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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
教会の活動

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教会の仕事(3)

 警備隊の2人は、遅れたことを詫びながら、空いている席に着いた。

 集会所の中を見回すと、4人掛けの長椅子8脚が、大きなテーブル2つを囲むように配置してあり、32人が同時に会議をしたり食事をしたり出来るようになっている。また、集会所の半分のスペースは床上げしてあり、靴を脱いで上がり休憩できるようになっていた。その奥には収納棚があり、10組くらいの布団が納められている。


「モーリス(中位神父)のフィリップです。宜しくお願いします。まあ固い話しは後にして、食事を頂きましょう。では感謝の祈りを神に捧げます」


食事前の祈りだけは偽者とは到底思えない程、完璧にこなせるようになったフィリップである。外見上のハンサム度も高いので、この場に女性が居たら、熱いため息ものなのは間違いない。

 食事も終わりに近付き、キア(イツキ)はお茶をカップに注いでいく。教会の食器は殆どが木製で、落としても割れない安心感があった。



「ところで警備隊隊長は、いつから仕事に出ていないのかな?」


モーリスの姿をしたフィリップは、突然2人の警備隊員に話を振った。


「「えっ?・・・」」


セブルとエイコムは、それはどういう意味なのか……どうしてそんな質問をするのか訳が分からず口をつぐむ。


「質問の仕方が悪かったかな?では言い方を変えよう。警備隊隊長は、いつから幽閉されているのかな?」


フィリップの言葉に、2人は目を白黒させながら、たちまち挙動不審になっていく。そして顔を見合わせて、不思議なものを見るような視線でモーリス様を見る。


「我々は敵ではない。ロームズに反乱の疑いありと知らせが届いたので、調査に来ているのだ。確かに住民は、まるで奴隷のように働かされ、いつ反乱が起きても不思議ではない。これ程の状況なのに、警備隊隊長は本部にも工事現場にも居なかった。では何処に居るのか……」


黙って下を向いている2人の警備隊員は、モーリス様はロームズの調査に来ていたのだと知り、どうしたら良いのか判断が出来ないでいる。

 教会は住民を苦しめるレガート国の警備隊や軍を、罰しに来たのだろうか?それとも……それとも我々を助けに来てくれたのだろうか?2人は考えながら、手にじっとりと汗をかく。段々呼吸も苦しくなってきた。


「モーリス様、それでは2人が怖がってしまいますわ。警備隊隊長は、いつから人質になっている……とお訊きになられた方がよろしいのでは?」


全員のカップにお茶を注ぎ終えたキアは、さらりと有り得ないようなことを言う。


「ねえそうでしょう?セブルさん、エイコムさん?ああ、皆さんお茶をどうぞ」


キアはクスクスと笑いながら、自分の方に驚愕の視線を向けている2人に笑って言った。


「えーっ!ただの幽閉ではなく人質なのですか?」


「ハモンド神父、言葉を控えなさい。我々は神に仕えるものです。真実を見極め、弱きを助け悪を許さないことが大切なのです」


つい声を上げてしまったハモンドに、フィリップは……いやモーリス(中位神父)様は、神々しい顔をして諭していく。正面を見ると、ドグが懸命に笑いを我慢し、ガルロは呆気にとられた顔をして、ヤマギは口元を左手で隠している。


「さあ2人とも、今が懺悔の時です。モーリス様は全てを見透していらっしゃいます。皆さんはロームズを救う為に来られたのですよ」


セブルとエイコムの側に行き、キアは天使のような声で囁いた。そしてほんの少しだけ、【金色のオーラ】を発動した。

 すると2人は、堰を切ったように声を上げて泣き始めた。


「もう我慢することはない。これからは力を合わせて、警備隊隊長や統治官様、その他幽閉されている者達を助け出し、苦しんでいる住民達を解放しなければならない」


モーリス様は慈悲深く声を掛け、新たな任務を与えていく。その言葉を聞いた2人は、すっかり安心し両手で涙を拭きながら、これまでの経緯をポツポツと話し始めた。





 統治官様は誰にでも優しく、警備隊員の自分達にも、気さくに声を掛けてくださるお方で、住民達とも良好な関係を築いていらした。

 それが、事務官兼統治官補佐のサイシス伯爵が赴任して来て直ぐに、統治官様は重篤な病に罹られたので、自分が統治官様の代理でロームズを統治すると言い出した。

 それに異議を唱えた警備隊隊長は、サイシス伯爵と共に赴任してきたレガート軍を取り仕切るロイス少佐に、反乱の疑い有りとして幽閉されてしまった。当然警備隊員達は納得がいかず、統治官様に直接会って事態の収拾をしようとした。

 しかしその結果、統治官様を襲った罪で3人が殺され、2人のリーダーが捕まった。


 20名居た警備隊員は、現在15名で仕事をしていた。住民警護に10名、部外者(旅行者、商談希望者他)対応に3名、本部担当が自分達2名で、主な仕事は住民警護だが、警備隊に傭兵の見張りが4人居て、勝手に動くと投獄している者を殺すと脅されていた。

 その為、実質警備隊員は住民を守ることが出来ず、サイシス統治官代理とロイス少佐の言いなりになっていた。

 唯一出来たのはケガ人の救護と、傭兵達の暴力を止めることだけで、取り締まることは出来なかった……らしい。




 そして、もっと悲惨だったのがレガート軍国境警備隊で、30名駐在していた隊員の内、ロイス少佐に逆らった3名が殺され、2人の少尉は幽閉された。実質国境警備をしているのは10名で、残りの15名は昼夜問わず、建設現場で住民と共に……いや、住民以上に働かされていた。


