傭兵に天罰が下ります作戦発動
夕食後、ハビル正教会から来た教会警備隊は、教会に忍び込んでくる傭兵捕縛のため、2組に分かれて交代で警備することにした。
指揮を執るのはギルバート神父である。悪人を捕らえるという役を気に入ったようで、捕らえた後の尋問指示書を集会所で作っている。
ヤマギ、ガルロは狩ってきた子羊を捌いていく。レクスは明日のケガ人の治療に備えて、塗り薬を作っている。
キアは鼻唄を歌いながら食器洗いと、お茶の準備をしていた。
その光景をチラチラと見ながら、レクスはギルバート神父という人間をダメなタイプだと断定した。
あれだけファリスのシーバス様に、イツキ様にお仕えしますと言っていたのに、上位の、しかもシーリス様かリース様であるキア様に、どうして食器洗いをさせているんだろう……?これが軍なら中尉程度の者が、指揮官に食器洗いをさせているようなもんだ。ああ怖い……
その頃フィリップとハモンドは執務室の長椅子に座って、レガート軍事務官グライス38歳と、統治官屋敷事務官オールズ23歳に向き合っていた。
グライスとオールズは事務官同士で顔見知りだが、オールズは統治官屋敷から殆ど出られず、グライスは建設中の建物に関わる仕事と、国境警備隊に関わる仕事を持っており、互いに忙し過ぎて随分と顔を見ていなかった。
妙な所で出会ったものだと、互いに用心し距離を取っていたが、同じ執務室に通されたことで、自分達2人が選ばれたのではと思うようになっていた。
「あのうモーリス様……モーリス様はレガート王バルファー様の依頼で、ロームズに来られたのですよね?」
何も語らない眼鏡を掛けたモーリスのフィリップに、オールズが始めに口を開いた。
「やはりそうなのですね!あのキアさんという看護師の少女は、モーリス様が遣わされたのですか?」
友だと言ってくれたレガート王の使いの者が、想像通りロームズ教会に来ていたのだと確信し、グライスの心は躍った。
「私がキアさんを、貴方の所へ送ったのではありません。統治官屋敷のことも、暗号文のことも、全てはキアさんの指示で行ったものです」
フィリップは真実を述べるが、キアを知らないオールズは何のことか分からず、グライスもまた、何故看護師の少女の指示だとモーリス様が言うのか理解できなかった。
コンコンと応接室のドアがノックされ、お茶のセットを持ったキアが入ってきた。
ふんわりと少女らしくお茶を注ぎ、全員に配ると「どうぞ」とにこやかに微笑んだ。そして当たり前のように、大きな執務机までゆき椅子に腰掛けた。
「さあ会議を始めましょう。モーリス様、神父様、本名をどうぞ」
キアは机に両肘をつき、胸の前で手を組むとニヤリと笑って指示を出した。
『あれ?何故君がその席に?』とか『看護師さん何してるの?』と心の声が聞こえたが、当然キアは無視して進行係よろしく2人の神父を見る。
「ハモンド・ミーク23歳、レガート軍少尉。所属は情報部、ソウタ指揮官の下で働いています」
「ええぇっ!少尉?ソウタ指揮官?」(オールズ)
「それでは、治安部隊……?」(グライス)
2人はまさか神父様が軍関係者だったとは……驚きすぎて固まっている。
「俺は治安部隊所属ではありませんが、軍本部にずっと勤めているので、面が割れています。現在教会内で情報収集担当をしています」
ハモンドは立ち上がり、質問に答えてグライスとオールズに頭を下げた。
「俺は……フィリップ・イグ・マグダス・・・」
フィリップが名前を名乗ったところで、2人は慌てて立ち上がり、グライスは軍礼をとり、オールズは正式な礼をとった。そして2人は緊張と恐怖心から、礼をとった手がガタガタと震えてしまう。
眼鏡を外したフィリップは、噂通りの美丈夫に輝く金色の瞳・・・【王の目】を従え、泣く子も黙る……いや、泣く貴族も黙る【キシ公爵の番犬】だった。
「今回俺は、ギニ司令官の命令で、秘書官補佐とブルーノア教会のモーリスとして任務に就いている。3人とも座ってくれ」
フィリップはゆとりの表情で3人の礼を解き、座るよう命じる。
グライスは事務官だが階級で言うと中尉であり、ハモンドよりは上である。オールズは3等事務官で、軍で例えると少尉クラスだった。秘書官補佐がどれだけ上官か……それは地方で働く2人にとって、死ぬまで会うことなど無い雲の上の人であった。
「「…………」」
緊張して2人は、顔を上げることさえ出来ない。それだけフィリップの名は、会ったことがなくても恐怖の存在として知れ渡っているのだ。
「わたしの名はキア。作戦上の名前ですが、今回ロームズ危機回避作戦の指揮を執っています。これよりお2人は、わたしの指揮下に入ることになります」
「「…………??」」
ポカンとキアを見るグライスとオールズ・・・まあ当然と言えば当然の反応である。目の前に指揮官補佐様が居るのに、何故?何故少女が指揮を執っているのか、理解出来ないのは至極当然のことである。
