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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第3章「空気に馴染む」

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お昼の光

 午前の光が、いつのまにか変わっている。


 さっきまで白くやわらかかった光が、少しだけ強くなって、

 店の奥までゆっくりと差し込んできていた。


 モチオは、作業台の上に落ちる影を見つめる。


 影の形が、ほんの少しずつ動いている。


 気づかないうちに、時間が進んでいた。


 手は、相変わらず動いている。


 小さな器を整え、札をそろえ、

 最後にほんの少しだけ触れる。


 その流れは、もう途切れることがない。


 考えなくても、自然に続いていく。


 モチオは、ふと顔を上げる。


 窓の外の光が、少しだけ眩しい。


 通りの向こうで、風が動いているのが見える。


 人の姿は多くない。


 でも、遠くで誰かの気配がする。


 その気配も、ここではやわらかく届く。


 カリーナが、軽く背を伸ばす。


 小さく息を吐いて、手を止める。


 その動きが、自然に目に入る。


 モチオも、つられるように手を止める。


 どちらが先というわけではない。


 ただ、同じタイミングだった。


 しばらく、何も言わない。


 作業台の上に、静かな時間が落ちる。


 光だけが、ゆっくりと動いている。


 カリーナが、ふと窓のほうを見る。


「いい天気だね」


 その言葉は、軽かった。


 特別な意味はない。


 でも、ちゃんとそこにある。


 モチオも、同じように窓の外を見る。


「……はい」


 短く答える。


 それだけで、十分だった。


 しばらく、二人とも外を見ている。


 通りの向こう。


 揺れる影。


 ゆっくりと流れる空気。


 それを、ただ見ている。


 言葉は、続かない。


 でも、途切れた感じはしない。


 むしろ、そのままのほうが自然だった。


 カリーナが、少しだけ首を傾ける。


「そろそろ、お昼にしようか」


 提案というより、確認のような言い方。


 モチオは、小さくうなずく。


「……はい」


 カリーナは、作業台の上を軽く整える。


 使っていた布をたたみ、道具を端に寄せる。


 その動きも、ゆっくりとしている。


 急ぐ様子はない。


 でも、ちゃんと区切りがつく。


 モチオも、それに合わせる。


 置いていたものを整え、手を引く。


 最後に、ほんの少しだけ触れる。


 それで、終わりになる。


 その感覚が、自然にわかる。


 カリーナは、カウンターの奥へと歩いていく。


 奥の棚から、小さな包みを取り出す。


 布に包まれた、簡単な昼食。


 それを、作業台の端に置く。


「一緒に食べる?」


 軽い言い方。


 でも、どこかやさしい。


 モチオは、一瞬だけ間を置く。


 驚いたわけではない。


 でも、少しだけ予想していなかった。


 それでも、すぐにうなずく。


「……はい」


 カリーナは、小さく笑う。


 それ以上は何も言わない。


 二人で、静かに包みを開く。


 中には、素朴なパンと、小さなおかず。


 特別なものではない。


 でも、あたたかさが残っている。


 モチオは、パンを手に取る。


 少しだけやわらかい。


 手のひらに、ほんのりとした温もりが伝わる。


 一口、かじる。


 味は、やさしい。


 強くはない。


 でも、しっかりと広がる。


 モチオは、何も言わない。


 ただ、ゆっくりと食べる。


 カリーナも、同じように食べている。


 言葉はない。


 でも、その静けさが、落ち着く。


 外の光が、少しだけやわらぐ。


 昼の時間が、静かに流れている。


 モチオは、ふと顔を上げる。


 店の中を見渡す。


 並べられた雑貨。


 整えられた棚。


 そのすべてが、やわらかな光に包まれている。


 その中に、自分もいる。


 そのことが、自然に思える。


 特別なことではない。


 でも、確かにここにいる。


 その実感が、ゆっくりと広がる。


 カリーナが、小さく言う。


「こういう時間、好きなんだ」


 ぽつりとした一言。


 モチオは、その言葉を聞く。


 少しだけ考える。


 そして、小さくうなずく。


「……ぼくも、です」


 その言葉は、自然に出てきた。


 無理はない。


 飾りもない。


 ただ、そう思った。


 カリーナは、少しだけ笑う。


 それ以上は何も言わない。


 でも、その表情で、十分だった。


 昼の光が、ゆっくりと店の中を満たしていく。


 時間は、確かに進んでいる。


 でも、その流れは穏やかで、やさしい。


 モチオは、その中で静かに息を吸う。


 この時間が、ここにあること。


 それが、少しだけ嬉しい。


 そう思いながら――


 モチオは、残りのパンをゆっくりと口に運んだ。

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