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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
教会の活動

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教会の仕事(6)

少し長くなりました。

 現れた事務官は、強面のヤマギだけを明らかに警戒しているためか、キア(イツキ)の存在に対しては言及してこない。


「おはようございます。えーっと……レガート軍の方ですか?それとも統治官様のお屋敷の事務官の方ですか?私は昨日からロームズ教会に滞在しているキアと申します。この者は私の護衛でマギ(ヤマギの作戦名)です」


キアはにっこりと娘らしい笑顔で挨拶をする。そして裁きの能力【銀色のオーラ】を軽く放ちながら、目の前の男が悪意のある者かどうかを確認する。

 ちなみに本来イツキは、何もしなくても悪人を見れば、黒い煙のようなものが視えるのだが、【銀色のオーラ】を使うと、その人間の本質的な悪意を視ることが出来た。


「教会の人間が何のご用でしょうか?見ればお分かりでしょうが、ここは工事現場です。部外者の立ち入りはご遠慮願いたい」


「それで、貴方は軍の方で間違いないでしょうか?」


キアは男の話をスルーし、相手の身分が分かっているのに、わざと笑顔のまま訊ねる。


「・・・私は統治官屋敷の事務官だが、それがどうした?軍の人間だったらどうだと言うのだ?」


年齢は40歳くらいだろうか、茶色い瞳はなんだか遣る気も生気も無いようだ。顔は疲れており少しでも面倒を起こされるのは、迷惑だと顔に書いてある。神経質そうな細身で顔も痩けている。


「国境警備隊の方は、昼夜を問わず働いておられるとお聞きして、おケガや体調不良などありましたら、ぜひ教会で治療させていただこうかと……そう言えば、貴方も顔色がよくないようですね……きっと眠れないのでは?よい薬草がありますので、遠慮なく来てくださいね。勿論礼拝堂ではなく庭でお薬を差し上げますわ」


キアは事務官の人物像を確かめながら、ゆっくりと話をしていく。

 確かに事務官は、ここ何日かまともに眠れておらず、睡眠不足から集中力を欠き仕事のミスが増え、上司であり統治官屋敷を掌握しているサイシス伯爵の手足として働く事務官ヒブロに、こっぴどく叱られたばかりだった。

 

「私はソンシブという者だが、とにかく嫌な思いをしたくなければ、ここから立ち去った方がいい。出来れば住民に勝手に話し掛けるのは止めていただこう」


ソンシブは傭兵の顔色を伺うように、言葉を選びながらキアに忠告してくる。


「ソンシブさん、住民の皆さんに話し掛けるのは私の仕事です。これは教会の活動なのです。ソンシブさんの本来のお仕事が、住民を無理矢理働かせたり、嫌な汚れ仕事をすることではないとしても、このままでは自分にも住民にも、限界が来ることはお分かりのはず。では、貴方はどうすれば良いと思いますか?自分の誇りを捨てることが、貴方のすべきことでしょうか?」


キアはソンシブの側に近寄り、傭兵には聞こえない声の大きさで囁いた。その間ヤマギは、傭兵の意識を自分に向けるため文句を言っていた。

 キアの話を聞いたソンシブは、驚いて目を見開きギョッとした顔でキアを見る。ソンシブが見たその顔は『分かっていますよ。貴方の辛さも全て』とばかりに、意味あり気に微笑まれていた。


「統治官様のよ(・)う(・)な(・)方が出されたご命令は、教会での祈りの禁止と、礼拝堂へ入ることの禁止で間違いはありませんねソンシブさん?」


「あ、ああ……そうだ……」


「では本日午後3時から、教会の庭でケガ人と病人の治療を致します。勿論住民達は祈りも捧げませんし、礼拝堂にも入りません。ご心配なら、ソンシブさんが確認に来てください。お待ちしています」


ぼーっとしたままのソンシブに軽く頭を下げて、キアとヤマギは他の場所に移動する。





 次の現場は資材置場だった。主にレンガを置いてあり、そこから建物まで荷車で運び、1人が数個のレンガを持って足場を登っていく。現在領主屋敷と言われていた建物は、2階の天井部分を造っていた。

