で全て死にました。それでサイシスの力が弱まり、大師様が揃えてくださった傭兵10人も捕まりました。恐らく命令を下したのは秘書官補佐でしょう。午後3時にそれらしき人物がホテルに着いたと、部下から報告を受けました。いつの間にか傭兵は15人程になり、状況把握が遅れました」


マゴンは悔しそうに両手を強く握り唇を噛み締める。まさかの急展開に対処仕切れなかった自分を後悔する。

 全ては疫病から始まった。人質さえ死ななければ……と悔やんでみてもどうにもならない。

 これでは大師イルドラ様に会わせる顔がないマゴンである。


「私は明日ロームズに潜入し様子を探ります。マゴン殿はルンナの常宿で待機なさっている、大師様に事情をお話しください」 


「分かった……こうなたら大師様のご指示を仰ぐしかない。今問題なのは、無能なサイシスがギラ新教について、秘書官補佐に何かを話す危険があることだ」


マゴンはサイシスのことを思い出し、顔色を曇らせる。無能な人間だが、ハキ神国の伯爵に成ることに執着していた。だから喋るとは思わないが、拷問という手段もあるのだ。どちらにしても、こうなっては邪魔な存在でしかない。

 マゴンとイルドラの部下(護衛)は、ハキ神国軍の兵士に聞かれぬよう注意しながら、これからすべき最善の手を考える。





◇  ◇  ◇


 午後8時、統治官屋敷には各部隊の責任者が集まってきた。


 今夜統治官屋敷を警備しているのは、ロームズ警備隊のシードルフ率いる7人である。責任者達が屋敷内に入ったのを確認後、屋敷の玄関前と正門には松明が設置され、炎が屋敷を明るく照している。

 屋敷の中には、今日到着した応援部隊の内、事務官の5人と警備隊の11人が住居として使用を開始していた。元々住んでいた事務官のオールズと、レガート軍事務官のグライス、技術開発部のコウヤとベルムも教会から移動してきた。結局統治官屋敷に住むことになったのは合計20人で、代表者は新警備隊隊長のゴウテスに決まった。


 正面玄関を入って1階の右手奥に、こんな部屋もあったのかと思うような広い会議室があった。室内には大きな楕円形のテーブルが中央に置かれており、テーブルを囲むように12脚の椅子が配置されていた。


 会議の指揮を執るのはフィリップ秘書官補佐、右隣に技術開発部部長のシュノー、左隣にイツキが座る。他のメンバーは、国境軍の代表ヤマギ、ロームズ警備隊のボグ中尉、レガート軍事務官のグライス、連絡調整役のガルロ、統治官屋敷の事務官のオールズ。応援部隊からは建設部隊69人を率いるレン中佐、前衛部隊29人を率いるフジヤ少佐、精鋭の警備隊10人を率いるゴウテス新隊長、そして応援部隊116人を率いて来たハキル・クレマンスの合計12人が出席者である。

 イツキとして初めて対面するボグ、グライス、オールズのロームズ組の3人は、何故この場に、しかもフィリップ秘書官補佐の隣に、どうして子どもが座っているのだろうと、イツキをいぶかし気に見る。


「それでは初めての顔合わせの者も居るので、自己紹介から始める」


フィリップはそう言って、自分から名前、所属、出身地等を簡単に説明する。フィリップの次は右回りに進みシュノーだった。

 順調に自己紹介は進み、11番目はハキルの番だった。


「この度王様からロームズ行きを命じられたハキル・クレマンスです。私の任務は、現在ロームズに建設中のレガート国立医学大学の学長です。つい先日まで、イントラ連合高学院で教授をしていました」


「すみません……ロームズに建設中の建物とは?」


質問したのはレガート軍事務官のグライスだった。ハキルがやって来ることをイツキから聞いていたのは、フィリップとシュノーだけだったので、他の者はオリ王子の別邸が、医学大学になるとは知らなかった。


「その件については僕から説明します。ロームズ組の皆さんはじめまして。本日応援部隊と共にやって来たイツキです。名前と出身地はややこしいので……所属は【治安部隊】で指揮官補佐をしています。現在建設中のオリ王子の別邸は、今日からレガート国立医学大学として発足します。僕は王様にロームズの町と住民を守る最善の策として、医学大学の設置をお願いし了承を得ました。ハキル教授(せんせい)、急なお願いをきいていただき本当にありがとうございます」


イツキは自分の自己紹介もしながら、医学大学発足の経緯を皆に伝える。そして改めてハキルの方に向き直り、深く頭を下げ感謝の言葉を述べる。


「いいえイツキ君、私は自分の一生を捧げられる責務を与えられたことを、本当に感謝しているんだ。力不足だが全力で働かせて頂くよ。そしてイツキ君のサポートをしながら、ロームズの住民として骨を埋めよう」


