それぞれの活動
◇◇統治官屋敷◇◇
5月28日午後5時、毎日行われる定時報告の為、各部署の傭兵リーダーが統治官屋敷に集まっていた。
集まったリーダーの6人は、全員ギラ新教が直接雇った者ばかりである。
6人が担当しているのは、工事現場、町の監視、国境警備隊の監視、警備隊の監視、国境、統治官屋敷で、リーダーの下に傭兵頭のマゴンが直接雇った者が20人居る。
そのまた下で働いているのが、サイシス伯爵が雇った20人の傭兵である。
リーダーの他にも屋敷の警護をしている3人は、マゴン同様、大師イルドラに直接雇われた者だった。
報告を受けている傭兵頭のマゴンは、総勢50人の傭兵を束ねていた。
実質ロームズの町を支配しているのは、統治官代理と称しているサイシス伯爵ではなく、マゴンと言ってもいいだろう。
サイシスが雇った20人は、ならず者と言った方が正しいくらいの男ばかりで、素行が悪く威張っていて、剣の腕が良い訳でもなく、住民に乱暴を働く嫌われ者ばかりだった。
「マゴン様、警備隊本部に居た2人が今朝から行方知れずになっています」
警備隊監視のリーダーは、申し訳なさそうに報告する。
「今朝から?それでは昨夜までは居たのか?」
「はい、夕食以後に何処かへ行ったようです。申し訳ありません」
警備隊監視のリーダーは、激怒されることを覚悟で報告し頭を下げた。
その様子を見ていた町の監視リーダーが、チャンスとばかりに報告をする。
「サイシス様が雇われた傭兵で、日頃から問題を起こしていた者が1名、行方不明になっています。何か問題を起こし逃げたものと思われます」
「チッ!どいつもこいつも勝手ばかりして……もっと指導を徹底させろ!」
「「はい、必ずや!」」
2人のリーダーは、青い顔をして深く深く頭を下げ、殴られずに済んでホッとする。
「工事現場の傭兵から報告がありまして、昨日からロームズ教会にやって来た神父が、工事現場で住民に声を掛けているようです。しかも本日の午後3時から、教会の庭でケガ人の治療をしたようです。あぁ、も、勿論仕事に支障は出ていません」
工事現場のリーダーは、困った顔で報告する。別に自分に落ち度があった訳ではないが、マゴンにギロリと睨まれ仕事に支障の無いことを付け加える。
「教会?急に神父が活動を始めたと言うのか?」
「はいマゴン様。教会に偵察に行かせましたが、確かに礼拝堂にも入らず祈りもせず、治療だけをしていたようです。ただ……申し上げ難いのですが、警備隊の者が住民にスープを配っていたそうです。事務官のソンシブも教会に様子を見に来ていたようで……薬を貰っていたと報告が……」
工事現場のリーダーは、自分が部下に探らせたことを報告し、明日も午前からケガ人の治療をするようですと付け加えた。
そして、教会の庭で治療をしていたのは2人の神父と看護師の娘で、いつの間にかハビル正教会から、新たにモーリスと教会警備隊が来ていたと報告した。
「どういうことだ……?ロームズ教会のクリム神父は始末したはず……手紙か……?教会が何か気付いたのか?」
マゴンはブツブツと独り言を言いながら、情報を整理していく。
「マゴン様、私の部下によりますと、看護師と神父が明日の早朝薬草を取りに、山へ入るようです。邪魔なら消しますが……如何いたしましょう?」
新しい情報を付け加えたのは、町の監視リーダーのウェルムである。住民の動きは全て見張らせていて、部下は総勢20人と大所帯を仕切っていた。半数は統治官代理のサイシスが雇ったごろつき傭兵だが、役に立つ部下も居た。
「住民が動揺したり教会にすがるのは不味い……使える者を2人連れてこい。面倒だから教会ごと焼け死んでもらおう。ウェルム、直ぐに動け!」
「承知しました!」
町の監視リーダーのウェルムは、返事をして直ぐに屋敷を出ていった。
「ブロス、手練れの者を4人用意しておけ!もしも教会が焼失しなかった時は、お前が山で神父と警護の者を皆殺しにしろ!」
「はいマゴン様。剣に自信のある者を揃えておきます」
統治官屋敷の警備リーダーのブロスは、返事をして直ぐに準備を始める。
国境監視リーダーには、来月から誰1人として入国させるなと指示を出し、マゴンは忌々しそうに顔を歪め、他のリーダー達には、計画通り2階部分を5月中に完成させるよう命令する。
午後8時、マゴンは今日の報告会でのことをサイシスに報告した。
サイシスは「教会の者を殺したら、さっさと2階の工事を完成させろ」とだけ命令し、傭兵の数が減ったことには、さして興味も持たなかった。
◇◇投石機設置部隊(本隊)◇◇
5月28日早朝、本隊の技術開発部部長シュノーに指示書を渡すため、単身馬でロームズを旅立った【王の目】のドグは、同日夜ビルドの町の1つ手前(ルナの街側)の村で、本隊に合流していた。
「ロームズは、それほどまでに酷い状況なのか……住民を、子供まで奴隷のように働かせているとは、本当に神をも畏れぬ所業だな……」
ドグからロームズの町の様子を聞いたシュノーは、信じられないと首を横に振る。
他の本隊のメンバー19人も言葉が出ない。