 キア(イツキ)はレンガを荷車に積んでいる住民の近くまで寄っていく。


 どの顔も疲れきっている……手や足に大小の切り傷が見えるし、痛そうに腰を押さえる者、上がらなくなった肩の痛みで顔をしかめながら、荷台にレンガを載せる者、殆どの者が無言で作業をしている。ここに配置されているのは男性ばかりで、もう何日も休み無く働かされているのだろう。

 キアは込み上げてくる怒りや、申し訳ないという思いを呑み込んで笑顔を作った。


 当然そこには傭兵が居る訳で、早々にキアを発見すると、舌舐めずりして獲物を待ち構える獣のように、ニヤニヤしながら近付いてくる。

 しかしキアは、その姿が見えていないかのように、住民たちに話し掛けていく。


「おはようございます!お疲れ様です。昨日からロームズ教会に来ているキアと申します。本日午後3時から教会の庭でケガ人と病人の治療をします。お祈りはいたしませんし、礼拝堂にも入りません。事務官の方の許可も頂いていますので、遠慮なく来てくださいね」


キアは大きな声で、その場に居た100人以上の住民全員に聞こえるように叫んだ。一斉に声のする方へ皆の視線が集まる。


「皆さん、本日こちらの神母様とモーリス(中位神父)様が、教会の庭で無料診療をされます。どうぞおいでください」


キアに続きヤマギも太い声で叫ぶ。キアの後ろに立ち、護衛であると分かるように。

 住民たちの間では、実際にフィリップ神父を見た者が、「2年前の神父様がロームズに来られた」「キラキラの神父様が来られた」と興奮して話しまくっていたが、皆はどこか半信半疑だった。

 期待して真実ではなかった時の落胆を思うと、期待してはいけないような気さえしていた。が、本当にロームズ教会に、神父様は来られていた!しかも可愛い神母様までおいでになったのだ!


 2年前と同じように、ケガ人や病人を教会で治療してくださる……『これは夢なのか?』と頬をつねったり、隣に居る者に「お前にも神母様が見えるか?」と、確認する者も居て、疲れ果てた顔が喜びの表情に変わっていく。



「おいそこの女!何を勝手にほざいている?誰の許しを得てここに来た」


今度の傭兵は先程の傭兵よりも黒い煙が大きく、上半身を包んでいた。まあまあの小者さんのようだと確認して、キアは傭兵から視線を逸らした。

 始めから護衛の自分の姿などの眼中にない、若い娘のキアだけを見ているようなゲス野郎の前に、ヤマギは立ちはだかり傭兵の男を睨み付ける。怖い顔が益々怖くなっているが、傭兵の男の視線はまだキアを追っている。


「神母様に無礼を働くことは許さない!教会の活動を邪魔するなら、国王の許可を取って貰おう!」


ヤマギの堂々とした物言いを聞いた傭兵は「はあ?」と言いながら、改めてヤマギの顔を見る。そして腕を組んだ長身のヤマギに見下ろされた傭兵は、目を見開き怯んで2歩下がる。


「ああ、そこのアナタ、住民の皆さんをいたぶるような傭兵は、教会の出入りを禁止します!汚い目で私を見るのも止めてくださいね」


最後まで視線すら合わせず、キアは住民の皆さんに手を振りながら移動していく。

 そんな感じでキアは数ヵ所の工事現場を回りながら、傭兵の数を減らす為の種を、せっせと蒔いていく。





 キアはヤマギと共に、工事現場から離れた丘の上に向かった。

 国境警備隊の配置やハキ神国側の様子を確認し、間もなくやって来る投石機の設置場所を決めるためである。


 丘の中腹の少し開けた場所まで来ると、そこは小さな公園になっていて、1人の男がベンチに座って、ぼんやりと景色を見ていた。服装からするとレガート軍の事務官のようである。

 自分が話し掛けてきますというヤマギを制して、キアは1人でその男の元に、ゆっくりと歩いて近付いてゆく。


「こんにちは、ロームズ教会にお世話になっている看護師のキアです。レガート軍の方ですか?」


 突然声を掛けられて、驚きもせず無表情のまま座っている男を見たキアは、予想通りの人物のようだと思い微笑む。そして当然のように隣に座るキアである。


「…………」


男は無言のまま、キアを無視することにしたようだった。


「2年前、突然侵攻してきたハキ神国軍は、投石機を使ってロームズの町を破壊しました。やっと復興して平穏が戻ってきたら、2度目の侵攻で危険に晒され、なんとか被害もなく安心していたら、今度はレガート王が住民を苦しめる……ロームズの人々は、いつまで苦しめば良いのでしょう」


