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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
医学大学誕生

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作戦の確認

最終章に突入しました。

どうぞ最後までお付き合いくださいませ。

 6月18日午前、統治官屋敷はパニックに陥っていた。

 昨日の午後、新たに設計士と傭兵の腹の調子が悪くなり、シルビアとキアの話を盗み聞きしていたマゴンは、直ぐサイシスに報告したが、サイシスは心配ないと言って何も手を打たなかった。


 今朝になり屋敷の警護リーダーのビランは熱が出た。ビランは始め疫病など他人事のように考えていたが、自分に熱が出たことでパニックになり、サイシスに助けてくれ、ちゃんとした医師を連れてきてくれと懇願した。

 最初に症状がでたヒブロは起き上がれなくなり、傭兵のテンパルは嘔吐が始まり、オールズ以外は病状が悪くなっていた。

 困ったことに薬剤師のシルビアまで倒れていた。(シルビアの演技は上手かった)


 しかしサイシスとマゴンは午後から大師イルドラに会うため、ルンナの街に出掛けることが決まっていた。


「どうされますかサイシス様?」

「マゴン、我々には新しい屋敷がある。ここは全員を見捨てることにする。明日戻ってきて元気な者が居なければ、感染を拡げないよう屋敷に火を放ってもいい。今は大事を成すことの方が優先だ」


サイシスは目の前の現実を見ずに、統治官屋敷の馬車でマゴンと一緒にルンナへ出掛けて行った。途中建設中のオリ王子の別邸に寄り、留守になった屋敷と病人を見張る為、傭兵10人に統治官屋敷の玄関の外に鍵を掛け、中に居た全員を閉じ込め外に出さないよう命令した。


 屋敷の中に残されたのは、人質の7人にキアとシルビア、事務官のオールズ、ヒブロ、傭兵のビランとテンパルとゴードン、そして設計士の15人だった。

 屋敷の外では10人の傭兵が、統治官屋敷の出入りを禁止し、中から逃げ出そうとする者は、容赦なく殺せと命じられていた。




 午後3時、フィリップとレクスとは、警備隊のボグとエイコムを連れ、キアが合図を出す小窓がよく見える林の中で、キアからの指示を待っていた。


「フィリップ神父、今なら楽に人質を救出できるのに、何故突入しないのですか?」


警備隊のリーダーであるボグ中尉34歳は、サイシスとマゴンが出掛けた今なら、容易く行動できるのにと思いフィリップに質問する。

 

「それは、敵の頭を叩く為だ。このまま統治官屋敷ごと奪還しても、それは人質を救出しただけで、ギラ新教に勝った訳ではない。俺達の目的はロームズを敵から解放することであり、ギラ新教徒を全て抹殺もしくは捕らえることにある」


フィリップはそう言いながら、明日の奪還作戦の手順を考えていた。


「あっ、キア様です」


エイコムは嬉しそうに言いながら、キアの合図を見落とさないよう、しっかりと小窓に目を向ける。

 キアは小窓の前に立ち、午後の祈りを捧げ始める。今日はいつもより少し大きな声だ。


「おい、これは噂に聞く神母様のお声だ!」

「ああ、そうだ。これがあの奇跡の祈りの声だぞ!なんて美しい声なんだ!」

「墓地に行った奴は腰痛が治ったらしい」

「でも、何故、この屋敷の中に神母様がいらっしゃるんだ?」

「まさか、神母様まで疫病に・・・」


そんなことを言っていた傭兵達5人は、溢れ出る涙に戸惑いながら、気付けば手を組みひざまずいていた。どうやら5人はブルーノア教徒のようである。


『あぁ、天使の声だ・・・体が癒されていく・・・』


 キアの祈りが終わると、傭兵達は感動の涙を流しながら「なんだか体が軽くなった」とか「俺もだ」とか「俺も俺も」と口々に体の変化を話し始める。


「ちょっとー、下に居る傭兵さーん!」


傭兵達が声の方に顔を上げると、2階の小窓から噂をしていた神母様が可愛い笑顔で、明るく手を振っていた。


「ねえねえ、薬が足りないからロームズ教会から持って来させてくださらない?それに食材も足りないわー。薬の名前はここに書いてあるから、直ぐに届けさせてねー。優しい傭兵さんはだ(・)あ(・)れ(・)?」


ズキューン!! 一瞬で5人の傭兵達はキアの笑顔に心を撃ち抜かれた。


「おー、俺が行きます!」

「いや、俺が!」

「お前ら勤務中だぞ!」

「大丈夫、皆寝込んでいるそうだし、10人も居るじゃないか」

「ここは年長の28歳である、俺が行くべきだろう」

「「「「ええーっ!そんなの関係ない!」」」」


「皆さん、ありがとう。事務官のオールズさんは快方に向かってますよ。薬があれば皆良くなりますから安心してくださいねー。それでは、薬を書いた紙と、食材を書いた紙を2枚落とすので、拾った方はお願いします。届けてくだされば、きっと神のご加護があります」


