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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
医学大学誕生

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人質奪還

国境警備隊の呼び名を、国境軍に変更しました。

◇◇ 統治官屋敷 ◇◇


 18日午後4時、キアとシルビアは鼻歌混じりでお菓子を作っていた。

 なんだか見たことがない根っこを磨り潰し、2つの生地の片方に練り込んでいく。焼き上がりも少し焦げ茶色になっているが、クッキーとしては見た目てきに何の問題もなかった。


「キア様、何だか楽しいですね。紙飛行機も楽しかったですが、お菓子作りも日頃しないのでワクワクします。しかし、よくクッキーまで作れますね?」


「あらシルビアさん、こう見えて私、旅の間に色々と経験したのよ。特にダルーン王国のパンとかお菓子はとても美味しかったわ。だから教えて貰ったの」


見張りも居ない広い屋敷で、キアもシルビアも遣りたい放題である。

 事務官のオールズはほぼ回復し、統治官様の看病をしている。

 壁の鍵は誰が管理しているのかと言えばヒブロなのだが、とても動ける状況ではなく、熱が出たビランがその仕事を代行していたが、午後から下痢も始まったので、鍵など掛かってもいない。

 どうせ屋敷の外に出られないのである。全員が病人みたいなものなので、比較的元気な事務長と警備隊隊長には手枷をし、統治官のベッドの足に長目のロープで拘束されていた。


 午後5時、1階の居間の窓を開け、外に居た10人の傭兵達に、キアは極上の笑顔でクッキーを渡していた。

 外に出すのは禁止だが、窓を開けてはならないと言われてはいない。

 どうやら交代は明日の朝らしく、同じメンバーがずっと見張りをするらしかった。

 本来統治官屋敷で生活しているはずのレガート軍少佐ロイスと別邸建設の技術者達は、封鎖された屋敷には帰れず、新しい別邸で生活している。当然疫病を恐れて寄り付きもしなかった。




 午後8時、キアとシルビア、オールズ、人質以外の屋敷の内外の者は、シルビア特製病人用スープを飲み、キア特製クッキーを食べ、ぐっすりと眠っていた。

 本来なら屋敷中の照明が灯されている時刻だが、今夜は最低限の照明しか灯されていなかった。


 勝手口の前で見張りをしていた傭兵2人を、どっこらしょと言いながら横にどかし、ドアを開けて入ってきたのはロームズ警備隊リーダーのボグである。


「キア様、警備隊15名、国境軍5名、計20名がご指示通り潜入完了しました」


「ご苦労様です。では早速手筈通りにお願いします。人質の場所まで案内します。薬が効いていますが、出来るだけ静かに、迅速に行動してください」


キアは20人に向かって小さな声で指示を出した。そして極力物音をたてないように2階の人質達の元へ向かった。


「人質の皆さん、これから皆さんを救出しますが、言葉を発するのは禁止します。積もる話は教会に到着してからにしてください。医者も待っているのでご安心ください。統治官様と右側の4人の人質は動けないので、この麻のシーツに乗せ、4人で運びます」


事前の訓練を指示していたので、救出部隊の20名は迅速に対応している。屋敷から少し離れた場所に荷馬車が待たせてある。もしも教会へ向かう途中で住民や傭兵に見られても、麻のシーツにくるんでおけば、荷物だと思って貰えるだろう。まあ、警備隊の荷馬車を改める者はいないだろう。


 かくして、人質の救出は何事もなく無事に成功し、キアとシルビアはそのまま統治官屋敷に残ったのである。



 6月19日午前7時、いつものようにシルビアは病人達の朝食の準備を始める。

 うっかりと眠ってしまった傭兵達は、日付が変わる頃には全員が目を覚ましていたが、屋敷内の灯りは消えており今朝の様子に変わりが無かったので、何も気付かなかった。


「おはようございますヒブロさん。まだ熱がありそうですね……実は右側の部屋の病人の内、2人が危ない容態です。もしかしたら助からないかもしれません。私もシルビアさんも、本教会病院にいる時ダルーン病に感染したことがあります。助かる者もいるので希望は捨てないことです」


「・・・」


キアの話を聞いていたヒブロは、、やはり自分は疫病に感染したのだと衝撃を受け、ぎゅっと目を瞑った。


「サイシスは屋敷を封鎖したので、食料も今夜には無くなるでしょう。教会にあった薬も底をつきました。サイシスがこれまで人質達にした非道な行いを思うと、次に無惨に捨てられるのは、この屋敷に居る全員でしょう」


キアはそう言うと、静かにヒブロの部屋を出ていった。そして、傭兵3人と設計士の部屋に診察に行き、同じことを言って回った。




◇◇ ルンナ ◇◇


 同じ頃、ハキ神国ルンナの街を、ハキ神国軍の兵士20人と傭兵10人の計30人を、サイシスとマゴンが率いてロームズへと出発した。

 午後2時頃にはロームズに到着する予定だが、30人はハキ神国側で暫く待機する。

 

 昨夜行った大師イルドラとの会談で、サイシスは細かい指示を受けていた。


◆ロームズに帰り次第、人質の町長と工場長以外は病死したとして始末し、サイシス、ロイス少佐、ヒブロ、マゴン、護衛、傭兵、技術者3人は、町長と工場長を連れ新しい別邸に居を移し、統治官屋敷を空ける。


◆秘書官補佐が連れてきた人数が多ければ、30人は潜入させるが、援軍が来るまで交戦しない。


◆もしも問題なく秘書官補佐が帰国するようであれば、何も手出しをしない。


◆秘書官補佐が長期滞在するようであれば、屋敷に工作員を入れ上官や秘書官補佐を毒殺する。その後、本国から来た従者達を一気に潰し、これ迄居た国境軍は奴隷としてオリ王子の別邸の工事をさせる。


