届いた知らせ
6月2日、キアが目を覚まし皆の報告を受けていた頃、統治官屋敷ではサイシスが傭兵頭のマゴンから、3つの報告を受けていた。
(1)先日の慰霊祭の時に、墓地で神母が奇跡を起こしたこと。
(2)その後のロームズ教会の様子
(3)技術開発部部長の目的と、国境警備隊がしている仕事内容が判明したこと
「なんだと!神母が奇跡を起こしただと!?」
「はいサイシス様。およそ2千人の住民が奇跡を体験し、ケガが治ったり疲れが取れたそうです。傭兵も数人墓地に居ましたが、体調が良くなったようです」
マゴンは困ったことになったという表情で、キアの起こした奇跡について話す。
ただ、マゴンの情報の中にはハギシロの花が咲いたことや、蝶が乱舞したこと、その場に居た全ての者が涙を流したこと等は入っていなかった。
それは奇跡を体験した傭兵達が、心から感動し心が洗われたからであり、神母様に危害を加えたくないという気持ちから、報告しなかったのである。
「生意気な女め!奇跡など一時のまやかしに過ぎぬ。だが……奴隷ども(住民達)は信じるかも知れない。それは危険なことだ。このロームズはギラ新教の町になるのだからな」
サイシスは憎々し気に顔を歪め、キアの顔を思い出し腹が立ってくる。
「如何いたしますか?」
「邪魔な存在には消えて貰うしかない。ヒブロが建設資材を持って戻ってきたら、アイツに消させる。たいした役にも立たないが、女1人くらいなら殺せるだろう」
「承知しました」
次にマゴンはロームズ教会の活動について報告する。
「ロームズ教会に居る神父3人の内2人は、こちらが聞いていた通り、連日魔獣の調査をしております。もう1人の神父は普通に住民達と祈り、相談に乗ったりしているようで、こちらに歯向かう様子はありません。……神母の方は、あの慰霊祭以降……意識不明で眠ったままのようです」
「フン!そのまま死んでくれれば手間が省けるな。教会は暫く放っておけ。今は人手が足りない。余分な傭兵は屋敷の工事をさせろ!役場に居る奴も町の見廻りをしている奴も工事に回せ!」
「承知しました。では警備隊と国境警備隊を見張っていた傭兵の人数も減らし、早速工事に当たらせます」
マゴンが最後に報告したのは、技術開発部と国境警備隊の目的と、武器等の重要情報についてだった。
この報告を最後に持ってきたのは、サイシスの機嫌を考えてのことである。
「本日、とても重要かつ有益な情報を入手いたしました」
「重要だと……?では、技術開発部の目的が分かったのか?」
「はい、サイシス様。それと武器についても……」
「なんだと!どうやって掴んだのだ?」
サイシスは急に椅子から立ち上がり、先程までとは違い歓喜の表情でマゴンを見た。
マゴンはゆっくりと、情報入手の方法を語っていく。
その内容はサイシスが驚くような方法で、以下のような内容だった。
ハキ神国との国境近くにある丘で、毎日国境警備隊と技術開発部の連中が、こそこそと何かをしていた。
見張らせていた傭兵によると、丘を10メートル程登った場所で何かを調査しており、情報を探るため中腹にある公園で様子を窺っていた。
すると驚いたことに、かなり下に居るはずの奴等(技術開発部と国境警備隊)の会話が、急に聞こえてきたようです。
その内容というのが、信じられない程重要な、レガート軍、いえ、レガート国の重要機密事項だったのです。
内容は大きく分けて3つあり、その何れもが、大師イルドラ様やオリ王子を喜ばせるに足りる内容でした。
1つ目は、街道とロームズの町の間にある盛り土6キロを、自然の要塞として整備し直すこと。
2つ目は、東側のカルート国との国境から延びている林を、開墾して農地にすること。それに伴い、ランドル山脈からハキ神国側の竹藪を通って用水路を掘ること。
3つ目は、技術開発部が運んできたのは投石機であり、それはハキ神国軍の物と違い、飛距離が最高で70メートルしかないこと。その投石機の設置をするのが、調査をしていた丘の、高さ10メートル付近であること。
「なんだと!投石機?レガート国も投石機を作ったのか?」
「はい、その様です。しかし、確かハキ神国軍の投石機の飛距離は100メートルだったと思います」
「取るに足りない武器でも、情報は必要だ」
「はいサイシス様。そこで、何も気付かなかった振りをして、奴等に投石機を設置させては如何でしょうか?そうすれば情報も入手できますし、奴等が居なくなってから壊せば問題ないかと」
マゴンはニヤリと笑いながら、これ以上の情報は無いだろうと確信する。そして、提案する振りをして自分の意見に従わせようと誘導する。
マゴンにとって大切なのはサイシスではなく、ギラ新教であり大師イルドラなのだ。
「そうだな、こそこそ探るより手間も省けるし、人手を全て屋敷の工事に回せる。しかし、この情報は間違いないのか」
「はい、実は今朝早く、私が直々に部下を連れ、会話が聞こえた謎を検証しました。奴等が会話していた場所は谷間のかなり下の方で、谷は公園の直ぐ側から下に続いていたのです。部下に下で話をさせたところ、本当に話し声が聞こえてきました。奴等はそのことに気付いていないはずです」
マゴンは抜かりなく検証までしていた。さすが大師イルドラが信用して送り込んできた人物である。
しかしこの後、彼の優秀さが裏目に出ることになる。それにマゴンが気付くことは無いのかもしれない。