キアはロームズの町に視線を向けたまま、独り言のように語り始めた。ゆっくりと噛み締めるように。男はやはり何も言わず黙ったまま景色を見ている。


「私の知り合いに、仲の良い同期生の2人がいます。その2人は大きな苦難を乗り越えましたが、また新たな苦難に立ち向かっています。初めの苦難を乗り越えられたのは、大切な仲間が居たからだと聞いています。勿論今も、卒業した学校の先輩や後輩たちに助けられ、時に多くを導き、寝る暇も無い程に働いています。どんなに辛くても、信じる者に恥じないよう……生きて頑張る仲間がいてこそ、信じられる側の者も頑張ることが出来るのです」


「……そうだな……」


「誰にでも、必ず役割があります。本日午後3時から、教会の庭でケガ人と病人の治療をします。お祈りはいたしませんし、礼拝堂にも入りません。ぜひ来てください」


やっと自分の方を見てくれた男に、キアは涙を浮かべ悲しそうな顔を見せていた。

 キアはレガート軍事務官グライスの隣に座って直ぐ、頭の中に、ある光景が視えていた。それはグライスが国境警備隊の数人と一緒に、上官であるロイス少佐を暗殺しようと計画している光景だった。彼等なりに決心し、正義を取り戻そうとしていたのだ。


「俺は忙しいから……」


「正義の行いとは誰が決めるのでしょうか?命を捨てるだけが正義ではありません。先程話した私の知り合いは、無血決戦に拘る変わった方ですが、私もその考え方が好きです。【銀髪の双璧】と呼ばれていた2人は、仲間を見捨てたりはしない方々です」


キアはそう言うと、驚いた顔をして何か言いたそうなグライスに向かって、慈愛に満ちた微笑みを向け、丁寧にお辞儀をして去っていった。




 残されたグライスは動揺していた。初めは何気なく聞いていた少女の言葉が、次第にとても重要な話のような気がして、途中から耳を傾けていた。


「確か、私の知り合いの2人がどうこう言っていた……何だ……思い出せ!……そうだ、確か仲の良い同期生と言っていた。そして無血決戦……【銀髪の双璧】……」


グライスは頭をフル回転して記憶を辿る。少女の言葉の1つ1つを思い出し答えを導き出そうとする。


「私の知る【銀髪の双璧】は、バルファー王とエントン秘書官だ。忠実な行いとは誰が決めるのか?……そうかやはり昨日の神父からの暗号文は、春大会の暗号文を真似たもの……そして、命を捨てるだけが正義ではないと娘は言った。最後に、最後に【銀髪の双璧】の2人は、仲間を見捨てたりはしないと、見捨てたりはしないと・・・」


 グライスは全てを理解すると、溢れ出る涙を拭くこともなく、ただただ泣いた。

 死を覚悟し、今夜決行するはずの暗殺だったが、バルファー王が死ぬなと言っておられる。いや、言ったのは教会の看護師の少女だが……バルファー王は、ロームズの窮状を気付いておられたのだ。


 グライスはフィリップ神父から渡された紙をポケットから取り出し、じっと見詰める。そこには、解いた暗号文の下に、自分の知る暗号文が追記されていた。


 忠実な行いとは、誰が決めるのだろう。正義は友のためにある。

 正義の行いとは、誰が決めるのか?真の友に恥じない行いこそ、正義である。



 王は私を、仲間だと思ってくださるのか?真の友に恥じない行いをせよと……待てよ、正義は友のためにある?……そうか、2つの意味があるんだ!王のために死ぬのではなく、自分に与えられた役割を果たせという意味と、王が友のため、仲間のために正義を行うという意味だ!王の命令を受けた者たちが、ロームズ教会に来ているのだ。


 あの娘は誰なんだろう?何故暗号のことや、【銀髪の双璧】のことを知っているのだろう?

 グライスは涙を拭いて立ち上がると、仲間の元へ吉報を届けに向かう。そしてもう1度キアに会うため、教会に向かうのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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