◆秘書官補佐が町長と工場長の解放を迫り、武力で圧してきたら交戦する。


◆6月28日、オリ王子がロームズに到着されたら、別邸で伯爵位を授ける。


「とにかく町長と工場長が死んでなければいいが、新しい別邸に住まわせる訳にはいかない……いっそロームズ内の家を1軒買った方がいいかもしれないな」


「はいサイシス様、これからハキ神国から人が入ってきます。空き家は全て買い取りましょう。納税の遅れがある者の家は接収しましょう」


2人はロームズが近付くにつれ、気が重くなっていく。統治官屋敷の疫病の様子と、神母が元気でいるかどうかで、大師イルドラ様の機嫌が違ってくるのだ。

 まさか生意気な神母が【聖女】だとは、全く思っても見なかった。


「「は~っ……」」と、2人は同時に深いため息をついた。  




◇◇ ロームズ ◇◇ 


 午前8時から始めた投石機の設置作業は、午前11時には終了した。

 ハキ神国との国境手前にある丘に集まったのは、統治官代行をしているシュノー部長率いる、ロームズ国境軍15人、本隊国境軍15人、技術開発部2人で、投石機には最も重要なポムベルトや補強用のポムは取り付けられてはいない。


 ロームズ国境軍15人は、丘には来ていたが投石機の設置はしていなかった。15人はサイシスが雇った見張りの傭兵を捕らえる為、丘のあちこちで待ち構えていたのだ。

 今日の見張りは3人だったが、完全武装していた国境軍に抵抗出来るはずもなく、あっけなく捕らえられ連行されていく。傭兵の3人はカルート国の人間だったので、罪状は軍事秘密を盗もうとした……という罪である。


「シュノー部長、無事に傭兵を捕らえました。何時ものように3人のみでした。これより役場に連行し取り調べを始めます」


国境軍のリーダーであるマーチェン中尉34歳は、生き生きとした顔で報告する。


「よし、念のため5人で連行しろ。残りは全員休憩した後、実射訓練を開始する。午後にはサイシスがハキ神国軍や傭兵を連れて戻って来るはずだ。レガート軍の格の違いを見せ付けてやるぞ!」


「「オーッ!!」」


シュノーの掛け声に、両国境軍も技術開発部も右手を高く上げ応える。

 そして正午、投石機にポムベルトや付属品を装着し、本国から持ってきていた石球を真似て作った物を、国境付近に数人の見張りを立て発射した。

 的には林を伐採した際に出た木材を使い、ハキ神国軍の投石機を真似て作った物を置いた。2度目の戦争の時に実物を見た国境軍兵の自信作である。


 ドーン!ガラガラガシャと、3投目で見事的に命中し粉砕した。

 

「狙い通りだ。下に設置した大型ではなく、丘の中腹の公園に設置した小型の投石機からでも、充分に届くと証明された。よし、撤収しろ!」


試投の結果に満足したシュノーは、国境付近で壊れた敵の投石機もどきや石球を、直ぐに撤収するよう命令する。

 音を聞き付けたサイシスの部下であるロイス少佐が、何事かとやって来るかもしれないのだ。何事もきっちりとやるのがシュノーのモットーである。


「シュノー部長、ハキ神国側から馬がやって来ます。距離500メートル」

「イグモ中尉、人数は?」

「はい、1人です。もしかしたらルンナに行かれたルドさんかもしれません」


シュノーと一緒に来た国境軍本隊のサブリーダーであるイグモ中尉30歳は、双眼鏡を覗きながら報告する。


 治安部隊のルドは、サイシスとマゴンの跡を追って、馬車の後ろを馬で追跡していたのだ。そして宿泊した宿の情報を手に入れ、少し離れた宿に泊まり行動を監視していた。当然サイシスが30人を率いて、現在ロームズへ向かっていることも知っている。

 サイシスがロームズまでの行程の3分の2進んだ所で、ルドは一気に後方から馬を駆けさせ追い抜いて来たのだ。



「お疲れ、で、サイシス達はどうだった?ギラ新教の大師イルドラと会っていたのか?敵の数は?」

 

小型の投石機を設置した丘に登ってきたルドに、シュノーは矢継ぎ早に質問をする。


「おいシュノー、俺は息つく時間も貰えないのか?水、水をくれ」


炎天下を馬で駆けてきて、丘に登って「はーっ」と息をつこうとしたところ、駆け寄って来たシュノーに質問攻めにあったルドは、呆れた顔をして文句を言い水を要求した。

 持っていた水筒をルドに差し出しながらシュノーは、現場慣れしていない自分の言動と行動を、「すまない」と言って少しだけ反省する。


「敵の数は30、ハキ神国軍の兵士が20、傭兵が10だ。大師イルドラの顔は見れなかった。凄腕の護衛を付けていたので、近寄ればこちらの動きを逆に掴まれてしまう。だが、大師イルドラはルンナに来ていたことは間違いない。あと1時間でサイシス達は到着する」


「ハキ神国の軍人達が、堂々と昼間からロームズに入って来るのか?」


「いや、敵は全員私服だったが、恐らくハキ神国側で待機させるだろう。ロームズに入ってきても、30人を滞在させる宿がない。2日分くらいの食料とテントを用意させていたようだ」


ルドはそう報告すると、指揮官であるフィリップに報告する為、急ぎロームズ教会へと再び馬を駆けさせた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

いよいよ戦いが本格的に始まります。

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