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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
全員集合

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サイシスとの対決 (2)

 ただのサイシスさん扱いを受け、怒りで震えるサイシスに、モーリス(フィリップ)様は更に言い放った。


「あなた方がお探しの者は犯罪者ですか?それとも言われなき暴力や搾取を受けた弱者でしょうか?」


「どういう意味だ?」


怪訝な顔でサイシスは尋ね返しながら、教会の敷地内に入ろうと1歩前に出た。


「先程のそちらの名前も名乗らない失礼な方が、逃げ込んだと言われていたので、そう考えるのが道理かと」


鼻で笑うように息を吐き、モーリス様は2歩前に出て、教会警備隊の1人に門を閉めるよう視線で指示を出す。


「門まで閉めようとするとは……まるで誰かを隠しているようだな」

「おかしなことを……誰を隠していると仰るのでしょう。逃げ込んだ者は男ですか女ですか?大人でしょうか子供でしょうか?名はなんと言うのですか?」


こちらの質問には一切答えず、閉めようとする門に手を掛けたサイシスは、右口角をピクピクと引きつらせながら、門前払いされそうな現状に怒りを滲ませる。


「教会は、ブルーノア教会には、困っている者を救済する義務がございます。それは、ブルーノア教信者であれば誰もが知っていること。先程から様子を見ていますと、あなた方は……ブルーノア教の信者ではないようですね。……まさか……レガート国が認めていない、ギラ新教の信者だったりします?」


モーリス様は探るような意地の悪そうな言い方で、サイシスの顔を覗き込んだ。


「…………」


「モーリス様、そのような失礼なことを言われるのは……サイシス様は貴族、確か伯爵様だと聞いています。もしもギラ新教徒だったら……既に王様が爵位を剥奪されているはずですわ。それから、門を開けて差し上げては如何ですか?モーリス様が断られたのにも関わらず、強引に敷地内に押し入るのですから、何も……誰も出てこなければ、サイシス様も教会の活動に御協力くださると思いますわ。これだけの証人が居るのですから、もしも、もしも探し人が見付からぬ時は……フフ……そのくらいの覚悟があってのお話のはずですわ。ねえ?サイシス様」


「キアさん。しかし……まあ……うーん……礼拝堂の中だけなら許可しましょう」


モーリス様は目を泳がせながら、執務室棟の方をちらりと見て、再びサイシスに視線を向けた。


「フン!生意気な看護師とはお前のことか……いいだろう。1度だけ教会の活動に協力してやる。ただし、執務室の方も見せて貰う」


サイシスは、してやったりという顔をして、執務室棟を見ながら強引に条件を変えてきた。


「それは約束が違うのでは?それならお探しの人物が誰なのか、人数が何人かお教えいただかないと、たとえば猫を見つけて居たと言われても困ります」


モーリス(フィリップ)様は、どこか都合の悪そうな、焦っているような感じで、警備隊員に目配せをして執務室棟の方に向かわせる。


「おっと!勝手なことをされては困りますな。隠蔽でもされるおつもりかな?」


サイシスは警備隊員に向かって「その場を動くな!」と怒鳴って、モーリス様に悪人顔を向けると、了承も得ていないのにズカズカと敷地に入ってくる。


「我々が探しているのは、傭兵として雇っていた5人だ。屋敷の金を持ち逃げしたので、捕らえて罰する必要がある」


 昼になっても戻ってこないブロス達が、もしかして殺されたり捕縛されたのではと不安になったサイシスである。余計なことでも言われてはと焦った結果、サイシス自身が乗り込み揉み消しを目論んだのだ。


 3人が最初に向かったのは執務室棟だった。サイシスに同行しているのは、マゴンと御者をしていた傭兵風の男の2人である。傭兵風の男は、着崩してはいるが身のこなしが軍人のようである。



