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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第3章「空気に馴染む」

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カリーナの癖

 作業台の上に、光が静かに広がっている。


 並べられた雑貨の縁をなぞるように、やわらかな影が落ちていた。


 モチオは、その影の揺れを目で追いながら、手を動かしている。


 小さな器を置いて、少しだけ引く。


 また、別のものに触れる。


 その繰り返し。


 作業の流れは、もう体に馴染み始めていた。


 迷うことは、ほとんどない。


 決めているわけでもない。


 でも、自然に手が動く。


 その中で、ふと視線が横に流れる。


 カリーナの手元が、目に入る。


 布を整えている。


 ゆっくりと、端をそろえて、軽く押さえる。


 その動きは、何度も見ているはずだった。


 でも、今日は少しだけ違って見えた。


 モチオは、手を動かしながら、その様子を見る。


 見ようとしているわけではない。


 でも、自然と気になってしまう。


 カリーナは、布の角を整えたあと、ほんの少しだけ指先で撫でる。


 一度だけではない。


 二度、三度と、軽く触れる。


 それから、次の動きに移る。


 モチオは、その一連の流れを見ていた。


 何かを確認しているようでもあり、

 ただ触れているだけのようでもある。


 どちらとも言い切れない。


 でも、その動きは、毎回ほとんど同じだった。


 モチオは、少しだけ考える。


(……いつも、やってる)


 言葉にするほどではない。


 でも、確かにそうだった。


 カリーナは、何かを整えたあと、必ずほんの少しだけ触れる。


 押さえるというより、なぞるような動き。


 それが終わってから、次へ進む。


 モチオは、もう一度その動きを見る。


 やっぱり同じだ。


 布でも、紙でも、小さな箱でも。


 整えたあとに、ほんの少しだけ触れる。


 その“最後の一手”が、必ずある。


 モチオは、自分の手元に視線を戻す。


 さっき置いた器を見る。


 少しだけ角度を整えた。


 それで、終わりにしていた。


 でも、カリーナなら、きっと――


 モチオは、指先で器の縁に触れる。


 軽く、なぞる。


 ほんの一瞬。


 それだけ。


 何かが変わったわけではない。


 見た目も、ほとんど同じ。


 でも、触れた感覚が、少しだけ残る。


 モチオは、その感覚を確かめるように、もう一度だけ器を見る。


(……これで、いいのかもしれない)


 はっきりとはわからない。


 でも、少しだけしっくりくる。


 モチオは、そのまま次のものに手を伸ばす。


 同じように整えて、

 同じように、ほんの少しだけ触れる。


 その動きは、まだぎこちない。


 でも、自然に続いていく。


 カリーナが、ふと顔を上げる。


 モチオの手元を見る。


 その視線は、やわらかい。


 モチオは、気づく。


 一瞬だけ、手が止まる。


(……見られてる)


 そう思う。


 でも、すぐに手を引かない。


 そのまま、動きを続ける。


 カリーナは、しばらくその様子を見てから、小さく笑う。


「それ、やってみたんだ」


 声は、軽い。


 指摘ではない。


 ただ、気づいたことを言うような調子。


 モチオは、少しだけ視線を上げる。


「……なんとなく」


 短く答える。


 理由は、うまく言えない。


 でも、やってみた。


 それだけ。


 カリーナは、小さくうなずく。


「うん、いいと思う」


 その言葉は、やわらかく落ちる。


 評価というよりも、受け入れるような響き。


 モチオは、ほんの少しだけ肩の力が抜けるのを感じる。


 否定されない。


 その安心が、静かに広がる。


 カリーナは、また手元に戻る。


 同じように布を整えて、

 ほんの少しだけ指先で撫でる。


 その動きが、変わらず続いている。


 モチオは、それを見る。


 さっきよりも、少しだけ意味がわかる。


 ただの癖かもしれない。


 でも、その中に、何かがある。


 整えたものを、もう一度確かめるような動き。


 あるいは、そこに置いたことを、自分で受け取るための動き。


 はっきりとは言えない。


 でも、その“ひと手間”が、この場所の空気をつくっている気がした。


 モチオは、ゆっくりと息を吸う。


 この場所には、目に見えない小さな動きが、たくさんある。


 言葉にされないまま、繰り返されているもの。


 それを、少しずつ拾っていく。


 それが、ここに馴染むということなのかもしれない。


 モチオは、また手を動かす。


 整えて、ほんの少しだけ触れる。


 その動きは、まだ自分のものではない。


 でも、確かにここにあるものの一部になり始めている。


 カリーナは、何も言わない。


 でも、その沈黙は、やわらかい。


 モチオの動きを、そのまま受け入れている。


 店の中に、静かな時間が流れる。


 同じ作業。


 同じ空気。


 その中で、ほんの少しだけ、新しい何かが加わっている。


 モチオは、その変化を感じながら、

 またひとつ、小さく整えていった。

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