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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第2章「居場所の芽生え」

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カリーナの人柄

 モチオは、棚の前で足を止めた。


 さっきまで触れていた箱は、元の場所に静かに収まっている。


 店の中は、変わらずやわらかい空気に満ちていた。


 カリーナの言葉が、まだ少しだけ残っている。


「見る人が違うと、少し変わるから」


 その響きが、店の中に溶けている気がした。


 モチオは、ゆっくりと歩き出す。


 棚から棚へ、視線を移す。


 雑貨のひとつひとつが、さっきよりも少しだけ近く感じられる。


 触れて、話して、少しだけ知ったからかもしれない。


 カウンターのほうに目を向ける。


 カリーナは、何か小さな作業をしていた。


 布を広げて、針を動かしている。


 細い糸が、光の中でかすかに揺れる。


 その動きは、とても静かだった。


 急がず、止まらず、同じリズムで続いている。


 モチオは、その様子をしばらく見ていた。


 声をかけるでもなく、ただ眺める。


 それでも、時間はゆっくりと流れていく。


 カリーナは、ふと顔を上げる。


 モチオに気づいて、小さく笑う。


「これ、直してるの」


 手元の布を少しだけ持ち上げる。


 角がほつれている、小さな袋。


「お客さんが落としていったの」


 説明は、それだけだった。


 モチオは、少しだけ目を丸くする。


「……持ち主、わかるんですか」


 カリーナは、首を横に振る。


「ううん、わからない」


 あっさりとした答え。


 それでも、手は止まらない。


 針が、ゆっくりと布をすくっていく。


「じゃあ……」


 モチオは、少し言葉を探す。


「どうするんですか」


 カリーナは、少しだけ考える。


 それから、また針を動かしながら答える。


「たぶん、そのうち思い出して来るから」


 自然な言い方。


 確信があるわけでも、期待しているわけでもない。


 ただ、そういうものだと思っているような響きだった。


 モチオは、その言葉を聞く。


 思い出して来る。


 その前提で、直している。


 モチオは、もう一度、布の袋を見る。


 小さなもの。


 でも、誰かのもの。


 それを、知らないまま、ここで直している。


(……なんでだろう)


 ふと、思う。


 理由を考える。


 けれど、すぐには答えが出てこない。


 カリーナは、変わらず針を動かしている。


 その動きには、迷いがない。


 ただ、そこにあるものを、整えているだけ。


「……そのままでも、よかったんじゃないですか」


 モチオは、静かに言う。


 直さなくても、置いておくだけでもいい。


 そう思った。


 カリーナは、手を止めないまま、少しだけ首をかしげる。


「うん。でも」


 それから、ほんの少しだけ言葉を足す。


「戻ってきたときに、きれいなほうがいいかなって」


 その一言は、とても小さかった。


 けれど、ちゃんと届く。


 モチオは、何も言えなくなる。


 きれいなほうがいい。


 それだけ。


 特別な理由じゃない。


 でも、その中に、やわらかい気遣いがある。


 カリーナは、針を動かし続ける。


 やがて、糸を軽く引いて、結ぶ。


「……できた」


 小さくつぶやく。


 布の袋は、さっきよりも少しだけ整っていた。


 カリーナは、それをカウンターの端に置く。


 特別な場所ではない。


 でも、ちゃんと目に入る位置。


 モチオは、その様子を見ている。


 何も言わない。


 けれど、さっきよりも少しだけ、カリーナのことがわかった気がした。


 大きなことはしない。


 誰かに見せるためでもない。


 ただ、目の前にあるものを、少しだけ整える。


 それだけのこと。


 でも、それが、この店の空気をつくっている。


 モチオは、ゆっくりと息を吐く。


 この場所が、落ち着く理由。


 少しだけ、その一端に触れた気がした。


 カリーナは、もう次の作業に移っている。


 特別なことをした様子もない。


 ただ、いつものように、そこにいる。


 モチオは、その姿を見る。


 静かで、やわらかい。


 でも、ちゃんと何かを支えている。


(……いいな)


 また、小さく思う。


 この場所も。


 この空気も。


 そして――


 その中心にいる、カリーナの在り方も。


 モチオは、少しだけ視線を外す。


 店の中を見渡す。


 雑貨たちが、静かにそこにある。


 そのひとつひとつにも、

 きっと同じような“手”が触れている。


 そう思ったとき、

 この場所の見え方が、また少しだけ変わった。


 モチオは、その変化を、静かに受け止めていた。

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