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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
教会の活動

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支配者と住民(3)

 イツキ達はソルの話を聞いた後、ソルとシーラには今日から働いて貰うことに変更し、礼拝堂と集会所の掃除を頼んだ。

 イツキ達は留守にしているクリム神父の執務室で、これからの予定を立てる。

 

「ではこれから、5つに分かれて行動します。くれぐれも自分の身分がバレないように気を付けてください。ハモンドも眼鏡を掛けておくこと。ヤマギさんは……髪を染めてからホクロかな……」


 イツキが決めた行動予定は次の通りである。

 イツキとドグは警備隊本部に行き、教会の木に括り付けている男の身柄の処分について交渉する。

 フィリップは工事現場に出掛けて、住民に声を掛け、励まし勇気付ける。

 ヤマギは、狩りに出掛けて食料の調達をしつつ、髪を染める為の薬草を採取する。

 レクスは早速ハビル正教会に行く。名目はハビルの街に薬草を買いに行く為とする。

 ハモンドは執務室で留守番しつつ、ソルさんと現在のロームズの町の地図を作成する。

 

「レクス、ハビル正教会のファリス(高位神父)のシーバス様に手紙を書くから、それを渡して返事を貰って来るように。それからミム(通信鳥)を連れて行き、ハビル正教会からロームズの町まで、ファリス様に飛ばして貰ってくれ」


「承知しました」 (全員)


 フィリップは直ぐに出掛け、国境警備隊のヤマギは、潜入捜査が専門の【王の目】のドグから、髪染め用の薬草の説明を受けてから山に向かった。

 ハモンドは執務室の中に、2年前に使った赤と黒の顔料がないかを探す。

 イツキは10分で手紙を書き終えレクスに渡し、ソルさんから聞いた辻馬車の時間が午後3時だったので、間に合うように急いで出発した。





 ◇ ◇ 統治官屋敷 ◇ ◇


 事務官兼統治官補佐のサイシスは、不機嫌な顔で統治官屋敷の扉を開けた。

 直ぐに事務官のオールズを呼びつけ、留守にしていた間の報告を受ける。


「来訪者は3名、1名はハビルの商人で、ロームズへの出店希望を伝えるものでした。残りの2人はブルーノア教の神父と警護の者で、ロームズ滞在の挨拶に来たようでした」


オールズは無表情で伝えると、さっさと自分が働く事務官室に戻ろうとする。

 サイシスは屋敷の警護を任せている傭兵のマゴンに、オールズの話に間違いないか視線を向ける。するとマゴンは、間違いないとコクリと頷いた。


「オールズ、お前はこれから馬でハビルまで行き、ロームズ教会のクリム神父を連れ戻して来い。抵抗するなら殺しても構わない」


「お断りしますサイシス伯爵。私の仕事は事務官です。そういうことは私よりマゴンの方が適任では?他にもたくさん傭兵が居るでしょう?」


オールズは露骨に嫌そうな顔をして、キッパリと断る。

 これまでも散々汚い仕事を押し付けられそうになったが、その都度はっきりと断っていた。

 独裁者のように屋敷を支配しているサイシスだったが、実際は本人を含めて、事務官の仕事をこなせる人間はオールズしか居なかったので、憎々しい顔でオールズを睨み付けても、殺すことも痛め付けることも出来なかったのだ。


 事務官は他に4人居るが、サイシスが連れてきた同じカイ領出身のヒブロは、事務官なのに事務仕事が出来なかった。サイシスが伯爵の権限を行使して、汚れ役担当として準男爵に取り立てた男で、命令には忠実に従う犬だったが、学がある訳ではなかった。

 他の3人の内1人は幽閉し、残る2人は領主屋敷の建設の為に従事させている。その為どうしてもオールズが事務官として必要だったのだ。



 サイシスの駒であるヒブロ40歳は、グレーの髪にグレーの瞳、背は低く猫背である。レガート国の貴族を代表する外見だが、その表情からは神経質で気の短そうな印象を受ける。

 ヒブロの父は騎士(ナイト)だったので貴族ではあったが、騎士は世襲出来る訳では無く、貴族に固執していたヒブロは、サイシスを上手く利用して準男爵になったと……本人はそう思っている。

 サイシスの前ではオドオドしているが、他の者や平民の前では高圧的で容赦ない、まさに【ギラ新教徒】そのものであった。



 屋敷の警護を任されているマゴン35歳は、ハキ神国のギラ新教の本部から派遣されてロームズに来ていた。

 サイシスは自分の為に本部が送ってくれた傭兵だと思っているが、マゴンは目付役として赴任していたのである。

 短く切られた赤髪に、焦げ茶色の瞳は鋭く底が知れない感じで、頬に斬られたような傷があり、余計に怖さを演出していた。長身で鍛えられた体はがっしりしており、武術に長けていることは間違いない。



「マゴン、お前は教会の2人をどう見た?オールズは余計なことは言わなかったか?」


「はいサイシス様、オールズは何も話してはいません。神父は物腰こそ柔らかそうでしたが、私が無理矢理連れ出そうとしても動じることが無かったので、そこそこ出来る人間だと思います」


姿勢を正し扉の前に立っているマゴンは、ヒブロより使える男だと、サイシスに認められた存在だった。時折意見を求められ的確な答えを返すところも、サイシスは気に入っていた。


