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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
祈りのうた

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反撃開始(2)

途中、食事中の方には、相応しくない表現が含まれています。

出来れば食事時間をお避けください。

 これまで何度も統治官を助けようとした事務官オールズは、この頑丈に作られた壁のような仕切りに侵入を阻まれてきた。

 元々無かったその仕切りは、天井まで隙間無く覆い尽くされ、一見すると行き止まりの壁である。その仕切りが壁でないと認識出来るのは、高さ1.5メートル幅80センチ程の小さなドアが右端にあるからだった。


 統治官様が急に体調を崩されてから、2日後に出来上がったことを考えると、始めから警備隊長をも含めた人質計画が、用意周到に練られたものだと分かり歯軋りした。

 しかし、逆らった(異議を唱えた)者を容赦なく斬り捨てられてからは、下手に動くことさえ出来なくなった。


 オールズは忌々しそうにそのドアの鍵を開ける傭兵を見ながら、もう何十日も見たことが無いその先の空間へと、サイシスと昼食をワゴンに載せて運ぶ傭兵に続き足を踏み入れる。

 踏み入れた空間の先の廊下には、左右に其々部屋があった。

 その2つの部屋の入口には、外から鍵が掛けられており、その鍵はサイシスだけが持っていた。1日に1度だけサイシス自ら鍵を開け、やつれてゆく人質達を見て満足し、傭兵に食事を与えさせる。


 始めに鍵を開けたのは右側の部屋だった。開けると同時にプ~ンと酷い臭いがした。

 その部屋に入って直ぐ、また目の前に衝立のような仕切りがしてあり、1枚だけ取手の付いた可動式の板があり、開閉出来るようになっていた。手前の空間は狭く、どうやら用をたす為に作られているようで、右側にバケツのような物が置いてありフタがしてあった。左側には手洗いや体を拭くため用だと思われる水瓶と桶が置いてある。


 サイシスは可動式の板を開けると「餌の時間だ」と横柄に言い、中に居る人質をグライスとオールズに見せた。


 開かれた先の空間は、窓を内側から板で塞いであるため光が射し込まず、風も通さないため熱気と悪臭が籠り、息をするのも苦しいくらいだった。

 熱鉱石ランプの薄暗い光に照された人物に目を凝らすと、そこに居たのは、町長、工場長、国境警備隊隊員、警備隊隊員の計4名で、統治官の姿は見当たらない。

 およそ10畳程の広さの室内に、全員が手枷を装着され、熱気の籠った部屋でうずくまるように転がっていた。


 オールズとグライスに気付くと、なんとか起き上がり助けてくれと懇願する。その声が誰のものなのかさえ分からないくらい、あまりの惨状にオールズもグライスも、脳がまともに作動できなかった。

 そこに居るのが誰で、生きている……いや、体は痩せ細り死ぬ寸前の状態であることは確認できた。


 傭兵は運んできた食事を仕切り板の前に置き、鼻を摘まみながらそそくさと部屋を出ていく。

 置かれた食事を見てオールズは驚いた。小さなパンが籠に4個と、具なんて殆ど入っていないスープがカップに半分だけである。

 何故だ?人質にはきちんとした食事を与えていたはず……こんな粗末な食事ではなく、きちんとした食事を人数分、賄いの女性が作っている。自分だって毎日人質と同じ食事を食べていたのに……傭兵達は屋敷の外で食べる決まりだ……では、手伝いの女性が毎日作っている料理は……あの料理は誰が食べているのか?


「せっかく食った旨い飯を、吐きたくなる臭さだ」


もう1つの部屋の前で、サイシスが鍵を開けるのを待っている傭兵が呟いた。

 俺は、俺は何を見ていた……いや俺は何も見たくなかった。だから、こんな大切なことを見落としていた。屋敷内の傭兵の数は5人。そして人質の数は7人……少し前まで9人だったが2人は何処かに移したとヒブロから聞いた。


