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予言の紅星5 ロームズの反乱  作者: 杵築しゅん
教会の活動

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支配者と住民(1)

 神父姿のフィリップを見た2人の男は、抜いていた剣を鞘に収めて顔を見合わせた。


「やはり神様は、ロームズを見捨てられたのではなかった!」

「神様は俺達に、まだ死ぬなと……死んではならないと示されたんだ」


2人は手を組んで神に感謝し、その場にひざまずいて頭を下げた。そしてゆっくり立ち上がると、剣を腰のベルトに戻し道に出てきた。


「こんにちは、ロームズの方ですか?」


フィリップは努めて穏やかに、笑顔で語り掛けた。


「はいそうです。神父様は2年前にこの町においでになった神父様でしょうか?」

「そうですよ。お久し振りです。皆さんお元気ですか?住民の方に全然お会い出来ないので、心配しましたが、何かあったのですか?」


住民の問いに答えながら、様子を聞こうとフィリップ一行は側に寄っていく。

 男の1人は名前をエイドといい、年齢は52歳、短い茶髪は所々薄くなっていて、茶色の瞳には疲れが見える。体型も痩せ型でいろいろと憔悴している様子だ。

 エイドはロームズ町長の弟で、統治官屋敷に捕らえられたままの兄の解放を、何度も申し出たが聞き入れて貰えず、強行手段に出ようとしていたらしい。


 もう1人の男はオーブといい年齢は30歳、色白で肩まで伸ばした金髪は乱れ、睡眠不足なのか青い瞳には輝きがない。体型はどちらかというとエイドとは正反対のぽっちゃり体型である。

 オーブは町長と一緒に捕らえられている、織物工場の息子だった。

 このままでは工場は稼働できず潰れてしまう。そう思ったオーブは、エイドと共に統治官の屋敷へと何度も足を運び、親に会わせて欲しい、釈放して欲しいと頼んだが、結局今日現在まで面会すら許可されなかった。


「そこで、無理矢理に突入しようとしたと?」


モーリス(中位神父)のフィリップ神父は、項垂れる2人の行為を責めることなく「大変でしたね」と慈悲深く言った。


「私はこれから暫くロームズに滞在するので、そのご挨拶に統治官様を訪ねるところです。私からもお願いしてみましょう。統治官様の話を伝えますので……ああ、出来れば町の様子も訊きたいので、午後8時頃に教会に来ることは出来ますか?」


「はい神父様。実は統治官様から教会で祈ることと、教会への出入りを禁じられているのですが、夜なら大丈夫だと思います」


エイドはこれで道が開けるかもしれないと、明るい顔をして返事をする。


「はい、私も大丈夫です」


オーブは深く頭を下げながら「どうかよろしくお願いいたします」と付け加えた。





 フィリップとレクスは統治官の屋敷に到着すると、統治官との面会を願い出た。しかし、予想通り今日は忙しいので無理だと警備の者に断られた。

 それでは暫くお待ちしますと言って、眼鏡を掛けたフィリップは屋敷の中へと勝手に入っていく。当然ながら警備の者は追い出そうとして腕を掴んだ。


「モーリス(中位神父)様に対し、暴力はお止めください!」


護衛のポル(レクス)が、毅然とした態度で警備の男に向かって叫んだ。


「何事です?なんの騒ぎです?」


そう言いながら事務官らしき男が現れて、警備の者を厳しい視線で見る。


「この神父だと名乗る男が、統治官に会えるまで屋敷の中で待つというので、追い出そうとしていたんです」


レガート国から来た警備隊の人間ではなさそうな男は、「チッ」と舌打ちして面倒臭そうに報告した。どうやらブルーノア教の信者でもないようだ。


「この男がモーリス様に対し、暴力を振るおうとしたので止めていたのです。レガート国の統治官様は、ブルーノア教のモーリス様に敬意を払わず、暴力を持って対処せよと指示されているのでしょうか?」


レクスは怒りを込めて、事務官らしき男に尋ねる。この事務官が【ギラ新教徒】かどうかを確かめるために。

 事務官らしき男はモーリス様と聞いて、神服をまじまじと見て、確かにモーリス様の神服だと気付くと、チラリと警備の男に視線を向けてから軽く頭を下げ、自分が話を聞きますと言う。


「お茶を出しますので、こちらへどうぞ」


通されたのは応接室ではなく、何故かキッチンだった。それも来客用のダイニングルームではなく、料理を作るキッチンだった。

 キッチンの扉を閉めると直ぐに、グレーの髪にグレーの瞳で、如何にも貴族ですという感じの事務官らしき男は、深々と頭を下げてから礼をとった。


「モーリス様大変失礼しました。私たちは見張られているので……」


小さな小さな声でそう言って、男は辺りを気にするように口を噤んだ。そして自分は事務官のオールズだと名乗った。

 フィリップはこの屋敷が、完全に【ギラ新教】の支配下にあるのだろうと察し、多くを語ることなく、鞄の中から魔獣調査で使うノートを取り出し、テーブルの上に置いてペンを2本取り出した。


「我々はブルーノア教会の魔獣調査隊です。神父2人と護衛が3人で、今日ロームズに到着しました。暫く調査のために滞在します。最近の調査で判った魔獣を記したノートがこれです。ああ、お茶ではなく水で結構です」


