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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
祈りのうた

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閑話 奇跡体験

初めて閑話を書いてみました。良かったら読んでみてください。

前話の続きも早めに更新します。

◇警備隊ボグ中尉◇


 俺の心は、地獄から天国へと舞い上がった。


 昨夜、部下であるセブルとエイコムから、明日の朝一緒に教会まで来て欲しいと頭を下げられた時は、面倒くさいと思ったが「教会には素晴らしい神母様がいらっしゃるので、どうか話を聞いてください。教会の人々は我らの味方です」と熱く語るので、もう1人のサブリーダーであるシードルフを連れて、渋々行くことにした。


 尊敬する警備隊長が人質に取られてから、我らはずっと傭兵に従うしかない、悔しいけどどうすることも出来ない屈辱の日々を送ってきた。

 だが、遣る気の無かったセブルとエイコムの2人が、27日から急に遣る気を出し、傭兵を無視して教会の手伝いを始めた。

 聴けば役場に居た傭兵は28日から来なくなったと言う…………それが神母様のお陰なのだと説明したのだ。

 本当にそんなことがあるのだろうかと疑問に思ったが、2人は28日から堂々と教会の治療の手伝いに行っていた。


 他の隊員が聞いたところに依ると、その神母様はとても可愛いらしい。

 まあ……住民のために活動するのは、警備隊として当然のことだから、文句を言わず好きなように遣らせておいた。

 そんな可愛い神母様目当てで働いていた2人から、慰霊祭の打合せに教会に来て欲しいと頼まれたが、正直敬虔な信者でもない俺は、ため息しか出なかった。


 が、しかし、教会には信じられない人が居たのだ。


 そこには警備隊の上官であり、ずっと憧れていた雲上の人【王の目】を指揮するフィリップ秘書官補佐様が、半端ない存在感と高貴なオーラを放ちながら、悠然と座っておられた。

 俺は嬉しさのあまり、感動を通り越して泣きそうになったが、ググッと堪えた。

 ロームズは最悪の奴等に占拠され、俺を含めた警備隊の部下たちも、既に気力が限界に達していた。そんな絶望的な状況の中、まるで神様が降臨されたかの如く、フィリップ様が姿を現されたのだった。


 そして、ロームズを【ギラ新教徒】から奪還するために来たと説明された。

 俺の心は喜びで震え、憧れの秘書官補佐の指揮下で働けることを、神に感謝した。


 なのに、総指揮を執るのが14歳の神母だと言う。

 何故だ?なんでこんな小娘……いや、教会の人間に従わねばならないのだ!

 俺は怒りにも似た感情で神母をチラリと見た。

 だが秘書官補佐は、この少女(神母)に全幅の信頼を寄せていると言われた……きっと秘書官補佐は、強大なブルーノア教会の力と権力の前で、従わざるを得なかったのだ。

 王様が全指揮権をこの少女(神母)に与えたのだって、教会のごり押しに違いない。



 俺は納得出来ないまま、剣も握れないような神母が言い出した、剣の練習試合に出場することになった。

 突然剣の練習試合をするなど、どこまで我が儘なんだ!……しかも剣聖と名高い秘書官補佐を相手に選ぶとは……段々腹がたってきた。

 本来フィリップ様は、お前のような小娘の剣の練習相手をされるようなお方ではないのだ!身の程知らずもここまで来ると、笑って済まされないレベルだ。



 1時間後、俺は信じられない光景を見た。


 なんなんだこの剣さばきは?まるで舞うように(ワンピースの裾もヒラヒラしているが)剣を振るったかと思うと、今度は激しく打ち合う。絶妙な間合いでヒラリとかわした後は、目に見えぬ速さで斬り込んでくる。


 なんだこの娘は?いや神母は?本当にただの神母なのか?

 ちょっと待て……秘書官補佐は「ただの神母様ではない。教会での身分は言えない」……と言っておられたではないか……もしや見掛けは少女だが、ブルーノア教会が誇る武術の天才、伝説のマーサ様と同じように、武術を極められる《印》の能力者なのかもしれない……きっとそうだ!


 なんてことだ!俺は見掛けで判断し、王様やフィリップ様の采配を信じられなかった。

 だめ押しで聞いたレクス少尉の、体術も勝ったことがないと言う話で、俺の考えは確信に変わった。


 ブルーノア教会の武神!恐るべし……


 俺は神母様を、これからは武神様とお呼びすることにする。いや、心の中でだ……



 そして午後、俺は部下のエイコムを連れて慰霊祭の為に墓地にやって来た。

 どうやら慰霊祭で祈りを捧げられるのは、武神様らしい。

 祈りも捧げられる武神様なんだ……まあ神母様なんだから祈りも捧げられて当たり前なのかな?でも、慰霊祭の祈りを少女のような武神様が捧げられると知って、住民たちは不満に思わないだろうか?