「そうか……まあモーリス(中位神父)ともなれば、一般神父のクリムのようにはいくまい。クリムの追跡に誰か向かわせろ。殺しても構わない」


「承知しました。それで、新しく来た神父達はどうしますか?」


「今は忙しい・・・本部の視察までに、2階部分を完成させねばならない……見張りだけ……いや、怪しい動きがあれば報告しろ」


サイシスは当然のように統治官の椅子に座り、机の上に置かれた小箱から葉巻を取り出し火をつけた。そして机の引き出しから袋を取り出し、中から金貨を2枚掴むと机の右端にスッと置いた。

 マゴンは進み出てきて金貨を掴むと、軽く一礼して部屋を出ていった。



「どいつもこいつも使えない奴ばかりだ!ヒブロは指示がなければ動けず、雇った傭兵は勝手に動く。資材の調達さえまともに出来ない事務官に、文句ばかり言う警備隊や国境警備隊の奴等……まともに働くのは奴隷(住民)だけじゃないか!」


忌ま忌ましそうに言い捨てて、大きく葉巻を吸って、フゥーと大きく煙を吐いた。

 所々薄くなったグレーの髪は、白髪が混ざって実年齢の50歳よりも老けて見える。瞳はグレーとシルバーという、ランドル大陸でも珍しいオッドアイであるが、そのオッドアイは左右の大きさを変え、不機嫌なしかめっ面を作っていた。そして口角は常に右上がりに歪んでいるため、左右のバランスからして、如何なる時も怒った表情の悪人顔になっている。

 そのせいで弱者からは恐れられ、格上の貴族からは品位を疑われることになる。


 サイシスは引き出しから1枚の紙を取り出し、葉巻を置いてペンを取った。



 大師イルドラ様

 ロームズにおける任務は順調に推移しておりますが、木材や煉瓦の調達が予定より遅れています。

 また、そろそろ住民には限界がきているようなので、新たな人材をお願いします。

 住民の始末について、具体的な方法をご指示ください。

 

 建物完成の折りには、大師ドリル様にもぜひおいで頂きたいとお伝えください。


 教会の神父が逃げましたが、直ぐに処分致します。

 レガート国は、まだ何も気付いてはいませんので、どうぞご安心ください。

 ご指示通り、来月から全ての人間を入国禁止にします。


  1098年5月27日  サーニク・スレイ・サイシス

 

 サイシスは手紙を封筒に入れ封をすると、呼鈴を鳴らした。呼鈴は2つあり、その音はヒブロを呼び出す為のものだった。






◇◇ ロームズ警備隊 ◇◇


 ロームズ警備隊本部は、町の中心にある役場の中の一角にあった。

 キア(イツキ)とドグは、外から様子を確認してから近付いていく。

 警備隊員は2人しか居ないようだ。確か合計20名は駐在している筈だが、隊長は幽閉されているので、指揮系統がどうなっているのか分からない今、慎重に接して敵か味方かを確認する。

 当然サイシスが雇った傭兵が居る可能性もある。傭兵が制服を着ていないことを祈りながら、イツキ……キアは怒った顔をしてドアを開けた。


「すみません。レガート国の警備隊の方はどちらでしょうか?」


キアは入った部屋の様子を瞬時に確認する。そして、制服組とそうでない者が両方居るのを見て、挨拶する振りをして頭を下げニヤリとほくそ笑んだ。


「なんの用だ?お前はロームズの住民か?」


制服を着ていない方の男が、とても親切とは思えない態度で応対してきた。

 どうやら、ここの主導権は傭兵達にあるようだ。


「私は本日からロームズ教会で働くことになったキアと申します。私はロームズの住民ではありません。用件は、教会の敷地の中で、8歳の女の子を連れた母子が男に暴力を受けた件についてです。女の子は顔を殴られ、母親は・・・私の口からは言い難い乱暴を受けました」


キア(イツキ)は怒りの表情で言いながら、制服を着ている2人の男を睨み付けた。


「な、なんだって!教会の敷地内で暴行しただと!」

「黙れ!お前達はそこで座っていればいいんだ。何度言わせるんだ!」


驚いて立ち上がった制服を着ている男に、制服を着ていない男が怒鳴りつけた。


『制服を着ていない男は傭兵で間違いなし。制服の2人が本当の警備隊員と言うことでっと……それでは警備隊員達の正義を見せて貰いましょうか……』

テーブルの前に置かれた椅子に、勝手にちょこんと座ったキアは、心の中でそう言って、にっこりと微笑んだ。


「それで、その男は今、教会の木に括りつけています。でも、驚いたことにその男は……統治官様の命令で自分は動いていると言うんです。これは明らかに、レガート国の統治官様を愚弄する言い訳です」


キアの視線は、ずっとレガート国の警備隊員に向けられている。


「お嬢ちゃん、その男はどんな男だ?」

「えっ?どんなと言われたら、醜い顔をした男ですけど」

「そうじゃなくて、名前とか特徴とか・・・」

「ああ、お酒を飲んでいるようで息が臭く、傭兵のような格好をしているけど弱そうで、丸顔でイヤらしい目付きで、8歳の女の子の顔を殴るようなゲス野郎です。あっ!私としたことが失礼しました……」


キアはしまったという顔をして口元に手を当て、乱暴な物言いを恥じた振りをする。

 対応していた男は「チッ!あの野郎勝手に」と呟き、顔をしかめて拳を握った。


「もしかしてご存知の男なのですか?もしや常習犯?……それとも……お知り合いとか?」 


キアは皮肉を込めて話しているが、椅子に座ったキアからの上目遣いに『よく見たら可愛い女だ』などと、男はつい気付いてしまった。するとニヤリと笑い、向かいの椅子に座り話し始めた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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