フィリップはそう話しながら椅子に座り、ノートを見せる素振りをしながら《統治官様はご無事ですか?》とノートに書いた。

 レクスは部屋の外の気配を調べるように、扉の外の物音を確かめる。そしてフィリップの方を見て、人差し指で扉の外を指差し《誰かいます》と声には出さず知らせる。

 フィリップはレクスに向かって頷くと、ノートに《筆談出来ますか?私に合わせて演技してください》と書き、口では「何時ぐらいに統治官様に会えるのでしょうか?」と、やや大きな声で尋ねた。

 オールズ事務官は大きく頷き、フィリップに渡されたペンを取る。


「統治官様はとてもお忙しいので、今日は会えないと思いますよ」


オールズ事務官はそう答えながら《ご無事ですが、私も会えないのです》とノートに書き込んだ。


「いやいや私はご挨拶出来るまで待ちますので、どうぞお構いなく」


フィリップはそう言いながら、目に前のオールズは【ギラ新教徒】ではなく、まともな……むしろ味方になる人物だと確信し、《私は味方です。犯人はサイシス伯爵ですね?》と追記した。

 オールズは大きく目を見開き、とても驚いた顔をして2度頷いた。


「申し訳ないですが、私も忙しいのでお帰りください。統治官様は何度来ても会われないでしょう。ですから、水を飲んだら帰ってください」


オールズは目に涙を浮かべて《何故ご存知なのですか?いったい皆さんは何者ですか?》と、震える手で記入する。


「そうですか、しかし、お会い出来るまで何度かお伺いしてみましょう」


フィリップは《バルファー王の依頼で来ました》と回答し、にっこり笑ってから《隙を見てロームズ教会に来てください》と書いたところで立ち上がった。そして急いでノートを鞄に片付けた。

 扉の前で敵の動きを見張っていたレクスが、今度は親指を立てて扉を指差したのだ。




 バンッと音をたてて扉が乱暴に開かれた。


「こんな所で何をしている!」


突然入室して来た男は、事務官のオールズに向かって怒りの声をあげる。


「これはこれは統治官様、本日ロームズに来たのでご挨拶に伺いました。歩いてきたので喉が渇いてしまい、お水を1杯頂いておりました」


フィリップは丁寧に頭を下げ挨拶をする。当然入室して来た男が統治官ではないことは分かっているが、人は自分を、自分以上の身分の者に間違えられるのは、決して悪い気がしないものだと、【王の目】を率いるモーリスの格好をした男は、よーく知っていたのである。


「うっ……俺は統治官様ではない。レガート軍を指揮しているロイス少佐だ!統治官様は忙しくて誰とも面会されない。さっさとお帰り願おう」


「そうですか、事務官もそう仰ってましたが、暫く滞在するので……またお邪魔いたします。ああそれから、私は魔獣の調査官をしておりますので、時々山に登ったり、住民の方々から魔獣について聞き取り調査をいたしますが、決して怪しい行動ではありませんのでご安心ください」


フィリップは、モーリスである自分に対し、敬意の欠片も無さそうなロイスに、やはりドグの調べた通り【ギラ新教徒】で間違いないだろうと確信した。

 フィリップとレクスは長居は無用と判断し、怪しまれないようオールズ事務官とは視線も合わせないまま、屋敷を早々に立ち去った。





 その頃、一緒に統治官の屋敷に来ていたドグは、屋敷の周辺を探っていたが、幸運なのか用心の必要無しと思ってか、誰も見張りが居なかったので、屋敷の略図と幽閉出来そうな部屋に目星を付けていた。

 統治官の屋敷は2階建てで、元はカルート国の貴族が所有していた別荘だった。それをレガート国が買い取り、ロームズ2番目の役所として使っていた。役所の他に、ロームズで働く統治官や事務官、警備隊で働いている者達の宿舎にもなっていた。

 国境警備隊の宿舎は、街道側とハキ神国との国境側に分かれて、2つの簡易宿舎が建てられていた。


 フィリップとレクスが屋敷から出てきたのを確認したドグも、スーッと屋敷の敷地から離れていく。

 屋敷の視界から外れた場所で合流した3人は、各々の情報を報告し合った。


「あの屋敷には、恐らく地下室は無いと思います。それらしい通気口も小窓も有りませんでした。しかし、2階の奥の2部屋だけ、窓が中から覆われていて、片方の部屋には鉄格子もあり、部屋の中の様子が全く窺えませんでした」


ドグは縦横30センチの紙に書いた屋敷の略図を見せながら、問題の部屋を指差し説明する。そして見張りが誰も居なかったので、支配者であるサイシス伯爵は、屋敷に居なかったのだろうと付け加えた。


「俺の方は良い報告がある。どうやら事務官のオールズという若者は、【ギラ新教】に洗脳されてなかったようで、俺がバルファー王の依頼で来たと言ったら……涙ぐんでいた。あれは、藁にも縋る思いという感じだった」


「えぇっ!おいフィリップ、いきなり王様の名前を出したのか?イツキ君の了承を得なくてもよかったのか?」


フィリップの話を聞いたドグは、大きな賭けに出たフィリップに大丈夫なのかと問う。


 その時、走ってくる馬車の音が聴こえてきた。3人は道の端に避けて様子を窺う。

 馬車は2頭だてで、町から少しだけ離れているとはいえ、猛スピードで走ってくる。そして3人の前まで来て、馬車は急に止まった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

外伝の始めの4話を訂正しました。話の内容は変わっていませんが、表現力不足に凹んでます……

今月いっぱいシリーズ2の、予言の子の訂正と加筆をします。

ストーリーに変更等はありません。

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