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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
教会の活動

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教会の仕事(4)

 ランプに照らされた男の顔には、まだまだ余裕があった。


「お前ら、俺にこんなことをして無事でいられると思っているのか?お前が死ぬぞ。俺の後ろには統治官様がいる。俺は選ばれて此処に来たんだ」


木に括られた傭兵の男は、夜になっても元気に悪態をついていた。

 キア(イツキ)は【銀色のオーラ】を強くしたり弱くしたりしながら、男から重要な情報を得ようとしていた。


「アナタみたいな人を選ぶ人なんて、どうせ悪人か、ろくでなしに決まっているわ」

「煩い!お前みたいなガキが偉そうに・・・俺は偉大な神に選ばれたんだ!」

「偉大な神?夢でも見たのかしら……可哀想に頭がおかしいのね……」

「殺すぞガキ!俺はなあ、ちんけなブルーノア教なんて信じちゃいないんだ」

「嫌だわ……そんな偉大な神なんて……クスッ……笑っちゃうわ。アナタ騙されたのね」


キアは哀れむような視線を男に向けて、煽れるだけ煽っていく。全く信じていない振りをして、男が吐露するよう仕向けていく。


「どうせ聞いたこともない邪神教ね。貧乏な人を騙して誘い、高貴な人や特別な人間は誘わないような、片寄った思想の神でしょう?」


「くそ女!ギラ新教は偉い貴族様や王族が入っている宗教だ。ブルーノア教みたいに貧乏人なんて相手にしていないんだ!」

「あら?アナタは貴族なの?王族なの?」

「煩い煩い!俺は特別な人間だからお声を掛けて貰ったんだ」

「へえーっ……そう。ギラ新教なんて聞いたこともないわね。でも、さぞかし偉い人がアナタに声を掛けたのでしょうね……本当にそんな人が居たらだけど?」


「キアさん、これ以上聴いても無駄ですよ。もう止めましょう。どうせ嘘に決まっています。この男は明後日、ハビル正教会に護送されます。ハビル正教会の拷問は何処よりも厳しいと聞いていますので、お任せすれば良いのです」


ハモンド神父はキアの合図を見て、2人の会話に割って入り、尋問を終わるように勧めてきた。


「でも神父様、正直に話せば拷問の必要は無いですよね?いくらご婦人や子供に暴力を振るうような外道でも、全てが嘘だと決めつけるのは・・・」


「拷問?お前らバカか?俺の後ろにはサイシス様が居るんだ。そんなことを許す筈がない!お前らなんて殺されればいいんだ!」


「嫌だわ。アナタこそバカなの?事務官ごときがハビル正教会の|ファリス(高位神父)様に逆らえるとでも思っているの?せめて侯爵様クラスか、何処かの宗教の大師様とかの後ろ楯でも無ければ、護送も拷問も免れないわね」