「イツキ君からの指示だが、予定より1日早くロームズの町に入って欲しいそうだ。30日の午後、教会で住民を集めて祈りをさせる為には、我々が昼までに到着しなければならない。それと、投石機のことは暫く極秘とし教会で保管する。そうしないとハキ神国に奪われる可能性が有ると……」
イツキからの手紙(指示書)を読んだシュノーは、全員に手紙の内容を伝える。
「ハキ神国ですか?今回の敵は【ギラ新教】ではないのですか?」
【奇跡の世代】であり治安部隊所属のルドは、何故レガート国の領地であるロームズに、ハキ神国が投石機を盗みにやって来るのか理解できなかった。
「イツキ君の手紙には……驚愕の推測が……いや、イツキ君のことだから確信があるのだろう。現在建設中の建物は、ハキ神国第1王子オリの別邸だと書いてある」
「「「エエェーッ!」」」
シュノーの発言に、ドグを含む全員が驚きの声を上げた。
「と言うことは、サイシスは【ギラ新教徒】であり、ハキ神国のオリに仕えていると?」
国境警備隊サブリーダーであるボブは、信じられないと目を見開いたまま問う。
「いやいや、それって、ロームズをハキ神国の領土にしようと……乗っ取ろうとしてるってことですよね部長?」
技術開発部のコウヤは、恐怖と怒りを滲ませた顔で上司に問う。
「そう言うことだ。傭兵の中にハキ神国軍の者が居るかもしれない。キアフ1号(投石機の名前)はレガート国の生命線でもある。今その存在を敵国であるハキ神国に知られるのは不味い。荷物に偽装が必要だろう」
「「「…………」」」
全員新たな真実に言葉が出ない。説明したシュノーでさえ、頭の整理が必要だった。
◇◇レガート城◇◇
5月29日正午、1人の男が10年振りに故郷レガートの王都ラミルに足を踏み入れていた。10年前と変わらず、いや益々賑やかで国が繁栄していると男は感じた。
男の名はハキル・クレマンス。年齢はバルファー王より5歳年下の34歳である。
短目にきちんと切り揃えられたグレーの髪に、知的なグレーの瞳。顔全体から感じられるのは、やや気難しそうな印象である。
身長は平均的な男性と変わらず170センチくらいだが、妙に姿勢が良いので、歩く姿は軍人のようでもある。
ハキルが向かった先は、ラミル正教会病院だった。
そこにはイントラ連合国のイントラ高学院で、共に切磋琢磨し医学生として学園生活を送った友が居た。友の名はパル・ハジャム、年齢は34歳。ラミル正教会病院の院長である。
「久し振りだなハキル、里帰りか?」
「相変わらず意地が悪いなパル。陛下からの呼び出しだ。それにしても驚いた。次期ブルーノア本教会病院の院長候補が、何故ラミル正教会病院の院長なんかしてるんだ?今更修行か?」
お互い容赦ない会話をしながら握手を交わし、笑顔で互いの肩を叩き合う。
ハキルはラミル上級学校を卒業後、イントラ高学院で医学と薬学を学んだ秀才である。現在はイントラ高学院で教授として教鞭を執っている。
同じく医学と薬学の両方を学んだパルとは、良きライバルであり同じ寮で暮らした仲間でもあった。
1083年、ハキルの父と兄がクーデターを起こしたのは、ハキルがイントラ高学院に在学していた20歳の時だった。
ハキルはその事実を受け入れられず、父がレガート国王となってからも、1度も帰国しなかった。
翌1084年、実の兄より尊敬し仲の良かった、従兄弟のバルファーが王座を奪還した。その時は、父親が病死した悲しみより、本当に良かったと神に感謝したくらい、ハキルは父親のクーデターが許せなかった。
ハキルは王族だからと特別待遇されたり、友人に距離を置かれることを嫌い、入学時から身分を偽り、本名であるハキル・ジ・レガートを名乗らず、亡くなった母方の姓であるクレマンスを名乗っていた。
父親は病死し兄は処罰を受け、当然自分も処罰されるものだと思っていたハキルには《 そのまま勉学せよ 》との王命が下された。
友人のパルは、政治とは関係ない教会に所属していたので、唯一自分の身分と自分の置かれている立場を、打ち明けることが出来た人間だった。
バルファー王から、王族としての身分はそのまま残すが、領地は与えられないと言われたが、頑固な性格のハキルは、このまま平民のハキル・クレマンスとして暮らしたいと、国王に願い出て許可された。
それから4年後、ハキルは無事イントラ高学院を卒業した。
バルファー王から国費留学生として援助を受けていたハキルは、謝意と卒業を伝える為に1度だけ帰国していた。
「この度のお呼び出しに心当たりがないが、何かあったのだろうか?」
「俺は何となく、その用件に心当たりがあるぞハキル。レガート国立病院の建設がキシ領に決まった。その件での相談ではないかな」
ラミル正教会病院の院長は意味あり気に微笑むと、国王に会うことを、レガート城に行くことを躊躇っている友に「行ってこい」と笑顔で背中を押した。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
仕事が忙しくなり、暫く更新が遅くなりそうです。すみませんm(__)m




