第19話 募る嫉妬
どうせすぐに出ていくと思っていた。何故ならハロルド先王陛下は既にお亡くなりになられている。異国の人間だか何だか知らないが、害はないと思っていた。思っていたのに、どういうことだ。
あの女が毎朝アシェルと剣の稽古をしているという噂が飛び込んできたのだ。
自分の目で確かめるべく、ミアは朝早くに城を訪れた。いつもは気にも留めない兵士の練習場が見える窓辺へと足を向ける。
するとそこには本当にアシェルがいて、しかも楽しそうに女と笑い合っている。
自分の前ではいつも形だけの笑顔を作り、誰にも心を見せようとしなかったあの氷の王子があんなにも、楽しげに。
「なんですのあの女は…!」
ギリギリと窓枠を握る指に力がこもり、ぱきっと長い爪が割れる。
「アシェル殿下の許婚はわたくしよ!わたくしの誘いをすべて断ってくるのはこういう理由ですの!?」
荒ぶったせいで常の優美さは見る影もなく、メイドが整えてくれていた髪は乱れて豪奢な髪留めが床へと虚しく転がり落ちた。
よく磨かれた大理石の上に響いた小さな音すらも耳障りで、ミアは思い切り髪留めを踏みつける。
父親に買ってもらった宝石のあしらわれた高価な髪留めはあっけなく砕けてしまい、見るも無残な石くずになり果てた。
「やはりあのルーカス陛下の息子ってことかしら。…まぁそれでも構わないわ。わたくしは必ずアシェル殿下と婚姻して王妃になる…王妃になるのは、わたくしなのよ!!」
まさしく鬼の形相で、ミアは遠くに映る女を睨みつけていた。
髪留めもドレスも、換えならいくらだって持っている。新しいものだってまた買ってもらえばいい。けれど王妃の座だけは金で買えるものではない。
ほしい物は必ず手に入れる。絶対に譲りはしない。ましてやあんな野蛮な野良猫になど、絶対に渡しはしない。




