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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第2章「居場所の芽生え」

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小さな笑い

 カウンターの上に置かれた布の袋は、静かにそこにあった。


 さっきよりも、少しだけ整っている。


 それだけの違い。


 けれど、その“少し”が、ちゃんと見てわかる。


 モチオは、その袋を少しだけ見つめてから、視線を外した。


 店の中は、変わらずやわらかい空気に包まれている。


 カリーナは、もう別の作業に移っていた。


 小さな箱を開けて、中のものを並べ直している。


 ひとつひとつ、ゆっくりと。


 急がず、でも止まらず。


 その動きが、この場所のリズムをつくっているようだった。


 モチオは、近くの棚へと歩く。


 目に入ったのは、小さな陶器の置き物だった。


 丸い形で、少しだけ傾いている。


 動物のようにも見えるし、そうでないようにも見える。


 はっきりとした形ではない。


 でも、どこか愛嬌がある。


 モチオは、それをそっと手に取る。


 軽い。


 表面は少しざらついていて、指先にやわらかく触れる。


 少しだけ傾けてみる。


 すると――


 ころん、と音がした。


 中で、何かが動いた。


 モチオは、少し驚いて、もう一度揺らす。


 ころん。


 同じ音。


 小さくて、やわらかい音。


 モチオは、思わずそのまま見つめる。


「……音、鳴りますね」


 声に出す。


 カリーナが、顔を上げる。


 それを見て、少しだけ笑う。


「それ、中に小さい玉が入ってるの」


 モチオは、もう一度揺らす。


 ころん。


 今度は、少しだけゆっくり。


「……見えないですね」


 カリーナは、うなずく。


「うん。見えないようにしてるから」


 その言い方に、少しだけ引っかかる。


 モチオは、首をかしげる。


「見えたほうが、いいんじゃないですか」


 素直にそう思った。


 中に何が入っているのか、見えたほうが安心できる。


 そう考えるのは、自然なことだった。


 カリーナは、少しだけ考える。


 それから、ほんの少しだけ楽しそうに言う。


「見えないほうが、ちょっと楽しいよ」


 その言葉を聞いて、モチオは、もう一度置き物を見つめる。


 中身は見えない。


 でも、音はする。


 何が入っているのか、はっきりとはわからない。


 モチオは、軽く揺らす。


 ころん。


 その音を聞いて、少しだけ考える。


(……たしかに)


 見えないから、少しだけ気になる。


 何が入っているのか、想像する。


 それが、ほんの少しだけ面白い。


 モチオは、もう一度揺らす。


 ころん。


 今度は、少しだけ笑いそうになる。


 理由ははっきりしない。


 でも、その音が、少しだけおかしかった。


「……なんか」


 言葉を探す。


 うまく言えない。


 でも、そのまま出す。


「ちょっとだけ、変ですね」


 カリーナは、くすっと笑う。


 小さく、やわらかい笑い。


「うん。ちょっと変だよね」


 否定しない。


 むしろ、そのまま受け取る。


 モチオは、もう一度だけ揺らす。


 ころん。


 同じ音。


 それなのに、さっきよりも少しだけ違って聞こえる。


 モチオは、ほんの少しだけ口元がゆるむのを感じる。


 強く笑うわけではない。


 でも、確かに笑っている。


「……ちょっと、好きかもしれません」


 思ったままを、口にする。


 カリーナは、また少しだけ笑う。


「そういうの、あるよね」


 その言葉が、やわらかく重なる。


 モチオは、置き物を元の場所に戻す。


 そっと置く。


 音はしない。


 でも、さっきの“ころん”という音だけが、少しだけ残っている気がした。


 モチオは、軽く息を吐く。


 胸の中が、少しだけ軽くなっている。


 さっきまでと同じ場所。


 同じ空気。


 それなのに、ほんの少しだけ違う。


 “笑った”という小さな変化。


 それが、この場所の中に、やわらかく残っている。


 カリーナは、何も言わない。


 でも、その沈黙も、どこか少しだけ明るい。


 さっきまでよりも、ほんの少しだけ。


 モチオは、店の中を見渡す。


 雑貨たちが、静かに並んでいる。


 その中に、さっきの置き物もある。


 何も変わっていない。


 でも、自分の中での見え方が、少しだけ変わっている。


 モチオは、そのことに気づく。


 この場所は、ただ落ち着くだけじゃない。


 少しだけ、やわらかく笑える場所でもある。


 モチオは、小さく息を吸う。


 その空気が、やさしく胸に広がる。


 ここにいる時間が、また少しだけ、好きになる。


 そんな感覚が、静かに芽生えていた。

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