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第3話 風の国

 膝丈程の着物に陣羽織という見るからに異国の出で立ちをした桃里に、すれ違う人々は僅かに物珍しそうな視線を向けていく。


 そんな町の様子を桃里の方も不思議そうに眺めていた。


「やはり私たちは目立つようですね。とりあえず落ち着ける場所を探しましょう。状況整理はそれからです。お館様の書簡も確認しないといけませんし」


 人混みに紛れて歩きながら、桃里はまだむすりとした顔をしたまま不機嫌そうに懐に手を入れた。


「こんな紙切れ何にな…――あれ?」


 往来の真ん中で急に立ち止まった桃里に、行き交う人々の視線が好奇から迷惑そうなものへと変わる。


 そんなことは気にも留めずばさばさと着物を弄っている桃里に、晴人は小さく溜め息をついてから首根っこを引っ張って脇道に逸れた。


「――猫、(からす)

「はいにゃ!」

「いるよ」


 晴人が呼ぶと、どこからともなく足元には三毛猫が、屋根の上には鴉が一羽現れる。


「私とお嬢は休める場所を探します。おまえたちはこの地にいる()()を呼び集めてお館様の書簡を探しなさい。それから先程の者たちに関する情報も」

「御意」


 二つの声が重なって消えた。二匹が去ったのを確認してから改めて桃里を見下ろすと、不安、不満、疑念、それに少しの好奇心といった様々なものが入り交じる紅色と目があった。


「とりあえず一旦お嬢はここで待っていてください。くれぐれも目立たないように」

「…おまえは?」


 ただでさえ世間知らずの桃里を縁もゆかりもない異国の地で一人を残すのは確かに気が引ける。


 しかしそれ以上に連れ回すのがいささか面倒に思えてきた晴人は、一抹の不安は残しつも今ならさすがに動き回ることもないだろうと小さな頭をひと撫でした。


「私は金を工面してきます。先立つものは金ですから。お嬢はくれぐれも、ここを動かないでください。できますね?」


 まるで小さな子供に言い聞かせるような有無を言わさない晴人の視線に、桃里はぐっと唇を結ぶとそのまま裏路地に入り壁に背中を付ける。


 その様子に微笑んでもう一度桃里の頭を撫でると「やめろ」手を振り払われ、早くいけと言わんばかりに犬を追い払うように手を振られた。 




*******




 まるで自国の大都のように拓けたこの町では、人混みに紛れてしまえば馴染むことに苦労はなかった。


 町中にある文字は読めないが、事前策に聞いていた通りに言葉は通じる。


 更にここは港町で宿場や商店が主な商いになっているようで、あらゆる商船が入ってきていた。そのため珍しい格好でも多少視線を貰う程度で済んでいる。


 何件か店を回って話を聞き、換金ができる店で密かに預かっていた金品の中からいくつかの宝飾品を売り払いこちらの金を用意した。


 何をするにも金がいる。自国の金が使えないだろうと言うことも晴人は前以て聞いていた。


 ともあれ少し時間は食ってしまったが、なんとかこの町に関する情報と金を手に入れた晴人は急いで路地裏へと戻る。


「――お待たせしました、お嬢。換金もできたので次は宿を探しま、しょ……」


 しかしそこに桃里の姿はなかった。


「お嬢。お嬢…?」


 一瞬場所を間違えたのかとも思ったがその様子はない。確かにこの路地裏に身を潜めたはずだったのに。


「まったく、じっとしてろと言ったのに…」


 やれやれと肩を竦めつつもさすがに僅かに焦りを滲ませて周囲を見渡すも、そこには溢れた人がいるばかりで桃里の姿は完全に消えていた。

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