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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
祈りのうた

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ロームズへの旅立ち

◇◇ レガート城(ハキル視点)◇◇


6月3日午前、俺は再びレガート城に呼び出されていた。


 昨日、思いもよらぬ展開でサイリス(ハビテ)様と旧友パル院長と登城したが、詳しい説明はされないまま宿に戻った。

 イツキ君という少年からの手紙で、王も秘書官もサイリス様も右往左往するなんて……いったいどうなっているのだろうか?用件については曖昧な返答をされ、ただ、ロームズに行って貰うことになりそうだと言われた。


 元々自分はレガート国立病院建設の指揮を執ることに、戸惑いがあった。自分は教育者であり医者である。建築や病院運営等は専門外だったのだ。

 それでも現場(イントラ連合高学院病院)で長いこと働いてきた実績を評価され、尊敬するバルファー王から、お前の他に適任者など居ないだろうと言われれば、確かにそうかも知れないと思い直し、引き受けることにしたのだ。


 それなのにロームズへ行く?……何故?……そう疑問に思いながら、俺は王の執務室のドアを開けた。


「おはようハキル、今日は大事な話があって来て貰った。これから君に王命を下す」


王の執務室に入るなり、挨拶もそこそこに王様からとんでもないことを聞いた。

 王の隣には、いつものようにエントン秘書官が一緒に居て、複雑な表情で……いや昨日に比べたら、何か吹っ切れたような表情で座って俺を見ていた。


「王命ですか?先日頂いたばかりですが……」

「ハキル様、王命をお受けください」


 戸惑う俺に向かって、秘書官がハッキリと命令口調で王命を受けろと言う。

 俺は王様から王命を受ける為、正式な礼をとり不安に思いながらも深く頭を下げた。



「ハキル・クレマンス、レガート国の飛び地であるロームズに建設中の、レガート国立医学大学の学長として就任することを命じる。必要に応じてハキル・ジ・レガートを名乗ることを許す。また、領主を助け共に医学大学建設と開校に尽力せよ」


バルファー王は嬉しそうに王命を読み上げた。

 バルファー王は、ハキルが教授として教鞭を執ることこそが、生き甲斐なのだと知っていた。だから、イツキの手紙を読んだ時は大いに驚き、これ以上の人選はないだろうと納得した。


「…………」


「どうした?不服なのか?」


バルファー王は王命書を受け取ろうとしない俺を見て、少し不安気な表情をする。


「いいえ、いいえ……驚き過ぎて……ありがとうございます。喜んでお受けいたします」



 俺は夢を見ているのだろうか?いや違う。これは現実だ!……でも、何故ロームズなんだ?確か昨日ロームズは、ハキ神国に事実上乗っ取られていると言ってなかったか?



 戸惑う俺に座るよう促し、バルファー王とエントン秘書官は、これから少し長い話をすると言う。

 よく見ると、2人とも寝不足なのか目の下にくまが……それに服装が昨日と同じだ。どうやら徹夜で会議をしていたようだ。


 その長い話は、15年前のギラ新教についての説明から始まった。

 次に上級学校のイツキという少年が、9歳で軍学校の先生をしていたこと、2度の戦争を終局に導く手伝いをしてくれたこと、レガート国の為に武器を開発し、現在はロームズの危機を救うために、学校を休んで現地にいっているのだと話した。

 正直俺には、全く信じられない話の内容だった。だって彼は学生で、しかも成人だってしていないじゃないか?


 だが俺は、ロームズの危機的状況の中で、敵の……いやハキ神国の王子が建てている屋敷を、レガート国立医学大学にしたいと考えたイツキ君に、大きく心惹かれた。

 聞けばイツキ君は、13歳にしてブルーノア本教会病院発行の、医師資格と薬剤師資格を取得した天才らしい。そう言えばパル院長が、自分が勉強を教えたと言っていた……


「そんな特別な逸材であるイツキ君は、どうして危険なロームズに行っているのでしょう?学校は?……14歳で成人もしていない学生の彼を、王様がロームズに行かせたのですか?」


急に2度の戦争を終局に導く手伝いをしたとか言われても、長くイントラ連合国に居た俺には、ピンと来ない話なのだ。


「そうではない。彼は自分の使命に従って動いているのだ。しかし、彼のお陰で、このレガート国が助けられていることは間違いない。王として俺は、何度頭を下げても足らないくらいだ」


「う~ん、今ひとつ理解できませんが……彼の使命とは何なのでしょうか?そして、お2人がそこまで気に掛けるのは、彼が稀に見る天才で、レガート国にとって役立つ人材だからですか?」


俺は大事な何かを聞いていない気がして、イツキ君と2人の関係を訊いてみた。


「そうだな、ここからまた長い物語を聞いて貰うことになる。イツキ君の生い立ちと、彼の背負っている使命について……」


王様はエントン秘書官の方を見て頷き合うと、本当に長い物語を話し始めた。




 城からの帰り道、俺は人の運命について考えた。

 これまで俺は、散々己の運命について考えてきた。親は聖君であった前王を暗殺し偽王となり、結局酷く苦しみ病死した。兄もクーデターを企て次期国王になろうとし、結局成れなかった。

