↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
祈りのうた

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/79

交錯する思惑

◇◇ ロームズ教会 ◇◇


 6月17日午前7時、ロームズ教会の集会所は、重苦しい空気に包まれていた。


「それで、ギルバート神父は何故嘘をついたのですか?」


教会警備隊リーダーのコウタは、少し怒気の隠った感じで上司であるモーリス(中位神父)ギルバートに詰め寄っていた。

 昨日の朝ギルバート神父は教会警備隊全員に、「街道の近くで揉め事が起こっていると知らせが入った。ロームズの警備隊はまだ来てないので様子を見てこい」と命令した。リーダーのコウタは全員が行くことは出来ないと断ったが、教会に居るのはレガート国の軍人ばかりだと言って、命令を断行させた。

 そして20分後に帰ってきたら、キアとシルビアが居なくなっていたのだ。


「嘘?私は神父だ。揉め事が起こったと聞いたのだ!それにケガ人が出たと聞いたのも本当だ!他の者は忙しそうだったから2人を連れていった。私はケガ人を探していたので、2人が馬車に乗せられたことなど知らない!私を疑っているのか!」


ギルバート神父は逆ギレして立ち上がると、鬼の形相でコウタに文句を言う。

 まさか統治官屋敷の馬車に、キアとシルビアが無理矢理乗せられているところを、レクスに見られていたとは思わなかったギルバート神父である。


「分かりました。全ては私の失態です。私はハビル正教会のシーバス様に、ロームズではフィリップ神父の指示に従うよう命令されていたにも拘わらず、フィリップ神父に確認を取りませんでした。申し訳ありませんでした。これから教会警備隊は、フィリップ神父の命令だけに従うことにします。ギルバート神父も同じように命令を受けられたはずですから、文句は無いと思います」


教会警備隊のコウタは、会議に出席していた全てのメンバーに深く頭を下げ陳謝した。幸運なことにレガート国のメンバーからは、大声での叱責や責任追求が無かったので、ギルバート神父は朝の祈りに行くと言って、集会所を出ていった。


「これで良かったでしょうかフィリップ様?」

「ああ上出来だコウタさん。嫌な役回りをさせてしまったな」

「いいえ、私の方こそ……まさかギルバート神父がキア様を裏切るとは……事前にキア様とイノさんに聞いていなかったら、反逆罪で捕らえてハビル正教会に連行するところでした」


元々コウタは、キアとシルビアが統治官屋敷に出向く予定であると知っていた。その上治安部隊のイノから、ギルバート神父が統治官屋敷のヒブロと会っていると報告も受けていた。

 そして、皆がギルバート神父に疑惑を持ったが、今回はわざと捕まった振りをして潜入すると、キアから説明されていたのである。


 コウタは他にも、キアから事前に指示を受けていた。

 ギルバート神父の行動を見張り、決して統治官屋敷の者と接触させないよう気を付けること。そして、大切な作戦をギルバート神父が知ることがないよう、会議中は近付けさせないように見張りをすることの2点で、フィリップ、シュノーを含めた4人で話し合っていた。




◇◇ 統治官屋敷 ◇◇


 午前8時、朝食時間になってもオールズは現れず、ヒブロは何も食べなかった。

 傭兵のテンパルは、体調が悪いので休ませて欲しいと届け出があった。

 人質達の病人食を作りに来た薬剤師によると、生意気な看護師のキアも起き上がれないらしいと、傭兵のビランから報告があった。


「いったいどうしたんだ?何故オールズは報告に来ない!」


サイシスは毎朝必ず行う朝礼に来ない事務官のオールズに、怒りを露にして叫ぶ。


「は、はい。私もオールズもテンパルも、昨日から腹の調子が悪いのです。夜中にもトイレに行くほどです。そう言えば、あの生意気な神母が、大変なことを言っていました。今月末にレガート王が、ミノス、マサキ、カイ領のギラ新教徒の貴族の爵位を剥奪する予定だとか……」


