国境警備隊の任務
これから国境警備隊が進めていく作戦の現場は、大きく分けて4ヶ所ある。
(1)ロームズの町の北側、街道とロームズの町の間にある盛り土の丘
(2)ロームズの町の東側、カルート国の隣村との国境にある林
(3)ロームズの町の南側、ハキ神国との国境にある竹林、草地
(4)投石機を設置する、ハキ神国へと抜ける国境の側にある丘
この4ヶ所を5班に分けて作業をするのだが、(1)の街道の盛り土の丘には2班が充てられる。
元々ロームズにいた国境警備隊員は25人で、1班から5班まで5人ずつに分け、今回やって来た本隊の15人の内5人が、各々の班のリーダーとして、又はリーダーと協力して指揮を執る。
残りの10人は投石機設置部隊として動くが、当面はケガ人や交代で休む班の代わりに任務に着く。
最初にヤマギ副隊長がやって来たのは、(1)の街道とロームズの街の間にある、丘と呼べるかどうか分からない、2メートルから5メートル位の盛り土に、草木が生い茂っている場所だった。
全長約6キロの街道に面するこの場所に、煉瓦の要塞を造る計画である。
作戦コードは【街道の要塞は攻撃型】で、現在の盛り土を利用し、その上に煉瓦で壁を造り、所々レガート式ボーガンが射れる窓を開ける。
この場所は1班と2班が作業をする。
1班は、盛り土の高さを測量し、3段階の高さに均す作業をしていく。
2班は、街道の盛り土の上に造る要塞の図面を書き、必要な煉瓦の数を計算し、基礎工事の段取りをする。
今日は1班、2班が一緒に街道沿いを全員で歩きながら、伐採すべき木に印を付けていく。
「副隊長、6キロって結構ありますね。木に印を付けるのに2日、いや3日は必要だと思われます」
「問題ない。敵の目を引き付ければいいんだ。何をしているのかと探らせることが目的だから、のんびりやればいい」
1班のリーダーであるイグモ30歳は、盛り土の一番高い場所を歩きながら、思ったより木が多いので、印を付けながら早々に音を上げたくなる。
町の者によると、でこぼこした盛り土は冬に吹く強風避けの為に造られたらしい。結構な大工事だった筈だが、今ではその目的も住民に忘れ去られようとしている。
次にヤマギ副隊長が寄ったのが、(2)のカルート国の隣村との国境で、全長5キロ位の林になっている場所だった。ここは、3班が担当する。
国境線に濠を掘って水を溜め、濠の内側に塀を造る予定だ。
とりあえず濠の工事は、濠を掘る予定の場所に、印として軽く線を引くようにスコップで少しだけ掘っていく。
「副隊長、調べてみましたが国境線が何処なのか分かりません。これは濠を掘るより、今ある林を活かして塀替わりにした方が良いのでは?」
「そうだなぁボブ、ここまで木々が密集していたら敵も入って来られないかもな……むしろ罠の方が良さそうだ……この背の低い木には刺まである」
予想に反して、濠を掘るのが難しそうな現実に苦笑いしながらも、自然を利用する方法も有りかとヤマギは考える。
「罠という意味では、林部分の200メートルを抜けた所に濠が有る方が、敵の気を挫けるかもしれん。よし、3班は林を抜けて直ぐの場所を整地しろ。街道側から真っ直ぐになるよう、必要なら木を伐りながら進め。ああ、急ぐ必要はない。本来これは建設部隊の仕事だ。午後から必要な道具を買いに行け」
「承知しました副隊長。それで、支払いは……?」
「ボブ、当然統治官屋敷に回せばいい」
昼食後ヤマギ副隊長が到着したのは、(3)のハキ神国との国境線約6キロの工事現場だった。ここは4班が担当している。
本来なら是が非でも濠を掘り水を溜め、内側に塀を造る工事をしたいところである。
こちらは(2)の現場と違い、スコップで順調に印を付ける為の作業が、500メートル近く実施されていた。
「副隊長、こんな感じでいいですか?ほんの30センチくらいしか掘ってませんが?」
「ああ充分だ。敵の傭兵が竹藪から様子を窺っている。今日はあと100メートル掘ったら上がっていいぞ」
ヤマギは真面目に作業しているロームズ国境警備隊のマーチェン中尉に、笑顔で指示を出した。マーチェンは過労で倒れそうになっていたが、キアの処方した薬草と休息で、今日は元気になって仕事に復帰していた。
(2)と(3)の作戦コードは【通り道は危険がいっぱい】で、ハキ神国軍の通り道を1ヶ所に絞らせ、投石機キアフ1号でハキ神国軍の進撃を阻止し、ハキ神国軍の投石機を破壊する為に考えられた作戦だった。
ちなみに作戦コードの命名はキアである。微妙な作戦名だが「いい名前でしょう?」とキアが嬉しそうに微笑んだので、誰も文句が言えなかった。
実は(4)の投石機設置工事以外は、まだ国王の許可さえ貰ってはいなかった。
いつの日か設置したい防衛用の設備だが、あくまでも技術開発部が勝手に考えた構想に過ぎない。
しかし、サイシスとハキ神国、ギラ新教の目を、投石機から逸らす為に始めたのが、今回の(1)~(3)までの作戦である。
でもシュノー部長は1年以内に本当に許可を得て、本格的にハキ神国側の濠と塀を造りたいと思っている。
ヤマギ副隊長は最後に、(4)のハキ神国に抜ける国境の直ぐ側にある丘に来ていた。
今回設置する予定の投石機は、大型の物が1基、小型の物が2基だった。