 俺は父親と兄を憎み、祖国に帰ることを拒み続けた。そして、なんて俺は不幸な星の元に生まれたのだろう……と、運命を恨んだ。


『恥ずかしい……』


 俺は生まれて初めて、自分が誰よりも幸せなのだと知ることが出来た。

 誰にも束縛されず、好きな医学に打ち込み、成りたかった教授にも成れた。


 全ては嫌な現実から逃げていただけなのだと、心から気付かされた。ただ逃げて逃げて殻に閉じ籠もり、自分の祖国のことなど考えもしなかった。

 2度の戦争だって他人事、薬剤不足のことも初めて知った。ロームズがハキ神国に乗っ取られようと、俺には関係の無いことだと思っていた。


 俺は自分の運命について考えたことはあっても、自分に与えられた責務について考えたことなど無かった。自分に課せられた使命が有るか?なんて……考えようともしなかった。

 俺はレガート王家に生まれたのに、王族としてレガート国の民の為に、何一つ成してもいない……


 俺は親兄弟の罪も背負わず、バルファー王に甘えて好きな学問の道だけを見てきた。それが自分に与えられた道なのだと言い聞かせて。


『恥ずかしい……同じ王家の血が流れているというのに……自分の生まれた意味を省みなかった……』


 決して王子だと認めないというイツキ君を、守るのではなく応援する。そして皇太子であるべき息子が負った使命を、果たせるように協力する……王様と秘書官は泣きながらそう言った。



 俺に出来るだろうか?いや出来るはずだ!

 お前はリース(聖人)様に、名指しで任命されたのだと王様は言われた。

 リース様であるイツキ君が、これからはレガート国の為に、ランドル大陸全ての人の為に、医学を志す若者を導くために命を懸けよと……使命を与えてくださったのだ。


 俺は込み上げてくる熱い思いに打ち震えながら、零れる涙を拭くこともなく、明日のロームズへの旅立ちを告げる為、親友であるパル院長の元へと急いだ。




◇  ◇  ◇


 6月6日、ハキ神国の街ルンナで建設資材を調達していたヒブロは焦っていた。

 予定していた資材が調達出来ず、とうとう第1王子オリ様の名前を使ってしまった……それでもやっと目標の3分の1の資材しか調達できていない。

 こうなったら木材は山から伐り出すしかない。しかし乾燥したり処理をするための職人が必要となる。


 あれこれと思案を巡らすが、これと言った解決策が思い浮かばない。強いて言えば1つだけ方法がある。それは本国レガートに戻り、自分やサイシスの屋敷があるカイ領に行けば、ふんだんに資材が調達出来るという方法だった。

 ヒブロもサイシスも、自分達の長年住んでいたカイの街が、木材と鉱石の産地だったので、他所でも同じように資材が調達出来るものだと甘く考えていた。

 その結果、注文さえすれば資材など直ぐに届くと見誤り、出来もしない計画で屋敷の建設を推し進めてきたのだ。


「は~っ……どうしたらいいんだ……9日までに帰ってサイシス様に伝えねばならないことがある。いや、もしかしたら技術開発部の奴等が、サイシス様にもう伝えたかもしれない。10日までに統治官とサイシス様が教会まで挨拶に行かなければ、シュノー部長が統治官に代わりロームズを統治すると……は~っ」


ヒブロは何度もため息をつきながら、川沿いの問屋街の一角にある食堂で、遅い昼食を食べながら独り言を呟いた。

 同じ店の奥のテーブルで、同じように昼食を食べている、【治安部隊】のルドが様子を窺っていることなど、全く気付いていないヒブロである。

 これ以上問屋を回っても、資材は調達出来ないだろう。サイシス様には真実を伝えるしかない。どれ程叱責されようと、無理なものは無理なのだと言うしかない。

 決心を決めたヒブロは、調達できた資材を運んでくれる業者を探すため店を出た。


ルドは一定の距離を取りながら、ヒブロの尾行を続けていく。もしやヒブロがギラ新教の誰か、又はハキ神国のオリ王子の側近と会うのではないかと見張ってきたが、これまでそんな人物とは会っていなかった

 尾行して分かったが、ヒブロはハキ神国語が全く話せない。そもそもカルート語だって中級学校の学生以下のレベルだった。しかも、雇った通訳がいい加減な奴だった。

ルドは改めて感じた。ギラ新教が洗脳する貴族のレベルの低さを……それでもヤマノ侯爵暗殺や、リバード王子毒殺計画のように、頭の切れる奴が居ることも確かだ……決して気は抜けない。

 無能だからこそ常識が通用しないこともある……ルドは自分を戒めながら、根気強くヒブロを見張り続ける。


 6月7日早朝、ヒブロは建設資材を積んだ荷馬車5台と一緒に、ロームズの町へ向け出発した。





◇  ◇  ◇


 6月7日午後4時、ハビル正教会ファリス(高位神父)のシーバス様の元に、レガート王バルファーからハヤマ(通信鳥)便が届いた。

 今朝早く、イツキのハヤマ(通信鳥)のミムが、ロームズ教会からハビル正教会まで飛んできていた。

 届いた手紙には封がしてあった為,シーバス様はそのまま手紙を、ミムの足に取り付けられている小さな通信箱に入れた。そしてイツキの待つロームズ教会へ向けてミムを空に飛ばした。



 ミムがロームズ教会に戻って来たのは、手伝いのソルさんが夕食の準備を終えた午後5時半頃だった。

 ミムは教会の庭の大きな木にとまり、美しいブルーの羽をたたむと、元気よくピーピーポーと嬉しそうに鳴いた。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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