ヒブロはサイシスの怒鳴り声が腹に響き、立っているのも辛い状況の中、嫌な報告をしなければならないことに、いっそ自分も休みたいと思ってしまう。


「何だと!カイ領もか……まだギリギリ間に合う。直ぐに早馬で家族に知らせろ!全財産を持ってハキ神国へ来いと。いや、まだ我々がギラ新教徒だと知られたとは限らない。……しかし、用心は必要だ。ロッドに知らせねば……」


サイシスはぶつぶつ呟きながら、執務机の引き出しから紙と封筒を3通分取り出し、直ぐに手紙を書く準備をする。

 ヒブロはまた腹の調子が悪くなり、慌てて部屋を出ていった。



「サイシス様、レガートの森経由ですと料金も倍以上掛かりますが……遠回りですと間に合いません」


傭兵頭のマゴンは、冷静に判断しサイシスにアドバイスする。


「仕方ない。レガートの森の手前のルナの街まで、傭兵に馬で行かせろ。ルナのドゴルでレガート国へ向かう商団か冒険者に手紙を依頼しろ。金は出す」


サイシスは新たな問題の発生に顔をしかめながら、マゴンに指示を出した。

 家族を来月には呼び寄せる予定だったサイシスは、少し早まっただけだと思うことにし、カイ領のロッド・ヘイン・ドーター子爵に全てを任せることにし、急ぎ手紙を書き始めた。




 薬剤師シルビアの今日の見張りはリーダーのビランで、早朝から薬を煎じたり病人食を作ったりと忙しく働くシルビアを、感心しながら監視していた。


「あんたも忙しいなあ……神母はどうした?手伝わないのか?」


「神母様は、体調を崩されてお休みになっています。元々体が弱っていたのに、昨日は診察や掃除をされて、ご無理をされたのです。さあ、病人の薬が出来ました。運ぶのを手伝ってくださるかしら?」


「ああ、いいとも。ところで……あんたは結婚してるのか?」

「はい?嫌だわ……結婚してたら、こんな遠くに赴任して来ないわ」

「そ、そうか……」


ちょっと嬉しそうなビランは、シルビアのお願い作戦に乗せられ、よく働いてくれていた。もちろん朝から水瓶の水を変え、力自慢を見せびらかし、シルビアと一緒に食事を運び、「ありがとう」と言われる度にニヤケていた。

 腹をこわして休んでいるテンパルに代わり、2階の見張りを一緒にする仲間には、排泄物の処理や壁の入口の見張りをさせ、ベッタリとシルビアに付いて回っている。



 午前8時半、いかにも具合の悪そうな感じで、キア(イツキ)は自分達に充てがわれた町長達の隣の部屋から出てきた。

 これから診察と看病をするので、午前中は壁のドアに鍵を掛けて、見張りも要らないとビランに告げ、シルビアと2人で壁の中に入っていく。

 当然2つの部屋の鍵は開けたままにして貰う。


 先に町長達4人の診察をしたキアは、脱水症状が快方に向かっている様子に安堵の息を吐いた。

 しかし、統治官の容態は芳しくなかった。毒による中毒症状は、直ぐに好転するものではないのだ。キアは統治官の薬の種類を増やすことにし、早速昼食後から始めるようシルビアに指示を出した。


 午前9時教会の鐘が鳴ると、キアは突き当たりの小窓を開けて、朝の祈りを捧げ始める。同時に屋敷の裏の林で見張りをしている警備隊のエイコムに、右手を回して問題なしの合図を送った。

 考えてみれば、小窓とはいえ脱出も可能である。確かに下に見張りは3人居るが、それを倒し人質を降ろせれば良いようにも思える。しかし、事務長と警備隊隊長以外は体力的に無理である。そのためのロープも無い。


