↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
教会の活動

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/79

教会の仕事(1)

 フィリップ神父の姿を見た住民4人は、今にも倒れそうになっている体で立ち上がり礼をとった。そして喜びと安堵の涙を流し始めた。


「私は暫くロームズに滞在します。もしも忙しくて教会に来れなくても、私が出掛けて来ますので安心してください。ロームズは神に愛された土地故、苦難が降りかかりますが……必ず幸せも訪れるでしょう」


「ありがとうございます。やはり神様は……我々を見ておられた……」

「そうよ父さん、まだ死ねないわ。ロームズは神に愛された土地なのよ!」


倒れそうになっていた老人は、子連れの母親の父親だった。子供だけではなく高齢者も働かされていた。


「モーリス(中位神父)様、みんなもう限界です。いつまで……いつまで頑張れば良いのでしょうか?」


30代の男は手当てを受けた指を擦りながら、この苦しみをいつまで耐えたら良いのかと尋ねる。そんなことは教会の神父様に聞いても、答えられないことだろうと思ってはいても、つい訊かねばいられなかった。


「そうですね。今月いっぱい頑張ってください」

「では、あと3日、あと3日で元の生活に戻れるのでしょうか?」

「いいえ、私にはそれ以上答えられませんが、レガート王も心配されています。ですから神様と王を信じて、あと3日頑張るよう……皆に伝えてください」


モーリス様はにっこりと優しく微笑み、うんうんと頷いた。

 フィリップの役目は、住民に希望を与えることである。それは過剰であってはならず、少な過ぎてもいけない。あと3日で投石機設置部隊が到着する。3日が我慢の限界ギリギリだろうとフィリップは判断した。

 現在でも限界は来ているが、人は希望があれば、無い力を振り絞れるだろうとイツキが言っていた。



「おい!そこの男。何をしている?勝手に住民に話し掛けるな!」


フィリップが住民と話をしている姿を発見した傭兵が、駆け寄ってきて文句を言う。


「何をしている?私はブルーノア教会のモーリスです。神父は住民に声を掛けるのも仕事です。それが何か?」


「ここは工事現場だ。見て分からないのか?邪魔をするなと言っているのだ!」


あまりにも大きな声で傭兵の男が怒鳴ったので、辺りで作業していた住民の視線が、一斉に神父姿のフィリップに向けられた。


「おい、あれは2年前に来られた神父様だ」

「ほ、本当だ!神様は我々を見捨てていなかったんだ」

「ああ神様・・・」


傭兵の男には聞こえないように、人々はフィリップの方を見て喜びの声を上げる。礼をとったり平伏す者もいる。泣き出す者、祈り始める者、天を仰ぎ感謝する者……全員が深く息を吐き、『これで助かる!』と安堵する。


「邪魔をするなと?それは言い掛かりと言うものです。私は教会の仕事をしているだけです。教会の活動はランドル大陸全ての国で認められています。もしも私の仕事を邪魔するのなら、国王の許可を取ってください。よく判らない建物の工事に住民を駆り出しているが、神父が教会の活動をして邪魔です。王様から教会に邪魔をするなと命令してください……そう申し出ては如何です?」


「…………」


「ああ、その前に私から統治官様にお話ししましょう。このままでは神の怒りを買いますが、この現状をご存じでしょうかと……」


フィリップはニコニコしたまま、はっきりくっきりと脅しを掛ける。それを聞いていた住民達は、これまで誰一人として統治官に対し、これ程まで辛辣にものを申した者が居なかったので、驚きの表情でモーリス様と傭兵の成り行きを注目する。そして心の中で『モーリス様頑張れ!』と声援を送る。


「これは神父様、どうかなさいましたか?」


そう言って声を掛けてきたのは、レガート軍の軍服を着た30代後半くらいの男だった。レガート国では珍しい赤茶色の髪を長く伸ばし、瞳は濃い緑色で知的なイメージ。体型は痩せ型で手に書類と筆記用具を持っているところを見ると、この現場で仕事をしている事務官のようである。


「特別何も……ただ教会の仕事をしていただけです。今日から暫くロームズ教会に滞在する、モーリス(中位神父)です。神父2人警護の者3人の合計5人で、魔獣の調査をしております。調査の傍ら住民の皆さんに声を掛けています。先程統治官様にもご挨拶に伺ったのですが、お忙しそうで面会出来ませんでした。ところで貴方は?」


フィリップはゆっくりと話しながら、目の前の男を観察する。味方なのか敵なのかを。


「私はレガート軍の事務官でグライスと申します。ここは工事現場で危ないですから、出来るだけ立ち入りはご遠慮頂きたいのですが……」


グライスは面倒臭そうに挨拶し、言葉遣いこそ丁寧だが、明らかにフィリップを邪魔者だと認定しているようだ。


「いえいえ、小さな子供まで働いている場所です。危険である筈が有りません。まさかレガート国は、住民を軍の仕事に駆り出しているのですか?」


「そうではありません。これは軍の施設ではありませんし、住民には賃金も払っています。これ以上立ち入られるのは……御身のためにもお勧め出来ません」


グライスは探るように言葉を選びながら、脅しとも忠告ともとれる言い方で、この場から立ち去るよう促してくる。

 人を見る目には自信のあるフィリップだが、グライスについては、敵でも味方でもない人間に見えた。言い換えれば大変慎重な人間だと言うことになる。

 グライスの人物を確かめるためフィリップは、ある暗号を書いた紙を取り出し、「それでは明日また参ります。これからもよろしく」と言いながら、握手を求める振りをして、こっそりとグライスの手に握らせた。

