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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第3章「空気に馴染む」

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小さな工夫

 作業台の上に、やわらかな光が落ちている。


 窓から差し込む陽が、少しだけ角度を変えて、

 並べられた雑貨の縁を細くなぞっていた。


 モチオは、その光の動きを、ほんの少しだけ目で追う。


 それから、手元に視線を戻す。


 小さな紙の札が、いくつか重なって置かれていた。


 値段や、短い説明が書かれたもの。


 どれも同じような大きさで、同じような色。


 整っているけれど、少しだけ見分けにくい気もした。


 モチオは、指先で一枚をつまむ。


 紙の感触は、軽くてやわらかい。


 裏返して、また戻す。


 それだけの動き。


 でも、その中で、ほんの少しだけ違和感が残る。


(……もう少し、見やすくできるかも)


 はっきりとした考えではない。


 ただ、なんとなくそう思う。


 モチオは、もう一度札を見る。


 並び方。向き。重なり方。


 どれも間違っているわけではない。


 でも、“少しだけ変えられる余地”があるような気がした。


 モチオは、ゆっくりと一枚を取り出す。


 位置を、ほんの少しだけずらす。


 隣の札との間に、わずかな隙間をつくる。


 それから、角度をほんの少しだけ整える。


 それだけ。


 ほんの小さな変化。


 でも、視線が自然にそこへ流れる気がした。


 モチオは、しばらくそれを見つめる。


 良くなったのかどうか、はっきりとはわからない。


 でも、悪くはない。


 その感覚だけが、静かに残る。


 モチオは、もう一枚、同じように動かしてみる。


 揃えすぎないように、でも乱さないように。


 ほんの少しだけ、違いをつける。


 その繰り返し。


 手の動きは、ゆっくりと進む。


 考えすぎない。


 でも、何も考えていないわけでもない。


 そのあいだの場所で、手を動かす。


 カリーナは、少し離れたところで作業をしていた。


 布を整えながら、ふと視線を上げる。


 モチオの手元を見る。


 何も言わない。


 ただ、見ている。


 モチオは、その視線に気づく。


 一瞬だけ手が止まる。


(……変だったかな)


 そう思う。


 でも、すぐには戻さない。


 さっき自分で整えた形を、そのまま残す。


 カリーナは、ゆっくりと近づいてくる。


 モチオの横に立つ。


 同じ方向を見る。


 しばらく、何も言わない。


 モチオも、何も言わない。


 その静けさの中で、ふたりの視線だけが同じものを見ている。


 やがて、カリーナが小さく言う。


「……見やすくなってるね」


 その声は、とても自然だった。


 驚きも、強調もない。


 ただ、気づいたことを、そのまま置くような言い方。


 モチオは、少しだけ息を止める。


 それから、ゆっくりと息を吐く。


「……なんとなく、です」


 正確な理由は言えない。


 でも、そう思った。


 それだけ。


 カリーナは、小さくうなずく。


「うん。なんとなくって、大事だよね」


 その言葉が、やわらかく重なる。


 否定も、訂正もない。


 そのまま、受け取られる。


 モチオは、ほんの少しだけ口元をゆるめる。


 自分のやったことが、ここにあっていいものとして扱われている。


 その感覚が、静かに広がる。


 カリーナは、札をひとつ手に取る。


 モチオが整えた並びを見ながら、少しだけ位置を調整する。


 ほんのわずかな動き。


 でも、それで全体が少しだけ整う。


 モチオは、その変化を見る。


 自分の形が、そのまま残るわけではない。


 でも、消されるわけでもない。


 少しだけ手が加わって、なじんでいく。


 その感じが、心地よかった。


「ここ、いい感じになってる」


 カリーナが、もう一度だけ言う。


 それ以上は、何も言わない。


 モチオも、何も返さない。


 でも、それで十分だった。


 モチオは、また手を動かす。


 次の札に触れる。


 今度は、少しだけ迷いが少ない。


 さっきよりも、自然に動く。


 自分で考えて、少し変えてみる。


 その繰り返し。


 大きな変化ではない。


 でも、確かに関わっている。


 その感覚が、少しずつ強くなる。


 作業台の上の空気が、少しだけ変わる。


 ほんのわずかに。


 でも、確かに。


 モチオの動きが、その中に加わっている。


 カリーナは、また元の場所に戻る。


 何も言わずに、作業を続ける。


 でも、さっきよりも少しだけ、リズムが重なっている気がした。


 モチオは、ゆっくりと息を吸う。


 この場所で、何かをしていい。


 少し変えてもいい。


 そのことが、自然に思える。


 モチオは、その感覚を、静かに受け止める。


 そして、またひとつ――


 小さく、整えていった。

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