大型の物を丘の下方に、小型の物を中腹に設置しようと、良い場所を探す。
中腹にはキアとレガート軍事務官のグライスが初めて会った、小さな公園がある。やはりこの場所が最適だろうとヤマギは思った。
公園は造成され平地部分があり、国境へ通じる道も良く見える。何よりも射程距離ピッタリで、間違いなく石が届きそうだった。
ヤマギがレガート軍事務官のグライスと、中腹にある公園で投石機の射程距離を考えて、道までの距離を確認していたところ、下から話し声が聞こえてきた。
「新しい武器って投石機なんだろう?すげえな。うちの国もとうとう投石機を作ったんだ。早く見てみたいぜ!」
「これで武器ではレガート国が最強だろう!」
「ああ、技術開発部ってやっぱ凄いよ。新型のレガート式ボーガンも出来たらしい」
これは、この話しの内容は国の最高機密事項である。当然話しているのは国境警備隊の隊員達だろう。
「申し訳ありませんヤマギ副隊長!そんな大声で話していないはずなのですが……浮かれてしまって……直ぐに止めさせます」
グライスは青い顔をして平謝りで深く頭を下げる。
「いや少し待て!あいつら何処に居た?」
「はい、大型投石機を設置できる場所を探していますから、ここより70メートルは下です。丘に10メートルくらい登った場所だと思います」
確認するようにヤマギは中腹の公園から下を覗いてみる。しかし草木が生い茂るっているので、姿を発見することが出来ない。
「俺、今でも夢みたいだ。本当にもう領主屋敷の建設現場で働かなくていいなんて」
「俺だって、副隊長の顔を見た時は、嬉しくて涙を堪えきれなかった」
「だよな。指揮官が居るだけで、こんなに安心感がある。それも【奇跡の世代】のヤマギ副隊長だ」
3人の声は嬉しそうに弾んでいる。昨日の午前まで建設現場で働いていた3人は、ヤマギが昨日の午後宿舎に現れた時、大いに驚き感激で皆が泣いた。俺達は見捨てられてはいなかったのだと。
「1番怖い上官だけど、だからこそ信頼して働ける」
「そうだ!特に副隊長の、こっからが本当の戦いだ!国境警備隊の本当の実力を見せてやれ!我々は誇り高きレガート軍国境警備隊。勝つのは俺達であってサイシスではない!という話にはしびれた。俺は何処までも副隊長についていく」
うっとりと昨日の作戦会議を思い出しながら、込み上げてくる遣る気で、「オォー!」と5人は雄叫びを上げる。
「バカ野郎全部聞こえてるよ……っとに恥ずかしい奴等だ……」
ヤマギは照れながら呟き、ポリポリと頭を掻く。なんだか嬉しそうだ。
こんなデレたヤマギ副隊長の姿など、隊員達が見ることは絶対に無いだろうとグライスは思いながら、つい口元が緩んでしまう。
「それにしても、あいつら何処で話してるんだ?これじゃ敵が居たら情報が丸聞こえだ。……ん?待てよ……丸聞こえ……これは使えるかもしれない」
ヤマギはそう呟きながら公園を離れ、部下達の元へ歩き始める。道々耳を澄ましてみるが、部下達の話声は聴こえてこない。恐らく一定の条件を満たす何かが、公園の場所と部下の居る場所にあるのだろう。
10分後、ヤマギとグライスは5班の5人に無事出会えた。
そこはこの丘唯一の谷間で、谷と呼ぶには小さいが、雨が降れば水の流れが出来る場所だった。その流れは小さな小川となってハキ神国側に流れていく。
「これは副隊長、事務官お疲れ様です」
5班のリーダーのセドレ少尉が、嬉しそうに挨拶をすると、他の4人も軍礼をとった。
セドレ少尉はケガが化膿して熱が出ていたが、キアが山で発見した薬草が効き、熱は下がり傷口もほぼ塞がり回復していた。
「セドレ少尉、先程皆で投石機の話をしていただろう?その場所まで連れて行け」
「はい?投石機の話ですか……」
なんで分かったんだろう?軍の機密事項を話していたのが……ヤバイ!絶対に叱られる。でもどうして?何処で聞かれたんだろう?と青ざめながらセドレは固まる。
「国の重要機密事項をペラペラ喋るとは……軍法会議ものだが、とにかくその場所まで戻るぞ!安心しろ、軍法会議になんてかけない。いい作戦を考え付いた」
ヤマギはニヤリと笑うと、すっかり恐怖で畏縮している5人を安心させる。
そして投石機の話をしていた現場まで戻った一行は、その谷間から中腹にある公園を見上げるが、全く見えなかった。
「で、どのくらいの声の大きさで話していたんだ?」
ヤマギはこの会話も誰かに聞かれてはならないと、かなりの小声で質問する。
「はい、このくらいの声の大きさです。私が今話しているくらいです。なあみんな?」
「はい副隊長、そんなに大きな声ではありませんでした」
セドレは部下に質問しながら声の大きさを確認する。
「よしそれじゃあ実験だ!グライス、すまないがもう1度誰か連れて公園まで行ってくれ。そして声が聞こえたら合図でオーイ!と叫んでくれ。お前は此処から少しずつ離れていき、話し声が聞こえなくなる場所に立っていろ。それからもう1人、谷を登りながら同じように、話が聞こえなくなる場所で待機しろ!」
「「「「承知しました」」」」
ヤマギの指示に了解し、4人は直ぐに動き始めた。
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