↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/28

第6話〜眠てえんだよ

「俺は眠てえんだよっ!!」


 昼下がりの村の広場に、オニキスの怒鳴り声が響いた。


 広場の端には、枝を大きく広げた木が一本立っている。アメシスはその木陰へ腰を下ろし、旅の途中でほつれたオニキスの予備の服を繕っていた。

 その隣では、オニキスが幹に背を預けて座っている。


 昼食を終えて広場に足を運んだ頃から、オニキスは幼い体の習性に引っ張られるように、しきりに重たい瞼を瞬かせていた。木陰を抜けていく風は涼しく、葉擦れの音も眠気を誘う。


 だというのに、ニィナたち三人は、眠ろうとするオニキスを放っておかなかった。


「お昼ごはんを食べたばっかりだよ?」


「だから眠てえんだよ」


「遊んでたら眠くなくなるよ」


「ならねえよ!」


 ニィナの隣では、ハンスとジョンが地面へしゃがみ込み、拾い集めた小石を並べている。


「ねえねえ、次は石弾きしよう」


「紐跳びもまだやってないよ」


「やらねえっつってんだろ!」


 再び声を張り上げたオニキスは、眠気に耐えかねたように眉間を揉んだ。

 いい加減、子供たちの相手をする気も失せたらしい。幹へ頭を預けると、そのまま目を閉じた。


「寝た?」


「寝た」


「返事したよ?」


「黙れ。話しかけんな」


 いつもの怒鳴り声とは違う、低く押し殺した声だった。

 三人は顔を見合わせると、声を潜める。


「眠いから機嫌悪いのかな」


「朝からずっと機嫌悪いよ」


「昨日も一昨日も悪かった」


「全部聞こえてんぞ!」


 オニキスが目を剥くと、三人の肩が揃って跳ねた。


 さすがに、本気で眠いのだと察したらしい。三人は今度こそ話しかけるのをやめ、そっと木陰から離れていく。

 それでも帰るつもりはないようで、少し離れたところへしゃがみ込み、声を抑えながら石弾きを始めていた。


「人気者ね」


 隣から聞こえた、微かな笑いを含んだ声に、オニキスの瞼がうっすらと開く。

 黒い目が、膝に繕いものを乗せて針を動かすアメシスを、忌々しげに見上げた。


「どこをどう見たらそうなる」


「オニキスくんが無下に扱っても、毎朝ちゃんと迎えに来てくれるじゃない。好かれてる証拠ね」


「毎朝叩き起こされてんだよ。今日なんか朝からずっと引っ張り回されてんぞ」


「楽しかった?」


「テメェ、人の話を聞いてたか?」


 オニキスはそう吐き捨て、これ見よがしに溜息をつくと、再び目を閉じた。


 暖かく穏やかな風が広場を抜けていく。

 ほんの少し離れた場所から聞こえる子供たちの声。草葉がざわめく音――


 しばらくすると、オニキスの頭が幹から離れ、ゆっくりと傾き始めた。


 何度か小さく揺れた末、黒髪がアメシスの肩へ触れた。オニキスは一度だけ身じろぎしたものの、離れようとはしなかった。そのまま身体の片側を彼女へ預け、小さな寝息を立て始める。

 アメシスは手元へ視線を落としたまま、オニキスが寄りかかりやすいように、わずかに身体を寄せてやった。


 額に触れた肩から伝わる温かな体温と、微かな呼吸。耳の奥へ届く、穏やかな鼓動の音。

 それらに誘われるように、オニキスがようやく深い眠りへ落ちかけた――そのときだった。


「勇者様」


 広場の向こうから呼びかけられ、アメシスは顔を上げた。


 村長を先頭に、数人の村人がこちらへ向かって歩いてくる。いずれも硬い表情をしており、ただ世間話をしに来たのではなさそうだった。


「オニキスくん、起きて」


 アメシスは針を繕いかけの服に刺して手を止めると、肩に寄りかかって眠るオニキスをそっと揺すった。


「……寝てねえ」


「そっか、ごめんね。少し離れるわよ」


 オニキスは不機嫌そうに薄目を開けた。近づいてくる村人たちを一瞥し、舌打ちをひとつ。アメシスの肩から身体を起こすと、再び幹へ背を預けた。


 オニキスが肩から離れたのを確かめ、アメシスは膝の上の服を木の根元へ置き、立ち上がった。


「村長さん。どうかしましたか?」


「お休みのところ、申し訳ありません」


「いえ、私は大丈夫です」


「俺は休んでた」


「オニキスくんは少し静かにしていて」


「起こしたのはテメェだろうが」


 アメシスが振り返って視線で窘めると、オニキスは面白くなさそうに木の幹へ背を預け直した。


 村長はそんな二人を見比べたあと、改めてアメシスへ向き直った。


「勇者様に、折り入ってお願いがございます」


「私に?」


「森の魔物を討っていただきたいのです」


 その言葉に、広場で遊んでいた子供たちの声が止まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。