 オールズは目の前にあるワゴンを睨むように見ると、食事の上に被せてあったフキンを慌てて取り去った。

 ワゴンの上には、2人分のきちんとした……いや2個有るはずのパンが1個だけの食事と、それとは別にパン1個とスープが載せてあった。


「さあ、お待ちかねの統治官に会わせてやろう」


サイシスはニヤニヤ笑いながら鍵を開ける。次の部屋の中も同じように衝立があり、トイレ代わりのバケツと水瓶と桶が置いてある。違うのは室内に外の光が少しだけ射し込んでいることと、風の流れを感じることだった。

 多少の臭いはあるが、先程の部屋よりかなりましだった。


「統治官様、ウルファー侯爵様!」


オールズは大きな声で主を呼びながら、衝立を開いていく。


 12畳程の広さの部屋の中にはベッドがあり、統治官が横になっていた。長椅子には疲れた表情の警備隊長と事務官が座っていた。 

 オールズは統治官の側に駆け寄り「大丈夫ですか侯爵様」と声を掛ける。

 統治官はうっすら目を開けたが、再び目を閉じてしまった。


「統治官様は、ここのところお食事も殆ど召し上がっておられない。このままではお命が危ない。オールズ、医者を呼んでくれ。お前からサイシス伯爵に頼んでくれ」


必死な顔でそう頼んできたのは、警備隊のタング隊長だった。


「やれやれ、医者など役に立たないと思いますよ。前に1度呼んだでしょう?でもまあ、皆を働かせる為には、死んでもらっては困りますから、看護師くらいなら呼んでもいいですよ。ハッハッハッ」


サイシスは機嫌良く高笑いしながら、部屋を出ていく。グライスもそれに続き、オールズは何度も振り返りながら部屋を出る。


「これで分かっただろう。まだ人質は生きている。今はな……。助けたければ、さっさと領主屋敷を完成させろ!そうしたら人質を解放してやる」


サイシスは再び鍵をかけ、オールズとグライスに向かって強い口調で命令する。

 2人は何も言い返すことなく、悔しさでギュッと手を握り締めた。オールズは強く唇を噛んだせいで、唇から血が流れている。


「グライスさん、町長も工場長も生きていました。明日から住民や隊員達も含め、工事を再開させてください。私は他の者などどうでもいいが、統治官様だけは助けたいので。工事が完了するまで、2度と屋敷に来ないでください!」


オールズはそう言い捨てて、1階にある自分の事務室に入ると、バタンと大きな音を立ててドアを閉めた。





 午後3時、ようやく統治官屋敷のサイシスの元に、シュノー部長が統治官代行に就任したという話が入ってきた。

 その話を持って来たのは、町の商人達だった。


「これからは、統治官代行様の承認が無ければ、支払って頂けないと聞きました。明日からも商品を納入するのでしょうか?」


この町で1番大きな食料品店ホームズを営んでいるソルさんの義父が、数人の店主を連れて、事務官であるオールズに訊きに来たのだ。


「なんだって!統治官代行?」


オールズは大袈裟に驚いた振りをしながら、店主達を部屋に待たせて、直ぐ様サイシスに報告しに行く。オールズの右手には、店主が役場で貰って来たという、掲示板に張り出された物と同じ内容が書かれた紙が握られていた。


「技術屋の分際で勝手なことを!構わん!どうせ此処にはもう金はない。そうだろうオールズ。これからは統治官代行に金を払って貰おう。これまで通りの手配ができるよう、お前が役場に行って承認を取ってこい。それより、奴等がこの屋敷に移って来るかどうかを探ってこい。分かっていると思うが、勝手な真似をすると統治官の命はないぞ!そうだ、もしも上手く承認させられたら、医者を、いや看護師を呼んでやろう」


サイシスはニヤリと薄気味悪く笑うと、さっさと行けとオールズを急かした。

 今のサイシスにとって重要なのは、自分の統治官代理としての権限より、オリ王子の別邸建設の方が優先事項だったのだ。たとえこの屋敷を追い出されても、別邸さえ完成すれば、そこに住むことも出来る。こちらには金はあるが、シュノーに渡す金など無い。

 たかが技術屋、地位が高くても人質が居る限り、警備隊も国境警備隊も自分に従うしかないのだ。結局統治官代行になっても、何も出来はしないという確信がサイシスにはあった。