 執務室棟で応接室まできちんと探した3人は、勝手に集会所の中も確認し、誰も見付けられないまま礼拝堂の前まで戻って来た。

 礼拝堂の前では、教会警備隊の2人が荷馬車に乗せた罪人3人に、尋問しているところだった。


「誰の指示で教会に火を点けようとした?教会を燃やそうとする大罪人め!」と、やたらと大声で叫んでいる。それは、サイシスに聞かせながら、教会に集まっていた住民に聞かせる為だった。


「なんと罰当たりな!神を恐れぬ悪人め!」

「信じられん!神母様まで殺そうとしたと言うことじゃな」


それはもう……石でも投げそうな勢いで、睨み付け……?……?いやいや本当に石を持って立ち上がっている……ちょっと待とかみんな。


「み、皆さん、間もなく祈りの時間です……が、お祈りは出来ません。昨日同様体を解す体操をしますので、リラックスしてお待ちくださいね」


祈りが始まると聞いたケガ人や病人達は、仕方なく石を捨てたが、憎々しい視線だけは向けたままである。

 キアは昨日と同じ体操を皆に教えた後、礼拝堂の扉を開けた。

 礼拝堂の中に入る前、マゴンは荷台に乗せられている3人に「この役立たずが!」という視線で睨み付けた。


 誰の指示で教会に火を点けようとしたのかを、まだ神父達には知られてはいないようだと思ったマゴンは、安堵はしたものの当然3人を消さねばならないと思案を巡らせる。

 今ここで殺す訳にはいかない……もう少し部下を連れてくれば良かったと後悔したが、教会内の捜索の後で指示を出すしかないと切り替える。



 礼拝堂の中に入ると、ギルバート神父が祈りを始めたところだった。

 サイシス一行は椅子や机の陰になる部分に目をやりながら、祭壇方向へ進んでいく。一行が礼拝堂の中間まで進んだ所で、表の荷馬車が出発する音が聞こえてきた。

 収納庫の中を確認していたマゴンは、「チッ!」と舌打ちして悪人顔を歪める。自分達の捜索が終わるまで、罪人の護送はされないだろうと思っていたのだ。


 とにかく刺客として送り込んだ5人さえ見付けて取り戻せば、口封じに向かわせることも可能だと、マゴンは焦る気持ちを落ち着かせるため深く息を吐いた。

 いつもの数倍気合いの入った祈りを捧げているギルバート神父だが、礼拝堂の中を彷徨くサイシス、マゴン、護衛のせいで集中力を欠きそうになる。が、扉の前に立っているキアの姿を見て、再び気合いを入れた。



「で、お探しの5人は見付かりましたか?」


礼拝堂の中から渋い顔をして出てきた3人に、モーリス様(フィリップ)は余裕の表情で尋ねる。

 サイシスは何も答えず、マゴンに視線を向け顎で合図を送る。荷馬車が無くなっていたので、暗殺者を向かわせるよう指示を出す。マゴンは護衛(御者)の男の耳元で何やら囁き、護衛の男は走って教会から出ていった。


「お約束ですから、教会の活動に協力をお願いします。明日の午後、2年前の戦争で亡くなった方の慰霊祭をいたしますので、遺族の参列をお許しいただきたい」


「フン!いいだろう。しかし、まだ敷地内の全てを確認したわけではない!」


サイシスはそう言いながら、神父の住居の方に目をやり、必ずあそこに5人が居るはずだと確信する。5人の手練れが、全員殺られることなど考え難い。そもそも教会の神父も看護師も、かすり傷さえ負っていない。

 どうやら山へ行く前に何かあり、教会内に閉じ込められているのだろう……多少の死者が出ていても皆まで殺されたとは考え難い。


「いいえ、お約束の場所は全てお見せしました。これ以上の捜索はお断りします!」

「何を言う!それではお前達ブルーノア教会は、罪人を匿いレガート国に仇なす者を助けるのだな!」


 何やら大声で揉めている様子に気付いたロームズ警備隊のセブルとエイコムが、制服姿で走り寄って来る。

 そしてそこに、今日は午後から休みだと言っていた、レガート軍事務官のグライスが、国境警備隊の隊員2人を伴ってやって来た。


 礼拝堂の前で、モーリスのフィリップ神父と教会警備隊の2人、サイシスとマゴン、セブルとエイコム、グライスと国境警備隊の2人の合計10人が、顔を合わせ気まずそうに立っていた。