「わたしはブルーノア教会の、リーバ様の命で動いています。現在ロームズは、サイシス統治官補佐、ロイス少佐、ヒブロ事務官という3人の【ギラ新教徒】に、乗っ取られている状態です。【ギラ新教】はブルーノア教会にとっても、レガート国にとっても敵です。共通の敵である【ギラ新教】から、ロームズを奪還する為に、わたしはフィリップ秘書官補佐と、いえ、レガート国と協力態勢をとっています」
「リーバ様の命で・・・」(グライス)
「ギラ新教徒に乗っ取られている・・・」(オールズ)
キアの言うことが、想像の域を越えていた2人は、再び固まりながら恐くない存在のハモンドに、説明を求めるようを視線を向けた。
「さあ、傭兵達が襲ってくる前に、作戦を確認しましょう」
キアは黒く微笑んで嬉しそうに眉を上げ、これからの予定と、各々の役割、仕事内容、作戦内容を説明していく。
5月29日早朝、キアとギルバート神父、教会警備隊の3人は、礼拝堂に収容された新入りの傭兵2人の前に立っていた。
「昨夜は私の指導の下、教会に忍び込み火を点けようとしていた傭兵を、無事捕らえることに成功しました。どうですキアさん?」
自分はぐっすりと寝ていたのだが、手柄は自分のものらしい。警備隊員の3人は、呆れ顔で上司ギルバートから視線を逸らしていく。
「ええ、さすが教会警備隊は優秀ですわね。これから誰の命令で忍び込んだのか確認します。警備隊の方は扉の前で見張りをお願いします」
キアは警備隊の3人に指示を出し、わざとギルバート神父を側に置いたまま尋問を始めようとする。
「こんな奴等の尋問など、警備隊にやらせれば良いのでは?」
「ギルバート神父、貴方は大切な任務を人に任せるのがお好きなのですね。それでは人々の苦しみを知ることも、敵と戦うことも出来ませんわね」
どこまでお坊っちゃんなんだ?とキアは呆れながら、辛辣に言い放った。扉に向かっていた警備隊員達は、クスクスと失笑する。
「な、失礼じゃないかな?」
「失礼?誰に対してです?ギルバート神父。さあ、始めましょうか」
キアは遠慮せずに【銀色のオーラ】を放ちながら尋問を開始した。隣に立っていたギルバート神父は、1分も持たず【裁きの聖人】であるイツキの気に当てられ、へたりこんでしまう。
尋問を10分で終わらせたキアは、傭兵に指示を出したのが、統治官屋敷の警護をしているマゴンという傭兵頭だと知った。
マゴンは統治官代理サイシスの指示を、直接受けているのだと傭兵は言った。
「成る程……傭兵の中にもギラ新教の大師の命令で動く者が居たようだ。……何をしているのですギルバート神父?行きますわよ」
目の前の気絶した2人の傭兵を、ガタガタと震えながら見ているギルバート神父に声を掛け、さっさと扉に向かうキアだった。
それからというものギルバート神父は、キアの指示をきちんと守り、決して偉そうな態度をとらなくなった。(キアに対してのみ)
午前7時、朝食後キアはフィリップとハモンドを連れ、山へ薬草採取に出掛けた。
先発隊のガルロ、ヤマギ、レクスは、夜明けと共に山に向かっている。
「キアさん、今日は傭兵に愛想を振り撒くのは無しでお願いします」
「嫌だわハモンド神父、わたし今日は薬草採取で忙しいの。化膿止めの薬草とシップ用の薬草を、何が何でも捜し出して見せるわ」
「後ろから5人付いてきます。山に行く前に倒せば良いのでは?」
「何を言っているのかしらモーリス様、彼奴らは荷物運び要員よ。ほら、こんなに袋を持ってきたわ」
キアは大きな空袋5枚を、お気に入りのリュックから取り出し、嬉しそうに2人に見せる。捕らえた傭兵を荷馬車替わりに使おうとする容赦なさに、心配性の2人はハハハと呆れ顔で笑った。
門番の居ない扉を堂々と開けて、キアは足取りも軽く山を登っていく。目指すは湧き水のある場所だが、先発隊のガルロ達が捜してくれているはず……目印の白い布を枝から外しながら、キアはズンズン登っていく。
30分くらい登った場所に、綺麗な湧き水の泉がある平地が見えてきた。
「お疲れ様です。もう1ヶ所湧き水が出ている場所が有りますが、谷間になっていて危険です」
泉で待っていたレクスは、キアに頑張って探した情報を伝える。
「嫌らしい目でわたしを見ていた傭兵に、腹を立てている2人の神父様は、暴れたいようなので勝手にやってください。ガルロさんも受けたケガのお返しがしたいようだし……ただし荷物運びが出来る程度にお願いね。レクスはわたしと薬草採取よ。ワーッ!ここもお宝(薬草)が一杯だわ!」
嬉しそうに瞳をキラキラさせて、美しいソプラノの声で歌い始める。薬草採取を始めたキアの今日の歌は、上級学校の校歌だった。上級学校の卒業生であるレクスも、思わずハモりながら校歌を歌う。全く緊張感の無い先輩と後輩……いやいや、教師と教え子である。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




