別動隊の正体
午後4時、色々あったが計画通りにことが運び一安心……する間も無く、キアたちはケガ人や病人の手当てを行う。
「キアさん、お疲れさまです。病人が居なくなったようなので……連れてきた国境警備隊の2人を診てやって貰えませんか?ケガと体の痛みなんですが……」
グライスは、レガート軍少佐ロイスを共に討とうとしていた同志2人を連れて来ていた。1人は足を引き摺り、1人は顔色も悪かった。恐らく連日休みなく働かされ、グライスに聞いていた通り、過酷な労働を強いられていたのだろう。
キアの診察の結果、1人は裂傷が悪化し化膿により熱が出ていた。もう1人は過労と栄養不足により、倒れる寸前の状態だった。
キアは会わせたい人物が居ること、薬を調合する時間が必要なことを告げ、2人の国境警備隊員とグライスに、集会所内で休んでいるようにと指示を出した。
「グライス事務官、本当にあの……今の少女が我々の指揮官なのですか?」
「そうだセドレ少尉、先程のサイシスとの対決を観ただろう……普通の者ではサイシスやマゴンに向かって、ああいう態度なんてとれない」
独身のセドレ28歳は、それでも信じられない様子でグライスを見て、本気で考え込む。『あんなに可愛い少女が、軍や警備隊を率いるのか?』と。
「私は先程のあれが作戦であり演技だとは、なかなか信じられませんが、その上で彼女を神母様として見ると怖い気がします。別の意味でなんと言うか……やはり特別な何か……力を感じますグライス事務官」
もう1人の過労で倒れそうになっていたマーチェン中尉35歳も、コロコロ変わるキアの表情や態度に戸惑いを感じていた。
「確かにあれは演技とは思えなかったな……警備隊の若い2人と同じように、俺も思わず剣を抜きそうになった。きっと本気でやっていたんだろう」
3人は、キアが夜着姿で脅えているか弱そうな姿を思い出し、あれは、あれがと言いながらため息をつく。男の自分達では考えもしない作戦だし、ある意味体を張った作戦だったと複雑な気持ちになる。
しかしその反面、サイシスとマゴンを話術で思い通りにさせるという正攻法……いや、完全に上から目線で脅すという離れ業には舌を巻いた。
「ようセドレ元気だったか?って、ケガをしたらしいな」
緑色の髪の強面の男が集会所に入って来て、セドレ中尉に右手を上げ親しそうに声を掛けてきた。にーっと無理矢理作った笑顔で、まるで知り合いのような感じだ。
「…………?えーっと緑の髪の知り合いは居ないと思うけど、その声には聞き覚えがあるような……?……!まさか、いや、ええぇーっ!ヤ、ヤマギ副隊長?」
「なんだ、これってそんな直ぐにバレる変装なのか?は~っガッカリだぜ」
ヤマギは元部下のセドレに変装をあっさりと見破られ、残念そうに肩を落とす。
セドレは慌てて軍礼をとるため起き上がろうとする。他の2人も上官に軍礼をとろうとして、ヤマギに寝ていろと止められる。
「えっ!秘書官補佐様とハモンド少尉の他にも、潜入している方がいらしたのですか?しかも国境警備隊の副隊長様なのですか?」
グライス事務官が昨夜会ったのは、フィリップ、ハモンド、キアの3人だけだった。他にも軍関係者が居るとは聞いてなかったのだ。
副隊長は階級で言うと、大隊のトップである中佐と同じで、その上に地方のトップである大佐や隊長(指揮官補佐のイツキと同じ)が居て、その上に副指揮官、指揮官と続いていく。
現在幽閉されているロームズの統治官は、軍に例えると大佐クラスである。副統治官であれば中佐だが、サイシスは補佐なので階級で言い替えると、ロイスと同じ少佐に過ぎない。
「フィリップが居て俺がいる……と言うことはどういうことだセドレ?」
寝ている訳にもいかず、座った姿勢で自分の話を聞いている部下のセドレに訊ねる。
「もしかして……【奇跡の世代】が動いているのですか?」
「そうだ、明日やって来る本隊を指揮しているのは、技術開発部のシュノーだ」
「「「ええぇーっ!技術開発部部長?」」」
3人は副隊長にも充分驚いたが、指揮官と同じ地位にあるシュノーが、こんな辺境のロームズなんかに来ることが信じられない。
軍の所属であっても、技術開発部は一般の軍人とは違い、現場に出向くことなど殆どないのである。にも拘わらず、そんな高位の部長がやって来るとは、余程の武器を設置するに違いないと3人は推察し、ゴクリと唾を呑み込んだ。
「では、明日やって来る本隊20人は、戦える軍人ではなく……技術開発部なのですか?」
少しガッカリしたような表情で、マーチェン中尉が尋ねる。
「本隊の詳しい説明はキアさんがする。しかし少し教えておこう。本隊は国境用の武器を運んで来るんだ。だから、20人中15人は国境警備隊だ」
「「武器……」」(グライス、セドレ)
「国境警備隊……」(マーチェン)
3人はいったいどんな武器なのだろうかと考える。が、なかなか思い付かない。
ケガ人と病人の治療が終わったら詳しい説明をするから、暫く体を休めておけとヤマギは指示し、町の見回りに行ってくると手を振って出ていった。
キアたちが治療をしている間、ヤマギとレクスとガルロは町中を回り、明日の午後からの慰霊祭に、住民の全員が参加出来るようになったと知らせて回る。
「明日の午後、教会の鐘を鳴らします。鐘を鳴らした30分後に慰霊祭を始めます。どうぞ来てください。全員は入れないので、墓地でも同じ時刻に慰霊祭をします。どちらに来ても構いません。統治官様の許可は取ってあります」