「何をしているグライス!どうしてお前達がここに来たんだ!それに警備隊の2人、誰の許可を得て教会の手伝いをしている!」


サイシスは鬼の形相で、自分の部下である5人を怒鳴りつける。まるで裏切り者を見るように、右目と右口角をつり上げ、右手はプルプル震えながら強く握られたいる。



「何をですか?私はケガ人を連れてきたのですが?貴方は部下のケガの手当てもさせてはくれない。仕方なく教会に来たのです。それに……今日の分の仕事は終わらせてあります。ですので、今はプライベートの時間です」


元々サイシスに反抗的だったグライスは、それがどうした的に悪びれる様子もない。


「我々は警備隊の仕事の一環として、住民との親睦を深めているのです。それに住民を守るのが我らの仕事、ケガ人や病人の救護は最も優先されるべき事案です」


セブルは堂々と胸を張って、警備隊として仕事をしているのだと言いきった。

 正論を吐く2人に、返す言葉が直ぐに出てこないサイシスは、顔を歪めて命令する。


「警護で雇った5人が、屋敷の金を盗んで逃げた。恐らく教会に逃げ込んでいるはずだが、此処に居る神父が犯罪人の引き渡しに応じない。お前達に犯罪者の捜索と捕縛を命じる。直ちに神父の住居の捜索をせよ!」


「何を根拠にそのよな……今、神父の住居では神母が早朝からの薬草採取で疲れて休んでいます。それこそレガート国は、いえ統治官の代理だと言っているあなたは、若い少女の休憩を邪魔する……いえ、神母である女性の純潔を汚そうと言うのですか?」


モーリス様の言葉を聞いた全員が、サイシスに非難の目を向ける。こっそり盗み聞きしていた庭に居る教会の者も住民も、一斉に非難するようにサイシスを見る。


「それこそ詭弁だ!都合が悪いからといって、よくもそのような嘘を!」

「嘘ではありません!とにかく、お断りいたします!」


モーリス様がもう1度断ったのにも拘わらず、それを無視してサイシスは歩き始める。

 どんな非難の目を向けられようと、罪人を見つけ出せば勝ちだ。あのような嘘までついて住居に入らせまいとする行動こそ、そこに探している者達が居る証拠である……と、今度こそサイシスは確信が持てた。


 サイシスの後ろにはマゴン、そしていつの間にか警備隊の2人を監視していた傭兵と、教会の様子を外から探っていた傭兵が後ろをついて行く。

 当然教会警備隊の2人も、セブルとエイコムの後ろをついて行く。


「教会の人間は動くな!いいか、絶対に探し出せ!抵抗したら殺しても構わん!警備隊の2人は罪人が窓から逃げないよう外で待機しろ」


サイシスは大声でマゴンと傭兵2人、そしてセブルとエイコムに指示を出す。

 手始めに外に在る風呂とトイレを確認する。そして最後の捜索場所である神父の住居のドアを乱暴に開けた。

 最初の部屋はイツキ達が寝室として使っている部屋で、数組の布団がたたんで置いてあった。他には皆の荷物が置いてあるだけで、人の姿は無かった。当然クローゼットの中も開けて、乱雑に中の物を掻き出した。

 

 残るは最後の1部屋である。サイシスはドアの前に立ち、必ず此処に居ると自信を持ってニヤリと笑う。


「いいか、逃げようとしたら殺せ。何も話していなければ抵抗することもないだろう。その時は罪人を捕らえた振りをし、救出して終わりだ。剣を抜け!」


最終の打ち合わせを小声で終えたサイシスは、これで生意気で無礼なモーリスを、必ずひざまずかせることが出来るとほくそ笑んだ。

 神父の住居の外では、大窓の前でセブルとエイコムが待機し、少し離れた場所で、教会警備隊と教会の人間、サイシスの命令を無視したグライス達、庭に居た住民達が固唾を呑んで見守っていた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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