 今朝も少しだけ【金色のオーラ】を使い病人達を癒し、祈りの後は励ましの声を掛けながら、キアは体を拭いたりしていく。


 昼前になり、シルビアは病人の昼食の準備と薬を煎じるため、キッチンに向かった。当然ビランが付いてくる。

 その頃事務官のオールズは、薬剤師のシルビアから薬を貰うため、キッチンの椅子にぐったりと座って待っていた。


「まあオールズさん、大丈夫ですか?昨日から下痢してるんですね?今日はどうです?吐き気は有りますか?」

「いや、吐き気は無いよ……でも、ダルくてダルくて」

「それでは薬を出しますが、もしかして……他にも同じ症状の人が居ますか?」

「あぁ、ヒブロさんとテンパルが……」

「えっ!他にも居るんですか……す、すみません……ちょっと神母様に相談してきます」


途端にシルビアは凄く困ったというような顔をして、持っていた食材を床に落とし、慌てた感じで2階に戻っていった。

 偶然その様子を見ていた傭兵頭のマゴンは、何か起こったのかと思い、シルビアとビランの後を追って2階に上がっていった。

 シルビアはキアを一旦壁の外まで連れ出し、自分達に与えられた部屋に入ると、キアにある報告をしていた。


「大変です神母様、屋敷の者が3人も下痢をしています。やはり疫病なのではないですか?あんな劣悪な環境です。右側の部屋の4人は疫病にかかっていたのです」


「いいえシルビアさん、たまたま食材が傷んでいたのかもしれません。今日新たな患者が出なければ、疫病ではないと思います」


「でも神母様、神母様に何かあっては大変です。神母様だけでもロームズ教会に戻ってください。ここは、私が何とかします」


シルビアが必死にキアに頼んでいる声は、少し大き目だった。元々シルビアの声は大きかったので、こっそりと聞き耳を立てていたマゴンとビランの耳に、はっきりと聞こえていたのだった。




◇◇ 大師イルドラ ◇◇ 

 

 大師イルドラは、ハキ神国第1王子であるオリから、代理証なるものを発行させていた。それは公文書に使われる正式な用紙に書かれた、法務大臣の印とサインもある立派な証書だった。


【 この証書を持参した大師イルドラは、オリ王子の代理としての権限を持っている。よって如何なる要請にも応じなければならない。これは法務大臣が正式に発行した代理証である 】


 その証書を見せられたハキ神国軍ルンナ基地の大佐は迷っていた。

 聞いたことも見たこともない代理証なのだ。偽物では無さそうだが何処からも通達すら出ていなかった。

 2度の戦争の後、ハキ神国軍はまだ混乱が続いていた。多くの優秀な上官達を戦争で失い、形は成しているが指揮系統はバラバラだった。


 それもこれも、全てはバカ王子であるオリのせいだと、常識と王宮の非常事態を知っている軍人達は思っていた。

だから、これ以上バカ王子に振り回されたくないのが大佐の本心だった。


「それで、兵士を100人もロームズへ送るのですか?」

「そうだ、最低でも経験年数2年以上の兵士を50人は入れてくれ」

「あ~っ……それは不可能です。ご覧の通り現在ルンナに居るのは80人弱です。先週から本部の演習に150人が駆り出され、残っている80人の内半数は新人です。全員が行くことは出来ないので、半数の40人なら……しかし、軍の規定では最低でも60人は基地に居なければなりません」


大佐は迷惑そうな顔をして、現状を伝えるしかない。急に決まった本部の演習だって、バカ王子の命令なのだから。


「・・・それでは20人でいい。ただし剣や弓の使える者を用意してくれ。19日の早朝出発する」

「あのう、何のためにレガート国のロームズへ?」

「お前の立場で、それを知る必要はない。他言すれば死罪と覚悟せよ」


大師イルドラは脅すように言うと、さっさと基地を後にし、傭兵を雇うため闇ドゴルへと向かった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

次話から新章がスタートします。これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。