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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
教会の活動

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支配者と住民(2)

 突然止まった馬車から、傭兵ではない役人風の男が1人降りてきた。


「何処へ行っていたクリム神父!」


大きな声で怒鳴るように叫びながら、3人に駆け寄って来た。

 そしてモーリス(中位神父)姿のフィリップを見て、顔をしかめて「チッ」と舌打ちする。

 どうやら知っている、又は探している神父とは違ったようで、不機嫌な表情のまま探るような目付きで3人をジロジロと見る。


「お前は誰だ?」


他の2人には興味が無かったのか、その視線はフィリップだけに向けられている。


「えーっと……どちら様でしょうか?私はつい今しがたロームズに到着した、ブルーノア教会のモーリス(中位神父)でございます。この2人は私の護衛でございます」


「どこから来たのだ?」


「何処から?方角としましてはルナの街の方からですが、貴方はどなた様でしょうか?」


モーリスだと名乗っているのにも関わらず、不躾な態度を崩さない男に対し、フィリップはおっとりと笑顔で答える。


「なんの用でロームズに来たのだ?」


名乗る気も無さそうな失礼な態度に、ドグが1歩前へ出て抗議しようとするのをフィリップは右手で押さえて、ゆっくりとした口調で返答する。


「我々……他にも神父1名と警護の者がおりまして、合計5人で魔獣の調査をしております。ランドル山脈に生息する魔獣の特徴や危険度等を調べて、近々ドゴルや山脈に近い教会に配布する予定です。ロームズは山脈の最東端ですので、最終の調査を行います」


イライラした様子の男に、わざとゆっくりと話すフィリップは、相手の人物像を観察していた。


「はあ?魔獣の調査だと……教会はそんなことまでしているのか?」

「はい、魔獣による被害はなかなか減りませんので……」


「ヒブロ!無駄口は要らない!」


フィリップが話している途中、馬車の中から怒鳴り声が聞こえてきた。

 目の前の男はビクリと肩をすぼめて「申し訳ありませんサイシス様」と言いながら、馬車の方に向かって頭を下げる。

 どうやら馬車に乗っているのは、現在ロームズを支配している男であり【ギラ新教徒】の、事務官兼統治官補佐サイシス伯爵のようである。


「ロームズ教会のクリム神父は何処へ行った?」


「申し訳ないのですが、我々はロームズに到着したばかりで、先に統治官様のお屋敷にご挨拶に伺いましたので、まだロームズ教会に寄っておりません。それに……残念ながらロームズ教会の神父とは、1度も面識が無いもので……そうですか……ロームズ教会の神父はクリムという名なのですね」


「本当に知らないのか!?」


「はい。クリム神父は不在なのですか?教会にご用だったのでしょうか?私でよければご用件を伺いますが・・・ああ、もしや馬車の中のお方は統治官様ですか?そうであれば是非ご挨拶を。我々は暫くロームズ教会に滞在しますので」


馬車の中の男が統治官ではないと知っていて、フィリップはわざと大きな声で統治官かと訊いてみる。


「そうではない……統治官代理様だ。もういい行け!」


ヒブロと呼ばれていた男は吐き捨てるように言うと、馬車に乗り込んでいった。そして馬車は再び走り出した。




「なんて失礼な奴等なんでしょうか!アイツも絶対に【ギラ新教徒】ですね。名前さえ名乗りませんでした」


レクスは怒りを抑えることなく、遠ざかっていく馬車を睨み付けた。


「格好からすると事務官のようです。しかし、いつの間に統治官補佐から統治官代理になったのでしょう?」


「さあな……ブルーノア教の神父をしていると、【ギラ新教徒】って反応が分かり易いな。サイシスの顔は見れなかったが、どうやら思っていたより【ギラ新教徒】の数は多そうだ。元々信者だったのか、ロームズに来てから洗脳されたのか……どっちだろうな?……う~ん……あっ!それより、奴等はロームズ教会の神父を探していたようだ。何かあったに違いない。急いでロームズ教会に行くぞ」


「「はい」」


フィリップは2人に号令を掛けながら、早足で歩き始める。歩きながらフィリップは、思っていたよりもロームズの闇は深そうだと考えるのだった。





 ◇  ◇  ◇


 ロームズ教会の礼拝堂で話をしていたイツキたちと母娘は、より安心できるようにと、場所を応接室に移すことにした。

 昼食の材料にとビビド村の村長さんから頂いていた食材で、キア(イツキ)は母親のソルと一緒に昼食の準備をすることにした。

 精神的に不安定だったソルは、野菜を切りスープを作り始めると徐々に落ち着いてきたようで、同じ女性だと思って、キアにぽつりぽつりと話を始めた。


「私はこの町の織物工場の代表者の娘です。ことの起こりは先月のことでした。父は町長と一緒に教会での祈りを禁止するのはおかしいと、統治官様に抗議しに行きました。そして……有りもしない反乱の疑いで拘束されたんです」