キアはプイッと男から視線を外し、クルリと後ろを向いて歩き始める。その後ろをハモンド神父も付いて行こうとする。


「待て!それなら問題ない。俺は大師イルドラ様に選ばれたんだ。お前らごとき只の神父が、逆らえる方ではないのだ。早く縄を解けバカ女!おい只の神父、俺に謝れ!」


男は勝ち誇ったように大声で叫んで、「アーハッハッ」と笑い出した。

 キアは再び男の方に振り返ると、男の前までスタスタと歩いていき止まった。


「反省する気も、罪を償う気も無いようですね。残念です」


キアは【銀色のオーラ】を強く放ちながら、漆黒の瞳が闇色に変わってゆく。

 苦しみ始めた男の瞳を見据えて、息の切れるギリギリまで能力(ちから)を使う。

 男はキアの闇色の瞳から視線を逸らすことが出来ない。夜だと言うのに何故かはっきりと瞳が見え、まるで自分が闇の底へどんどん落ちていくような感覚になる。

 呼吸が出来ない苦しさのあまり、男は死を意識した。もうダメだと思ったところで、フッと楽になり息が出来るようになった。

 が、しかし、再び呼吸が出来なくなる。見開かれた男の瞳は恐怖に染まり、ガタガタと体が震える。そして男はそのまま意識を失った。






 モーリス(中位神父)であるフィリップは、護衛のヤマギと一緒に町長の弟エイドと工場長の次男オーブの話を聞いていた。

 聞き出していたのは、主に住民に与えられた労働と働き方、労働管理と管理している者についてだった。

 町長の弟エイドは、現在町長の代わりを努めていて、良識も知識もある人物のようだった。残念なところを挙げれば、気の弱そうなところだろうか。


「町の大半の者は6時間交代で働いています。朝6時から12時、12時から18時、18時から24時、0時から6時の内、必ずどこかの時間で働かねばなりません」


「エイドさん、夜はなんの仕事をしているのですか?」

「はいモーリス様、18時からの者は1階の内装作業です。0時からの者は煉瓦を作ったり土を捏ねたり、木材を加工したりしています。私も0時から行かねばなりません」


「商売をしている者や農業をしている者等、自分の仕事が昼間で無ければならない者は、18時から働き、女性や子供や老人はケガをさせないよう6時から18時の間で働きます。他の者は事務官の指示に従って、時間を設定されますモーリス様。俺も0時から仕事です」


工場長の次男オーブは、ハキハキとものを言う行動派という感じだろうか……若いぶん怒りや正義感も強く、統治官屋敷を襲撃しようとしたのだろう。自分もこれから働くのだと言いながら、ちらりと応接室の時計を見る。


「では、仕事に出ているかどうかを、誰かが管理しているのですね?休むとどうなりますか?ケガや病気の者は?」


フィリップは心配そうに質問していく。フィリップのロームズの住民からの信頼は、2年前ハキ神国軍から救ってくれたという絶対的なものがある。故に、問いには全て丁寧に答えてくれる。


「工事現場は3ヶ所に分かれています。最低3人の見張りが居て名前と身分証を確認します。予定の日に休むと、賃金の3倍の罰金か、他の家族が労働を強いられます。なので……熱があろうとケガをしていようと……出来るだけ休まないように……助け合って頑張って……でも、もう皆限界なのです」


エイドはとうとう我慢できず、泣き出してしまった。自分が辛いのではなく、何も出来ない自分が情けなくて……申し訳なくて……

 オーブも目に涙を溜めて俯く。織物工場で働いていた多くの女性住民を助けることも出来ず、工場を稼働出来ないことにより、近隣の綿農家や養蚕農家にも迷惑を掛けている。何よりも工場が倒産する危機なのだ。


「大体のことは分かりました。そこでお2人にお願いがあります。傭兵やロームズ駐在員に気付かれないよう、住民の皆さんに伝えて欲しいことがあります」


「「はい、何なりと」」


「30日は、正午以降は工事現場に働きに行かないで欲しいのです。行くと大混乱が起きて、ケガ人が多数でる可能性があります。具体的なことは言えませんが、ロームズの町を救う味方がやって来ます。その事は敵に知られてはなりません。ロームズの住民を悪の組織から救うため、レガート王の密命を受けた者達が到着します」


「モーリス様、それでは、今我々を苦しめているのは……レガート王ではないのですか?」


エイドは驚いた顔をして質問してきた。オーブも驚いたようで、ロームズの住民は統治官の命令は、国王から出ていると信じ込んでいた……いや、そう思わされていたのだ。


「これから話すことは、決して口外してはならない。約束できるかな?」

「「勿論ですモーリス様!」」

「統治官も警備隊隊長も、町長達と同じように幽閉されている」

「「な、なんですと!!」」

「ロームズはギラ新教という悪神教と、ハキ神国の第1王子オリに、乗っ取られようとしている」

「「ええぇーっ!!」」


それらはエイドとオーブにとって、あまりにも衝撃の事実だった。素朴で忍耐強いロームズの住民の中に、そんな政治的思考を持つ人間など居なかった。しかし、よく考えてみると、領主屋敷の建設が始まってから、誰も統治官様の姿を見ていなかった。警備隊が守ってくれなくなったのも同じ頃からだった。


