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本箱の味方  作者: 髙橋 翔太
可能性を信じて答え合わせの旅へ
21/21

大きな成果と意外な結果



「ふぅ…」



僕が目を覚ました時には内藤さんがまだ横になっていた。

床に転がっている「スレイプニルの谷」をチラッと見て僕は満足したように立ち上がった。


僕はこの推敲に行くのを本当に悩んでいた。

チームや仲間なんて感覚を経験もしたことのない僕が、

仲間の一番の痛く暗い部分を共有し、直しに行かなくてはいけないなんて、

必死に考えれば考えるほどに答えなんか遠のいていった。

グチャグチャに絡まりあった紐は考えなしに引っ張っても解けないのと一緒で。



「仮想空間はあんなに広く感じるのにこの部屋は狭いなぁ~。」



なんて独り言を呟いた後に、この部屋の外には吉岡さんが居るんではないか。

と言う気がしてそわそわしていた。

やっぱり「吉岡さんの評価」と言うものが気になっているんだろう。




「もう少しこの部屋に居ろよ。」


フラフラと立ち上がろうとする僕の手首を内藤さんはギュっと掴んだ。


「この作品が壊れてなくなろうが作品がいい方向に向こうがあいつはもう納得しているはずだ。」

「吉岡さんの事ですよね?」

「あぁ」



なんて心無い返事をした後に内藤さんは軽やかにスッと立ち上がり、

マッチに火を点けて本を読み返すことなく、そっと本にマッチを置くようにして本に火を点けた。

僕は内藤さんに


「世の中の全ての本が推敲されるなら『最後の駄作』だけは残しておけばいいのに。」

「そんな事をしたら在庫が多くなって、倉庫がいくつあっても足りなくなるだろ?」

「えー! そんな理由なんですか?」


大げさに驚く僕に内藤さんは、


「そんな訳ないだろ! ははは」

「そ、そうですよね? ははは…」


内藤さんの笑いにつられて僕も笑う。今回の推敲の成果はこれかもね。







そして次の日…



「おい! またか!」



小判ホームの店内に聞こえてしまうくらいの大声と地響きで高嶋さんがデスクルームに来る。


「今度は山本 大和! 内藤と行った推敲も内容が変わってないやんか!」


ターゲットは僕だと思ってはいたが、案の定、迷うことなく僕の机に迫ってくる。



「あのな… 俺には爆弾を作る以外にもチェックする仕事もあるねんぞ! 推敲して帰って来た後だからどんどん記憶も曖昧になっていくねん! だから…」

「あの!!」


僕は高嶋さんの言葉を食い気味に遮って反論した。


「大きく変わっているところがあるんです!」


「どこがぁ~?」




高島さんは格下相手に喧嘩を売っている不良学生のように、屈んで僕を下の方から睨み付けている。

しっかりと言い返せるだけの根拠が準備できていなければ、

悪くもないのについ謝ってしまいそうなくらい内藤さんの凄みは恐ろしい… 怖い…


そして吉岡さんが僕に推敲後の本を渡した。

僕は冷静を装って本を開かずに高嶋さんに見せる。


「ほらここです! ここ!」

「ん?」

「ほら!」



「え~ こんな推敲は始めてやなぁ~! ちょっと見直したわ… ごめん。」



高島さんは驚いた様子で、何だか負けたようにトボトボと帰っていった。


「僕らにとっては大きな変化だけど… これには気付かないかな。」


僕は高嶋さんの置いていった『スレイプニルの谷』を手にとってまたニヤニヤしている。

吉岡さんも僕の方をチラッと見つめてニヤニヤしていた。

すると吉岡さんは「イケ! トドメさしとけ!」と首だけで僕に合図をした。

僕は高嶋さんの後姿に敢えて聞こえるような大きめの声で、



「でも作者名が本名に変わってるなんて気付かないですよね~?」



高嶋さんの後姿をみんなで追っていると開け放った扉から入れ違いで内藤さんがやってきた。


「おはようございます。」


内藤さんは僕の顔を、「何でニヤニヤしてるんだ?」

と言うような表情で見ていたので透かさず挨拶を返す、


「内藤さん! おはようございます。」

「ん~。」


それを聞いた僕は推敲が終わり作者名がペンネームの『鈴原 夏海』から

本名の『石原 裕斗』さんに変わった『スレイプニルの谷』をそっと机の奥のほうに入れた。

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