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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第2章「居場所の芽生え」

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居心地の良さ

 モチオは、しばらくその場に立っていた。


 何かを探しているわけではない。


 見ているようで、見ていない。


 ただ、そこにいる。


 それだけの時間。


 店の中は、相変わらず静かだった。


 カリーナは、カウンターの向こうで、変わらない動きをしている。


 雑貨を並べたり、少しだけ整えたり。


 そのひとつひとつが、ゆっくりと続いている。


 音は、ほとんどない。


 けれど、完全な静けさでもない。


 小さな気配が、ずっと流れている。


 モチオは、ゆっくりと歩き出す。


 棚の間を、少しだけ進む。


 足音は、小さくて、すぐに消える。


 それを気にすることも、もうほとんどない。


 体の動きが、この場所に合ってきている。


 そんな感覚があった。


 モチオは、窓の近くで立ち止まる。


 外の光が、やわらかく差し込んでいる。


 店の中の色が、少しだけ明るくなる。


 それでも、まぶしすぎることはない。


 ちょうどいい明るさ。


 モチオは、その光をしばらく見ていた。


 時間が、ゆっくりと流れている。


 急ぐ理由は、どこにもない。


 何かをしなければいけないわけでもない。


 ただ、ここにいるだけ。


 それなのに、退屈ではなかった。


(……なんでだろう)


 ふと、思う。


 特別なことは、何も起きていない。


 話しているわけでもない。


 何かをしているわけでもない。


 それでも、この時間は、ちゃんと続いている。


 モチオは、小さく息を吐く。


 そのまま、少しだけ壁にもたれる。


 体の力が、自然に抜けていく。


 その状態が、無理なく保てる。


 それが、少しだけ不思議だった。


 カリーナのほうを見る。


 カリーナは、変わらずそこにいる。


 こちらを見ているわけではない。


 でも、いないわけでもない。


 その距離が、ちょうどよかった。


 モチオは、目を少しだけ閉じる。


 ほんの一瞬だけ。


 すぐに開く。


 それでも、何かが整った気がした。


 ここでは、気を張らなくていい。


 そう思える。


 その感覚が、体の中に、ゆっくりと広がっていく。


 モチオは、もう一度、店の中を見渡す。


 雑貨たちが、静かにそこにある。


 ひとつひとつが、特別ではない。


 でも、どれもちゃんとそこにある。


 無理に目立たない。


 でも、消えてもいない。


 そのあり方が、この場所全体に広がっている。


 モチオは、そのことに気づく。


 ここにあるものは、どれも“そのまま”でいい。


 変わらなくてもいいし、変わってもいい。


 どちらでも、ここにいられる。


 モチオは、小さくうなずく。


 誰に見せるでもない動き。


 けれど、その中に、少しだけ納得があった。


 カリーナが、ふと顔を上げる。


 モチオと目が合う。


 ほんの一瞬。


 それから、カリーナは軽くうなずく。


 言葉はない。


 でも、それで十分だった。


 モチオも、小さくうなずき返す。


 それだけのやりとり。


 それなのに、ちゃんとつながっている。


 モチオは、少しだけ口元をゆるめる。


 さっきの“ころん”という音のことを、ふと思い出す。


 あのときの、少しだけ笑った感覚。


 それが、まだ残っている。


 この場所は、静かだ。


 でも、何もないわけではない。


 小さな出来事が、ちゃんと積み重なっている。


 そのひとつひとつが、やわらかく残っている。


 モチオは、ゆっくりと息を吸う。


 空気が、やさしく胸に入る。


 ここにいることが、自然に感じられる。


 それは、もう偶然ではない。


 少しずつ、ここに“慣れてきている”。


 そして――


 ここにいることが、少しずつ“好きになっている”。


 モチオは、そのことに、静かに気づく。


 理由は、やっぱりはっきりしない。


 でも、それでいいと思えた。


 理由がなくても、ここにいたい。


 そう思える場所が、ひとつある。


 そのことが、ただ、うれしかった。

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