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ひだまり商店街の小さな奇跡 〜海辺の雑貨店と、言葉にできない贈りもの〜  作者: ゆうぎり
第2章「居場所の芽生え」

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会話が増える

 モチオは、棚の前で手を止めた。


 いくつかの雑貨に触れて、元の場所に戻す。


 その動きが、さっきよりも自然になっている。


 触れることにも、置くことにも、迷いがない。


 それは、小さな変化だった。


 けれど、確かに変わっていた。


「それ、前にも見てたね」


 声がする。


 モチオは、顔を上げる。


 カリーナが、カウンターの向こうからこちらを見ていた。


 やわらかな視線。


 見ている、というより、覚えていた、という感じ。


 モチオは、手の中のガラス細工を見る。


 昨日、少しだけ触れたもの。


 光で色が変わる、小さなガラス。


「……はい」


 短く答える。


 それから、少しだけ間を置く。


「また、気になって」


 言葉を足す。


 カリーナは、小さくうなずく。


「うん。そういうの、あるよね」


 同じ温度の返事。


 強く広げない。


 でも、ちゃんと受け取っている。


 モチオは、ガラスを少しだけ光にかざす。


 今日の光は、昨日と少し違う。


 色の見え方も、ほんの少し変わっている。


「昨日より、ちょっと明るいですね」


 思ったことを、そのまま言う。


 カリーナは、窓のほうに目を向ける。


「うん。今日は、光がやわらかいから」


 短い説明。


 でも、その一言で、ちゃんと納得できる。


 モチオは、ガラスを元の場所に戻す。


 置くときの動きも、静かだった。


 少しの間、言葉が止まる。


 けれど、その沈黙は、前よりも自然だった。


 “何も話していない時間”ではなく、

 “会話の続きの時間”として、そこにある。


 モチオは、別の棚へと歩く。


 木でできた、小さな箱。


 さっき触れたもの。


 もう一度、手に取る。


 今度は、少しだけ迷いなく開ける。


 中は、やっぱり空っぽだった。


「何も入ってないんですね」


 ふと、口に出る。


 カリーナは、少しだけ笑う。


「うん。でも、入れてもいいよ」


 その言い方は、提案でもなく、説明でもない。


 ただ、可能性を置いているだけ。


 モチオは、箱の中をもう一度見る。


 何もない空間。


 でも、そこに何かを入れる余地がある。


「……何を入れるんですか」


 聞いてみる。


 質問、というほど強くはない。


 でも、自然に出た言葉だった。


 カリーナは、少しだけ考える。


「人によるかな」


 それから、ゆっくり続ける。


「大事なもの入れる人もいるし、何も入れないままの人もいるよ」


 モチオは、その言葉を聞く。


 どちらも、あり。


 決まっていない。


 それでいい。


 モチオは、箱を閉じる。


 カチ、と小さな音。


 それも、すぐに消える。


「……そのままでも、いいですね」


 小さく言う。


 カリーナは、うなずく。


「うん。そのままがいいって思うこともあるよね」


 その言葉に、少しだけ安心する。


 選ばなくてもいい。


 決めなくてもいい。


 そういう余白が、ちゃんとある。


 モチオは、箱を元の場所に戻す。


 その動きも、もう迷いがない。


 手を離したあとも、少しだけその場所を見る。


 それから、ゆっくりと視線を外す。


 店の中を、もう一度見渡す。


 さっきまでと同じ景色。


 でも、どこか少しだけ違う。


 言葉が増えたぶん、

 この場所とのつながりも、少しだけ増えている。


 モチオは、カリーナのほうを見る。


 カリーナは、変わらずそこにいる。


 けれど、その距離が、ほんの少しだけ近くなっている気がした。


 モチオは、少しだけ考える。


 言葉にするかどうか。


 ほんの小さなこと。


 でも、今なら、少しだけ言えそうだった。


「……ここって」


 言葉が、ゆっくりと出る。


 カリーナは、静かに待っている。


 モチオは、少しだけ考えてから、続ける。


「来るたびに、ちょっと違う感じがします」


 うまく言えているかは、わからない。


 でも、思ったままを、そのまま出す。


 カリーナは、小さくうなずく。


「うん。たぶん、そうだと思う」


 肯定。


 でも、断定ではない。


「見る人が違うと、少し変わるから」


 その言葉を聞いて、モチオは少しだけ考える。


 自分が違うから、見え方も違う。


 昨日と今日で、少しだけ変わっているのは、

 場所だけじゃないのかもしれない。


 モチオは、小さくうなずく。


「……そうかもしれません」


 それ以上の言葉は出てこない。


 でも、それでよかった。


 会話は、そこで自然に止まる。


 無理に続ける必要はない。


 それでも、さっきよりも少しだけ長く、言葉が交わされた。


 その分だけ、この場所の中での自分の位置も、少しだけ変わっている。


 モチオは、ゆっくりと息を吐く。


 空気が、やわらかく体に馴染む。


 ここでの時間が、少しずつ当たり前になっていく。


 そのことに、静かに気づいていた。

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