「それと最後にもう1つ訊く、この窮状を何とかしようと、直接レガート国へ訴え出ようとした者は居たかな?」

「…………はい、いました。でも、まだ帰って来ていません」

「そうか……残念だが……レガート国には誰も辿り着けなかったようだな……」


それが、その言葉が何を意味しているのか、今ならエイドとオーブにも分かる。2人は青ざめ強く拳を握り、ポタポタと再び涙を零し始めた。

 オーブの兄は織物工場の後継ぎとして、レガート国へ商談に行くと言ってへ旅立っていた。勿論レガート王に、ロームズの窮状改善を直訴しに向かっていたのだ。

 他にも数名、秘かにランドル山脈から町を抜けた者達がいた。だが、誰も戻って来ていない。レガート国との往復に時間がかかっているのだと思っていた。


「今回私は、ロームズの住民を守るため、レガート王からの依頼で来ている」

「モーリス様!」


フィリップの言葉に、ヤマギがギョッとした表情で声を(ストップを)掛けた。

 ロームズの住民は、苦役を強いているのは統治官、それはレガート王の命令だと信じている。先ずはそこから訂正する必要があるとフィリップは思った。イツキの了承は得ていないが、己の判断で勝手に打ち明けたのだ。


「モーリス様、何故レガート王は、軍隊を率いて討伐に来ないんですか?そんなに我々を大切に思ってくださるのなら、どうして、モーリス様を遣わされたのですか?」


オーブはモーリス様の話が嘘だとは思わないが、どうしても納得できずに質問する。どうして……どうして兄は戻って来ない……何故……王は何をしているのだと……


「そうです!どうしてレガート軍は動かないのですか?」


エイドも納得できない。いや寧ろレガート王を信用できない気持ちになる。


「それは、ロームズの住民が……人質になっているからだ。下手に軍が動けば、住民たちは殺される。先の戦争の裏にもギラ新教がいた。あの者たちは貴族至上主義で、平民を虫けらくらいにしか思っていない。ブルーノア教会は、ずっとギラ新教と戦っているのだ。それはレガート王も同じだ」


「人質・・・我々が人質なのですか?」


「そうだ。住民を完全に管理し、逆らえば殺す。自分達の目的のためなら王でも殺せる奴等だ。レガート王はロームズに異変ありと分かって、直ぐに動かれた……が、既にロームズは、統治官や町長達を人質にされ、警備隊と国境警備隊を脅し、町は傭兵達によって占拠されていた」


「「…………」」


その通りだった・・・確かにそうだとエイドは思い当たる。オーブもまた、警備隊や軍の人間の行動が、突然おかしくなったと感じていた。だがそれは、所詮はレガート国の人間だからだと思っていた。まさか自分達が……住民全てが人質状態になっているとは、想像すら出来なかった2人である。


「だから迂闊に動けば住民が殺される。そうならない為にも、慎重に行動しなければならない。分かるな?勝手な行動がロームズを消滅させるのだ。あと3日……皆には耐えて欲しい……すまない」


フィリップの声は震えていた。そして立ち上がり深く頭を下げる。ヤマギも慌てて立ち上がり頭を下げた。

 2人はモーリス様が泣いているように思えた。

 モーリス様が我々のために、ロームズの住民の為に涙を流されている・・・


「分かりました。必ず勝手に動かないよう住民に徹底します」


エイドはモーリス様の涙に感動し、ひざまずいて応える。


「あと3日、必死で耐えてみせますモーリス様。俺は、レガート王を信じてみます!」


オーブもひざまずいて応えた。その瞳は、新たな使命を受けて輝きを取り戻していた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

訂正)モーリス(高位神父)➡ファリス(高位神父)

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