「承知しました。私がなんとか話をつけてきます。どうせ奴等だって、私が居なければ事務処理なんて出来ないでしょうから。そうですね……面倒ですが、毎日午後だけ役場で仕事をしてきます。承認が取れたら、必ず看護師に統治官様を診せてください」 


オールズはいつものように面倒臭そうに言いながら、執務室を出ていった。


『なんてバカなんだ!全く現実を見ていない。まだ自分が支配者だと思っている』


 オールズは先程の統治官様の姿を思い出し再び強く拳を握ると、キア(イツキ)とフィリップ秘書官補佐に報告する為、急いで教会へと向かうことにした。


「如何でしたか事務官様?上手くいきましたでしょうか?」

「ああ上出来だ。私はこれから教会へ向かう。悪いがお前達はこれまで通り屋敷に納品を続けてくれ。必ず町長と工場長を無事に助け出す」


統治官屋敷を出て数分後、店主達のリーダーであるホームズが、後ろから走るように近付いて来たオールズに、キアの指示通りにことが運んだのかと尋ねた。オールズは笑顔で上出来だと答えて、怪しまれないよう店主達を追い越していく。





 6月11日午前8時、領主屋敷の工事現場には、住民100人と警備隊員10人、そして国境警備隊員20人と傭兵20人が集まっていた。

 ロイス少佐は満足した顔で、150人の作業員に今日の段取りを指示していく。

 これまでの24時間労働と違い、日中だけの作業に加え、毎日やってくる住民100人は、町の世話役と統治官代行のシュノーとの話し合いで選んだ住民500人が、1日だけ働けば良いと決め実行していた。


 もちろん、住民に対し暴力を振るおうとした傭兵は、直ぐに警備隊が連行していく。働きに来ていても警備隊としての仕事もこなしていた。

 当然ロイス少佐は、傭兵を連行しようとする警備隊員を止めようとしたが、「あれ、ロイス少佐は統治官代行様の指示に従えないのですか?それなら我々は貴方も捕らえることになります」と真顔で言われ、怒りの形相のまま渋々警備隊の好きにさせた。


「ロイス少佐、今は工事を完了することが優先です。住民を怒らせたら働きに来なくなりますよ。そうなれば、その責任は全て貴方が負うことになる」


今日も工事現場で、働きに来た住民達の名前を書かせたり、日当を払ったりの仕事で忙しい事務官のソンシブは、怒りを露にしているロイス少佐に忠告する。




 その頃、ロームズ教会では病人やケガ人が、ブルーノア本教会病院からやって来た医師に診察して貰おうと、長蛇の列を作っていた。

 それに合わせて、ギルバート神父やハモンド神父も手伝いをしていた。

 フィリップ、ドグ、ガルロの3人は、毎日山に狩りに出掛け、レクスはシュノー部長の事務処理を手伝う為に、町役場で働いていた。

 ヤマギは本隊15人と、工事現場で働いていないロームズ国境警備隊員と、技術開発部の2人を連れ、いつものようにハキ神国との国境付近で、あれこれと作業をしていた。

 治安部隊のルドとイノはサイシスとヒブロの監視をしていた。


 キア(イツキ)はというと、午前中は集会所で薬草を煎じたり湿布を作ったりと裏方をしながら、出来るだけ表には出なかった。午後からは町長の弟のエイドと一緒に、現在建設中の屋敷を、レガート国立医学大学にするための図面を作ったり、寮や実習棟の建設計画を立てていた。




◇◇ ギラ新教本部 ◇◇


 6月11日夜、途中の大雨で思ったより時間が掛かったが、傭兵頭のマゴンはハキ神国の首都シバに到着した。

 ギラ新教の本部は、王宮から馬車で20分の所にあり、マゴンは直ぐに大師イルドラ様との面会を希望したが、今夜は外出されており、明日の朝もう1度出直すことにした。


 翌12日の朝、マゴンは大師イルドラ様に面会し、ロームズの状況を説明した。


「それでは、20日に本国から秘書官補佐が来るのだな?それについて、サイシスはどんな手を打っている?」


大師イルドラは執務室の革張りのソファーにゆったりと座り、稀少な茶葉を使ったお茶を優雅に飲みながらマゴンに訊ねた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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