第7話 孤児院
「まぁレオ!見違えたわ!」
孤児院から出てきたまだ若い女性はレオの姿に驚いたように目を見張り、明るい声とともに駆け寄ってきた。
「ようやくうちに来てくれたのかと思ったけど…随分立派なお家に拾っていただいたのね」
どうやら顔見知りの女性から身なりを指摘されて照れくさいのか、それとも他に抵抗があるのかレオはさっと鴉の後ろに隠れる。
そんなレオの様子に寂しげに眉をさげた女性は改めてこちらを見て、そして少し戸惑った。それはそうだろう、レオ以外の四人は異国の着物姿なのだ。
「はじめまして。私は天使 桃里。後ろに控えているのは私の従者たちです」
「あ、は…はじめまして。ええと…」
「…トーリはエラに用事があるんだって」
「用事?私に?」
彼女は戸惑いつつもとりあえず中へと案内してくれて、そこには小さな赤子から十代ほどの子供たちがいた。みんな物珍しそうにこちらを見ているが、警戒しているのか不用意に近寄ってくることはなかった。
「どうぞ。お口に合うかわかりませんが」
テーブルに置かれたのは透き通った赤茶色の液体で、芳しい香りが柔らかい湯気とともに立ち上ってくる。
これは紅茶という茶の仲間らしく、湯呑とは違う形状のそれはティーカップというのだと昨夜の夕餉で宿の女将に教わった。
「自己紹介が遅くなりました。私はこの孤児院で院長をしております、エレノア・テイラーと申します」
「エラってエレノアって名前だったんだ」
レオは温かい飲み物とお菓子を前に少し落ち着きをなくしながらエレノアを見上げた。
「ええ。でもみんなからはエラと呼ばれているわ。さぁ、あなたも遠慮せず召し上がれ」
差し出されたクッキーに手を伸ばしたレオはようやく少し表情を綻ばせると、そっとそれを口に運んだ。
その様子にレオの現状をよく知っているであろうエレノアは、慈愛に満ちた表情で優しく微笑んだ。
「それで実は私たちはエレノアに聞きたいことがあって…」
「どうぞ、あなた方もエラとお呼びください」
「え、っと…でも」
レオに向けていたものと同じ笑みでそう言われ、桃里の方が少し面食らう。
「レオの様子を見ればわかります。とてもよくしていただいたのだと、信頼に値する方々だ…と」
「そうか。では私のことも名で呼んでくれ。…それで、エラ。私たちは人を探しているんだけど、名を…」
桃里が昨夜レオから聞いた正しい名前を紡ごうとした瞬間、くんっと着物の袖が引っ張られた。見るとそこにはレオより少し小さい子供がじっと桃里を見上げていた。
「おにの、おひめさま?」
「まぁ、リリー!ごめんなさい、この子は…」
慌てて立ち上がるエレノアより早く、好奇心に負けた子供たちがわらわらと寄ってきた。
「ちがうよー。おにのおひめさまは赤毛なんだよ」
「このお姉ちゃんは黒いね」
「でも黒色も珍しいよぉ。あっちのお兄ちゃんたちも黒い色ー」
なんの話かはまったくわからないが、自分の話なのだろうということは桃里にはわかった。
子供たちに取り囲まれどうしたものかとエレノアに視線を向けたとき、カチャリと小さな音が響き、居間の扉が開かれた。
「えらく賑やかだがいったい何が……」
窓から差し込む日差しを浴びて、淡いプラチナブロンドの髪が輝いた。
その隙間から覗いたのは、氷のように冷たくて、しかしとても美しいアイスブルーの瞳。
その瞳が桃里を捉えるや否や、零れんばかりに大きく見開かれる。
二人の運命が再び交差した瞬間だった。




