それぞれの活動
6月2日午後、ほぼ2日眠り続けてキアはようやく目を覚ました。
世話焼き教え子のハモンドと、心配性の義理の兄的シュノー部長が、どこか痛くないか?だの、苦しくないか?だの聴きながら甲斐甲斐しく世話をやく。
そしてハモンドは、教会でお手伝いをしてくれているソルさんに、しっかり煮込んだ軟らかいスープを作って欲しいと頼んだ。
「ご心配をお掛けしました。まさか2日も寝ていたとは……」
「本当に心配したよ!これじゃあ何のために僕が来たのか分からない。無茶させないようネリー(妻)に約束したのに」
シュノーは王都ラミルを発つ時、イツキにとって姉同様である妻ネリーに、決してイツキが無理をしないように注意すると約束していた。
「シュノー、キアさんは教会の仕事で来ているんだ。分かるよな、この意味が?」
「分かっているさ……そう言うフィリップ、お前こそ、1番心配していたじゃないか!」
「すみません……もう無茶はしないと約束します」
自分のせいで言い争う2人を見て、何だか嬉しそうに微笑みながら、キアはもう1度深く頭を下げた。
「キアさんが目覚めたって本当ですか?」
執務室に駆け込んで来たのは、護衛担当のエイコムだった。
キアが墓地で倒れてからというもの食事も喉を通らず、教会警備隊の者に心配される程、憔悴していたのである。
「キアさ~ん……ウッ、良かった。本当に良かった……ウグッ」
喜びのあまり泣き出すエイコムに、フィリップとハモンドはやれやれといった顔で、は~っと息を吐く。シュノーは思わず貰い泣きしている。
キアが目覚めた時、教会に残っていたのは、この4人と教会関係者だけだった。他の者は各々の任務に就いており、フィリップとシュノーは、これからの作戦会議をしていた。
キアはフィリップに支えられながら、ゆっくりと起き上がり執務室のソファーに座る。まだ体に思うように力が入らず、体が斜めになってしまう。
少し落ち着いたところで、エイコムに警備隊の様子を訊きながら、ソルさんが作ってくれたスープをゆっくりと口に運んでみる。フィリップが食べさせようとしたので「甘やかし過ぎ」と呆れ顔で言って、キアは自分でスプーンを持って食べた。
「うーん、やっぱりソルさんのスープは最高ですわ!」
キアは幸せそうな顔でスープを食べていく。その顔を見て、フィリップ、シュノー、ハモンド、エイコムも幸せな気持ちになっていく。
食べ終わるとキアは、ゆっくりと体を動かしてみる。どうやらまだ無理は出来ないようで、フィリップから執務室の外に出ないよう言い渡されてしまう。
エイコムは一安心して、傭兵が教会内に入って来ないよう、見張りをする礼拝堂前に戻っていった。
フィリップはキアが眠っていた間に、ハビル正教会に傭兵を護送していた教会警備隊の3人が、織物工場から借りていた荷馬車と共に、ロームズ教会に帰ってきたと報告した。
キアは直ぐに教会警備隊のリーダーであるコウタを執務室に呼び出す。
「いろいろご心配をお掛けしました。早速ですが護送中の出来事を報告してください」
キアは執務机について、リーダーのコウタと護送責任者から報告を受ける。
「はいキア様、荷馬車が隣の村を過ぎてハビルの町まであと5キロという所で、予想通り傭兵が3人現れました。2人は難なく捕らえましたが、1人だけ手練れの者がおり苦戦し殺してしまいました……ご命令通り盗賊扱いでハビル警備隊に届け出て、3人共引き渡しました」
「ご苦労様。よくやってくれました。おケガはありませんでしたか?」
キアは護送責任者を笑顔で労い、誰もケガをしなかったか訊ねる。
「はい、かすり傷程度です」
「流石シーバス様が選んでくださった方々ですね。それで、シーバス様から何か伝言がありましたか?」
キアの問に、護送責任者はシーバス様からの手紙を取り出した。
その手紙には嬉しい知らせが書いてあった。
国境を越えた隣街のルンナ正教会(ハキ神国)のファリスに、シーバス様が協力要請をしたという内容だった。
ギラ新教又はレガート国になったロームズの統治官屋敷の者が、建設資材を買い求めてやって来たら、ハビルの街の復興の為、現在資材は不足しており、売れる資材は無いと断るよう手を回したと。
もしもハキ神国の第1王子オリの名前を出したら、ほんの少しだけ、売っても良いと……
「リーダーのコウタさんがシーバス様に報告していただいた手紙の内容で、私の気付かなかった手配をしていただけたようです。ありがとうございます」
キアはコウタと護送責任者に、再び笑顔でお礼を言った。
「キア様、そのように頭を下げられては困ります」
教会警備隊リーダーのコウタは、キアが起こした奇跡の内容を住民から聞き、やはり間違いなくキアさんはリース様だと確信していた。神々しい神を見るような表情で、コウタは頭を下げた。
