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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第1章「はじまりの通り」

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最初の会話

 モチオは、棚の前で足を止めた。


 並んでいる雑貨の中で、ひとつだけ、少しだけ気になるものがあった。


 小さなガラス細工。


 丸みのある形で、手のひらに収まりそうな大きさ。


 透明な中に、かすかな色が溶け込んでいる。


 光を受けると、その色がほんの少しだけ揺れるように見えた。


 モチオは、そっと手を伸ばす。


 触れてもいいのか、少しだけ迷う。


 けれど、止める気配はなかった。


 そのまま、指先で持ち上げる。


 ひんやりとしている。


 でも、冷たいわけではない。


 手の中で、ゆっくりとなじんでくる温度だった。


 光にかざしてみる。


 窓から入るやわらかな光が、ガラスの中を通り抜ける。


 すると、さっきよりも少しだけ、色が変わった気がした。


「……きれいだ」


 気づけば、声に出ていた。


 小さな声。


 けれど、この空間では、それで十分に届く。


 少し間をおいて、声が返ってくる。


「それ、光で色が変わるんだよ」


 モチオは、振り向く。


 カリーナは、さっきと同じ場所に立っていた。


 でも、少しだけこちらに意識を向けている。


「朝と、夕方で、少し違うの」


 その言い方は、説明というよりも、

 ただ知っていることを置いていくような、やわらかさだった。


 モチオは、もう一度ガラスを見つめる。


「……そうなんですか」


 短く返す。


 それ以上の言葉は、思いつかなかった。


 けれど、不足している感じもしない。


 カリーナは、小さくうなずく。


「うん」


 それだけ。


 会話は、そこで一度、止まる。


 静かな時間が、少しだけ流れる。


 モチオは、手の中のガラスを見つめる。


 さっきよりも、少しだけ意識して光にかざしてみる。


 角度を変えると、色の見え方も変わる。


 ほんのわずかに。


 でも、確かに違う。


(……ほんとだ)


 心の中で思う。


 言葉にしなくてもいい気がした。


 それでも、もう一度だけ、声に出してみる。


「……少し、変わりますね」


 カリーナは、またうなずく。


「うん。見る時間で、ちょっとだけ違うよ」


 その言葉を聞いて、モチオは少しだけ考える。


 見る時間。


 朝と、夕方。


 同じものでも、違って見える。


 それは、たぶんこの通りの空気と、少し似ている。


 同じ場所なのに、少しずつ変わる。


 モチオは、ガラスをゆっくりと元の場所に戻す。


 置くときの音は、ほとんどしなかった。


 ちゃんと、そこに収まる。


 その様子を見て、カリーナは何も言わない。


 ただ、少しだけ視線をやわらかくする。


 モチオは、次の棚へと視線を移す。


 けれど、すぐには動かない。


 さっきの会話の余韻が、まだ少しだけ残っていた。


 長い会話ではなかった。


 言葉も、少なかった。


 それでも、不思議と“話した”という感覚がある。


 無理に続ける必要もない。


 でも、終わってしまった感じもしない。


 そのあいだに、自然にある時間。


 モチオは、もう一度、カリーナのほうを見る。


 カリーナは、変わらずそこにいる。


 何かを待っているわけでもなく、

 何かを促しているわけでもない。


 ただ、同じ空間の中にいる。


 その距離が、やっぱり心地よかった。


 モチオは、少しだけ息を吸う。


 この場所では、言葉は多くなくていいのかもしれない。


 必要な分だけ、自然に出てくる。


 そういう会話。


 モチオは、小さくうなずく。


 誰に見せるでもない動き。


 それでも、どこかで受け取られている気がした。


 カリーナは、やっぱり何も言わない。


 けれど、その沈黙は、空白ではなかった。


 言葉の続きのように、そこにあった。


 モチオは、棚の中の別の雑貨に目を向ける。


 けれど、さっきとは少しだけ違う。


 ただ見ているのではなく、

 この場所の中で、見ている感覚。


 それが、少しだけ変わっていた。


(……いいな)


 また、小さく思う。


 この会話の仕方も、

 この距離の取り方も。


 無理をしなくていい。


 それが、はっきりとわかる。


 モチオは、もう一度だけ、さっきのガラスを見る。


 光の中で、静かに色を変えている。


 さっき見たときとは、ほんの少しだけ違う。


 その変化に気づいたとき、

 モチオは、少しだけ笑った。

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