 元々ロームズに居た事務官の姿も1名見掛けなくなったので、恐らく幽閉されているのだろうとセブルが付け加えた。



「なんてことだ・・・真面目に働く者を6名も殺し、10名以上の人を幽閉しているのか……信じられんな!」


国境警備隊副隊長であるヤマギは、怒りを込めて叫んだ。ヤマギのかつての部下もロームズで働いていたはずである。上官に逆らっただけで殺される……しかも正義を行って無惨に殺されたのだ。考えただけでも腸が煮えくり返る思いだった。


「そうですか……皆さんご苦労されていたのですね。それで、今ロームズで働いている警備隊員の中に、サイシス派の者は居ますか?」


「いいえモーリス(中位神父)様、そんな人間は居ません!だから監視の傭兵が4人も居るのです。国境警備隊には、確か6人くらい監視の傭兵が居ると思います」


エイコムは青い瞳に力を込めて、それだけはないと言い切った。


「分かりました。それでは重要なことを聴きます。現在建設している建物は何か知っていますか?」


「いいえ、住民には領主屋敷だと説明していましたが、領主なんて居ないし……エイコム、何か知ってるか?」


セブルは知らないと答えながら、エイコムにも確認するが、エイコムも知らないと首を横に振った。


 暫くの間、集会所に沈黙の時が流れた。

 予想以上に状況は悪かった。敵は用意周到に傭兵を配備し、リーダーとなる邪魔者を全て幽閉し、誰も逆らえないようにする為、人質にしていたのだった。しかも建物の正体も分からない・・・



「でも、味方もたくさん残っています。その気になれば制圧するのに、半日もあれば充分でしょう。でも、問題は時間が無いことです。あと3日以内に傭兵の数を減らしましょう。目立たないように、こっそりと少しずつ。脅し担当はモーリス様にお願いしますわ。わたしは住民の皆さんのケガの手当をしに出掛けます」


キアは黒く微笑みながら、制圧とか傭兵の数を減らすとか……脅す等と物騒な言葉を使いながら、神に仕えるものらしからぬことを言う。


「いやいやキアさん、工事現場は危ないですし、傭兵だって危険です」


心配性の弟子ハモンドは、女装している自覚の無いイツキに、シスコンの兄の如く口煩く言ってしまう。


「そうですキアさん!止めてください危険です。工事現場の傭兵達は、武器を所持していますしガラも悪いです」


女性には優しいらしいセブルは、とんでもないことを言うキアを止めようとする。


「あら、なんの為に教会の警護の者が居るのかしら?当然ここに居る1番怖そうなマギさんを連れて行くわ。モーリス様にも誰か同行するし、それに、警備隊の皆さんが居るでしょう?明日からお2人には、本来の仕事をして頂きます。きっと本部の傭兵は来ないと思いますし、お2人の本気をわたしに見せてくださる約束ですよね?」


キアは有無を言わせず命令する。完全に怖い上から目線の少女になっている。この状態のキアに、絶対に逆らえそうもない2人の警備隊員である。勿論ハモンドも。


「わたしたちは、教会の仕事をするだけです。教会の活動を止める者……それは神に逆らう者です。放っておけば天罰が下るでしょう。天罰ですから仕方ありません。教会の仕事を邪魔した傭兵の数が減るのは、きっと神の罰ですわね。ホホホ」


『神の罰って何?』『ホホホって何?』と全員が突っ込みを入れたかったが、そんな怖いことは出来ない。

 この時警備隊のセブルとエイコムは、この場の真のリーダーが誰なのか、そして、神に仕える者の恐ろしさを知った。


 あまり長居をして怪しまれてはいけないので、警備隊の2人は帰っていった。

 帰り際、「明日はわたしを守ってくださいね」と、キアは極上の笑顔でお願いした。

 もう騙されない、この少女は、少女の仮面を被った鬼……いやいや神に仕えるものだ!と思っていたが、極上の笑顔には勝てなかった。つくづく気の毒な2人である。

 明日から人使いの荒いキアの、手足となり働くことになるとも知らず、ニヤニヤしながら帰って行く2人だった。





 午後8時、昼間統治官屋敷の前で遭遇した、幽閉されている町長の弟エイドと、同じく幽閉されている工場長の次男オーブ(教会の手伝いに決まったソルの弟)が教会にやって来た。

 教会の門を潜ると、何やら呻き声のようなものが聞こえてきた。2人は何事だろうかと、声のする教会の木の方に視線を向ける。そこには、ランプを持った神父様と少女が立っていて、姿は見えないが、もう1人の男らしき人物と話をしているようだった。


「いらっしゃい。お待ちしてました。応接室の方へどうぞ」


木の下に視線を向け、心配そうに顔を見合わせていた2人に、モーリス様が近付いてきて優しく声を掛けた。


「あれは神の裁きを受けているのです。極悪人ですから気にしないでください」


モーリスのフィリップは、そう言いながら2人を応接室へと案内して行く。

 町の様子やこれまでのことを、しっかりと聴いておいて欲しいと、イツキから頼まれたのはフィリップとヤマギである。


 ドグは明日の夜明けと共に、ロームズに向かって来ている投石機設置部隊まで、1人でイツキの手紙を届けることになった。馬は警備隊から借りれるようキアが手配した。

 ガルロはケガが完全に治った訳ではないので、ドグと一緒に早目に休むようイツキが指示を出していた。



「さあ、本当のことを話しなさい。何度も言っていますが、本当に死にますよ。私の前で嘘をつくことは許されません。あなたの上司は誰です?」


キア(イツキ)は男の顔を見ながら、凍るような声で言う。既に裁きの能力【銀色のオーラ】を身に纏い、夏なのに冷気を漂わせていた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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