ハキルは嬉しそうにイツキに右手を差し出し、固く握手を交わす。


『イツキ君のサポートをしながら?』


ハキルが口にした言葉に、あれ?っと首を捻ったのはフィリップ、シュノー、ガルロ、そしてイツキ自身の4人だった。しかし、今はそこを確認している時ではない。


「それでは、ロームズ奪還の最終作戦について、作戦参謀であるイツキ君から説明して貰う。ああそうだ……ロームズ組の3人に説明しておこう。イツキ君は【治安部隊】の中でも、ギラ新教に特化した活動をしている。まだ若いが、ギニ司令官が直接【治安部隊指揮官補佐】に任命した作戦を考える天才だ。こう見えて【奇跡の世代】をキシ公爵から任されている」


フィリップが至極真面目な顔でロームズ組に説明する。


「そうだな。ヤマノ領でヤマノ侯爵家をギラ新教徒から救ったのは、イツキ君の指示だった」

「そうだ。我ら【奇跡の世代】は、イツキ君を信じてロームズにやって来た」


レン中佐に続き、フジヤ少佐も発言する。当然シュノー、ガルロも頷く。 

 その言葉を聞いたロームズ組の3人は、正直信じられなかったが信じるしかない。それに、少し前までキアという強烈な印象の若い少女が指揮を執っていたので、若いことには免疫が出来ていた。

 キアの場合は教会の神母という、ある意味神懸かっていたので、軍や警備隊とは別格の存在として受け入れていた。


「それではこれからの作戦と、予想される敵の動きについて説明します。最も重要なことは、敵にこちらの人数を知られてはならないことです。敵とはギラ新教とオリ王子を指しますが、オリ王子を操っているのはギラ新教です。必ず敵は、ハキ神国軍を率いて10日以内に攻め込んで来るでしょう」


イツキはキアであった時とは違い、声変わりの前ではあるが、男らしい声でハッキリと言い切る。そして何よりも、黒く短めに切り揃えられた髪、整った知的でシャープな顔立ち、この凄いメンバーの中でも全く動じることのない不敵さで、考えた作戦を次々に指示していく。

 最終的に命令を下すのは秘書官補佐のフィリップだが、イツキとの阿吽の呼吸で作戦会議は進められていった。




 午後9時前、会議も終わり皆が解散した後、イツキはフィリップとハキルと3人で、お茶休憩をしていた。そこに捕らえられたサイシスが、統治官屋敷に連行されてきた。


「お前たち、俺は伯爵だ!伯爵に対してこんな無礼を働いて、徒では済まないぞ!」


統治官屋敷の玄関で、サイシスは抵抗しながら大声で喚き散らす。


「皆ご苦労だった。サイシスは亡くなった人質達の部屋に閉じ込めておけ!」

「はい分かりました。ロイスと同じ部屋ですね」

「部屋を出たら、お前達はきちんと消毒しておけ」


フィリップは、ロープで縛られ引き摺られて行くサイシスを見下しながら指示を出す。


「お、お前は神父ではないか!私はレガート国の伯爵だ!ブルーノア教会がなんの権限で私を捕らえる?」


納得がいかないサイシスは、目の前の神父の偉そうな態度に、怒りで身体を震わせる。そしてその隣に立っている見知らぬ男にも、怒りで歪んだ顔を向ける。


「サイシス、お前は既にレガート国の伯爵ではない。お前は王命により爵位を剥奪されている。今頃はカイ領の屋敷も没収されているはずだ」


憐れな者を見るように、ハキルはサイシスに向かって事実を告げる。


「な、なんだと?いい加減なことを言うな!お前は誰だ?……お前が秘書官補佐か?」 


「私はハキル・ジ・レガート。バルファー王の命で今日赴任してきた。我が従兄殿の怒りは言葉では表現できない程だ。楽に死ぬことは許されないだろう。そうですよね、フィリップ秘書官補佐?」


「ああ、ギラ新教徒である上、我が国の金を勝手に使い、バカ王子の別邸を建てようとする売国奴だ」


「な、な、なんだと?秘書官補佐?お前が、お前が秘書官補佐だと・・・」


サイシスの頭では、全てを理解することが出来なかったようで、ハキルが何者なのかは記憶からスッポリ抜け、フィリップの正体と、建設中の建物がオリ王子の別邸であると、知られていたことがショックで言葉を失う。

 そんな現実を受け止められないサイシスの前に、凍るような冷たい表情のイツキが近付いて来て、国境軍の兵士と共に2階の人質部屋に向かって歩き始める。

    

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。