僕の大きな戦い
「もういいだろう。」
内藤さんはうな垂れて上目遣いで僕を睨み付けた。
ガルートの村の村人達はガルートの命を狙う軍隊に変貌を遂げた。
ガルートは悲しみで力の制御が出来なくなり、村人達と正面から争ってしまう。
「この物語を終わらせよう…」
力ない内藤さんの声に僕は息を詰まらせる。
「もう少し待ってください! あと少…」
「もういいよ!」
言い切る前に内藤さんは地面を叩きつけた。
「俺はこの作品が心底憎いんだ。自分の弱さや嫌な部分を刷る様にしてこの作品を書き上げた。それがどうだ、この作品は俺じゃない『鈴原 夏海』が俺の弱い部分を誇張して嘲る様な作品を作り上げた。」
「それは…」
内藤さんの独り舞台は続く、
「この村人の選択は正解だ。人知を超えた力には数で勝負をして、完膚なきまでに叩き潰す。そうやって歴史を繰り返した先に勝者が居るのなら、俺は敗者の方を記憶に残していきたい。」
涙目の内藤さんに僕は言葉を発せないで居た。
思いつく言葉はあっても内藤さんを救う言葉にはならない。
「お前がこの作品の世界に俺を連れてきた理由はなんだ? 俺の醜い部分を俺自身に曝け出す為か? 俺が弱いせいでこの作品を駄作にしてしまったのをまじまじとリアルに体験させる為か?」
僕は内藤さんの声を腹の奥底に響かせる。ただただ「あの時」を待ちながら。
ドカーン
村が大きな音を立てて爆発した。
悪魔の世界から続々と援軍がやってきた。
奇声とも聞こえるような鳴き声を発しながら続々と進軍するのが離れている此処からでも感じ取ることが出来た。
「はぁ… もう終わりだ。」
そんな内藤さんの言葉は僕には届かなかった。
この推敲を勝負とするならもう僕の勝利は決まったからだ。
「ウォ~!」
進軍する悪魔達の後方から唸り声を上げて猛進する声が有った。
その声は悪魔の奇声を少しずつ静寂に変えて村の方向へと進んで行く。
「なんだ?」
内藤さんは隠れていた岩陰から身を乗り出すとその姿に驚愕した。
「…」
僕は内藤さんの肩を抱き、大きめの声を出す。
「内藤さんが言わなくても今から彼は名乗りますよ!」
僕の台詞に触発されたようにその男は大声を上げる。
「我が名はユナム! 光を発して進むその大いなる力を与えられた者の答えを信じる者!」
「ユナム…」
ガルートの驚きの声と内藤さんの安堵の声がシンクロする。
そして友を信じ、また自分を信じて進む男が主人公と読者に向けて言葉を贈る。
「人知を超えた者を理由もなく叩き潰して、また血塗られた歴史を繰り返そうとしているのか? もしもその先に勝者が居るのなら、俺は敗者の方を記憶に残す! ガルート! 立て!」
ユナムの言葉はこの世界の人々だけではなく、異世界から来た一人の男の心も救っていた。
「俺の… 言葉?」
内藤さんはユナムを。自分の描いた登場人物を見つめて言葉を詰まらせた。
「内藤さん! この作品は内藤さんの想いや伝えたかったメッセージを大きく逸脱してないじゃないですか!」
内藤さんは微笑みながら力なく倒れこんだ。
僕はそんな内藤さんの姿とガルートを重ね合わせて岩陰から大きな声で叫ぶ。
「行けー! 僕たちに正しい光を見せてくれー!」
僕の言葉に端を発し、村人達は武器を声援に持ち替えて叫ぶ。
「行けー! この世界を救ってくれ!」
「俺たちが間違っていた。許してくれ!」
フラフラと立ち上がったガルートはユナムを一直線に見つめて傍に駆け寄る。
「絶対に生きていると信じていたよ。」
「ウソつけ! こんなに独りきりで背負い込んで。」
ガルートは決戦前のその刹那に友との会話を楽しんだ。
「でもどうやってあの爆風から助かったんだ?」
「あれは悪魔が空間転移する時に起きる爆発でダメージはなかったんだ。俺はあの一瞬で俺たちの思いを告げた。命をかけた言葉にあの悪魔は自分の心を解いてくれた。」
「じゃあ…」
あの時に戦っていた悪魔がガルートの肩を支えた。
「俺もこの戦いに参加しよう。もちろんお前達の側でな。」
「キュウルーチもこの戦いに参加してくれる。俺とお前が力を合わせても歯が立たなかったんだ。かなり大きな戦力になるぞ!」
ユナムは無邪気に微笑みかけた。
「今はもうわからん。覚悟を決めた戦士ほど強い者はないからな。」
構えた三人は自らの羽で飛び立った。この村とこの世界を救い、自らの強大な力に答えを出す為に。




