三人目
ヒマワリは筋肉に話しかけていた。
その間、ずっと背中から抱きついてヒマワリに話しかけているのに、あたしにはなんの反応も示さない。
無視だ。
スルーとも言う。
さみしい。
かまって、かまちょ。
古いか?
今の子は何ていうんだろうな。
とりとめのない考えだけがわいていた。
その間もヒマワリはあたしが教えた50音を地面に描き、音、意味を筋肉に伝えようとしている。
だがあたしにはそんなことはどうでもよかった。
そんな見るからに筋肉だけが取り柄ですぅ。
って言う脳みそまで筋肉でできてそうな原始人が日本語を理解できると思っていなかったからだ。
日本語はー、あたしとー、ヒマワリだけの特別なもの♡
そう考えていたあたしのお花畑を容赦なく荒らしてきたのは筋肉だった。
「オサ、オデコトバ。ワガッダ。コトバスゴイ!」
あたしは驚愕した、筋肉が片言だがしゃべりはじめたのだ!
筋肉は私を知性ある目で見ている。
「メス、オマエコトバ、オサ、ツダエダ。オマエスゴイ!」
完全に日本語を理解している!?
発声こそ優しき怪物のようだが意味をなす日本語!?
あたしは原始人を馬鹿にし、見下していたようだ。
そうあたしたちは同じ人類!
差別はよくない!
ヒマワリより弱いとはいえ、集落でも高い地位にいるであろう筋肉と仲良くしていて損があるはずがない。
対人関係は第一印象が全てだ。
ここに全戦力を投入しなくてはならない。
二の呼吸の出番だ。
彼氏に嫉妬させ、あたしを手放したくなくさせつつ有用な人間を操る。
ヒマワリの言葉からある程度のことは察している。
彼は部族最強の戦士だったムロフシ。
それだけの情報があれば充分だ。
「えー!部族最強の戦士ムロフシ様に褒められるなんてぇ、うれしい♡そんなムロフシ様こそぉ、立派な身体ですよねえ♡たくましくておっきぃ♡それなのにぃ、こんな短い時間でぇ日本語まで覚えるなんてすごくかしこいんですねぇ♡さすがです♡よかったらぁ、狩りのこととかぁ、ムロフシ様のお話聞いてみたいなぁ♡」
完璧だ!
完璧な二の呼吸「さしすせそ」の入りだ。
パッと見で分かる本人が長所と思っている部分を褒め、気分良く話をさせる。
そして知らなかったぁ、すごぉい、それからそれから?センスあるぅとおだてていくのだ。
ヒマワリは女児故に使う機会がなかった二の呼吸。
だがこの歴戦の戦士です!女慣れしていません!と全身から訴えかける筋肉ならコロッとあたしに惚れてしまうだろう。
そしてそんな格下の筋肉があたしを狙っていることでヒマワリも嫉妬し、あたしが惜しくなるのだ!!
そうあたしを巡って争うのだ!
だが本番はあたしの三の呼吸。
「えー嫉妬してるの?かわいい♡あたしの一番はヒマワリだからね♡」の出番だ!!!!
と思っていたのに現実は無情だ。
「メス、ハツジョウシテル。オサ、ネドコ、イケ」
「いや、ミチはこーゆー生き物だから相手しなくていいよ。理解できないし、疲れるじゃん。」
「オサ、メス、キライ?」
「嫌いじゃないけどさぁ、そーゆーんじゃないんだよねぇ、相手してると私の知能指数が下がりそうだからほっといてる。」
「オサ、タイヘンダメ。メス、オサコマラセル、ダメ。ショス。」
そんなやり取りを経ていきなり筋肉があたしに向かって石槍をつきつけてきた。
だめだ!一の呼吸に続き二の呼吸も失敗してしまった!そりゃそうだ、現代人相手の技術が原始人に伝わる訳がない!
いきなりの殺意を突きつけられヒマワリの背中にしがみつきながら小さくなって怯えているあたしにヒマワリは笑いかけた。
「ミチおねぇちゃんのこと、ムロフシが処すって♡死んじゃうね、かわいそ♡ヒマワリが守ってあげてもいいけどぉ、代・わ・りに。…おねぇちゃんさぁ、ヒマワリの知らないこと教えてくれる?♡」
「えっちなことならとくいでーす!!!」
あたしの叫び声が集落に轟いた。
ことばはつうじるのに、ひとはわかりあえないんだ。