「はい、それはミリド叔母さんから聞きました。祈りを禁止するなんて、たとえ王様でも許されることでは無いと思うわ!」


これまでずっと教会の手伝いをしてきた、ビビド村のミリドの姪であることを強調しながら、キア(イツキ)はプンプンと怒っている口調で話す。


「それ以降、先程の男が付きまとうようになりました。自分の言うことを聞けば、父親に会わせてやっても良いと・・・でも、どう見てもあの男にそんな力が有るようにも思えません。私はきっぱりと断りました……すると……私の夫を……夫を……工事現場の足場から……わ、わざと突き落として怪我をさせたんです。町の人達は私が1人にならないよう守ってくれていたのですが、今日は突然私だけが休みになり、娘と2人で工事現場から帰らなければならず……そ、そうしたら……あの……あの……」


「あの男に待ち伏せされたんですね。分かりました。大丈夫です。安心してください。ソルさんは、いえソルさんとシーラちゃんは、明日から教会で働いていただきます。教会が雇った者を他で無理矢理働かせることは出来ません。私がモーリス(中位神父)様にお願いします」


再び震えながら涙ぐむ母親ソルの背中を、イツキは優しく擦りながら提案する。

 32歳のソルは美しい金髪を長く伸ばし、瞳はライトブルーで目鼻立ちも整っており、色白でプロポーションも良い美人だった。このままでは外出することさえ危険である。


「でも、それでは教会にご迷惑が……」


「いいえ、私は叔母の代わりと言っても、お料理もお茶も……あまり得意ではないんです。誰かもう1人手伝いが要るとモーリス様が仰っていました。私たち6人の食事とロームズ教会の神父様、それに、間もなく他のお客様が滞在される予定もあります。もし良ければお願いしたいのです」


キアは真剣な顔をしてソルにお願いする。実際に間もなくやって来る投石機設置部隊は、教会に滞在させる予定なのだ。

 ソルはパァッと明るい顔になり、キアの手を握ると「ありがとうございます」と何度もお礼を言った。

 

 スープのいい匂いが漂い始め、キアはパンを切っていく。お手伝いにやって来た娘のシーラちゃん8歳は、切ったパンを上手にカゴに入れてくれる。頬にはまだ、打(ぶ)たれた痕が赤く残っているが、痛みは消えたようで本人はもう気にしていなかった。

 スープ鍋とパンをもって食堂に入ると、行儀よくヤマギとハモンドが座って待っていた。そこへ、見計らったようにフィリップ達が帰ってきた。



「お疲れ様です。モーリス様、統治官様へのご挨拶は終わられたのですか?」

「それが、お会い出来なかったよ。お会いできるまで日参するつもりだよキアちゃん」


そう言いながらフィリップは不敵な笑みを浮かべる。それはキアも同じだった。

 キアはソルとシーラ親子を紹介し、即座に教会で働く了承を得た。

 

「本当に2年前に来られた神父様が、モーリス様になられたのですね。どうぞよろしくお願いいたします。そしてどうぞロームズの町をお救いください」


明日から教会で働けると分かって、ソルは嬉し涙を流しながら、フィリップ達にもスープを注いでいく。

 フィリップはシーラの顔の手の痕を見付けると、優しく触れて痛くない?と訊ねた。シーラは痛くないよと答えたので、「では食事の後で、ゆっくりお話を伺いましょう。先ずは腹拵えです」とキラキラと眩しい笑顔で言って、食前の祈りを神に捧げた。すっかり神父様のようである。


 食事の後でモーリス(フィリップ)様は、ソルを応接室に呼び出し、個人的な家族構成や家の場所、今回の暴力行為のあらましを聴いた。

 その後は食堂で、ロームズの町の現状を全員で聞いた。


「ところで、ソルさんは織物工場のオーブさんをご存じですか?」

「はいモーリス様、オーブは私の弟です。でも、何故弟の名前をご存知なのですか?」


統治官の屋敷の前で、オーブと村長の弟のエイドに出会ったことをフィリップは話した。


「で、では、弟は、オーブは統治官様のお屋敷に、剣を抜いて突入しようとしたのですか?それもエイド様と一緒に・・・」


フィリップの話を聞いたソルは、たちまち青い顔になり絶句する。


「我々が今日ロームズに来たことは、神様の御導きなのです。これは、2人の姉弟を助けよと、神様が我々に下された使命だったのでしょう。ところで、ロームズ教会のクリム神父は、何処へ行ったかご存知ありませんか?」


まだ固まっているソルに、フィリップは次の質問を投げ掛けた。


「い、いいえ知りません。私も教会に来たのは1ヶ月振りなので・・・でも、もしかしたら神父様は、ハビル正教会に行かれたのかも知れません。ロームズの状況を、ハビル正教会に訴えに行かれたのではないでしょうか?」


「それで事務官が血眼になって探していたのか……成る程」


フィリップとドグ、レクスの3人は、納得したように顔を見合わせ頷いた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

更新が遅くなりなした。シリーズ2 予言の子 の訂正は一先ず置いておいて、ロームズの反乱を書き進めてまいります。

これからも応援よろしくお願いいたします。

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