◇ ◇ ◇
6月2日夕刻、イツキからの手紙がレガート国の王都ラミルにある、ラミル正教会にハヤマ便で届いた。
その時サイリスのハビテは、ラミル正教会病院の院長パル、パル院長の旧友でありレガート王バルファーの従兄弟である、ハキル・クレマンスと会談中だった。
ハキルはバルファー王から、レガート国立病院の建設の責任者に任命されていた。
ハビテと会談していたのは、イツキの発明した特産品の利益の4分の1が、病院建設に充てられことについて相談する為だった。
イツキからの知らせを見たハビテは迷った。
本来なら直ぐにバルファー王に手紙を届けねばならない。しかし手紙の内容が、この場に居るハキルに関係していたのだ。ハビテは暫し考えて2人に切り出した。
「2人にお願いがある。これからバルファー王に面会に行くが、2人も同席して欲しい……どうだろうか?」
「サイリス様、それは火急の用なのでしょうか?」
「そうだパル院長、イツキ君から至急の手紙が届いた。その内容がレガート国立病院の建設にも関係している」
ハビテの話を聞いたパルとハキルは、何事だろうかと互いに顔を見合わせる。
「イツキ君ですか?彼はレガート国の飛び地ロームズに行っていたはずでは?」
「そのイツキ君から、驚きの手紙が届いたんだ。とにかく急いで城に行くぞ!」
パルとハキルは訳も分からないまま、ハビテと一緒に急いで教会の馬車に乗った。
この時ハキルは、イツキは上級学校の学生であり天才発明家だと聞かされていた。ただ、イツキは教会の養い子なので、発明に関わるお金に興味がないのだとも説明されていた。
レガート城に到着した3人は、直ぐに王の執務室に案内された。
本来なら謁見の間で会うところであるが、火急の知らせの場合はその限りではない。
王の執務室には、偶然秘書官であるエントンも居た。
入室してきたサイリス様に対し、王とエントンは正式な礼をとった。
「これはお揃いで……と言うか、レガート国立病院の計画に、火急の大事でも起こりましたかな?」
エントンは3人のメンバーを見ながら、1番目上のサイリス様であるハビテに質問する。
「はい、その件も関係している内容で、ロームズのイツキ君からハヤマ便が届きました」
「「イツキ君から?」」
バルファー王とエントンは見事にハモりながら、イツキの名前に直ぐ反応する。
そしてハビテは、イツキから届いた短い文章の小さな手紙を、バルファー王に手渡した。
2人は争うようにその手紙を覗き込むと「「なんだと!」」と怒りの声を上げた。
バルファー王 様
ロームズに建設中のハキ神国オリ王子の別邸を、レガート国立医学大学にしたいと思います。学長としてハキル様を至急招喚ください。統治官・警備隊隊長他、幽閉又は殺害の疑いあり。新統治官、警備隊の派遣をお願いします。 イツキ
「王様、ロームズに勝手に建設していた屋敷は、オリ王子の別邸だと書いてあります!」
「ウム……しかも、統治官だけでなく、警備隊長や他の者まで幽閉か殺害されているとは……これは、ハキ神国に事実上乗っ取られているということだ。イツキ君は大丈夫だろうか?」
バルファー王もエントン秘書官も、たちまち顔色が悪くなる。愛する息子と甥が心配になってきたのだ。
「ハキル、この手紙を読んだのか?」
「いいえ王様、サイリス様以外、誰も読んでおりません」
急に自分に話を振られたハキルは、何のことだか、何故自分が此処に居る必要があるのかさえ分からなかった。
少し落ち着いてきたバルファー王は、フーッと深く息を吐きサイリス様の方を見て質問する。
「イツキ君は何故、ハキルのことを知っていたのでしょうか?」
「王様、その問いには私がお答えしましょう。私がイツキ君に医学・薬学の勉強を教え始めたのは、彼が4歳の時からでした。私が学んだ全ての知識を身に付けたのは9歳の時です。その合間に、私はよくイントラ高学院の話をしました。そして良き友でありライバルであったハキルの……ハキル様のことを話題にしていたのです」
バルファー王がハビテにした問いに答えたのは、イツキの医学の師であるパル院長だった。
「では、イツキ君はハキルの身分を知っているのだろうか?」
「いいえ王様、私の口から言った覚えはありません」
「王様、パル院長、イツキは軍学校で教師をしていたのです。内乱の時の話は軍学校で知ったはずです。イツキの記憶力は普通ではありませんし、イツキなら、パル院長と軍学校で知った情報を照らし合わせて、ハキル様がパル院長の友人で、王様の従兄弟であると分かったはずです」
ハビテは王とパル院長の話に割って入り、自分の考えを伝えた。それを聞いた2人は『成る程、イツキ君ならそうかも知れない』と、さらっと納得してしまう。
「皆さん……私には話が全く見えないのですが……イツキ君って、上級学校の学生で、レガート国立病院の為に発明品を作ってくれた少年のことですよね?」
ハキルは自分だけが置いていかれている会話の中に、どう自分が関わっているのか、さっぱり理解できなかった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
お陰さまで、ようやくキーボードに繋がりました。
これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。