 どう見ても有り得ないくらいに若い神母様だ。文句を言う者が出るかもしれない。

 これはなんとしてもお守りしなければ。いくら武神様でも2千人近い住民に囲まれたら、逃げることは出来ないだろう。


 だが、俺の不安をものともせず、武神様(キア)は住民に向かって笑顔で話を始められた。

 住民達は、武神様が祈りを捧げられると知り、戸惑いはあったようだが「私はリーバ(天聖)様から、ロームズに行って神の子達を勇気付けてこいと言われました」という言葉を聞き、皆は歓喜し静かに祈りが始まるのを待った。

 そう言えばセブルの奴が、ロームズの住民はランドル大陸の中で、最も敬虔なブルーノア教の信者ですと言っていた。

 成る程……長いこと教会での祈りを禁じられていた上、本来なら終えているはずの慰霊祭を行えずにいたのだ。神父様だろうと神母様だろうと、住民には関係ないのかもしれない。



 そして祈りが始まった。

 この世のものとは思えないような、透き通る美しい声で……


 祈りが始まってから5分、俺は泣いていた。

 悲しいのでもなく、涙を流したい訳でもない。でも涙が止まらない……何故だ?

 涙でぼやけた瞳で周りの様子を窺うと、皆が涙を流しているようだった。墓地のあちらこちらから、鼻を啜る音が聞こえてくる。

 そしてその数分後、今度は何処からともなく、何か……花の匂いのような香りが漂い始めた。

 鼻水が出ているのにも拘わらず、その香りは次第に強くなり、柔らかな香りは爽やかな香りへと変化した。


 武神様の祈りは続いていた。澄み渡る空気の中、墓地に居る全ての者に聞こえるよう響いていた。


 ああ、これは間違いなく花の香りだろうと思った瞬間、その香りは、一気に華やかな香りへと変わった。

 それと同時に、武神様の祈りも終わっていた。


 俺はゆっくりと目を開ける。そして制服の袖口で涙を拭う。

 そこには信じられない光景が、奇跡の光景が広がっていた。硬い蕾だったハギシロの花が一斉に咲き、墓地を真っ白の花の壁で取り囲んでいた。


 何処からか「ケガが治った!」「動かなかった腕が動くぞ!」「歩けない程痛かった足の痛みがない!」「奇跡だ!」「再び神は奇跡を起こされた!」腰の痛みが……、首の痛みが……と、住民達が一斉に声を上げ始める。俺の体も、信じられない程軽い。 

 これは……なんだ?どういうことだ?



「これまでよく耐えました。神はロームズの民に祝福を与えてくださいました。白い花は祝福のしるし。私はロームズを心から愛しています」


武神様のその声は、まるで頭の中に直接語り掛けて来るようだった。


 俺は初めて奇跡を体験した!奇跡なんて本来体験できるものではない。もしも体験出来たら、それは末代まで語り継がれる自慢話だ。

 あまりにも強烈な奇跡の現象に、俺は言葉を失い満開の花をぼんやりと見ていた。

 すると、何処からか無数の美しい蝶が飛んできた。俺は頭上で乱舞している美しい蝶達に目を奪われた。

 ゆっくりと蝶達はハギシロの白い花にとまっていく。その光景は、まるで色とりどりの花が咲き乱れているようだった。


 キア様……武神様なんて呼んですみません……こんなに美しい奇跡の光景を見せて頂き、ありがとうございます。

 キア様、貴女様はいったい……何者なのですか?奇跡の人……?まさか……?


「あっ!」俺は仕事中だったことを思い出した。

 慌ててそこに居るはずのキア様を見る……見る……?……えっ?居ない!

 キョロキョロと探していると、エイコムと目が合った。そして2人で青くなった。




 俺とエイコムは、走って走って教会に戻った。が、しかし、そこにキア様の姿は無かった。

 俺達は再び墓地に向かって走り始める。だが墓地と教会を繋ぐ道で、キア様、ハモンド神父、グライスさん他、教会を共に出発した仲間の姿を見付けることが出来なかった。

 もしかしたら、違う道を回って帰られたのかも知れない。そう思って2手に分かれて探し回った。


 夕方、俺は結局キア様を見付けられないまま教会に戻ってきた。

 そして俺は、心臓が止まりそうになる程ショックを受けた。


 キア様は意識を無くし、真っ青な顔で倒れられていたのだ。体温も信じられないくらい低く、呼吸数も心拍数も少なかった……

 なんてことだ!俺は、俺はキア様を守れなかった。

 当然ながら、技術開発部のシュノー部長からこってり絞られた。


 俺はどんなに叱られてもいい。罵倒されようと殴られようと平気だ。でも、どうか神様、キア様をお助けください。これから敬虔なブルーノア教の信者になります。この命と引き換えにしても、キア様をお助けください。

 俺はエイコム、セブル、シードルフと一緒に礼拝堂で神に祈った。生まれて初めて本気で祈った。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

妙なタイミングで閑話を入れてしまいました。

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