言い終わるとキアは、2枚のメモ用紙をヒラヒラと下に落とした。

 壮絶な奪い合いが起こったが、メモ用紙が破れることなく2人の傭兵がキャッチした。そして一目散に、教会とホームズ食料品店に走って行った。


 2階の小窓から降り注いだ、ちょっぴりの【金色のオーラ】には、意外な癒し効果?があったようである。



「あーぁ!キア様はまた・・・あんな奴等に笑顔なんて向けなくても……」

「そうですねレクスさん、同感です!」


レクスとエイコムは、林の中から見えた光景に、どうやらご不満のようである。……大丈夫か?という顔でフィリップは視線をレクスに向け、はーっと息を吐いた。


 キアは残った傭兵3人に、疫病ではないから安心してくださいねと再び笑顔を向け、3つのお願いをする。

 それは井戸から水をたくさん汲んで欲しい、衣料品店からシーツを5枚買ってきて欲しい、凄く下手だけどお菓子を作るから材料を買ってきて欲しい。の3つだった。


 3人はこそこそと相談し、そんな勝手なことをしても大丈夫だろうかと思案した。そこへ、他の見張りの傭兵がやって来たので事情を説明する。

 それは無理だろうとか、しかし誰も俺達を監視していないとか、疫病ではないなら大丈夫だろう等と意見が交わされている。


「あの~、お菓子は……お手伝い頂いた皆さんに食べていただこうかと……いやいや、食べたくないならいいんです。へ、下手なので……迷惑……で・す・よ・ね?」


キアは恥ずかしそうにモジモジしながら、いやいやと言いながら両手をフリフリする。そして恥ずかしさのあまり窓から顔を引っ込めた。今日の演技には磨きがかかっているキアである。


ズキューン!ズキューン!! 再び傭兵達は心を撃ち抜かれた・・・


「行ってきまーす!!」(全員)


見張り達は再び舞い降りてくるメモ用紙を奪い合い、全員が走って居なくなった。

 どうやら見張りをしていた10人は、マゴンが集めた精鋭達ではなく、サイシスが集めた冒険者崩れの者達のようで、規律や命令に従う意識は低かった。


「さてと」と言いながら、次にキアは林の中に手を振り、紙飛行機を飛ばし始める。


 なかなかの優れもので、3つの紙飛行機はきっちりと林の中まで飛んで行った。

 統治官屋敷の廊下は長かった……誰も居ない廊下は、実験飛行し放題だったのである。

 ちなみに1番飛んだのは事務官のオールズの作った紙飛行機で、2番目がシルビアの紙飛行機だったが、実際に飛ばすのが自分だったので、キアは「飛ばすのは得意よ」と負け惜しみを言った。


 受け取ったレクスとエイコムは、初めて紙飛行機を見たので(キアの考案)驚きと感動で、自分も飛ばしてみたいと思うのであった。が、今大事なのはそこではない。


 キアからの指示書(紙飛行機)を受け取ったフィリップは、作戦を確認しキアに向かって右手を大きく回し、OKの合図を送った。




◇◇ ルンナの町 ◇◇


 午後5、マゴンに案内されて、サイシスは大師イルドラの常宿に到着した。

 その宿はルンナの街の北の問屋街の一角にあり、安くもなく高級でもない宿だったが、最上階には居間と寝室の2間続きの部屋を持つ、特別室があった。


 いつもは慈愛に満ちた青い瞳で、優しく微笑んでいる印象の大師イルドラだが、今夜は難しい顔をして椅子に座っていた。


「大師イルドラ様、工事が遅れてしまい申し訳ございません。なんとか2階と3階の一部が出来上がりました。いつでも見に来て頂いても構いません」


「ああそうか……それはご苦労だったな。で、2人揃って来たということは、20日にやって来る秘書官補佐の件だな?」


サイシスの少し浮かれた挨拶を、ああそうかで受け流し、大師イルドラはさっさと本題に入っていく。


「はい左様です。いつでも殺せる準備はしているのですが、手練れの警護と傭兵が減りまして、出来ればハキ神国軍から補充の人間をお借りしたいと思い、お願いに上がりました」


「今日軍から20人は確保した。闇ドゴルでも10人確保したので、なんとかなるだろう。しかし、レガート軍を甘くみると痛い目に遭うぞ。気を抜くな」


大師イルドラはテーブルの上に置かれたカップを、白く長い指で持ち上げ、ゆっくり優雅な動作でカップを傾けお茶を飲む。


「今回は絶対に失敗など許されない。オリ王子は国費を使うことなく、天才的な頭脳でロームズを手に入れ、レガート国の金で別邸まで建てたという筋書き通りにやるのだ。ところで、奇跡を起こした神母はどうした?」


カップをテーブルに戻し、ゆっくりと立ち上がると、2人の前にワインとグラスを置き、トクトクと音を立てて注いでゆく。


「はい、私の屋敷に捕らえてあります。……しかし……屋敷内で病人が出て、看護師として働かせています。本教会病院から来た薬剤師も一緒です」


サイシスは事実を伝えるべきかどうか迷い、マゴンに視線を向けながら話し、結局疫病という話は出さなかった。違っている可能性もあるのだから……


「あれは、ブルーノア教会が隠し続けている【聖女】かもしれない。必ず生かして……決して傷など付けずに連れてこい。ドリル様がお喜びになるだろう。いいな!」


「「は、はい、承知しました」」


大声で了承したサイシスとマゴンだが、正直生きた心地がしない。疫病であれば感染しているかもしれない。いや、生きているだろうかと心配になる。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

出張のため、次回の更新は遅れるかもしれません。

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