午後5時、各々の任務地から別動隊と本体のメンバーが続々と教会に帰ってきた。
本体の国境警備隊のメンバー達は、宿泊先のホテルで一旦夕食を摂ってから、午後7時に教会に集合することになっている。
最初に帰ってきたのはレクスだった。レクスは目覚めたキアを見てやはり泣いた。
「良かった目覚めて……心配したんですよ~……」
キアはハハハと申し訳なさそうな表情で、なんで皆泣くんだ?と、教え子の嬉し泣く姿を見て首を捻る。
真っ青な顔で倒れ、意識の無かった自分の姿や、体温が異常に低く呼吸数も少なかった様子など、本人は見ていないので、皆の心配がどれ程だったのか、ピンとこない無自覚なキアだった。
「報告します。役場の様子ですが、傭兵が1人常駐しています。特別何もせず、時々出されるサイシスからの指示や命令を、住民に伝達させるのが任務のようでした。暴れたり嫌がらせをすることもなく、1日の殆どを寝て過ごしています。元々ロームズの住民だったらしく、冒険者くずれで燻っていたところを、サイシスに雇われたとのことです。役場の職員は建設現場に駆り出されてはいなかったので、業務は滞っていないようでした」
「成る程、町のことを知っている者を雇っていれば、役場の人間も手は抜けないな」
レクスの報告にフィリップは苦笑しながら「傭兵の半数以上はゴロツキ程度の奴と言うことか……」と呟いた。
「ご苦労様でしたレクスさん、明日からは町の入口の検問所で働いている、傭兵の様子を探ってください。まあ……あの2人は傭兵と言うより、そこら辺の普通の青年でしたが」
「そう言えばあの2人、キア様が倒れられた日、教会に来てましたよ」
レクスは思い出して複雑な顔をする。いかにもキアに会いに来た素振りが見え見えだったのだ。キアが墓地に行ったと知ると、ガッカリして帰っていった姿を確認していた。
やっぱり可愛いキアの姿に魅せられて、ちょっかい掛けに来たんだと、何だか気分が悪くなったレクスである。(大丈夫か?レクス……)
次に帰ってきたのはドグとガルロの【王の目】コンビだった。
流石にこの2人は、起き上がったキアを見ても泣かなかったが、「もう無理はしないでくださいね!」「心臓に悪いんですよ!」と文句を言った。
2人は早速探ってきた工事現場の様子と、工事現場の図面と配置図を執務机に広げる。
2枚には平面図と立面図がきっちりと描かれており、もう1枚には屋敷の内部の様子まで描き込まれていた。
「凄く精密な図面ですね。素晴らしい!ここまで詳細に調べたのですか?」
「ハハ、住民達が協力してくれました。特に町長の弟エイドは内装工事を担当していた上、建築の仕事をしていた経験があったので、これだけ精密な図面が描けたのです」
ドグは少し照れながらの頭を掻き、自分達の力だけではないと報告する。
そしてガルロは4枚目の図面を広げる。その図面には敷地内の資材置き場や倉庫、砂場や作業場が描かれていた。
ガルロは図面を指差しながら、現在傭兵達が生活していること、1階のどの部屋で寝泊まりしているのかを説明する。
また、傭兵達が2階の屋根(3階の床)の仕上げ作業をしていることを伝えた。
「サイシスは余程焦っているようですね。どうやら敵の指導者……ギラ新教の誰か、又はバカ王子が状況を見に来るのかも知れません」
キアは皆にそう言いながら、今回のロームズ乗っ取りを計画した首謀者と会う日が近いことを確信し、気持ちを引き締めた。
そして、それまでにすべきことを急がねばと思い、明日の夜作戦会議をするので、統治官屋敷の事務官オールズに知らせて欲しいとフィリップに頼んだ。
最後に帰ってきたのは、ヤマギ率いる技術開発部のコウヤ、ベルム、治安部隊のイノの4人だった。
もう1人の治安部隊のルドは、資材の買い付けに行ったヒブロを尾行し、ハキ神国の都市ルンナに行っていた。
ヤマギは意外と涙もろく、目覚めたキアを見て涙を浮かべた。他の3人も安堵の息を吐き、体は大丈夫かとキアに声を掛けた。
「キアさん、どうやらサイシスを罠にかけることに成功したようだ」
ヤマギは嬉しそうに笑いながら、今日仕掛けた罠について話し始めた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
タブレットが破損しました(泣)
やっと新品と取り替えて貰ったけど、諸々のパスワードの書き出しもしておらず、悪戦苦闘の2日間でした。
しかし、やっと設定して小説書こうとしたら、キーボードとBluetooth出来ず、再度取り替えることに……
辛い、辛すぎる……2日間の苦労が……
明後日までに再度新品が届くので、今度こそキーボードで書けるはず……絶対に大丈夫!祈ってます。