 監視の目が何処にあるか分からないので、危険だとは思ったが賭けに出たフィリップである。


 小さく丸めた紙を受け取ったグライスは、誰にも見られない場所まで行って、そっと紙を開いてみた。紙の大きさは10センチ四方で、そこには暗号のようなものが書かれていた。





◇◇ ロームズ教会 ◇◇


 午後4時、キア(イツキ)は警備隊員を2人伴ってロームズ教会の前まで戻ってきた。

 キアの警護をしていたドグは、途中の道から別行動をとり、先行してロームズの町に潜入していた、【王の目】のガルロと合流する為、住民に成り済まし生活している場所へと向かった。


「キアさん、質問してもいいですか?」

「はい何でしょう?」

「キアさんは、何故レガート国警備隊憲章を知っていたのですか?カルート国の方ですよね?」


警備隊員のエイコムは、疑問に思っていたことを質問してみた。エイコムは24歳でマキ領の出身。短く切った金髪に青い瞳。精悍な顔立ちのハンサムで、爽やかな好青年という感じである。


「いいえ、わたしはレガート国の者です。少し前まで王都ラミルに住んでいました。ロームズの隣にあるビビド村に住む叔母が、孫の世話で忙しくなったので、暫くの間だけ教会のお世話を頼まれたのです」


キアはカルート国語の質問に、レガート国語で答えを返した。

 レガート国からロームズに派遣される駐在員には、カルート国語の日常会話が出来る語学力が必要だった。レガート国の中級学校を卒業していれば、そこそこの基本会話が出来るのが普通で、上級学校を卒業していれば、問題なく会話出来るだけの勉強をしている。


「ええっ!ラミルの方ですか?わざわざ危険なロームズに1人で?」


驚いたように声を上げたのは、もう1人の警備隊員のセブルである。キシ領の出身で25歳。茶髪に人懐っこい茶色の瞳。全体的にガッシリしていて、如何にも優しそうな雰囲気で、特に若い女性には親切そうだ。


「まあ私は教会で育ったので、ミノスだったりキシだったり、家という家は無いんです。だから、ロームズだって問題ありません」


嘘は言ってない……確かに家は持っていないが、広大な領地は持っている。

 あれこれと、差し障りのない世間話をしていると、教会の門に到着した。教会は門の正面に礼拝堂があり、左手に神父の執務室と応接室。その後ろにキッチン付きの集会所。右手には花壇や小さな池があり、側に大きな木が立っている。その後ろに神父の住居があった。一般的な町の教会より設備も整っていて、礼拝堂はかなり立派である。


 警備隊員の2人は、右手にある大きな木の裏側に括られている男を見付け、軽蔑と怒りの視線をぶつけた。そして近寄って行き顔を確認する。


「やはりコイツか・・・日頃から住民に悪態をつき、昼間から酒を飲んでは何かと問題を起こす男で、我々も気を付けていたのですが……」


そう言ってセブルは、熟睡している悪人の顔を見ながら、悔しそうに両手を強く握り、以後の言葉を続けられない。


「気を付けていただけでは、何もしていないのと同じです。事件が起きる前に行動してこそ、警戒していたと言えるのでは?」


キアは容赦ない言葉をセブルに浴びせる。行動出来なかった理由も、キアには大体分かっているのだが、この先自分達の協力者になれる人間かどうか、試す意味もあり厳しいことを言ったのだ。


「返す言葉がありません……どんな理由があろうと、住民の皆から見たら……俺達は責務を果たさず、何もしていなかったも同然です」


セブルは項垂れて、本当に後悔し反省している言葉を返した。隣に立つエイコムも、同じように項垂れて頷く。


「そうですか……では神父様の所へお連れします。この男は2、3日こうして括って置きましょう。騒いだら煩いので、後で猿ぐつわをしておけば問題ないかと……仲間が探しに来ることもないでしょうが……お決めになるのはモーリス様ですから」


ただの教会の手伝いをしている少女らしからぬ物言いで、キアは犯人の男には目もくれず、スタスタと執務室に向かって歩き始める。

 セブルとエイコムは、ポカンとした表情で顔を見合わせて、慌ててキアの後ろを付いて行く。自分達にも容赦なかったが、犯人の男にはもっと容赦なかった。


『この少女は何者なんだろう?』とセブルとエイコムは思った。既にただのお手伝いの少女には思えない2人である。

 警備隊本部で見せた話術だって普通じゃなかった……いくら教会で育ったと言っても、何故ここまで上から目線?と言うか、まるで神父様?いやいやまるで警備隊長のようではないか……気付けば自分達の方が敬語で話している……



「さあこちらです。神父様、只今戻りました」


キアは執務室のドアを開け、中に居る神父のハモンドに声を掛けた。

 執務室には大きな机が部屋の奥に置いてあり、手前には2人座りの長椅子が、テーブルを挟んで2つ置かれ、入って右の壁際には書棚と収納棚が設置されていた。机の後ろには大きな窓があり、窓からは教会の門がよく見えた。


「おかえりなさいキアさん。そちらのお2人は警備隊の方ですか?」


「はい神父様。話が通じる方達のようでしたのでお連れしました。モーリス様がお帰りになるまでに、ソルさんの話を聴いて頂こうかと思います」


如何にも穏やかな神父様を演じているハモンドは、キアに話を合わせて会話する。


「警備隊のセブルです」「エイコムです」


2人の警備隊員は、礼儀正しく頭を下げ挨拶をした。そして23歳のハモンドを見て、やけに若い神父様だなと思った。


 ここからこの2人の警備隊員の地獄の日々……いや、これぞ警備隊員という働きの日々が始まるのであった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

グライスの名前が、途中でダグラスになっていました。訂正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。