3人は大声で触れ回る。信用して貰えるよう、各地区の顔役にも伝言をお願いする。
午後6時、治療を終えたキアは、警備隊のセブルとエイコムを呼んで、いつものようにお願いをする。ソルさんが作った焼き菓子に笑顔を添えて。
「お疲れ様です。明日は午後から慰霊祭で住民が集まります。その警備のことと他にもお願いしたいことがあるので、現在警備隊の指揮を執っている上官又は、信用できる先輩2人を、午前8時までに連れて来てください。お2人にも大切なお話があります」
「「大切なお話?」」
キアはそこにヒットする?と笑いながら、絶対に連れてきてくださいねと念を押した。
帰り道、大切な話って何だろう……?と、恋する2人は楽しく想像を膨らませる。
午後6時半、一同(グライスたち3人を含む)は明日からの予定を、いつものように夕食を食べながら確認する。
先ずキアは、ハビル正教会組とフィリップに部屋替えを指示した。
ハビル正教会組は、ギルバート神父と教会警備隊2人の3人になったので、応接室を使って貰うことにした。明日から大所帯になるので、応接室に居れば邪魔にならないと考えたからだ。
キアとフィリップは執務室、ハモンド、ヤマギ、ガルロ、レクスはこれまで通り神父の住居の1部屋を使う。
「キアさん、我々3人は明日の慰霊祭が終われば、ハビル正教会に帰る予定で間違いないですか?」
あれだけシーバス様にイツキ様にお仕えしますと言っていたのに、たった2日で帰ろうとするギルバート神父に、レクスは開いた口が塞がらない。
「ギルバート神父、ファリスのシーバス様から、しっかり勉強させて欲しいと頼まれています。それに貴方はモーリスとして、まだ何も活動出来ていません。ただ祈るだけなら一般神父でも出来ます。貴方はモーリスとしてロームズの住民に貢献しなければなりません」
全員の前で、しかも部外者の3人や護衛、部下である教会警備隊2人の前で、叱るようにキアから言われたギルバートは、憮然として肩を落とし、その後直ぐに怒りの表情になり唇を噛んだ。
キアがリース様だと分かっていても、リース様とは呼ばずキアさんと呼んでいることにより、目下の者に叱られたような気分になるギルバートである。
そもそも、キアの尋問に立ち会いリースの力を思い知った筈だが、本当はこんな小娘より、自分の方が優れていると未だに思っていた。自分だって神より与えられた土を扱う《印》の能力さえ発揮できれば、直ぐにでもファリスに成れるのだと、悪い癖は……思い上がる気持ちは、全く変わっていなかった。
グライスたち3人はキアの正体を知らないが、キアが指揮を執っていることは分かっている。しかし、ハビル正教会のモーリス様が、神母兼看護師に叱られている姿に、何となく違和感を感じた。
「ギルバート神父、明日やって来るレガート国の国境警備隊は、ロームズ教会に本部を置き活動を開始します。共通の敵である【ギラ新教徒】から、ロームズの町を解放するまで全面的に協力します。そして、まだ言っていませんでしたが、ここに居る全員、レガート国の軍や警備隊の人間です。わたしはリーバ様からレガート国と協力するよう命を受け此処に来ました。今、命懸けでロームズを守り抜かねば……ランドル大陸の平穏は崩壊するでしょう」
キアはギルバート神父に、これから命を懸けた重要な戦いを始めるのだと話す。
「キアさん、ここに居る別動隊は勿論、明日やって来る本隊も命を懸けて来ています。ブルーノア教会の協力は本当に有り難いのですが、どうか無茶な行動は控えてください。あなたはロームズだけでなく、ランドル大陸の全ての人々を導く使命があるのですから」
フィリップは真剣な顔をしてキアを見る。そして立ち上がると1歩下がり、キアに向かって正式な礼をとった。それを見た別動隊の全員が、フィリップに合わせるように一斉に正式な礼をとった。慌ててグライスたちも礼をとる。
そして立ち上がりギルバート神父と教会警備隊の2人、グライス達に向かって、本名と役職名を1人1人名乗っていく。
ギルバート神父は、教会の神父とその護衛だと思っていた者達が、レガート国の秘書官補佐や国境警備隊の副隊長、治安部隊の人間であると知り、驚きのあまり固まっている。
教会警備隊の2人は、なんとなく教会の人間ではないと分かっていたようで、「よろしくお願いいたします」と改めて礼をとった。
実は教会警備隊のリーダーだけは、ファリスのシーバス様から「リース様とリース様が率いるレガート国の者に協力せよ」と言われていたのである。
そしてグライス達も、キアがただの神母様でないこと、全員が軍と警備隊の人間だったと知り驚いた。
すっかり大人しくなったギルバート神父以外は、明日から始まる本格的な戦いを前に、会議はどんどん熱を帯びていくのだった。
翌30日午前8時前、警備隊のセブルとエイコムは、現在隊長に代わり指揮を執っているリーダーのボグ34歳と、先輩のシードルフ29歳を連れてやって来た。
直ぐ執務室に通された4人は、待っていたモーリス様と護衛のレクスに挨拶をする。
「お疲れ様です。私は王宮警備隊レクス少尉です。こちらは今回ロームズ奪還作戦の指揮を執っておられる、秘書官補佐のフィリップ様です」
レクスはいきなり正体を明かしながら、フィリップを紹介した。
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